日本レーザー医学会誌
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総説
ショートマルチモードファイバープローブを用いたin vivoラット脳の断層イメージング
佐藤 学 江藤 魁増田 純平井上 健司黒谷 玲子阿部 宏之西舘 泉
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2020 年 41 巻 1 号 p. 9-17

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Abstract

直径125 μm,長さ7.4 mmの光通信用ファイバーをOCM(optical coherence microscopy)のイメージプローブに用いて,in vivoラット脳の断層画像を測定した.深さ分解能,横方向分解能は,それぞれ2.14 μm,2.3 μmである.SMMFを最大4 mmまで挿入して視野直径47 μm,SMMF端面から深さ147 μmまで測定を行った.深さ20~90 μmで,粒状や5 μm~10 μmの繊維状の形態情報が得られた.三次元の繊維形態が51.5 μm × 51.5 μm × 深さ104 μmの領域で確認され,さらに,内部の14.9 μm × 12.4 μm × 深さ8.1 μmの領域でも,繊維の接続や屈曲状態が確認された.また,OCM画像信号の積算値が灰白質の底部で最大値を取っており,神経線維の断層画像が測定された.今後,再生医療やがん診断,また腹腔鏡ロボットなどの分野で応用が考えられる.

Translated Abstract

We demonstrate full-field optical coherence microscopy (FF-OCM) using an ultrathin forward-imaging short multimode fiber (SMMF) probe with a core diameter of 50 μm, outer diameter of 125 μm, and length of 7.4 mm, which is a typical graded-index multimode fiber used for optical communications. The axial and lateral resolutions were measured to be 2.14 μm and 2.3 μm, respectively. Inserting the SMMF 4 mm into the cortex of an in vivo rat brain, depths were scanned from a SMMF facet to 147 μm with a field of view of 47 μm. Three-dimensional (3D) OCM images were obtained at depths from about 20 μm to 90 μm. From morphological information of the resliced 3D images and the dependence of the integration of the OCM image signal on the inserted distance, the 3D information of nerve fibers have been demonstrated.

1.  はじめに

OCT(optical coherence tomography)は,近赤外領域の微弱光を生体に照射し,生体内部からの反射光(後方散乱光)を検出して断層画像を得る方法で,数μmから数十μmの高い空間分解能と無侵襲性が特徴である1,2).今日,眼科をはじめ皮膚科や循環器系で臨床応用が実用化される中,一般産業も含めて研究開発の拡大化が進んでいる3-8).また,高いNA(numerical aperture)の対物レンズを有するOCTは,OCM(optical coherence microscopy)とも呼ばれており,横ビーム走査を行うOCMに対して,低コヒーレンス光源と2次元カメラを用いて鉛直断面画像(en face)を測定するFF OCM(full field OCM)も広く用いられている9,10).一方,OCTでは,直接光照射による測定深さが数mmのために,広い臨床応用に向けて,小型・堅牢で信頼性の高い内視鏡やカテーテル用の多様なプローブが開発されてきた.これらのプローブでは小型化が大切で,特に組織深部用のニードル型プローブでは低侵襲性から小型化・最細化が重要視される11-14)

一般にプローブは,前方視野型と側方視野型の2つに大別できる.側方視野型プローブの一例では,ファイバー端面に非コアファイバーとファイバーGRIN(graded index)レンズを一体化して,外径(OD, outer diameter)310 μmのニードルプローブを構成し,外部駆動による回転走査と挿入方向の走査により深さ方向分解能21 μm,横方向分解能16.2 μmで骨格筋線維束の三次元画像が測定されている15).ファイバーGRINレンズは,ファイバー内の二乗屈折率分布を用いたレンズであり,2002年の提案以降,広く応用されている16,17).前方視野型プローブは一般にプローブ先端部に走査機構を要し,MEMS技術やPZT素子と融合して種々のプローブが提案されている18-24).長さ120 mm,直径740 μmのGRINロッドレンズを用いた例では,横ビーム走査により深さ方向分解能17 μm,横方向分解能13 μmでex vivoヒト脳の断層画像が測定されている24)

我々は,最細化,小型化,堅牢性,安定性,低コスト性から光通信用屈折率分布型マルチモードファイバーに着目して前方視野型イメージングプローブの検討を行ってきた25).ファイバーGRINレンズを“結像レンズ”として用いてカメラと併用することにより,極細化イメージングプローブ実現の可能性があり,これをSMMF(short multimode fiber)と呼んでいる.まず,直径125 μm,長さ8.8 mmのSMMFを用いて結像特性を検討し,トリ腱組織の表面画像測定を行い26),直径140 μm,長さ5 mmのSMMFを用いてex vivoラット脳の透過画像の測定を報告した27).SMMFを用いた設計に向けては,ランダム位相スクリーンで位相揺らぎを表してMTFの評価も行い28),SMMFのモードパターンとそれに伴う偏光解消分布を報告した29).直径125 μm,長さ5.12 mmのSMMFをOCMに用いて乾燥したメダカのヒレの断層画像を測定し30),2018には直径125 μm,長さ7.4 mmのSMMFを用いて,in vivoラット脳を測定した31)

神経科学の分野でもOCTを用いた多くの研究が報告され,OCTにより脳の構造や機能のイメージングが可能となっている32).ラット脳において,局所的な三次元ドップラー血流測定や体性感覚野ではヘモダイナミックスと血管形状の測定が行われた33,34).FF OCTを用いてin vivoラット脳の体性感覚野の屈折率も測定された35).波長1.3 μmのSD OCT(spectral domain OCT)を用いてin vivoラット脳の深さ1.3 mmまでの領域で神経細胞と神経線維の測定も報告され36),FF OCMを用いては,in vivoラット脳の深さ0.34 mmまでの領域で,神経線維単体の測定もなされている37).また,記憶力低下や加齢に伴う組織変性に白質の深い関係も指摘されており38),細胞レベルで灰白質や白質を研究することは重要である.頭蓋骨に窓を設けて深さ方向分解能4.7 μmで深さ1.3 mmまではin vivoex vivoでラット脳がすでに測定されているが36),さらに深い領域を高い空間分解能で測定する必要がある.

本稿では,直径125 μm,長さ7.4 mmのSMMFを用いてFF OCMを構築して,in vivo ラット脳を測定した結果を紹介する.ラットなどでは灰白質の厚さは約1.5 mm39)なので長さ7~8 μmのSMMFでも先端部は大脳の中心部に達することは可能となる.まず,光学系と基礎的な結像条件,倍率を示し,次に実験光学系,空間分解能,SMMFのモードパターンを示し,ラット脳の測定手順,測定結果について述べる.

2.  SMMFを用いたFFOCM

2.1  結像条件と倍率30)

Fig.1にSMMFを用いたFF OCMの光学系を示す.基本的には二次元のマイケルソン干渉計で,光源,信号光路,参照光路,カメラで構成される.SMMFは信号光路の中で対物レンズの前にセットされている.SMMFの屈折率分布は次式で示される.

Fig.1 

(a) Optics model of FF-OCM; (b) imaging conditions between L1 and L2; (c) magnification versus L1.

  

n 2 ( r )= n 20 { 12 ( r a n ) p Δ } 1/2 ,r a n (1)

ここで,n20は屈折率,anはコア半径,pはプロファイルパラメータ,Δは比屈折率差であり,Pは,~2である.屈折率n20はセルマイヤーの式で求めている.屈折率分布が上式で与えられることより,結像条件,倍率は一般のGRINレンズと同様に光線行列を用いて次式で与えられる.

  

L 2 = n 2 L 1 g o cos( g o L FS )+ n 1 sin( g o L FS ) g o n 2 { n 2 L 1 g o sin( g o L FS ) n 1 cos( g o L FS ) } , g o = 2Δ a n (2)

ここで,n1L1L2LFS,g0はそれぞれ物体平面とSMMF間の屈折率,物体平面とSMMF間の距離,SMMFと像面間の距離,SMMFの長さ,集束定数である.コア径が25 μmなので,集束定数は5.99 mm−1 aとなり,ピッチLP = 2π/g0は1.05 mmと求まる.一方,倍率は,次式で表され

  

M= n 1 n 1 cos( g o L FS ) n 2 L 1 g o sin( g o L FS ) . (3)

SMMF長7.1~7.7 mmに対する結像条件と倍率の計算結果をFig.1(b),(c)に示す.

2.2  FF OCMの実験光学系31)

Fig.2(a)にFF OCMの実験光学系を示す.基本的には,4ステップ位相シフト法を用いて断層画像を測定している.光源のハロゲンランプからの光は,対物レンズ(×10, NA 0.25)で集光され,バンドパスフィルター(BPF),偏光子を通り,λ/2波長板を経てビームスプリッター(BS)に入射される.参照光路は,λ/4波長板,可変アッテネーター,分散補償素子,対物レンズ1(Edmund,DIN,×10,焦点距離16.6 mm,作動距離6.3 mm,NA 0.25),PZT付きの参照ミラーで構成される.

Fig.2 

(a) Experimental setup; (b) photograph of SMMF; (c) and (d) photographs of facets of SMMF.

信号光路は対物レンズ1と同じレンズ2,SMMF,試料で構成される.SMMFからの出射光パワーは13 μWであり,波長板,CCD前の偏光子は,SMMF入射端面からの強い反射光をカットし,試料内で発生した偏光解消成分を検出するために用いている.CCDカメラ(AVT,Manta G-033,656 × 492 pixels,セルサイズ9.9 μm × 9.9 μm,出力8~12 bit,測定速度88 fps)は,PCに直接出力している.OCM画像の測定速度は,深さ走査固定では17 fpsである.SMMFは光通信用ファイバー(Fujikura Ltd., Future Guide MM-501,コア径50 μm,クラッド径125 μm)であり,ファイバークリーバー(Fujikura, CT-22)でカットされる.長さ7.4 mmのSMMFの全体をFig.2(b)に,両端面の写真はFig.2(c),(d)に示すようにきれいな端面となっている.

3.  測定結果と検討

3.1  基礎特性

3.1.1  空間分解能

結像条件と倍率については,実測値は計算値に近い結果が得られており,詳細については,Liangらの文献24)を参照されたい.深さ方向分解能については,SMMFの材料分散が支配的であることが確認されており,まず,中心波長0.8 μmにおいてスペクトル幅をパラメーターとした際の規格化深さ分解能の分散補償素子長(dispersion compensator length: DCL)依存性を計算した.DCLはガラスであり,Fig.3(a)で示すようにDCLが893 μmで規格化深さ分解能が最小になり,測定値ともほぼ一致することが分かった.このとき深さ分解能はFig.3(b)に示すように2.14 μmが得られた.

Fig.3 

(a) Ratio of axial resolution to that without dispersion versus dispersion compensator length (DCL), parameters are bandwidths of light source, and measured data are superimposed; (b) axial resolution with the length of dispersion compensator of 893 μm.

横方向分解能については,サンプルに周期4.38 μmのテストパターン(TP)を用いて,L1を27.5 μm,37.5 μm,47.5 μmと変化させたときの信号光のみの画像をFig.4(a)~(c)に,OCMの画像をFig.4(d)~(f)に,さらにそれらの強度プロファイルをFig.4(g),(h)に示した.ピントが合った状態は,L1 = 37.5 μmであり,信号光のみの画像よりOCMの画像の方がコントラストが高く,パターンが明瞭に確認されている.さらに,ガラス基板上の金属パターンを用いてFig.5(a)に示すようにエッジの測定を行った.Fig.5(a)のライン上の強度プロファイルをFig.5(b)に示す.これより,プロファイルの10%~90%の幅が2.3 μmと測定された.一方,中心波長,NAをそれぞれ0.78 μm,0.203とすると,横方向分解能の計算値はΔX=0.52 λ0/NAで与えられ,2.01 μmと求まり,実測値に近いこと値が確認された.

Fig.4 

(a)-(c) Typical signal images for different distances L1 between object plane and SMMF; (d)-(f) OCM images; (g) intensity profiles in signal images at test patterns indicated by lines in (a)-(c); (h) intensity profiles in OCM images indicated by lines in (d)-(f). (b) and (e) are in focus. Sample is test pattern with period of 4.38 μm.

Fig.5 

(a) The right half side of an image is an OCM image of metal pattern; (b) the intensity profile indicated by solid line in (a).

3.1.2  モードパターン29)

式(1)の屈折率分布を有するファイバー内の電磁界分布は,直線偏光(LP)モードを有し,LP(l, m)モードと呼ばれ,極座標(r, θ)を用いて次式で与えられる.

  

E lm ( r,θ )= C N R lm (r)sin(lθ+ θ 0 ), (4)

  

R lm (r)= r l exp( n 1 k 0 2 a n 2Δ r 2 ) L m1 (l) ( n 1 k 0 a n 2Δ r 2 ) , (5)

ここで,lmは整数,CNは規格化定数,θ0は初期位相,Lm-1(l)は,ラゲールの多項式,k0は波数である.

サンプルにミラーを用いたときのOCM画像をFig.6(a)に示す.“十字”に似た信号強度の分布が見られる.また,上式を用いてフィッティングで求めたLP01,LP11,L21モードの電界比をA01:A11:A21 = 1:0.447:0.837としたときの強度分布をFig.6(b)に示す.さらに実線で示した角度θ = 0,3π/4におけるそれぞれの強度プロファイルをFig.6(c)に示す.強度プロファイルの計算値と測定値の差異は,微妙なミスアライメントとSMMF中心部の屈折率分布の揺らぎが原因と考えられる.一般にGIファイバーの作製プロセスでは,中心部の屈折率にディップまたは揺らぎが生じることが知られており,これにより波面が乱れ,信号が低下したと考えられる.さらに研磨したAl板表面を測定したOCM画像をFig.7(a)に示す.縦に研磨の跡が見られる.次に,ランダムに30か所測定したOCMの平均化画像をFig.7(b)に示す.先と同様な十字が見える.先と同様にそれぞれの強度パターンをFig.7(c)に示した.対称性は向上したが先と同様に中心部の信号低下が見られた.以上よりSMMFの測定画像においてはサンプルに依存せずに,測定画像にはモードパターンの影響があることがわかる.

Fig.6 

(a) OCM image of mirror; (b) simulated absolute electric field of the signal wave with A01:A11:A21 = 1:0.447:0.837 and; (c) intensity profiles of (a) and (b) at 0 and 3π/4.

Fig.7 

(a) OCM image of polished Al plate; (b) OCM image averaged by thirty OCM images selected randomly and; (c) intensity profiles of (b) and Fig.7(b) at 0 and 3π/4.

4.  生体組織の画像測定31)

ラットを用いた実験においては,山形大学の動物実験委員会の承認を得ている.実験には2匹の雄のラットを用い,ラット1,2の体重はそれぞれ430 gと480 gである.ジエチルエーテルで麻酔後,ネンブタール(30 mg/kg)を腹腔注射し,約15分後麻酔状態を確認して冶具に固定後開頭手術を行った.歯科用ドリルを用いてFig.8(a)に示すように直径6 mm程度の“窓”を設けた.まず,組織表面の動きをレーザー変位計で測定した.測定結果は,Fig.8(b)に示すように組織表面の変位は約20 μmで周期は呼吸に一致していた.測定中は定期的に追加麻酔を行い,心拍数はFig.8(c)にように正常で安定であった.

Fig.8 

(a) Photograph of windows on skull of Rat 1; R, rostral; L, lateral; (b) variations of displacements of cortex surface and skull with time; (d) EKG of Rat 1, pulse 350–370 beats/min.

OCMは防振台上に構築されており,Fig.9(a)に示すように対物レンズの先端に冶具でSMMFが固定されている.ラットは固定冶具ごと90° 回転後,3軸のマイクロステージに固定され,上部からのCCDカメラでモニターしながらSMMFがアプローチされ,挿入される(Fig.9(b)).上部からのCCDカメラの画像(Fig.9(c))により,SMMFの挿入状態が確認される.ラット1のSMMFの挿入箇所はFig.9(d)に示すように灰白質より深部に至っている.

Fig.9 

(a) Photograph of the objective lens, SMMF with jig, rat brain on 3D slide stage, the objective lens from upper part; (b) extended photograph of (a); (c) photograph of the cortex into which the SMMF was inserted; (d) positions of the SMMF in a Rat 1.

OCM画像の測定手順は,まず,SMMFを一定長さ(insertion length: IL)だけ組織内に挿入する.その後,参照ミラー(RM)を2 μmステップで100回,鉛直断層画像(XY画像)の測定を繰り返す.深さ方向の走査距離は200 μmとなるが,組織の屈折率1.3526を考慮すると実際の走査距離は147 μmとなる.XY画像の大きさは200 × 200画素で,各ステップでの平均化回数は50回である.100ステップの測定時間は約5分である.ILは0.5 mm間隔で最長4 mmまで行った.

ラット1の測定箇所は,左側の体性感覚野のBregmaに対して,−2.3 mm(rostral),3 mm(lateral L)の位置である.また,ラット2に対しては11 mm × 9 mmの窓を開けて,測定位置は,左側の第二運動野でBregmaに対してP1:2.17 mm R,1.0 mm L;P2:1.98 mm R,1.0 mm L;P3:1.70 mm R,1.0 mm L;and P4:1.98 mm R,1.25 mm Lであった.いずれも挿入前に,ピンセットで軟膜,くも膜,硬膜を除去した.測定は出血を避けるために血管を避けて行った.

OCMでの測定後,ラット脳を摘出し,HE染色した写真をFig.10に示す.Fig.10(a)では,SMMFは海馬に達していることがわかる.Fig.10(b)は,Fig.10(a)のB1の写真であり,矢印は稀突起膠細胞列を示す.また,Fig.10(c)はFig.10(a)のB2の写真であり,矢印は錐体細胞を示している.

Fig.10 

(a) Photograph of H&E stained tissue near the wound by SMMF of Rat 1; (b) Photograph of the area indicated by B1 in (a). The arrow points oligodendrocytes lined up; (c) Photograph of the area indicated by B2 in (a). The arrow points the pyramidal cell layer.

ILが2.0 mmでの鉛直断層画像(XY画像)とリスライス画像(XZ画像)をFig.11(a),(b)に示す.これらの画像には,粒状や短い繊維状の形態情報が見られ,深さ方向では30~60 μmに多くが分布している.例として,深さ2.055 mmと2.536 mmでの鉛直断層画像をFig.11(c),(d)に示す.これらは灰白質底部で同様に粒状や短い繊維状の形態情報が見られ,繊維の直径はその強度プロファイルから約2 μmで長さは5~10 μmである.神経線維は高い光散乱性で直径は0.5~4 μmと報告されている36).ラット2の測定位置は,深さ方向に運動野から海馬に及んでいる.位置P1~P3では,間隔0.5 mmで3.5 mmまでで,P4では4.0 mmに達している.P4においてIL 4.0 mmでの鉛直断層画像とリスライス画像をFig.11(e),(f)に示し,IL 2.0 mmでの深さ2.038 mmと2.547 mmの鉛直断面画像をFig.11(g),(h)に示す.同様に粒状や短い繊維状の形態情報が見られ,繊維の直径はその強度プロファイルから約2 μmで長さは5~10 μmである.Fig.11(c)の円形の点線は測定領域で直径47 μmであり,Fig.7(a)に示したモードパターンの影響は顕著ではない.

Fig.11 

(a) En face (x-y) OCM image with an IL of 2.0 mm in Rat 1; (b) Resliced (x-z) images of (a); (c) Typical en face image at a depth of 2.055 mm of (a); (d) Typical en face image at a depth of 2.536 mm with an IL of 2.5 mm in Rat 1; (e) En face (x-y) OCM image with an IL of 4.0 mm at P4 in Rat 2; (f) Resliced (x-z) images of (e); (g) Typical en face image at a depth of 2.038 mm with an IL of 2.0 mm at P4 in Rat 2; (h) Typical en face image at a depth of 2.547 mm with an IL of 2.5 mm at P4 in Rat 2.

先述したようにラットやマウス脳のin vivo OCM画像の報告はすでになされているが,それらは組織の動きを抑制するためにカバーガラスで頭蓋骨上の窓から脳組織をカバーしている.深さ分解能4.7 μm,横分解能0.9 μmの走査型SD OCMで個々の神経線維を識別している36).神経線維は三次元形状をしているが入射光に垂直の面成分が強調されて測定される傾向がある.神経線維が不連続なる理由が3つ考えられる37).1)神経線維が本来不連続な構造要因を持つこと,2)スペックルの発生によること,3)ファイバーの長手方向の干渉のフリンジによることである.組織変位については,表面で約20 μmを確認しており,組織の深さ方向でこれは減少すると考えられるが,わずかな組織の動きや変位は,画像の不連続には影響すると考えられる.

神経線維は三次元的に形状変化をしているので,ImageJの機能(Volume Viewer v. 1.31)でスケールを変えてFig.12のようにスライス画像を観察した.Fig.12(a),(b)の位置は,それぞれFig.11(a)の点線の領域である.静止画像では分かりづらいがFig.12(a)では短い繊維の三次元状態がわかる.また,スケールが異なるが,得られた画像は,SrinivasanらやArousらの文献36,37)の画像にほぼ対応するのがわかる.Fig.12(b)では,神経線維の直径が約2 μmであり,これはほぼOCMの空間分解能にあたり,実際の直径はもっと細い可能性もあるが,三次元的形状の情報は確認されている.しかし,先述した理由により,現状では連続的な繊維形状は見られない.

Fig.12 

(a) The 3D orthoslice OCM image with region of X 51.5 μm, 49 pixel, Y 51.5 μm, 49 pixel, Z 104 μm, 43 pixel indicated by the dotted line rectangular in Fig.11(a); (b) The 3D orthoslice OCM image with region of X 14.9 μm ,13 pixel, Y 12.4 μm, 11 pixel, Z 8.1 μm 4 pixel indicated by the smaller dotted line rectangular in Fig.11(a).

鉛直断層画像において,神経線維は,灰白質のI層とIV層からVI層で顕著なことが報告されている40).我々は文献を参考にして深さ方向のOCM信号量の変化を検討した.まず,それぞれのILにおいて,147 μmまでの100ステップを対象に各ステップでの鉛直断層画像信号の総和量を求めた.鉛直断層画像信号の総和量は,画像内の背景成分を除去して,各画素値を積算した量である.Fig.13(a),(b)に,それぞれラット1,2においてILにおける総和量の深さ(ステップ)依存性を示した.これらの依存性は,OCM光学系の焦点深度と組織内の散乱体である神経線維の密度分布が関係していると考えられる.これらは,SMMFから深さ20 μmから90 μmに分布しているのがわかる.散乱体が主に神経線維と考えると,神経線維の増加と共にOCMの画像信号も増加する.そこで,それぞれのILにおいて,SMMFから深さ方向のOCM画像の信号量の積算値を求め,この積算値のIL依存性を求めた.ラット1とラット2のP1からP4までの結果をFig.13(c)に示す.ラット1では最大値がIL 2.0 mmで得られ,ラット2ではP1からP4の平均値の深さ依存性が算出され,最大値がIL 2.5 mmで得られた.Fig.9(d)とFig.11を考慮するとこれらの結果は,積算量の最大値は灰白質の底部で得られているのがわかる.これらの結果は文献40)(Fig.3(i))とも一致している.従って,Fig.11,12での形態的情報とFig.13(c)の積算値のIL依存性から,鉛直断面画像は主に神経線維を表している.

Fig.13 

(a) Dependences of sums of signal intensity in the each en face image on the scan depth for Rat 1 for each IL; (b) dependences of sums of signal intensity in the each en face image on the scan depth at P4 of Rat 2 for each IL; (c) dependences of integrations of signal intensities on IL for Rat 1 and Rat 2-P1 to P4, each arrow indicates the position of maximum integration of signal intensities for rat2 from P1 to P4.

実際のSMMFの応用ではいくつか課題が挙げられる.まずはLPモードの影響である.現状では,SMMFの入射端面からの反射光でCCDが飽和するのを避けるために偏光を用いて,SMMF端面での反射光を抑制している.これに対してモードパターンを除去するために反射を抑えた無偏光光学系が望まれる.次は,SMMFと組織との密着性の問題である.現状では,垂直端面のSMMFを用いているが,組織へのスムーズな挿入と高い密着性を実現するには,垂直端面から先端をボール状に加工する必要がある.これについては,現在,プラズマを用いた先端加工プロセスを検討中である.

5.  まとめ

直径125 μm,長さ7.4 mmのSMMFをOCMのイメージプローブに用いて,in vivoラット脳の断層画像を測定して次の知見を得た.深さ分解能,横方向分解能は,それぞれ2.14 μm,2.3 μmであり,SMMFを最大4 mmまで挿入し,視野直径は47 μm,SMMF端面から深さ147 μmまでで断層画像測定を行った.深さ20~90 μmで,長さ5 μm~10 μmの繊維状の形態情報が得られた.リスライス画像から三次元接続や屈曲の繊維状の形態情報が確認された.さらに,OCM画像信号の積算値が灰白質の底部で最大値を取り,報告されている傾向と一致した.以上より,SMMFを用いて神経線維の三次元形態の断層画像を測定することができた.

今後,課題は多いが,深部組織での三次元・二次元イメージングを生かして,再生医療分野では脳神経再生のモニターや,がんの診断分野では,深部組織の蛍光診断,腹腔鏡関連では小型低侵襲性深部イメージングロボットなどへの応用が考えられる.

謝辞

この研究の一部はJSPS科研費18K12051の助成を受けている.また,研究支援に関して協栄線材 桑木伸夫氏,フジクラ 愛川和彦氏に,また,技術サポートに関して米沢精密 尾形則秀氏に感謝する.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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