日本レーザー医学会誌
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総説
プラスチック光ファイバーを用いた細径拡散光照射プローブによる光線力学的治療
小川 恵美悠 荒井 恒憲臼田 実男大谷 圭志前原 幸夫今井 健太郎工藤 勇人小野 祥太郎池田 徳彦
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キーワード: PDT, 光拡散体, レザフィリン
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2020 年 41 巻 1 号 p. 25-29

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Abstract

我々は細径柔軟なプラスチック光ファイバーを用いた拡散光照射プローブを開発し,狭隘な患部での均一光照射を可能にすることで,光線力学的治療の新しい展開を目指している.狭隘な領域において直射型の光照射プローブでは照射領域を操作できないため,拡散光照射プローブが必要となる.現状の拡散光照射プローブは石英製で先端が硬く,屈曲した経路には挿入することができない.我々は細径プラスチック光ファイバーに拡散加工を施した光拡散体を開発し,柔軟な細径拡散光照射プローブを完成した.

Translated Abstract

We are developing a diffused light irradiation probe using a small diameter flexible plastic optical fiber and aiming at a photodynamic therapy in a narrow area by uniform light irradiation. In a narrow area, a direct transmission light irradiation probe could not manipulate the irradiation area, and a diffused light irradiation probe is required. The conventional diffused light irradiation probe made of quartz, has a hard tip, and could not be inserted into a curved path. We developed a light diffuser made by a small diameter plastic optical fiber and completed a small diameter and flexible diffused light irradiation probe.

1.  はじめに

我々は細径柔軟なプラスチック光ファイバーを用いた拡散光照射プローブを開発し,狭隘な患部での均一光照射を可能にすることで,光線力学的治療(Photodynamic therapy: PDT)の新しい展開を目指している.本邦におけるレザフィリンを用いたPDTは,中心型肺癌,悪性脳腫瘍,再発性食道癌に適応されている1-3).PDTは腫瘍に対する集積性を有する光感受性薬剤を投与し,光感受性薬剤投与後に光照射までのインターバルを設けることで,腫瘍組織と健常組織における光感受性薬剤濃度のコントラストを利用する4).光感受性薬剤の吸収ピークに合わせた励起光を照射することで,吸収されたエネルギーにより組織中の溶存酸素から一重項酸素を産生する.一重項酸素は寿命が短いため,光感受性薬剤の分布範囲のみに一重項酸素の酸化作用による局所的な殺細胞効果を得ることができ,腫瘍組織を選択的に治療することが可能である5).以上のようにPDTは腫瘍選択性および光増感反応による高い抗腫瘍効果を有し,今後様々な腫瘍に対する有効性が期待される.

現在レザフィリンを用いたPDTでは波長664 nmの励起レーザーが用いられている.中心型肺癌および再発性食道癌に対するPDTでは,前方に光照射を行う直射プローブと側方に光照射を行うシリンドリカルプローブのいずれも石英製光ファイバーを用いたプローブが使用されており,プローブをレーザー装置にコネクタ接続してレーザー光を伝送・照射する.一方で悪性脳腫瘍に対するPDTでは手術顕微鏡にレーザーおよびガイド光の出射端が設置されている.斜めに照射される2つのガイド光が1点に交わるように顕微鏡の位置を調整し,照射野と出射端の距離を一定にする.悪性脳腫瘍に対するPDTでの光照射方法は経顕微鏡的な光照射のみであり,使用可能なプローブはない.昨今PDTのプローブは柔軟性を有するものや面状に照射可能なもの,バルーン型や穿刺照射型など,様々なデバイスの開発が世界で進められている6-8).これらの光照射プローブ開発によって新たなPDTの展開が期待される.

末梢型肺癌は近年のX線CT診断技術の向上と普及によって,早期に発見される数が増加している.これらの早期の末梢型肺癌において,外科術を行うことは肺換気能の低下を伴い侵襲性が強いため,治療を行わず経過観察になることが多い.低侵襲なPDTが適応されればこれらの末梢型肺癌を治療可能になると期待される9).PDTに必要な光感受性薬剤とレーザー光源は許認可を得たものが存在するが,末梢型肺癌治療には気管支鏡に挿入して患部へ到達できる,柔軟な細径光照射プローブが必要である.狭隘な肺末梢領域において直射型照射プローブでは照射領域を操作できないため,拡散光照射プローブが必要となる.現状の拡散光照射プローブは石英製で先端が硬く,屈曲した末梢気管支までの経路に挿入することが困難である.肺末梢領域に挿入可能な複合型ファイバーも開発されているが,狭隘な部位での光照射に適した拡散照射デバイスは実現されていない.肺末梢領域に到達可能な細径で柔軟な拡散照射デバイスが求められている.

悪性脳腫瘍に対するPDTは,外科的な腫瘍組織摘出後に経手術顕微鏡下でレーザーを照射する.外科的摘出が困難な浸潤した腫瘍細胞をPDTにより障害することで最初のリスクを低減することが可能である.外科的摘出後に光照射を行うとき,組織の形状により経顕微鏡下での均一な光照射が困難な場合がある.これまでに我々は摘出後組織の側面方向への光照射を実現するためのミラーの開発を行った10).このミラーは反射率の高い鏡面を固定用ハンドルの先端に搭載しており,顕微鏡から照射されるレーザー光線をミラーの反射により曲げることで側方への均一な光照射を実現可能である.しかし摘出後の形状がさらに狭隘な場合などにはミラーの使用も困難である.狭隘な摘出後の組織における光照射を可能とする拡散光照射デバイスが求められている.

我々は末梢型肺癌や悪性脳腫瘍摘出後の狭隘な組織への光照射が可能な新しいPDT用光照射デバイスとして,柔軟な細径拡散光照射プローブの開発を行った.末梢型肺癌に対するデバイスでは,末梢気管支へ挿入するために気管支内視鏡の鉗子孔よりも細径で,屈曲した末梢気管支までの経路において高い挿入性を実現する柔軟性およびプッシャビリティが必要である.末梢気管支において均一にPDTを行うために,10~100 mmの範囲で自由な拡散長を設計できるようにした.悪性脳腫瘍に対するデバイスでは,周辺の脳組織や血管への障害を避けるためにより局所的な光照射が求められるため,拡散チップを搭載した構造により5 mmの拡散長に設計した.外皮チューブには生体適合性や耐熱性などの安全性が必要である.さらに長時間のレーザー照射においてプローブの発熱を抑えられる構造が求められる.

2.  開発した拡散光照射プローブ

拡散光照射プローブに用いる光拡散体には細径で柔軟な直径250 μmのプラスチック光ファイバーを用いた.プラスチック光ファイバーは石英製光ファイバーと比較して非常に安価であり,単回使用プローブに耐える大幅なコストダウンを実現可能である.柔軟であるため1 cm以下の曲げ半径でも破損することがなく,屈曲した経路にも挿入が可能である.光ファイバー自体では直線状に保持することが困難な程柔軟であり,挿入性確保と光ファイバー保護のために,外側のフッ素系樹脂チューブの直径および肉厚を調整している.この点において,こしが強く跳ねる傾向が強い石英ガラスファイバーと全く異なっている.プラスチック光ファイバーに吹付によるブラスト加工を施すことで,10~100 mmの間の任意の長さで拡散照射が可能であり,拡散加工後も柔軟性を保持することができる.プラスチック光ファイバーは約5 μmと薄いクラッドであるため,ブラスト処理をしても機械的特性は損なわれず,脆性のガラスと比較して大きなメリットがある.悪性脳腫瘍用のプローブには,より短い拡散長が求められるためプラスチック光ファイバーと拡散チップを搭載した構造により5 mmの拡散長を実現した.生体適合性を有する外皮チューブとして耐熱性の高いフッ素系樹脂材質を採用し,外皮チューブ内に開発した拡散体を挿入してプローブを作成した.外皮チューブは厚みによってプローブの操作性を調整することが可能であり,要求性能に合わせて0.8~1 mmの外径で作成を行った.長時間のレーザー光照射において安全性を担保するために,チューブと光ファイバーの間に空気層ができるように固定することで熱発生を抑える構造を採用した.Fig.1にプローブの外観を示す.任意の拡散長において均一な周方向光照射を行うことができる.要求性能に合わせて先端にX線不透過マーカーを設置することで,X線透視下にてプローブ位置を確認することが可能である.

Fig.1 

Appearance of diffused light irradiation probe (Example of diffusion length 10 mm).

3.  拡散光照射プローブの性能評価

均一な拡散光照射を評価するために,Fig.2に示す光強度計測系を構築した.Fig.2(a)には長軸方向の光強度分布計測系を,Fig.2(b)には周方向の光強度分布計測系をそれぞれ示す.測定用の光ファイバーに,コア径200 μm,開口数0.43の石英製光ファイバーを用いた.測定用光ファイバーを一定速度で移動または回転させるために自動ステージ(SHOT-GS,シグマ光機)を用いた.計測の分解能は長軸方向が0.1 mm,周囲方向が0.5°となった.レザフィリンの励起波長である660 nm帯の赤色半導体レーザーに被計測プローブを接続した.光強度測定には,シリコンフォトダイオード(OP-2 VIS, Coherent)を用いた.作製した実験系の精度評価として,既製の光照射プローブを用いて同一プローブにおける放射照度分布を10回測定した結果,平均値に対する標準偏差の割合は5%未満であった.

Fig.2 

Schematic illustration of light intensity distribution measurement system (a) Long axis measurement system (b) Circumferential measurement system.

Fig.3に拡散長10 mmのプローブにおける長軸方向の光強度分布の結果を示す.同一のプローブに関して5回の計測を行った平均値を一例として示す.光拡散部における光強度の差は約 ±10%と,均一の拡散光照射が行えることが分かった.Fig.4に光拡散部中央での周方向の光強度分布の結果の一例を示す.周方向の光照射は均一であり,この結果は光拡散部の位置によらず,いずれの場所でも同様に均一な結果が得られた.周方向における光強度の差も ±10%以下であった.安全性の検討のため,拡散光照射プローブから1 Wの赤色レーザー光を500 s間照射したときのプローブ表面温度をサーモグラフィーカメラで計測した.計測は約20°Cの室温中で行った.500 s間の光照射において,最大温度上昇は1.9°Cと十分に低く,光照射中の温度上昇による組織障害や血栓付着による熱暴走などを生じるリスクが極めて低いと考えられる.曲げ半径約5 cmで1周湾曲させた気管支鏡の鉗子孔に抵抗感なく挿入することができ,挿入性・操作性共に優れていた.ハイブリット犬モデルを用いて,in vivoにおいて模擬PDT治療の試験を行なった.Fig.5に示すように,胸膜直下の末梢気管支までプローブの挿入が可能であり,挿入性・操作性共に優れていることを確かめた.X線透視下にてプローブ先端に設置したマーカーにより,術中にリアルタイムでプローブの位置を確認できた.以上のように,開発した細径拡散光照射プローブを用いた新たなPDTの展開の可能性がある.末梢型肺癌や悪性脳腫瘍だけでなく,経神経内視鏡下や経消化器内視鏡下での運用により,悪性脳幹神経膠腫や胆管癌,膵臓癌などの難治性の癌に対する新たな治療としてPDTの発展が期待される.

Fig.3 

Results of light intensity distribution in the long axis direction for a probe with a diffusion length of 10 mm (average value of five measurements with the same probe, normalized with the maximum value).

Fig.4 

Typical result of circumferential light intensity distribution at the center of the light diffusing part (probe with a diffusion length of 10 mm).

Fig.5 

Demonstration of peripheral intrabronchial light irradiation in a hybrid canine model.

4.  まとめ

プラスチック光ファイバーを用いた光拡散体を開発し,柔軟な細径光照射プローブによる新たなPDTの展開を目指した.直径250 μmのプラスチック光ファイバーを用い,外径0.8~1 mmの耐熱性の高い外皮チューブ材質および内部構造により,安全性・操作性の高いプローブ設計とした.任意の拡散長において ±10%以下の均一な長軸および周方向光照射を実現した.狭隘な治療部位での光照射実現により,今後さらに悪性脳幹神経膠腫や胆管癌,膵臓癌などの難治性の癌に対する新たな治療の実現が期待される.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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