日本レーザー医学会誌
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総説
光感受性物質とRadio-dynamic therapy(RDT)
山本 淳考 北川 雄大宮岡 亮鈴木 恒平髙松 聖史郎齋藤 健中野 良昭
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2021 年 41 巻 4 号 p. 343-347

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Abstract

光感受性物質を利用した診断・治療はすでに臨床現場で広く利用されている.ポルフィリンに代表される光感受性物質は,光感受性のみならず放射線感受性を有することがしられている.5-アミノレブリン酸(ALA)は,悪性神経膠腫の術中蛍光診断薬として利用されている.近年,この5-ALAと放射線治療を組み合わせた治療の研究が進んでいる.5-ALAは,腫瘍細胞においてヘム代謝の過程で,ミトコンドリアにプロトポルフィリンIXを選択的に蓄積するが,放射線はこのPpIXと反応し,局所的にミトコンドリアに酸化ストレスを生じる.本総説では,悪性腫瘍に対する5-ALAを用いた放射線治療の現状について述べる.

Translated Abstract

Photosensitizers have been widely used for diagnosis and therapy for malignant tumors in clinical setting. Porphyrin compounds have been known as not only a photosensitizer but also radiosensitizer. In clinical neurosurgery, 5-aminolevulinic acid (ALA) is available for intraoperative fluorescence marker for malignant gliomas. Recently, combination therapy using 5-ALA and ionizing irradiation for malignant tumors have been investigated. 5-ALA can highly accumulate protoporphyrin IX (PpIX) in mitochondria of tumor cells via the heme biosynthesis. PpIX can induce oxidative stress on mitochondria of tumor cells under the ionizing irradiation exposure. In this review, we discuss radiotherapy using 5-ALA, so called radio-dynamic therapy, for malignant tumors.

1.  はじめに

正常脳に深く浸潤し境界不明瞭な悪性神経膠腫に対して,腫瘍を可視化し摘出を容易にする光線力学的診断(photodynamic diagnosis: PDD)や,残存腫瘍に対して選択的に活性酸素種を発生させ腫瘍細胞を死滅させる光線力学的療法(photodynamic therapy: PDT),また脳動脈瘤や脳動静脈奇形の血流動態をリアルタイムに評価する術中蛍光血管撮影といった光技術を応用した手法は,脳神経外科領域における手術や治療成績の向上に貢献している1-3).これらの光診断・治療の中心となるのが,光感受性物質であるが,5-アミノレブリン酸(ALA),タラポルフィンナトリウム,インドシアニングリーンやフルオレセインなどは脳神経外科領域においてすでに広く使用されている光感受性物質である.近年,PDTのように光感受性物質を光照射で励起させ光化学反応を利用するのみならず,放射線,超音波や温熱など光照射以外の外部エネルギーを併用しがん治療へ応用するといった研究がすすんでいる4-7).本稿では,光感受性物質と放射線照射との併用について解説する.

2.  光感受性物質と外部エネルギー

PDTの詳細なメカニズムについては本稿では割愛するが,重要な点は,1)光感受性物質のみでは何も作用しないこと 2)外部エネルギーで励起されることで始めて作用することの2点である.したがって,光感受性物質を利用した治療を考える際には,光感受性物質と外部エネルギーの双方から理解することが重要である.外部エネルギーの代表として光照射(レーザー)が挙げられるが,PDTやPDDなど目的に応じて光照射の波長を変更していることからわかるように,光照射の条件によって,光感受性物質は全く異なる反応を示す.通常,照射エネルギーはJ(ジュール)で表記されるが,PDTで同じ照射エネルギー(J)を行っても,照射パワー密度(W:ワット)を変更するとPDTの治療効果は異なる8).筆者らは,グリオーマ細胞株において5-ALAを使用したPDT中に発生する活性酸素種(主に一重項酸素)をin vitroおよびin vivoでモニタリングすることにより,照射パワー密度(W)の変化により活性酸素種の産生パターンが異なることを発見した8).すなわち,照射パワー密度が高いと,急速に活性酸素種が産生されるがそれにより光感受性物質にphotobleachingが起こり,その後急速に減衰する.しかし,照射パワー密度(W)が低いと,活性酸素種産生は緩徐であるが,photobleachingが起きにくく,結果として持続的に活性酸素種産生が行われ照射中に産生される活性酸素種産生量が多くなり,殺細胞効果が得られる8).この研究は,2004年に,Bislandらが報告したMetronomic PDTという概念を裏付ける結果となった9).このように,光感受性物質に外部エネルギーを与え,いかに効率よく活性酸素種を発生させ,腫瘍細胞に酸化ストレスを生じさせるかが重要である.

3.  光感受性物質とRadiodynamic therapy

Radiodynamic therapy(RDT)とは,外部エネルギーとして放射線を使用し,光感受性物質を励起させ殺細胞効果を誘導する治療法であり,近年MaらがRDTと命名しその治療法を報告している10).この原理は,ポルフィリン化合物に代表される光感受性物質が光感受性のみならず放射線増感作用を有するといった性質を利用したものであるが,PDT研究が開始された同時期に,すでに光感受性物質と放射線照射を組み合わせた治療法は多く研究されている11-13).1955年にSchwartzが,hematopophyrin derivtative(HpD)と放射線照射を併用し扁平上皮癌,カルチノイド,線維肉腫,横紋筋肉腫の患者に対してその有用性を報告している11).さらに,Cohenが,担癌マウス(横紋筋肉腫)を用いて,低用量銅-ポルフィリン複合体を使用し,放射線増感効果を報告している12).脳腫瘍領域では,Kostronがラット脳腫瘍モデルを使用し,HpDの放射線増感作用を確認している13).このようなポルフィリン化合物の放射線増感作用に必要な条件として,1)ポルフィリン化合物の高い純度(均一性),2)高い腫瘍集積性を指摘している14,15).その後開発された第二世代光感受性物質であるPhotofrin IIの放射線増感作用についても同様に報告されている16).悪性神経膠腫細胞株(U373)や膀胱がん細胞株(RT4)のような放射線感受性の低い細胞株に対して,Photofrin IIは,高い放射線増感作用を示す15).さらに,7例の担癌患者(膀胱がん,悪性神経膠腫等)に対してPhotofrin IIの放射線増感に関する臨床研究が施行され一定の成果が得られている16).ポルフィリン化合物の放射線増感作用の原理は,①放射線による電離作用の増強(hydroxyl radicalなど活性酸素種産生増加),②放射線照射により障害されたがん細胞の修復機構の阻害の2つが推測されているが,詳細なメカニズムについては解明されていない16,17).このように,ポルフィリン化合物の悪性腫瘍における放射線増感作用は古くより研究されてきたが,PDTと比較し,その増感作用(殺細胞効果)が乏しく,光感受性物質投与後の暗室管理などを考慮した場合に,RDTの実用性に乏しいことからその研究が衰退していったと推測される.

4.  5-ALAを使用したRDT(5-ALA/RDT)

定位的放射線照射や強度変調放射線照射といった近年の放射線照射技術開発は著しく,頭蓋内腫瘍性病変に対して極めて高い精度で照射が可能となっている.さらに重要な点は,放射線治療では,開頭術など手術が不要ということに尽きる.したがって,脳腫瘍においてすでに広く臨床で使用されている放射線は,光感受性物質を励起させる外部エネルギーとして非常に期待できるモダリティーである.一方,薬剤の観点から5-ALAは安全性のみならず,繰り返し投与が可能である18).RDTの反復施行によりその治療効果を高められる可能性があり,5-ALAはむしろ,PDTよりはRDTに適した薬剤であると考えられる.ここで重要なことは,放射線治療も5-ALAもすでに臨床応用されている点である.

5-ALA自体は,ポルフィリン化合物ではないが,腫瘍細胞でのヘム代謝経路内で蓄積されるプロトポルフィリンIX(PpIX)が光感受性物質の作用を有する19).その5-ALAの腫瘍細胞に対する放射線増感作用古くから知られており,Lukisieneが1994年に20),さらに,Berg Kが1995年に大腸がん細胞株(WiDr)を使用しin vitroの研究で確認されている21).しかし,HpDやPhotofrinとはことなり,5-ALA自体がポルフィリン化合物ではないため,5-ALAから誘導されるポルフィリン(主にPpIX)の蓄積量が少なく,放射線増感作用は極めて低いとされ,以後ほとんど研究されなくなった14).しかし,1999年に,Takahashiらが,無生物系の研究において,PpIXは放射線照射中の水電離作用により発生する活性酸素種産生を増加することを確認している22).すなわち,5-ALAは腫瘍細胞において,細胞内(特にミトコンドリア内)にPpIXを蓄積することから,放射線照射下で細胞内ミトコンドリアに局所的に活性酸素種産生を増強できる.筆者らは,悪性神経膠腫細胞株(9L, C6)を使用し5-ALAの放射線増感作用に関する基礎研究を行っているが,細胞間(特にPpIX蓄積能)によってその増感作用に差があるものの,放射線増感作用を有することが確認された4).また,1回の放射線照射で得られる増感作用は非常に低いが,複数回の放射線照射によりその作用が蓄積されることも確認した22).さらに,細胞イメージング研究により,放射線照射した直後の活性酸素種産生は,5-ALAで前処理した細胞において,5-ALA未処理の細胞と比較し,より多く産生されており,そのような活性酸素種産生の局在は,5-ALAから誘導されるPpIXの局在と一致していることから,放射線照射による活性酸素種産生増加にPpIXの関与が示唆される21).その後,5-ALAを併用したRDT効果は,悪性神経膠腫,メラノーマ,大腸がん,乳がん,前立腺がんおよび肺がん細胞株を使用した研究で相次いで報告されており23-28),肺癌患者に対するRDTの効果もすでに報告されている10).悪性神経膠腫のみならず,5-ALAから誘導されるPpIXを蓄積する悪性腫瘍であれば,理論的にはRDT効果が期待できると考えられる.

最近,筆者らは悪性神経膠腫患者における臨床研究において,5-ALAを投与した場合に,腫瘍内部のT2信号値が変化していることを確認している29).これは,5-ALAから誘導され蓄積したPpIXを通常のMR装置で画像化できる可能性を意味する.RDTやPDTいずれも,ポルフィリンの存在するところに外部エネルギー照射を行うことが基本である.したがって,ポルフィリンの分布を評価することは重要と考えられる.RDTを考えた場合,PpIXの腫瘍内分布は均一とは考えにくく,個々の症例のみならず,同一患者においても分割照射中にPpIXの分布や濃度が変化することが推測される4).したがって,どこにどの程度放射線照射をすべきかは,PpIXの分布をもとに治療計画が行われるべきであり,そのためにPpIXをモニターする手段の開発が望まれる.PpIXの分布に加えて,定位的放射線照射や強度変調放射線照射の高い照射精度を合わせることにより,より効率的なRDTさらには,不必要な部位への放射線照射を避けることが可能と思われる.

5.  5-ALA/RDTのメカニズム:腫瘍免疫と酸化ストレス

さまざまな悪性腫瘍でその効果が確認されている5-ALA/RDTであるが,その詳細なメカニズムは明らかにされていない.筆者らは悪性神経膠腫細胞株(9L)を近交系ラット(Fischer 344)の皮下に移植した皮下腫瘍モデルを作成し,5-ALA/RDTを施行し,有意に腫瘍増殖抑制効果を認めていたが,治療後の皮下腫瘍の病理学的評価においては,放射線治療群では皮下腫瘍周囲から内部にかけてIba-1陽性マクロファージが集簇し,さらに5-ALA/RDT群ではその集簇が有意に増強していた23).特に腫瘍内部では,壊死と腫瘍細胞との境界に比較的多くが集簇する傾向があり,貪食増を伴っていたことから,ただ単にIba-1陽性マクロファージは,腫瘍内部に生じた壊死巣に集簇しているのではなく,5-ALAにより誘導されている可能性が推測される23).また,Takahashiらは,2016年にマウスメラノーマ皮下腫瘍モデルに5-ALA併用放射線照射を行った後に,皮下腫瘍を摘出し,マイクロアレイによる遺伝子解析を行っているが,放射線単独に比べ,5-ALA/RDTでは,細胞周期停止,酸化ストレスの増強および抗腫瘍免疫の活性化を誘導することを指摘している30).最近の筆者らの研究では,5-ALA自身が,グリオーマ細胞株においてTNF-aの産生を増強し,COX-2とmPGES-1を介してPGE2産生を抑制しマクロファージの免疫逃避機構を解除し抗腫瘍効果を示すことを確認している31).以上のことから,5-ALA/RDTにおいては,5-ALAの宿主抗腫瘍免疫誘導の関与が示唆される.

次に,酸化ストレスの観点から5-ALA/RDTのメカニズムを考えたい.一般的に,腫瘍細胞に対する放射線生物学的作用では,電離放射線による直接もしくは,水電離作用により生じた活性酸素種(hydroxyl radical)により,核DNAが損傷を受け,染色体異常をきたし,結果として細胞死(増殖死/間期死)に至るといわれている32).しかし,筆者らの悪性神経膠腫細胞株を用いた5-ALA/RDT直後の活性酸素種は,核よりはむしろ細胞質を中心に増加し,そのほとんどが5-ALAから誘導されるPpIXの局在に一致していた4).前述のごとく,5-ALAから誘導されミトコンドリアに選択的に蓄積したPpIXそのものが,放射線の電離作用による活性酸素種産生を直接増強させることを考慮すれば22),5-ALA/RDTにおいては,放射線照射中にミトコンドリアに局所的に酸化ストレスが生じていることが推測される.最近の報告では,腫瘍細胞に対する放射線照射による核DNA障害の程度は,放射線照射終了後から4~8時間後までにいったん低下したのちに,再び12時間から24時間程度にかけて再び増加するといったV字状の経過をたどることが報告されている33).すなわち,放射線照射中に核DNA障害が生じるが,いったんrepairしたのちに,遅発性に核DNA障害が引き起こされると推測されている33).一方で,放射線照射後の細胞内活性酸素種産生量は,この核DNA障害と相関するようにV字状の発生パターンを示し,この遅発性に増加する活性酸素種は,ミトコンドリアにおいて代謝性(二次性)に産生されていると考えられている33-36).そのため,腫瘍細胞においては,放射線照射中に電離作用により生じた活性酸素種によって核DNA障害を来すが,同時にミトコンドリアへの酸化ストレスを誘導し,損傷をうけたミトコンドリアが様々な反応を示し,その過程で,遅発性に活性酸素産生することで周囲のミトコンドリアに影響し,結果的に酸化ストレスが持続し細胞死を誘導すると推測されている34-36).筆者らは,放射線照射12時間後の遅発性活性酸素種産生は,従来の報告と同様に照射直後に比べて有意に増加するが,5-ALA/RDTでは,さらに遅発性活性酸素種産生が増加していた37).また,細胞イメージング研究により,5-ALA/RDTで増強される遅発性活性酸素種の局在の大部分がミトコンドリアに一致していることから,5-ALAは,ミトコンドリアにおける活性酸素種産生を増強していることがわかった38).さらに,放射線照射後12時間で,細胞内ミトコンドリア量およびミトコンドリア複合体の状態は,放射線照射直後と比較し遅発性に増加および活性化するが,5-ALA/RDTでは,放射線単独と比較し,有意に増加および活性化することが確認された38)

これらのことから,悪性神経膠腫細胞株に対する5-ALA/RDTにおいては,ミトコンドリアの局所的な酸化ストレスにより遅発性活性酸素産生が増強し,細胞死が誘導されている可能性が示唆される.すなわち,5-ALAにより誘導されたPpIXが十分にミトコンドリアに蓄積している状態において,放射線照射を行った場合に,選択的にミトコンドリアに活性酸素種産生が生じ,ミトコンドリアに対する酸化ストレスが増強される.障害を受けたミトコンドリアから遅発性に活性酸素種が放出され,周囲のミトコンドリアなどの細胞内器官に波及し,細胞死を来していることが推測される.このように,5-ALA/RDTを理解する上で重要な点は,酸化ストレスの程度(活性酸素種産生量)のみならず,酸化ストレスを細胞内のどの部位に生じさせるかが重要である.

6.  結論

RDTは,光感受性物質を放射線増感剤に応用した治療であるが,なかでも5-ALAは,よりRDTに適した薬剤であるといえる.重要な点は,5-ALAそのものがポルフィリンではなく,ミトコンドリアに選択的にポルフィリン(主にPpIX)を蓄積させるプロドラッグである.近年,腫瘍細胞に対してポルフィリン化合物を選択的にミトコンドリアに集積させ放射線感受性を増強させる試みがされている39).ミトコンドリアは,腫瘍細胞において,エネルギー産生の最も重要なパワープラントであり,また,最も活性酸素種産生を行う細胞内代謝の中心となる細胞内器官であると同時に,アポトーシスを誘導し細胞死を調節する役割を果たしている40,41).したがって,単にポルフィリンを放射線増感剤として応用するのではなく,いかにミトコンドリアに選択的に酸化ストレスを与えるかが重要であり,そういった意味で,ポルフィリンをミトコンドリアに選択的に蓄積させる5-ALAは,ミトコンドリア標的薬として考えるべきであり,5-ALA/RDTのメカニズムの解明が求められる.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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