日本レーザー医学会誌
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原著
中心型肺癌に対する光線力学的治療の治療成績向上に向けた工夫
園川 卓海鈴木 健人富岡 勇宇也松本 充生町田 雄一郎井上 達哉榎本 豊臼田 実男
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2022 年 43 巻 1 号 p. 2-8

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Abstract

光線力学的治療(photodynamic therapy: PDT)は中心型早期肺癌に対する標準的な治療法の一つであり,その治療成績向上のためには,腫瘍の範囲を正確に診断し,適切にレーザー照射を行うことが重要であるが,一部の内視鏡システムは,光感受性物質であるタラポルフィンナトリウム注射後の腫瘍進展範囲の評価に不向きである点や,レーザー光により色情報が担保できず,適切なレーザー照射に苦慮するなどの課題があった.今回は,同時式内視鏡システムELUXEO 7000®(富士フイルム株式会社)を用いてPDTの治療成績向上に向けた工夫を検討した.

Translated Abstract

Photodynamic therapy (PDT) is a standard treatment for centrally located early lung cancer. Accurate diagnosis of the tumor extent and appropriate application of laser irradiation are important for improving treatment outcome. However, some endoscopic systems are unsuitable for evaluating tumor extent after injecting taraporfin sodium, a photosensitizer, and because of the loss of color information with the use of strong laser light, complicating appropriate irradiation of the tumor. In this study, we investigated the ingenuity of PDT to improve the therapeutic outcome with the simultaneous use of endoscopic system ELUXEO 7000® (Fujifilm Corporation).

1.  緒言

光線力学的治療(photodynamic therapy: PDT)は腫瘍特異的光感受性物質(photosensitizer: PS)とそれに対応する波長の低出力レーザー光により光線力学的反応を生じさせ,抗腫瘍効果を示す治療法で,中心型早期肺癌や気道狭窄を伴う進行肺癌に対する治療法の一つとして確立されている1-9).PDTは低侵襲でQOLや肺機能を損なわない治療法であり,繰り返し施行可能であること,他の治療法の妨げにならないこと,低コストであるといった利点も持つ優れた治療法である7).そのため,高齢化社会の到来,医療費の高騰が問題視される現代の医療において,今後ますます重要な役割を担う治療法として期待される.中心型肺癌に対するPDTの治療効果向上のためには,正確に腫瘍の範囲を診断し,適切にレーザー照射を行うことが重要であるが,「レーザーのあて損ない」が原因と考えられる治療後の腫瘍残存や局所再発をしばしば経験する10).それを防ぐためには,腫瘍の辺縁を十分に確認し,正確な腫瘍の局在診断が重要である11,12)

現在,画像技術の進歩に伴い,様々な画像強調内視鏡(image enhanced endoscopy: IEE)システムが開発され,内視鏡診断学が向上してきた.その中で様々なシステムがPDTに応用されているが,一部の内視鏡システムには,PDTのレーザー照射の際,強いレーザー光をカットしきれず,画面の色情報が消失する「white out」と呼ばれる現象が発生するといった欠点があった.これは,レーザー照射中の病巣の視認が困難となり,正確なレーザー照射を妨げることとなっていた.最近では,同時式の電子ビデオ内視鏡システムであるELUXEO 7000®(以下ELUXEO®,富士フイルム株式会社)が発売され,上皮性病変の詳細な観察が可能であることが報告されている13-15).このシステムの大きな特徴は,同時式の撮像方式を採用しており,病変部を視認しながら同時にレーザー照射を行うことができる点であった16)

2.  目的

本研究では,中心型肺癌に対するPDTの治療成績を向上させるための工夫を,ELUXEO®と従来から使用しているAFI(autofluorescence imaging)搭載の内視鏡システムEVIS LUCERA ELITE®(オリンパス株式会社)と比較しながら後方視的に検討した.

3.  対象と方法

3.1  対象

本研究では,2013年1月より2019年7月までに日本医科大学付属病院でEVIS LUCERA ELITE®,ELUXEO®を用いた気管支鏡検査を施行した症例を対象とした.その中で,特に2018年10月から2019年7月までに当科でELUXEO®を用いてPDTを施行した症例の臨床情報,治療成績を後方視的に検討した.

本研究は,日本医科大学付属病院の倫理委員会の承認を得て実施した(NMS B-2020-186).

3.2  気管支鏡システム

日本医科大学付属病院では,2013年1月よりEVIS LUCERA ELITE®を,2018年10月よりELUXEO®を使用している.

3.2.1  ELUXEO® 13-15)

ELUXEO®は,青紫,青,緑,赤の4つのLEDを搭載する画像強調内視鏡(image enhanced endoscopy: IEE)システムである.異なる波長の光を組み合わせたり,増幅させることにより,白色光観察に加えてblue light imaging(BLI)やlinked color imaging(LCI)といった複数のモードで観察可能である.BLIはヘモグロビンに選択的に吸収される短波長の光を照射することで,血管や表面の構造を強調する技術である.また,LCIは肉眼で見たときの色調を保持したまま,白色光に近い明るい画像を表示する.このモードでは,赤みがかった色はより赤く,白みがかった色はより白くなり,粘膜の微妙な色調の違いを強調するモードである.Fig.1にELUXEO®の代表的な内視鏡画像所見を提示する.右下葉気管支入口部の腫瘍(扁平上皮癌)に対してELUXEO®を用いて観察を行った気管支鏡検査所見である(a:白色光観察,b:BLI,c:LCI).右下葉入口部に隆起性の腫瘍性病変を認めるが,白色光観察と比較してBLI,LCIでは,病変が鮮明に観察され,また縦走粘膜の途絶など腫瘍の辺縁が明瞭に観察できた.また,LCIでは,粘膜下の血管拡張が点状の発赤として明瞭に観察された(Fig.1c).

Fig.1 

Images of a tumor at the orifice of right lower lobar bronchus obtained in the three imaging modes of ELUXEO® (a: white light; b: BLI; c: LCI). This tumor was diagnosed as a squamous cell carcinoma. Compared with white light, BLI and LCI showed the margin of the tumor clearly. With LCI, submucosal vasodilatation was clearly observed as punctate reddening.

本研究では,プロセッサーとして「VP-7000」,光源装置として「BL-7000」,スコープとして「EB-580S」を使用した.

3.2.2  EVIS LUCERA ELITE®

本研究では,気管支鏡システム「EVIS LUCERA ELITE®」,スコープとして「BF TYPE F260」を使用した.本システムは通常の白色光観察に加えて,AFIによる観察が可能である.

AFIは,青色励起光(390~440 nm)を照射すると,正常組織と比較して腫瘍組織の自家蛍光が減弱するという特性を利用し,その差を色調として強調表示するモードである.通常の白色光とAFIモードの切り替えは,光源装置のフロントパネルもしくはスコープのスイッチを押すことで内視鏡施行医により変更が可能である.

3.3  PDTの方法1,8,11,12)

光感受性物質にはタラポルフィンナトリウム(レザフィリン®,明治製菓株式会社)を使用した.タラポルフィンナトリウム(40 mg/m2)を投与してから4~6時間後,全身麻酔下に気道を確保し,気管支鏡で通常通りの病変観察を行った.その後,PDTを施行した(照射エネルギーは100 J/cm2(150 mW/cm2)).PDTを行った直後にも再び病変の観察を行った.

EVIS LUCERA ELITE®,スコープBF TYPE F260を使用したPDTの場合,直前の観察は通常通り行ったが,レーザー照射を行うと強い白色光しか認識できず,色情報が消失する「white out」と呼ばれる現象が発生するため(後述),遮光フィルターを装着したファイバースコープに変更し,病変の観察を行いながらレーザー照射を行った.

一方,ELUXEO®の場合,本スコープのみでレーザー照射直前および照射中の観察を行うことが可能であった.BLIモードで使用することで,画面がwhite outすることなく,病変を観察しながら同時にレーザー光を照射することが可能であった.

なお,光感受性物質の副作用として光線過敏症状が出現するため,市販の日焼け止めクリームを塗布した.

3.4  フォローアップ,効果判定

PDTの1ヶ月後と3ヶ月後に気管支鏡検査を行った.PDT 1ヶ月後には,気道狭窄などの合併症の有無を確認した.抗腫瘍効果は,PDT 3ヶ月後の気管支鏡所見,病理学的所見に基づいて評価判定を行った.判定はRECISTガイドライン(バージョン1.1)を参考に以下のように分類した.

Complete response(CR):内視鏡的および病理学的にすべての病変が消失

Partial response(PR):内視鏡的に病変が30%以上の縮小もしくは内視鏡的には病変が消失するが,病理組織学的には腫瘍が残存

Progressive disease(PD):内視鏡的に病変が20%以上増大

Stable disease(SD):PRに該当する十分な縮小もPDに該当する増大もない

4.  結果

当科では,これまでPDT直前の観察にEVIS LUCERA ELITE®のBF TYPE F260/AFIを使用し,病巣の範囲やレーザー照射範囲を決定していた.Fig.2は,気管の扁平上皮癌の内視鏡所見であり,タラポルフィンナトリウム投与前(Fig.2a, b)とタラポルフィンナトリウム投与4時間後(Fig.2c, d)の画像所見を比較した.気管分岐部より3リング口側,右側壁より隆起する腫瘍が観察され(Fig.2a),この腫瘍はAFIではマゼンタ色を呈した(Fig.2b).タラポルフィンナトリウム投与の4時間後,白色光ではタラポルフィンナトリウム投与前と同様の所見が観察されたが(Fig.2c),AFIにおいて腫瘍は周囲の緑色と同様の色調を呈し,マゼンタ色の病変として描出されなかった(Fig.2d).つまり,タラポルフィンナトリウムを投与すると,腫瘍の病巣がマゼンタ色で描出されず,偽陰性となったのである.また,BF TYPE F260/AFIを用いてPDTを施行すると,レーザー照射の際,その強いレーザー光をカットしきれず,画面の色情報が消失する「white out」と呼ばれる現象が発生した.Fig.3はレーザー照射前後の内視鏡所見である.レーザーを照射すると,画面の色情報が失われ,病変の視認が不可能となった(Fig.3b).

Fig.2 

Endoscopic findings of a centrally located lung cancer obtained using BF TYPE F260 before PDT (a, c: white light; b, d: AFI). A flat-type lesion is observed at the tracheal wall (a), and the lesion was visualized in magenta color with AFI (b). However, four hours after administration of talaporfin sodium, the lesion was no longer visualized in magenta on AFI (d).

Fig.3 

Endoscopic findings of a centrally located lung cancer obtained using BF TYPE F260 (a). When laser was irradiated, the color information on the screen was lost (b).

一方,ELUXEO®を使用することで,これらの問題を回避しながらPDTを施行することが可能であった.Fig.4は,中心型肺癌に対するPDT直前およびPDT中の内視鏡所見である.本症例は,右中間幹から中葉気管支の入口部付近にかけて粘膜変化を認め,扁平上皮癌と診断された(Fig.4a).Fig.4bはPDT直前,つまりタラポルフィンナトリウムを投与後の観察所見であるが,LCIの観察では,PDT直前においても腫瘍はピンク色に強調されて観察された.さらに,ELUXEO®に搭載されているBLIモードを使用することで,病変やその周辺構造を観察しながら,同時にレーザー照射を行うことが可能であった(Fig.4c).

Fig.4 

Endoscopic findings of a centrally located lung cancer obtained with ELUXEO® before and during PDT. The flat-type centrally located early lung cancer lesion was observed at truncus intermedius (a), and the lesion was seen in pink color with LCI (b). We performed irradiation while simultaneously observing the lesion with BLI (c). The margin of the tumor was showed by red dots.

当院でELUXEO®を用いてPDTを施行した症例を後方視的に検討した.ELUXEO®を用いたPDTは7症例8病巣に対して施行した.症例は男性6例,女性1例で,PDT施行時の年齢は69歳から85歳(中央値75歳)であった.診断は中心型早期肺癌(centrally located early lung cancer: CLELC)が1病変,中心型非早期肺癌(non-CLELC,早期肺癌の診断基準を満たさない中心型肺癌)が6病変,その他の悪性病変が1病変であった.1例のCLELCに対してPDTを施行し,CRを得た.一方,non-CLELCは,根治目的のみでなく,長期的な腫瘍進行の抑制やQOLの維持・向上を目的としてPDTを施行し,PR 33.3%(2/6),SD 50%(3/6),PD 16.6%(1/6)であった.PDTに関連した合併症を認めた症例はなかった(Table 1).

Table 1  The clinical characteristics of the patients and the treatment outcome of PDT using ELUXEO®
Patients 7
Age (madian) 69–85 (75)
Gender
 Male 6
 Female 1
Lesion 8※
Diagnosis
 Early lung cancer 1
 Non-early lung cancer 6
 Other 1
Outcome
 Early lung cancer
  CR 1 (100%)
 Non-early lung cancer
  CR 0 (0%)
  PR 2 (33.3%)
  SD 3 (50%)
  PD 1 (16.6%)
Complication 0

※One patient had two lesions.

PDT, photodynamic therapy; CR, complete response; PR, partial response; SD, stable disease; PD, progressive disease.

5.  考察

現在,画像技術の進歩に伴い,様々な画像強調内視鏡(image enhanced endoscopy: IEE)システムが開発されているが,それぞれのシステムや観察法には長所と短所があるため,その特徴を理解した上で最適なシステムを選択する必要がある.中心型肺癌に対する治療においても,それぞれの内視鏡システムを適切に使用しながら治療を行うことが重要である.本研究では,中心型肺癌に対するPDTのおいて当科で使用した内視鏡システムの相違点を検討した.

AFIは,気管支粘膜の自己蛍光を利用したAFB(autofluorescence bronchoscopy)システムで,微細な表在性病変を可視化する技術である.正常組織と癌組織では組織構築が異なることや,蛍光を発する内因性物質の含有量が異なるため,その自家蛍光強度の差を利用し,病変を可視化する18).腫瘍性病変がマゼンダ色として緑色の正常粘膜とコントラストをもって描出されるため,明確に局在診断を行うことが可能である.通常の白色光観察単独と比較して,AFIを組み合わせることで病変の検出能は大きく向上することが報告されている17-19).AFBシステムは特別な前処置もなく,簡便に行えるため,通常の気管支鏡観察において有用である.しかし,PDTにおけるAFIの使用には注意を要する.まずはタラポルフィンナトリウムの静脈注射後の観察,つまりPDT直前に行う観察では,病変が本来観察されるべきマゼンタ色として可視化されず,偽陰性となる点である.これは腫瘍の範囲を過小評価し,レーザーの照射不足となってしまう恐れがある.これは,タラポルフィンナトリウムに起因する現象と考えられる.タラポルフィンナトリウムは光感受性物質の1つで,波長407 nmに最大吸収ピーク,波長664 nmに第2のピークを持つ12).そのため,腫瘍内に蓄積されたタラポルフィンナトリウムがAFIの青色光(400 nm)を吸収し,病変部がマゼンタ色で描出されず,偽陰性となると考えられた.このようにPDTの直前にAFIで病変部を観察しても,腫瘍の範囲を正確に評価することができず,レーザー照射の範囲を過小評価してしまう恐れが生じる.一方,ELUXEO®のBLIやLCIは,蛍光法による画像強調システムではないため,上記のような偽陰性は生じなかった.ELUXEO®では,タラポルフィンナトリウムを投与した後でも,Fig.4bで示したように色調が強調された画像が得られた.

PDTにおけるBF TYPE F260/AFIのもう一つの問題点は,レーザー照射時のwhite outのため,リアルタイムでレーザー照射が病変部に適切に行われているかの確認が困難であることである.レーザー照射の際のみ,遮光フィルターを装着したファイバースコープに変更し,レーザー照射を行うことでwhite outを回避することは可能であったが,高画質な画像を得ることはできなかった.ELUXEO®は,同時式の撮像方式を採用しているため,レーザー照射時のwhite outがなく,病変を観察しながら同時にレーザー照射が可能であった.Nakamuraら16)は,消化器内視鏡の分野で,同時式のビデオ内視鏡システムは,レーザー照射時も画面がwhite outせず観察可能であることを報告しており,これと同じ原理が気管支内視鏡にも当てはまると考えられる.ELUXEO®では,主にBLIモードを使用することで,レーザー照射中に画面のwhite outを回避することが可能であったため,狙いを定めた正確なレーザー照射に寄与すると考えられる.

PDTの治療成績の向上には,腫瘍残存や局所再発の原因となる「レーザーのあて損ない」を防ぐことが極めて重要であると報告されてきた10,12).そのため,上記の理由から,PDTを施行する際の内視鏡システムとして,ELUXEO®は非常に適しており,不十分なレーザー照射を防ぐことで,治療成績の向上に繋がる可能性がある.

最後に,ELUXEO®のBLIやLCIなどのモードによる画像強調内視鏡システムは,消化器内視鏡の分野において,その有用性が多数報告されている14,15,20-21).スクリーニングにおける病変の検出や内視鏡的診断に有用であると報告されている.また,LCIは上皮のわずかな色調の変化を描出するため,Helicobacter pylori感染などの炎症性疾患の診断にも有用であることが報告されている22).呼吸器内視鏡の分野でも,炎症性病変や悪性病変の評価にLCIが有用であることが報告されている23).LCIは,以前からIEEシステムとして普及しているNarrow band imaging(NBI)と比較して画像が明るく,白色光観察と似た色調を呈することが特徴であるため,経験の浅い内視鏡医にとっても微細な粘膜病変の見落としを防ぐことができる可能性がある23).本研究では,IEEシステムの内視鏡所見を病理学的に検証できていないが,今後,ELUXEO®の使用経験の蓄積,内視鏡所見と病理学的所見の対比を行うことで,呼吸器内視鏡の分野での悪性腫瘍や炎症性疾患に対する診断的応用にも期待される.

6.  結論

画像技術の進歩に伴い,様々な画像強調内視鏡システムが開発されているが,それぞれのシステムの特徴を理解した上で最適なシステムを選択する必要がある.ELUXEO ®は中心型肺癌に対するPDTにおいて,タラポルフィンナトリウム投与後も腫瘍の範囲を正確に診断し,適切にレーザー照射を行うことが可能である.そのため,不十分なレーザー照射,いわゆる「レーザー照射のあて損ない」を防ぎ,治療成績向上に繋がる可能性がある.

利益相反の開示

利益相反なし

引用文献
 
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