日本レーザー医学会誌
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総説
5-アミノレブリン酸と生体埋め込み型の緑色光LEDデバイスを用いたメトロノミックPDTによる抗腫瘍効果
桐野 泉杉田 凛山岸 健人藤枝 俊宣坂上 恵藤田 克彦武岡 真司守本 祐司
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2022 年 43 巻 2 号 p. 120-125

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Abstract

メトロノミックphotodynamic therapy(metronomic PDT: mPDT)は従来のPDTの1/1000にあたる0.1 mw/cm2以下の出力で長時間(数日以上)にわたり連続照射することにより癌細胞死を誘導するPDTの一手法である.筆者らはこれまでに小型の無線給電式皮下埋め込み型LEDデバイスを用いてmPDTを行いその抗腫瘍効果を報告した.さらに光源を腫瘍に接着させて照射を行うことにより,従来のPDTでは不可能だった緑色光(波長530 nm)による癌の光線力学治療が可能なことも示した.しかしメトロノミックPDTは照射時間が長いため,光増感剤の総使用量が多く,暴露時間が長くなる傾向にある.実際の臨床導入を想定すれば,光増感剤は安全性と利便性の面から経口投与が望ましい.そこでマウス皮内腫瘍モデルに対し光増感剤に経口投与の5-アミノレブリン酸(ALA)を使用し,皮下埋め込み型デバイスを用いた緑色光によるmPDTを用いた治療実験を行った.その結果ALA-mPDT群の皮内腫瘍はコントロール群と比較して優位に増殖抑制を受け,腫瘍が完全消失する個体もみられた.経口光増感剤ALAを使った無線給電式埋め込み型電子デバイスによるメトロノミックPDTは有効な抗腫瘍効果を発揮する.無線給電式埋め込み型電子デバイスと経口光増感剤を組み合わせた本治療法は,安全性の高い新しい局所癌治療法としてだけでなく,PDT治療中の患者のライフスタイルを変える次世代の癌治療法として期待される.

Translated Abstract

Metronomic photodynamic therapy (mPDT) initiates cancer cell death by intermittent continuous irradiation with low power light for extended durations (several days). We developed a wireless powered, fully implantable LED device capable of transmitting significant anti-tumor effects of mPDT. Considering application to clinical practice, repeated intravenous administration of photosensitizers for mPDT may increase the patient’s burden. Therefore, in this study, 5-aminolevulinic acid (ALA) was selected to be administered orally as a photosensitizer, and studied the anti-tumor effects of mPDT. In the mice intradermal tumor model, with orally administered ALA (200 mg/kg daily for five days), the tumor in each mouse was irradiated (8 h/day for five days) using a wirelessly powered implantable green LED device (532 nm, 0.05 mW). Tumor growth in mPDT-treated mice was suppressed by about half compared to untreated mice. Results proved mPDT using the wirelessly powered implantable LED device with orally administered ALA displayed significant anti-tumor effects. This treatment regimen could reduce the burden of photosensitizer administration for a patient.

1.  Introduction

光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)は,低侵襲で病変選択的ながん局所治療法として,本邦では肺がん,胃がん,食道がん,子宮頚がんといった管腔臓器の表層がんおよび早期がんに対して,光増感剤とファイバースコープを用いた光照射による治療法が既に実用化されている.

筆者らは,光を導くことが困難なため,PDTの適用は難しいとされている体腔内臓器のがんにPDTを応用することを目指して研究を進めている.PDTを体腔内臓器に導入することができれば,がんに対する低侵襲で低コストの局所治療の選択肢が増える.しかしながら,体腔内臓器に腹腔鏡や胸腔鏡を介して現行のPDTの治療プロトコールを適用すると,臓器損傷や合併症を惹起する可能性が高い.体腔内臓器は,形状・構造が複雑であり,四方を他の臓器で囲まれている.そのため,光を病変部のみに送達することが難しい.このため,がん腫瘍近傍の正常組織にも光を照射してしまう蓋然性が高く,正常組織の炎症や壊死を併発することになり,その結果,管腔臓器の穿孔や臓器出血といった致死的合併症を起こす危険性が高い.

このような環境下において,がん細胞の細胞死を誘導し,正常組織への影響は最小限に抑えるPDT手法として,筆者らは光源を体腔内に埋め込み,長時間にわたって微弱光を照射する方法を着想した.

メトロノミックPDT(metronomic PDT: mPDT)は従来のPDTの1/1000にあたる0.1 mw/cm2以下の出力で長時間(数日間以上)にわたり連続照射することによりがん細胞死を誘導するPDTの一手法である.オプトエレクロトニクス関連技術の発展により,体腔内に埋め込むことを可能とする,小型,薄膜状,フレキシブル,無線給電式の光源が開発されてきている.このような仕様の光源を応用することで,現行のPDTでは適用困難な,胆管や膵臓,脳といった脆弱で複雑な解剖学的構造をもつ臓器のがんに対してもmPDTを展開できると考えた.さらに光源を腫瘍に接着させて照射を行うことにより,従来のPDTでは不可能だった緑色光(波長530 nm)によるがんの光線力学治療が可能なことも示した1).一方でmPDTは照射時間が数日から1週間に渡るため,現在実用化されている光増加剤を用いるとすると,治療期間中複数回の静脈投与が必要になる.しかしmPDTの実臨床への適用を考えた場合,安全性と利便性の面から増感剤投与は静脈投与よりも経口投与が望ましい.そこで本研究ではマウス皮内腫瘍モデルに対し光増感剤に経口投与の5-アミノレブリン酸(ALA)を使用し,皮下埋め込み型デバイスを用いた緑色光によるmPDTを用いた治療実験を行った.

2.  方法

2.1  動物モデル

マウス(Balb/cメス7~8週齢)の背部皮内にがん細胞(Colon26細胞5 × 105個)を移植し,直径4 mmほどのがん皮内腫瘍を作った.mPDT開始日(がん細胞移植4日後)に皮膚を切開して,LEDデバイスをがん皮内腫瘍の真下に留置した(Fig.1写真).次に,純水に溶解したALA溶液をゾンデ介して経口投与し(88.9~300 mg/kg),続いてケージを無線給電用のアンテナボード上に設置し,8時間持続照射した.マウスは自由に動くことができ,餌や水を摂りながら皮膚の内側からがん組織の照射を受けた(Fig.1).

Fig.1 

Experimental system (upper) and mouse intradermal tumor model (lower left)

2.2  mPDTのプロトコール

mPDT実験のプロトコールをFig.2に示した.実験は以下の4群で行い,Day 0,3,7,10,14で腫瘍サイズ(長径×短径×高さ)を測定した.光照射なしの群(下記①,②)では受電コイルを断線してLEDが発光しないようにしたデバイスを防水コーティングしたのちmPDT群と同様に腫瘍直下に留置した.治療期間中は全ての群でケージをアンテナボードの上に設置し,8時間の送電を行った.これを5日間連続で行った.

Fig.2 

Treatment protocol for metronomic PDT

①未治療群:ALA投与なし,光照射なしALA(−)Photo(−)

②ALA投与あり,光照射なしALA(+)Photo(−)

③ALA投与なし,光照射ありALA(−)Photo(+)

④ALA投与あり,光照射あり ALA(+)Photo(+)

2.3  無線給電式埋め込み型LEDデバイスとアンテナボード

NFC(Near Field Communication)機能搭載の薄膜状小型LED chip(Kyoritsu Electronics Industry, Osaka, Japan; model: KP-NFLEG (λ = 530 nm), size: 7.0 × 11.0 × 0.8 mm, weight: ~20 mg)に防水コーティングを施し,生体に埋め込むことができるデバイスを構築した(Fig.1).

現在,ファイバースコープなどを使った従来型のPDT(conventional PDT: cPDT)の光源に使用されている波長は,組織深達長の優位な赤色(630~670 nm)である.630 nm光の組織進達長1.05 mm対して著者らが用いた緑色光(波長530 nm)の組織深達距離長は0.68 mmと短い.しかしALAの誘導体であり体内で光増感物質として作用するプロトポルフィリンIX(以下PpIX)の,波長530 nmに対する吸光度は630 nmに比して約2.28倍である.したがって,光が到達する範囲内では,緑色光は高効率に活性酸素種を産生できる可能性が高いと判断して,本研究では緑色光(波長530 nm)デバイスを用いた.

アンテナボードは自作した(共振周波数13.56 MHz,送信電力3 W).アンテナボード上でフォトダイオードセンサー(PD300-UV, Ophir, Saitama, Japan)を用いて確認したLEDデバイスの光強度は50~60 μWであった.

3.  結果

3.1  PpIXの腫瘍集積濃度の経時的測定

まず最初にmPDTの治療実験におけるマウスへのALA投与量を決めるため,純水に溶解したALAをマウス腫瘍モデルに経口投与し,その代謝物PpIXの蛍光を経時的に測定した.ALA投与量は88.9,133,200,300 mg/kgという4段階の量を設定し,経口投与後の蛍光の経時的変化と,副作用の出現を調べた.Fig.2に示すように,PpIXの腫瘍への集積はALA投与後約2時間でピークとなり,200 mg/kgと300 mg/kg群では6~8時間程度蛍光が持続したのちプラトーになった(Fig.3).全ての群で明らかな副作用は出現しなかった.しかしがん細胞を移植したラットを用いた先行研究では,300 m/kgのALAを連日投与した場合,5日以内に体重減少などの副作用が観察されている2).同研究では150 mg/kgのALAの場合は10日間以上連続して経口投与しても明らかな副作用は認められなかった.この結果を参考に,本研究のmPDT治療実験では200 mg/kgを採用した.

Fig.3 

Temporal changes of relative fluorescence intensity for PPIX at tumor sites

3.2  ALA-mPDT治療実験

5日間の治療により治療群(グループ④)では他の群(グループ①,②,③)と比較して有意な腫瘍の増殖抑制効果みとめた.それ以外の①ALA(−)光(−),②ALA(+)光(−),③ALA(−)光(+)の3群の腫瘍増殖スピードは同等であった(Fig.4).組織学的には,HE染色とTUNEL染色にてがん細胞のアポトーシスを示唆する所見(核濃縮,細胞膜破壊等)が観察された.一方,周囲の正常皮膚に傷害は見られなかった(Fig.5).

Fig.4 

Tumor growth curve. Normalized tumor volume indicates the relative volume when the tumor volume at day 0 (at the start of mPDT) is set to 1. The mPDT was performed during the period shown in the graph. *; p < 0.05 compared to groups of animals shown in each color.

Fig.5 

Histopathological photographs of tumors. H&E staining (upper) and Tunel staining (lower)

4.  考察

経口のALAを光増感剤とした,波長530 nm,パワー0.05 mwの完全皮内埋め込み方緑色光無線給電式LEDデバイスによるmPDTはマウス皮内腫瘍を用いた実験で有効な腫瘍増殖抑制効果を誘導した.病理学的にはアポトーシス主体の細胞死を示した.

有効な腫瘍効果を発揮させるには,ALAの投与量および光源の波長の選択が重要であると考えられる.本研究では先に述べた理由により,マウスへのALA投与量を200 mg/kgに設定したが,300 mg/kgの10日間投与で体重減少などの副反応が出現したという報告もあった2).ALAの投与量を増やさずに抗腫瘍効果を誘導する工夫として,ALAの分服など内服法の検討とともに,照射プロトコールおよび光線波長の選択などが考えられる.

ALA-mPDTによる抗腫瘍効果を検証する先行研究では,ほとんどの場合conventional PDTで用いられる630~635 nmの赤色光が使われていた2-5).本研究で使用した532 nmの緑色光の組織進達距離は0.68 mmと630 nm光(1.05 mm)と比較すると短く,深部の腫瘍細胞に対して光線が十分に到達しない可能性がある.一方PpIXにおいて,532 nmの波長の光の吸収度は630 nm波長の2.28倍である.進達距離と吸収度という二つのパラメーターで単純なシミュレーションを行った場合,1.5 mmの深さにおいて光増感物質PpIXにより起きる光化学反応の強さはほぼ同等である.また,光線力学療法におけるD100 fluence(がん細胞が100%死滅するエネルギー量)は波長が短いほど小さく,532 nmでは632 nmの1/2となる6).以上を踏まえると緑色光を用いたALA-mPDTは,厚みが1.5 mmほどの腫瘍では波長632 nmを用いるよりも抗腫瘍効果が高いと考えられる.すなわちより少ない照射エネルギーで同等の抗腫瘍効果を得られる可能性がある.本研究で治療したマウス皮内腫瘍の治療前のサイズはおよそ直径4 mm,高さ(厚み)2 mmであったが,mPDTにより腫瘍は垂直方向中心に縮小し,day 3における高さは1 mm以下となっていた(Fig.5).これは,緑色光の到達範囲で十分な腫瘍縮小効果が得られたことを示唆する.

また,ヒトではconventional PDTにおけるALA投与量は20 mg/kgである7).60 mg/kgを投与すると嘔吐,皮膚過敏症,低血圧などの副作用が出現すると報告されているが8),これはヒトにおけるALAの代謝が齧歯類に比べて緩徐なためである9).したがって,血中濃度を長時間維持しやすく,より少ない投与量で治療効果を得られる可能性がある.

無線給電式小型LEDデバイスに,経口光増感剤ALAを組み合わせたマウス皮内がん腫瘍のmPDT治療実験では,有効な治療効果と安全性が確認された.ヒト体腔内への応用が進めば,mPDTは脳や膵臓,胆管といった,cPDTの適応でなかった臓器における,低侵襲な次世代のがん局所治療となることが期待される.

利益相反の開示

本研究は以下より助成をうけ実施した.

科学研究費助成事業(B)21H03846,挑戦的研究(萌芽)21K19935,JST A-stepトライアウト2020~2021年,一般財団法人ふくおかフィナンシャルグループ企業育成財団研究助成2021年度

引用文献
 
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