日本レーザー医学会誌
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原著
尿路上皮癌におけるポルフィリン代謝経路利用蛍光尿細胞診の有用性
三宅 牧人 中井 靖藤本 清秀
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2024 年 44 巻 4 号 p. 365-372

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Abstract

近年の泌尿生殖器系悪性腫瘍における光力学的診断技術の導入は目覚ましい.2017年12月,筋層浸潤性膀胱癌の経尿道的手術時の可視化・ナビゲーションのための診断薬としてアミノレブリン酸塩酸塩が本邦で保険承認された.我々は,筋層非浸潤性膀胱癌治療後の経過観察の簡便化かつ低侵襲化を目標に,ポルフィリン代謝経路利用蛍光尿細胞診を開発してきたので,その経緯,現状,展望を紹介する.

Translated Abstract

Photodynamic diagnosis and treatment technologies have emerged recently. In December 2017, oral 5-aminolevulinic acid hydrochloride was approved for intraoperative navigation of tumors during transurethral resection of bladder tumor in Japan. Here, we have been working on the development of porphyrin metabolic pathway-based fluorescent urine cytology as a less invasive test compared with routine cystoscopy for post-treatment surveillance for urothelial carcinoma.

1.  緒言

膀胱癌は膀胱の尿路上皮粘膜より発生する悪性腫瘍である.病理組織学的には,尿路上皮癌がもっとも多く90%以上を占めるが,扁平上皮癌,腺癌,小細胞癌などもまれに認める.治療上重要になるのは,深達度(TNM分類のTカテゴリ)である.Ta:尿路上皮粘膜より上層にとどまる乳頭状非浸潤癌,T1:粘膜上皮下結合織におよぶ浸潤癌,T2以上になると膀胱筋層,周囲組織,周囲臓器に及ぶ浸潤癌となる1).上皮内癌(carcinoma in situ: CIS)はTisに分類し,高異型度悪性細胞が水平方向へ増殖する平坦状病変と定義される.Ta,Tis,T1までは筋層非浸潤性膀胱癌(non-muscle invasive bladder cancer: NMIBC)と呼称され,経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of bladder tumor: TURBT)により,多くの症例で膀胱は温存可能である.ただし,筋層浸潤癌(T2以上)ではTURBTだけでは根治は難しく,尿路変向術を伴う膀胱全摘除術が標準治療である.

膀胱癌は高精度のスクリーニングマーカーがなく非侵襲的診断が難しく,かつ早期診断が難しい悪性腫瘍の一つである.初発症状は肉眼的血尿であることが多いが,進行期になるまで血尿を自覚しない場合も少なくない.超音波検査や尿潜血検査,尿沈渣検査,尿細胞診検査は頻用される検査だが,確定診断のためには尿道膀胱鏡とそれに続くTURBTが必要である.2017年12月,TURBTにおけるNMIBCの可視化・ナビゲーションのための診断薬としてアミノレブリン酸(5-ALA)塩酸塩(商品名『アラグリオ』)が本邦で保険承認された.5-ALAは哺乳類だけでなく,多種多様な細菌,植物,動物において普遍的に存在,利用されている天然アミノ酸の1種であり,ヘモグロビンや葉緑素の原料となるヘムタンパクの原料である.ヒトの細胞内でヘムタンパクが合成されるまでのポルフィリン代謝経路をFig.1に示す.グリシンおよびサクシニル-CoAから5-ALA合成酵素の働きにより5-ALAが合成され,複数段階の酵素反応を経てヘムまで生合成される.ヘムタンパクが5-ALA合成酵素にネガティブフィードバックをかけるため,通常の生理的状態においては赤色蛍光を発生するプロトポルフィリンIX(PpIX)が細胞内に過剰蓄積することはない.しかし,5-ALAが非生理的過量投与された場合,腫瘍細胞において代謝酵素(Ferrochelataseなど)や細胞外排出機能(ATP-binding cassette transporter G2などが関与)が破綻しているためにPpIXが過剰蓄積する.PpIXは,青色光(波長400~410 nm)の照射により励起されると,赤色蛍光(波長635 nm付近)を放出する2,3).この原理を利用して,TURBT時の至適切除範囲の設定,微小病変およびCISなどの視認しづらい平坦病変の検出能向上,見逃し病変の拾い上げ効果などを介して,治療成績の向上につながっている4).この原理を尿細胞診に活用範囲を広げたものが「蛍光尿細胞診」である.

Fig.1 

Pathway of porphyrin metabolism. Several enzymes participate in the synthesis of heme from succinyl CoA and glycine. All of the enzymatic reaction steps proceed in the direction of solid arrows. The green and gray area indicates the reaction taking place in mitochondoria and cytoplasm, respectively. The red line indicates the inhibitory feedback effect from hem to both ALAS enzymatic activity and mRNA transcription, which acts as the main regulatory function in this pathway.

昨今のがん医療の進歩はめざましく,感度の高い早期診断ツール,低侵襲を目指した治療モダリティ,新規薬物の開発などよってがん患者の予後,QOLは改善しつつある.しかしながら,実臨床においては,多くのアンメットメディカルニーズが残されており,治療後に定期的に実施される再発確認検査の簡便化および低侵襲化はその最たる例といえる.NMIBCの治療後の再発は高頻度であり,3~6か月に1度の尿道膀胱鏡による検査が推奨される5).本検査では疼痛・不快感は避けられず,検査後に尿路出血・有熱性尿路感染症を引き起こすリスクも少なくない.尿細胞診の感度は30~40%であり,特に低異型度腫瘍の検出感度は特に低い6).これまで,高精度かつコストパフォーマンスに優れた膀胱癌尿検査の開発が試みられてきたが,NMP22,BTA,サイトケラチン8・18総量(UBCキット),UroVysionなど広く応用されるに至っているものはないといっていいだろう7,8).これまで我々は簡便かつ安価な診断ツールの実現を目指して,ポルフィリン代謝経路利用蛍光尿細胞診の開発に向けて取り組んできた.

2.  目的

ポルフィリン代謝経路利用蛍光尿細胞診の自動化およびハイスループット化を実現するデバイスを開発し,本検査の初発膀胱癌症例に対する診断精度および尿路上皮癌治療後の経過観察症例における再発診断精度を検討する.

3.  対象と方法

3.1  ポルフィリン代謝経路を利用した蛍光尿細胞診

患者の自排尿を採取し,遠心のうえ尿沈渣を作成し,ex-vivoで2時間5-ALA塩酸塩に暴露する.尿中剥離細胞の中に,癌細胞が含まれていれば蛍光発色するといったものが「蛍光尿細胞診」の原理である.蛍光検出デバイスとして,既存の蛍光顕微鏡・フローサイトメトリー・蛍光分光光度計などが使用可能であり,我々も開発当初はこういった既存デバイスを用いて蛍光検出を実施してきたが,結果の客観性を担保できないという課題に直面した.このような経緯から,結果の客観化を実現するため独自のデバイスの開発に取り組んできた.これまでの開発経緯および第一世代尿中細胞蛍光検出機については各誌に既報告であり参考にされたい9-11).特筆すべきは,尿細胞診,NMP22,BTAなどの従来検査と比較して,低異型度腫瘍やTaなどの非浸潤性腫瘍を高感度に検出・診断できるという点である.細胞・組織構築の形態的差異に基づいた従来尿細胞診に対して,蛍光尿細胞診は細胞機能・代謝的差異に着目した癌検出検査であり,この点が低悪性度腫瘍における精度向上に寄与したと考えられる.また,一検体あたりに必要な試薬およびランニングコストはあわせて数十円程度と,安価に実施できることも特徴である.

3.2  ヘキサアミノレブリン酸への変更と次世代尿中細胞蛍光検出機の開発

実際の患者の尿検体を対象として,ex-vivoで5-ALAを使用していると蛍光尿細胞診の偽陽性率が高いことがわかった.これまでの報告によるとポルフィリン代謝経路は微生物・植物・動物に共通して存在し,その中間体のポルフィリン群は多岐にわたることが知られている12).尿沈渣中の大腸菌・腸球菌をはじめとした細菌の存在は5-ALAを利用した場合の蛍光尿細胞診の脅威となる.そこで,5-ALAの誘導体であるヘキサアミノレブリン酸(hexylaminolevulinic acid: HAL)を用いることとした.詳細なメカニズムはまだ不明であるが,脂溶性であるヘキサアミノレブリン酸は細菌の細胞膜を通過しにくい.この変更により,5-ALA利用時は膀胱癌の検出特異度70%であったところが,ヘキサアミノレブリン酸によって94%にまで上昇することが確認できた13)

処理プロセスが多く煩雑な蛍光尿細胞診検査であったが,自動化およびハイスループット化を目指し,『ヘキサアミノレブリン酸投与⇒インキュベーション⇒細胞洗浄⇒蛍光定量⇒結果判定』まで一連のプロセスをオートメーションで行う尿中細胞蛍光検出機を企業と連携して開発した(Fig.2; BJU Int. 2021; 128: 244-253.のFigure 2から許可を得て転載).操作はすべて付属コンピュータで行い,結果は蛍光分光光度計による蛍光スペクトラムとして表示される.尿中剥離細胞には自家蛍光を発する成分が含まれていることから,常にヘキサアミノレブリン酸処理を施していない同一検体を平行して解析する必要がある.これまで手作業で行ってきたプロセスすべてが自動化され,数十の尿検体を一度に解析することができ,検体採取から2時間30分後には蛍光スペクトラムの比較に,蛍光強度の実数を算出,一定の診断アルゴリズムに基づき陽性または陰性が判定できる.

Fig.2 

Cellular fluorescence analysis unit. This study was designed to evaluate the diagnostic performance of the second-generation cellular fluorescence analysis unit in comparison with matched conventional voided urine cytology. Voided urine samples separated into 50 mL for voided urine cytology, urinalysis, and bacterial culture, and 100 mL was processed for fluorescent voided urine cytology. A series of fluorescence emission spectra was obtained from each specimen at an excitation wavelength of 400 nm, and the fluorescence intensity at 635 nm was recorded. Fluorescent spectra of representative cases with T1 high-grade bladder cancer and non-cancer control are shown below. a.u., arbitrary unit

3.3  対象症例

本試験の診断精度を検証するために,初発膀胱癌患者のTURBT直前の自排尿165検体と正常人から採取した自排尿52検体(コントロール)を対象とした精度試験を行った.続いて,2019年9月~2020年8月の期間中に,尿道膀胱鏡による経過観察を実施した207症例からの自排尿397検体を対象とし,蛍光尿細胞診検査による膀胱鏡検査スキップの妥当性を検討した.本研究は,奈良県立医科大学附属病院,医の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号 362, 1256, 1292, 2179).

4.  結果と考察

4.1  蛍光尿細胞診の診断精度検証

初発膀胱癌患者のTURBT直前の自排尿165検体と正常人から採取した自排尿52検体の解析結果をTable 1(BJU Int. 2021; 128: 244-253.のTable 1から許可を得て転載)に示す.従来式尿細胞診の感度が29%である一方で蛍光尿細胞診は63%と,その感度をはるかに凌駕していた.また,感度のサブグループ解析を実施したところ,低異型度腫瘍,低進展度腫瘍,小径腫瘍,非CIS腫瘍など従来式尿細胞診で検出しづらかった集団における感度改善が著明であった.この結果は,大半の膀胱腫瘍に対して蛍光尿細胞診は有用であるということを示唆するものである.

Table 1 

Performance characteristics of conventional voided urine cytology, fluorescent voided urine cytology, and the combination screening test

Total cVUC FVUC Combination (cVUC + FVUC)# P value## sensitivity, FVUC alone vs cVUC alone P value## sensitivity, Combination vs cVUC alone
Positive Negative Positive Negative Positive Negative
Two × two contingency table
Bladder cancer 165 48 117 104 61 119 46
Control 52 0 52 10 42 10 42
Total 217 48 169 114 103 129 88
Performance characteristics, % (95% CI) cVUC FVUC Combination
Sensitivity 29.1 (22.7 to 36.4) 63.0 (55.5 to 70.0) 72.1 (64.8 to 78.4) <0.0001 <0.0001
Specificity 100 (93.1 to 100) 80.8 (68.1 to 89.2) 80.8 (68.1 to 89.2)
Positive predictive value 100 (92.6 to 100) 91.2 (84.6 to 95.2) 92.3 (86.3 to 95.7)
Negative predictive value 30.8 (24.3 to 38.1) 40.8 (31.8 to 50.4) 47.7 (37.6 to 58.0)
Diagnostic accuracy 46.1 66.3 74.2
Sensitivity of subgroups
Tumor grade
Low-grade (n = 78) 6.4 (2.8 to 14.1) 57.7 (46.6 to 68.0) 60.3 (49.2 to 70.4) <0.0001 <0.0001
High-grade (n = 86) 49.4 (39.2 to 59.7) 67.8 (57.4 to 76.7) 82.8 (73.5 to 89.3) 0.021 <0.0001
T category
Ta (n = 77) 7.8 (3.6 to 16.0) 58.4 (47.3 to 68.8) 61.0 (49.9 to 71.2) <0.0001 <0.0001
T1 (n = 65) 46.2 (34.6 to 58.2) 69.2 (57.2 to 79.1) 81.5 (70.5 to 89.1) 0.012 <0.0001
Isolated Tis (n = 8) 75.0 (40.9 to 95.6) 50.0 (21.5 to 78.5) 75.0 (40.9 to 95.6) 1.000 0.500
T2-4 (n = 15) 53.3 (30.1 to 75.2) 66.7 (41.7 to 84.8) 86.7 (62.1 to 97.6) 0.730 0.063
Carcinoma in situ
No (n = 124) 21.8 (15.4 to 29.8) 59.7 (50.9 to 67.9) 67.7 (59.1 to 75.3) <0.0001 <0.0001
Yes (n = 41) 51.2 (36.5 to 65.8) 73.2 (58.1 to 84.3) 85.4 (71.6 to 93.1) 0.064 <0.0001
Tumor size
<1 cm (n = 23) 21.7 (9.7 to 41.9) 60.9 (40.8 to 77.8) 69.6 (49.1 to 84.4) 0.022 0.001
1–3 cm (n = 75) 21.3 (13.6 to 31.9) 68.0 (56.8 to 77.5) 72.0 (61.0 to 80.9) <0.0001 <0.0001
≥3 cm (n = 42) 42.9 (29.1 to 57.8) 54.8 (40.0 to 68.8) 66.7 (51.6 to 79.0) 0.300 0.002
Multiplicitty
Solitary (n = 65) 18.5 (10.9 to 29.6) 63.1 (50.9 to 73.8) 70.8 (58.8 to 80.4) <0.0001 <0.0001
Multiple (n = 76) 36.8 (26.9 to 48.1) 68.4 (57.3 to 77.8) 73.7 (62.8 to 82.3) <0.0001 <0.0001

cVUC, conventional voided urine cytology; FVUC, fluorescent voided urine cytology; CI, confidence interval; # The combination was defined positive when either VFUC or cVUC was test-positive; ## McNemar test; Tumor size was not available in 25 patients. If multiple, size of the index tumor was used; Multiplicity was not available in 24 patients.

4.2  蛍光尿細胞診の尿路上皮癌再発診断精度

外来診療におけるNMIBC治療後の膀胱鏡検査の回数減少は尿中マーカー開発のゴールのひとつである.膀胱鏡による経過観察中の207症例から自排尿検体を採取し,本検査に供した.全部で397検体が対象となり,そのうち28検体は膀胱再発が存在したときに採取された尿検体であった.感度は,従来式細胞診39%に比較して,蛍光尿細胞診75%,従来式および蛍光細胞診の併用82%と有意に向上していた(Table 2; BJU Int. 2021; 128: 244-253.のTable 2から許可を得て転載).次に,偽陰性検体にも目を向けてみると,従来尿細胞診で17検体,蛍光尿細胞診が7検体あり,前者が悪性度・進展度の高い膀胱再発を多く見逃していた一方で,後者において見逃していた症例の86%(1例のみT1高異型度)が低悪性度の膀胱再発であった.このことからも,ポルフィリン代謝経路利用蛍光尿細胞診を膀胱鏡への代用は許容できると考えられる.

Table 2 

Two × two contingency table and performance characteristics for the surveillance test

Total cVUC FVUC Combination (cVUC + FVUC)# P value## sensitivity, FVUC alone vs cVUC alone P value## sensitivity, Combination vs cVUC alone
Positive Negative Positive Negative Positive Negative
Two × two contingency table
Bladder cancer recurrence-positive 28 11 17 21 7 23 5
Bladder cancer recurrence-negative 369 3 366 45 324 46 323
Total 397 14 383 66 331 69 328
Performance characteristics, % (95% CI) cVUC FVUC Combination
Sensitivity 39.3 (23.6 to 57.6) 75.0 (56.6 to 87.3) 82.1 (64.4 to 92.1) 0.022 0.001
Specificity 99.2 (97.6 to 99.8) 87.8 (84.1 to 90.8) 87.5 (83.8 to 90.5)
Positive predictive value 78.6 (52.4 to 92.4) 31.8 (21.9 to 43.8) 33.3 (23.4 to 45.1)
Negative predictive value 95.6 (93.0 to 97.2) 97.9 (95.7 to 99.0) 98.5 (96.5 to 99.4)
Diagnostic accuracy 95.0 86.9 87.2

cVUC, conventional voided urine cytology; FVUC, fluorescent voided urine cytology; CI, confidence interval; # The combination was defined positive when either VFUC or cVUC was test-positive; ## McNemar test

蛍光尿細胞診の原理を考慮すると,NMIBCの経過観察中に発生する上部尿路再発も自排尿中でとらえることができると期待される.しかし,1年間という比較的短期間の登録症例を対象としたため,臨床的上部尿路再発の発生を診断した症例はいなかった.NMIBCの経過観察中の上部尿路再発診断に対する精度検証は今後の検討課題であろう.

4.3  蛍光尿細胞診の尿路上皮癌再発診断精度

先に述べたように5-ALAからヘキサアミノレブリン酸へと薬剤を変更してから細菌尿による偽陽性率は減少した.しかし,本研究において採取解析した614検体のうち蛍光尿細胞診真陽性125検体(20%),偽陰性68検体(11%),偽陽性55検体(9%),真陰性366(60%)であり,偽陽性検体は一定数認められた.最後に,蛍光細胞診検査の偽陽性に関連する因子について,偽陽性55検体,真陰性366検体の間で,全自動尿中有形成分分析装置UF-1000i(シスメックス社)および尿検査試験紙クリニテックATLASTM(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス社)の結果を比較することとした.尿中白血球数・尿中赤血球数・尿中細菌数・尿蛋白・尿糖・尿pHにBCG膀胱注入治療既往を加え,7項目を解析項目とし,単変量および多変量ロジステック回帰分析を行うと,単変量分析で尿中白血球数高値およびアルカリ尿の2項目,多変量解析では尿中白血球数高値のみが蛍光尿細胞診偽陽性結果と関連していた(Table 3; BJU Int. 2021; 128: 244-253.許可を得て転載).検尿結果にこういった背景を有する検体においては,蛍光尿細胞診の結果を慎重に判断する必要があろう.

Table 3 

Logistic regression analysis of predictors of false-positive result for the fluorescent voided urine cytology (FVUC ) test

Varables Univariate Multivariate
B coefficient Crude OR (95%CI) P value B coefficient Adjusted OR (95%CI) P value
Urine white blood cells (High/Low)#,† 0.75 2.13 (1.08 to 4.17) 0.028 0.73 2.07 (1.05 to 4.08) 0.035
Urine red blood cells (High/Low)#,‡ 0.26 1.30 (0.67 to 2.52) 0.44 −0.16 0.85 (0.41 to 1.80) 0.68
Bateriuria (Postive/Negative)# 0.49 1.64 (0.75 to 3.60) 0.22 0.15 1.16 (0.48 to 2.80) 0.74
Proteinuria (Postive/Negative)## 0.31 1.36 (0.65 to 2.83) 0.42 0.11 1.11 (0.48 to 2.58) 0.81
Urine sugar (Postive/Negative)## −0.31 0.74 (0.30 to 1.83) 0.51 −0.28 0.754 (0.29 to 1.93) 0.56
Urine pH (7.5–8.0/5.0–7.0)## 1.18 3.24 (1.06 to 9.95) 0.040 1.16 3.18 (0.90 to 11.29) 0.073
History of intravesical BCG treatment (Yes/No) −0.017 0.98 (0.54 to 1.78) 0.95 −0.025 0.98 (0.47 to 2.01) 0.95

FVUC, fluorescent voided urine cytology; OR, odds ratio; CI, confidence interval; BCG, Bacille Calmette-Guérin; # Analyzed by an automated urine flow cytometer (Sysmex UF-1000i); ## Analyzed by urine dipstick test (CLINITEK® ATLASTM); High, ≥10 WBC/μL and Low, <10 WBC/μL; High, ≥5 RBC/mL and Low, <5 RBC/mL

5.  展望

本研究では,ポルフィリン代謝経路利用蛍光尿細胞診の自動化およびハイスループット化を実現するデバイスを開発し,本検査の初発膀胱癌症例に対する診断精度および尿路上皮癌治療後の経過観察の尿検査としての再発診断精度を検討した.偽陽性リスクの問題は残されるものの,その感度は従来式尿細胞診をはるかに凌駕するものであった.特筆すべきは,従来検査と比してTa低異型度腫瘍や小径腫瘍を高感度に検出・診断できる点である.細胞・組織構築の形態的差異に基づいた従来尿細胞診に対して,蛍光尿細胞診は細胞機能・代謝的差異に着目した癌検出検査であり,この点が精度向上に寄与した.しかしながら,蛍光尿細胞診の普及には多くの障壁がある.現時点では,本デバイスは世界に1台しかないため,多機関での検証を行うことができないこと,本検査は細胞活性に大きく依存するため,尿検体採取してからの本機器に供するまでのプロセスをいかに円滑に進めるか,などが挙げられる.本検査は外来での実施を前提としており,低侵襲性を重要視した.そのため,5-ALA内服もしくは膀胱内投与した後の自排尿検体を対象とはしていない.しかし,自排尿検体を5-ALAにex vivo処理することの,負の側面も無視できない.本検査は尿中に含まれる細胞活性に結果が大きく依存する可能性があるため,現在は自排尿を採取してから2時間以内にデバイスに供することにしている.早朝尿なのか,濃尿なのか,希釈尿なのか,どの時間帯で採取されたものなのか,そして採取されてから処理するまでどれくらの時間経過しているのか,などを検討する事前解析は行っていないことは,大きなLimitationである.いまこそ膀胱鏡検査の回数や必要性を再考する時だと考える.克服すべき障壁は少なくないが,蛍光尿細胞診はNMIBC診療の低侵襲化実現に向けて大きな役割を担う可能性を秘めている.

近年,海外では外来軟性膀胱鏡検査において光力学診断を応用する臨床研究が報告されている.最も適している対象は,通常白色光膀胱鏡で明らかな病変が確認できず,かつ尿細胞診で疑陽性または陽性を示すような症例である.Andersonらは70症例に対して,ヘキシル型アミノレブリン酸を膀胱内投与後,白色光膀胱鏡および蛍光膀胱鏡で観察し,異常粘膜の生検を行った14).70例中29例(41%)に膀胱癌が検出され,29例中14例は蛍光膀胱鏡でのみ確認できる病変であったとし,その有用性を強調している.しかしながら,本邦の光力学診断は5-ALA塩酸塩経口投与で行われ,光線過敏症,血圧低下などのリスクがあるため,外来での蛍光膀胱鏡検査は困難である.今後,投与方法が膀胱内注入へと適応拡大することが期待される.

そのほか,光力学治療への応用もすすめられつつある.アプローチが容易な管腔臓器である膀胱は光力学治療のよい対象臓器である.NMIBCとくにCISに対する光力学治療は数十年前から試みられてきた.早期肺癌,原発性悪性脳腫瘍,放射線療法後の局所遺残・再発性食道癌などに対して,光感受性物質としてポルフィマーナトリウムやタラポルフィンナトリウムが保険承認のうえ使用されているが,光線過敏症の合併が少なくない.推奨される遮光管理期間はそれぞれ1か月と2週間といわれている一方で,5-ALA内服では48時間とされている.術後管理のしやすさという点で,NMIBCに対しては5-ALAを使用した光力学治療が複数の臨床研究によって検証されてきた15).対象症例の多くは,治療抵抗性のCISなどであり,3か月後の早期奏効率は60~100%ではあるが,数年後の長期奏効率は30~50%程度であり,治療方法,治療デバイスには改善の余地があろう.2023年7月時点で,尿路上皮癌に対するPDTは保険承認されておらず,今後の発展が待たれる.

6.  結論

ポルフィリン代謝経路利用蛍光膀胱鏡下TURBTの登場を皮切りに,泌尿器科領域における蛍光診断技術に関する興味は今後ますます膨らんでくるであろう.本研究のポルフィリン代謝経路利用蛍光尿細胞診はNMIBC治療後経過観察のありかたに大きな変革をもたらすかもしれない.しかし,検査技術の普及もさることながら,膀胱鏡実施回数減少またはスキップによる検査過小のリスクを伴わないといえる妥当性を示すべく堅実なデータの蓄積が必須であろう.

利益相反の開示

著者らは本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない

引用文献
 
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