昭和医学会雑誌
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原著
Parkinson病モデルラットの便秘に対するドパミン受容体拮抗薬の効果
齋藤 悠砂川 正隆岩波 弘明五味 範浩貴島 健齊藤 洋幸須賀 大樹福島 正也渡邊 一惠久光 正谷川 博人
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2012 年 72 巻 1 号 p. 100-107

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抄録
Parkinson病(以下PD)は,錐体外路症状を呈する神経変性疾患であるが,自律神経症状を主とする非運動性症状も併発することが多く,特に便秘は高率に発症する.しかし,PDにおける便秘の発症機序は明らかにされておらず,治療法も確立されていない.
腸管運動は外来性の自律神経と内在性の腸管内神経叢(enteric nervous system: 以下ENS),ならび神経叢と平滑筋との間に位置するカハールの介在細胞によって調節されているが,我々はENSのドパミン神経系に着目し,PDモデルラットにおける便秘への関与を検討してきた.ドパミンは,ドパミンレセプターのうちD2レセプター(以下D2R)を介して,腸管運動に抑制的に作用することが知られているが,PDモデルラットの大腸腸管は,ドパミンに対する感受性が亢進し,これは腸管壁のD2R数の増加による可能性について既に報告している.
しかし,腸管における各種神経細胞の分布は,消化管の部位によって異なることが報告されている.そこで本研究では,PDモデルラットの小腸腸管のドパミンに対する感受性を検討し,更にD2Rの拮抗薬であるdomperidoneのPDモデルラットの便秘に対する有効性を検討した.
PDモデルラットは,雄性Wistar系ラットを用いて,6-Hydroxydopamine hydrobromideを用い,片側黒質―線条体ドパミン神経を選択的に障害することで作製した.Krebs液中で,摘出した小腸の腸管運動を記録しながら,ドパミン受容体作動薬であるapomorphineを投与したところ,PDモデルラットの腸管の収縮運動は対照動物のそれに比べ有意に長時間抑制された.次にPDモデルラットにdomperidoneを投与したところ,小腸腸管の輸送能の低下が改善されるとともに,投与前に比べ排便量が有意に増加した.以上の結果から,PDモデルラットの便秘には,腸管のD2Rの異常が関与しており,D2Rの拮抗薬が便秘症状改善には有効であることが示唆された.
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© 2012 昭和大学学士会
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