昭和医学会雑誌
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原著
前外側大腿皮弁を試みた34例の検討
黒木 知明吉本 信也
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2012 年 72 巻 4 号 p. 453-470

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抄録
前外側大腿皮弁は,皮島とともに大腿の筋体を採取する必要がないため,従来多用されてきた様々な筋皮弁に比べ圧倒的に皮島が薄く,採取部の機能的損失も少ない.しかし,皮弁血管茎の解剖学的知見に比べて,挙上手技や皮島デザインなど,臨床に即した知見の集積が十分でなく,本法の普及はいまだ途上である.これに対しわれわれは,皮弁挙上手技を標準化して本法を試みた34例を検討し,皮弁を挙上できる確率,面積や領域,縫縮可能な採取幅,有茎皮弁の到達範囲,皮弁に含めた大腿筋膜の有用性など,臨床上重要な項目を明らかにした.全例で血管茎の画像検索は行わず,皮弁挙上は基本的に筋膜下で行い,肉眼で確認した穿通枝を外側大腿回旋動脈下行枝まで含めて血管茎とした結果,34例中31例(91.2%)で予定どおりに皮弁挙上でき,3例(8.8%)で術式または採取側の変更を要した.最終的に挙上した前外側大腿皮弁の総数は32例(94.1%)であり,このうち26例(81.3%)が遊離皮弁,6例(18.8%)が有茎皮弁で,遊離皮弁1例(3.8%)が全壊死,逆行性有茎皮弁1例が部分壊死した.32皮島に含めた穿通枝総数は65本で,一皮島内の本数は1から4本,平均2.0本であり,外側広筋を貫くものは60本(92.3%),外側広筋と大腿直筋の筋間中隔を走行するものは5本(7.7%)で,ほとんどの症例で皮弁挙上時に筋体内での穿通枝の剥離操作を必要とした.外側大腿回旋動脈下行枝は,34例中4例(11.8%)で欠損したが,4例とも外側広筋栄養枝からの穿通枝を用いて皮弁挙上できた.皮島面積(縦径×横径)は,最大31×22cm,最小2×1.5cmであり,採取部の幅は8cmまで縫縮できた.1本の穿通枝で生着した最大皮島は31×22cmで,その領域は,上前腸骨棘から膝蓋骨上縁までの大腿外側半周に及んだ.皮弁に含めた大腿筋膜は,腹膜や硬膜,腱の再建などに有用で,筋膜上に植皮して非常に薄い皮島にすることもできた.血管柄は長く,皮島を大きくすれば,有茎皮弁として下腹部や陰部,膝だけでなく,背側の仙骨,臀部までを再建できた.以上より本皮弁は,血管茎の解剖学的変異にかかわらず,安定して採取でき,単一の穿通枝でも巨大な皮島を栄養しうることが示された.多くの場合,筋体内での穿通枝の剥離操作を強いられるが,術式の標準化により手術時間は短縮できる.皮島の血行は良好で,状況に応じて皮弁形状を様々に形成でき,皮弁に含めた大腿筋膜の利用は,本法の有用性を更に拡大すると考える.
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© 2012 昭和大学学士会
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