抄録
中皮腫は発症数が増加している疾患である.その細胞像は非常に多彩であり,腺癌や反応性中皮との鑑別が困難であることから細胞診での診断率は高くはない.今回,われわれは中皮腫と反応性中皮との鑑別に有用と考えられる細胞質内空胞含有細胞の出現率を検討した.対象は上皮型中皮腫17例と反応性中皮10例の体腔液標本を用いた.細胞質内空胞含有細胞を(1)全周性辺縁空胞様細胞(peripheral vacuole-like cell:以下PV細胞),(2)中心部空胞細胞(central vacuole cell:以下CV細胞),(3)PV細胞とCV細胞の条件を満たさない空胞含有細胞である空胞細胞(vacuole cell:以下V細胞)に分類した.各々の細胞質内空胞含有細胞の出現率を検討した結果,PV細胞が反応性中皮群に比較して中皮腫群で有意に高い出現率を示した.さらに中皮腫群を出現形態により立体的集塊出現群(中皮腫A群)と平面的集塊,孤在性の出現を主体とする立体的集塊非出現群(中皮腫B群)に分類し,比較検討したところ,中皮腫B群においてPV細胞,CV細胞の出現率が有意に高かった.このことから中皮腫と反応性中皮の鑑別,特に反応性中皮との鑑別を要する平面的集塊,孤在性を示す中皮腫症例においては,PV細胞,CV細胞の出現は有用な鑑別所見になり得ると考えられた.よってPV細胞,CV細胞が認められた場合は,中皮腫の可能性を考え,積極的な臨床的精査をする必要がある.また,細胞診検査において反応性中皮と診断され易い中皮腫症例の誤判定を防ぐことが可能になると考えられた.