抄録
膵臓における急性炎症は活性化された酵素による化学的自己融解像を示めす急性腹症に属する事態が中心であるが, 病理学的な観点からは他の広範な病変も含まれている.
本論文は急性膵炎の成因の一端を解明すべく, 始めに剖検材料による膵病変像の解析を行ない, 次いで従来からの膵炎分類との対比のもとに膵障害の分類を試案した.さらにSodium propul Valproate (DPA) を用いて膵障害を発来させる実験をし病理形態学的検討を行なった.被検動物は雄幼若モルモットを用い, DPAを体重100gあたり50mgから300mgを毎日1回最高21回 (4種7群) 腹腔内に注射した.
1群から3群までは投与回数に比例してその変化は漸増かつ増強し, 腺房細胞の軽度変性から原形質内微細小器官の変化, 所謂空胞 (ミトコンドリアの膨化と粗面小胞体の内腔拡張および巨大空胞化) が認められる.4群から5群では所謂空胞がその軽重は別として大多数にみられ, 高度になると細胞の崩壊も認められる.6群から7群では変化の差があるものの所謂空胞が軽度から中等度に認められる.すなわち, 低濃度から高濃度さらに投与回数が増加するにしたがって, 膵の腺房細胞に漸増かつ増強的に細胞障害性の変性病変が認められる.以上, このDPAが膵臓に与える影響は膵の実質である腺房細胞を直接障害するものである.また, 膵障害分類試案では急性膵障害の中の変性型すなわち急性実質性膵炎に該当するものと考えられる.