昭和医学会雑誌
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ストレス鎮痛の中枢経路と経穴部及び非経穴部刺激による鎮痛のそれとの相違
宇佐美 信乃武重 千冬
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1983 年 43 巻 5 号 p. 629-638

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抄録
ストレス鎮痛発現の中枢経路を, すでに本教室の研究で明らかにされている経穴を刺激して現われる針麻酔の鎮痛 (AA) の中枢経路, 及び鎮痛抑制系を破壊した後現われる非経穴部の刺激で出現する鎮痛 (NAA) の中枢経路と比較して検討した.実験にはWistar系ラットを用い, 痛覚閾は尾逃避反応の潜伏期とした.大腿上部と背部に付着した脳波用電極を介して, 5秒に1回の頻度で持続1秒の直流電撃ショックのストレスを最初の10分間に1.5mAから3mAになるように順次強めて与えた.比較のための経穴部, 非経穴部の刺激は, それぞれ前脛骨筋及び腹筋に軽い筋収縮がおこる程度の強さで与えた.中脳中心灰白質背側部 (dP AG) , 同外側部 (IPAG) , 視床正中中心核外側部 (ICM) の局所破壊は電極の挿入によった.本研究の電撃ストレスで現われた鎮痛は, 刺激開始後30分で最大となり順次減少を示し, 後効果もみられた.このようにして現われたストレス鎮痛 (SIA) は下垂体の除去, ナロキソン (1mg/kg腹腔内投与) , あるいはデキサメサゾン (24時間前0.4mg/kg, 1時間前0.2mg/kg腹腔内投与) で完全に出現しなくなった.SIAにも有効性の個体差がみられたが, これはAAのそれとは全く関係がなかった.AAを発現する下垂体に至る求心路にあるdPAGを破壊しても, またAAの発現を阻止するクモ膜下腔へのナロキソンの投与によっても, SIAには何の影響もみられなかった.またSIAは一たん出現すると対照と同じSIAが現われるまでに4日を要したが, その間AAには全く影響が現われなかった.NAAと同じようにSIAはIPAGの局所破壊で出現しなくなったが, NAAを発現させるlCMを破壊しても, SIAの発現しなかった動物にはSIAは出現しなかった.ICM破壊後はSIAを出現させない程度の弱い刺激でNAAと同じ性質の鎮痛が出現するようになり, SIAを出現する強さの刺激ではナロキソンで拮抗されないNAAが出現し, その結果この場合のSIAはナロキソンで部分的にしか拮抗されなかった.SIA発現後4日間NAAを検したがSIAの影響はみられなかった.AAやNAAの発現の下行性抑制路である弓状核の破壊でSIAは出現しなくなった.以上のようにSIAはAAやNAAと性質を異にするので, SIAの中枢経路は, AAやNAAのそれとは異なることが結論された.
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