昭和医学会雑誌
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胆嚢穿孔症例の検討
片岡 徹廣本 雅之趙 成坤石井 博加藤 貞明桜井 俊宏鈴木 博新井田 修松井 渉河村 正敏竹元 慎吾河村 一敏東 弘志善山 金彦薄井 武人新井 一成太田 秀男石井 淳一
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1984 年 44 巻 3 号 p. 433-439

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抄録

胆嚢穿孔は消化管穿孔の中でも発生頻度は低いが, 高齢者に多く, 臨床的に重篤な経過をとることが知られている.今回, 著者らが経験した7例の胆嚢穿孔症例の提示と, 特に穿孔発生の背景として重要と考えられる胆嚢の解剖学的特性, 全身性疾患との関連などについて検討した.教室の過去9年間 (1970~1978) の成人全消化管穿孔症例186例中, 胆嚢穿孔症例は7例 (3.8%) であり, 男女比は0.8: 1, 年齢分布は38~79歳 (平均64.4歳) と, 他の消化管穿孔症例に比べて高齢者に多かった.臨床的状況としては, Niemeierの穿孔型分類ではI型 (開放穿孔) 2例, II型 (被覆穿孔) 2例, III型 (消化管への穿孔) 3例であり, 発症から手術までの病脳期間はI, II型が短く, III型は1, II型に比べて長かった.術前の病態としては, I, II型が腹膜炎, III型はイレウスが多く, 穿孔部位はI, II型では頸部2例, 体部と底部が各1例, III型はすべて底部であった.手術死亡は7例中2例 (28.6%) と, 消化管穿孔症例で部位別にみて死亡率が最も高かった.文献的にみても, Fletcherらの集計, Roslynら, 三宅ら, 教室症例を含めての検討でも, 233例中57例 (24.5%) の手術死亡率であり, I, II型に高い.また, 胆嚢穿孔部位は本邦報告例の集計でみても, 底部に最も多く, 次いで頸部となっている.胆嚢底部は解剖学的に血管の最も少ない領域で, 他の部位と比べて虚血性変化をきたしやすい, また頸部は最も狭く, 胆石が嵌頓しやすいと報告されている.さらに, 切除胆嚢の病理組織学的検索において, sinus of Rokitansky-Aschoffの胆嚢壁における出現頻度はかなり高く, しかも漿膜下層に達していることが多く, したがって炎症が胆嚢深層に波及しやすい状況にある.これらの解剖学的特性は胆嚢穿孔と深い関連があることが推測される.一方, 胆嚢穿孔症例には動脈硬化性の心血管病変, 悪性腫瘍, steroid投与を受けているなど, 全身性疾患という基礎疾患を併存することが多かった.これらの患者では軽度な胆嚢炎でも重篤な穿孔に容易に移行しやすかったのではないかと考えられる.したがって, 胆石患者では胆嚢炎あるいは胆嚢穿孔を併発しない早い時期に手術を行い, また高齢者胆嚢炎患者では早期に手術に踏み切ることが望まれる.

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