昭和医学会雑誌
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心奇形児における肺の病理組織学的検討
―特に問質の変化を中心として―
斉藤 吉人
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1984 年 44 巻 5 号 p. 657-667

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抄録

最近9年間の当教室における心奇形児剖検症例 (43例) を対象とし, 肺の病理組織学的検索を行なった.肺性心という語が示す様に, 心と肺には密接な相関があるが, いわゆる奇形死とは別に, 心奇形群の肺では間質の変化が強く見られた.そこで症例をチアノーゼや肺高血圧の有無, 心奇形形態別, 胎齢週数及び生存日数別に分類し, 比較検討した.肺炎・肺硝子膜症など明らかな肺病変を有するものや, 開胸手術を受けたもの, 未熟児等は除外した.各症例の肺はホルマリン固定され, H-E染色・弾性線維染色及び必要に応じてその他の特殊染色標本を作製した.標本を羊水の量, 無気肺・肺気腫・うっ血・出血等の程度, 弾性線維・線維芽細胞・組織球・リンパ球等の浸潤度, 毛細血管の発達, 肺胞中隔の厚さ, 肺動脈中膜の厚さなど12項目につき観察し, それぞれ5段階に分けて記載した.その結果, チアノーゼ分類では肺胞中隔の肥厚がチアノーゼの程度にしたがって強くなる傾向があり, その中隔成分もうっ血主体のものから, 細胞成分・弾性線維混在型へと変化している事がわかった.肺動脈中膜の厚さは, 心奇形群が対照群に比して厚くなっていたが, 更にチアノーゼの程度が強くなるにつれて肥厚する傾向にあった.肺高血圧症分類では, 高血圧のある群で肺胞中隔の絶対的肥厚があり, かつ弾性線維主体でいわゆるA-Cブロックの状態になっていた.肺動脈中膜はやはり肥厚傾向が強い.一般的にチアノーゼ性心疾患における肺動脈中膜の肥厚は良く言われる所であるが, 今回の結果から, より早期に心奇形に伴なう血行動態の異常が肺胞問質に影響し, その肥厚をもたらす事がわかった.心奇形児の剖検でその死因を考える時, 従来奇形および肺動脈の変化を重視しがちであったが, 肺そのものの形態的変化による機能不全も大事な因子として考慮すべきであろう.

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