抄録
ヒト脳mono amine oxidase (MAO) の酵素化学的性質に関する報告は数多くあるが, ヒト胎児脳MAOに関する報告は少ない.今回我々はヒト胎児脳MAOの酵素化学的性質を検索し, 更にヒト成人脳と比較検討した.酵素材料は胎児全脳を摘出後, 1: 4のホモジネートを作成し, これをMAOの酵素標品とした.MAO活性は基質として14C-tyramine, 14C-Serotonin (5-HT) , 14C-β-Phenylethylamine (PEA) , 14C-ben-zylamineを使用するRI法にて測定した.反応液のpHを種々に変化させMAO活性を測定したところ, 胎児脳MAOではいずれの基質を使用した場合も, その至適pHはpH8.5付近に認められた.次にそれぞれの基質のKm値とVmax値をLineweaver-Burkの両軸逆数プロット法により検討した.PEAを基質とした場合, そのKm値は1.4μMであり他の基質を使用した場合に比べて低い値を示した.Tyramine, 5-HT, およびbenzylamineを基質とした場合, Km値はそれぞれ120.7μM, 124μM. 72.8μMとなり, 胎児脳MAOの基質に対するKm値は成人脳MAOに比べて大きかった.また, Vmax値 (pmole/mgprotein/min) はtyramineを基質とした場合では175.7, 5-HTでは245.2, PEAでは20.3, benzylamneでは82.1であった.また, それぞれの基質濃度100μMにおけるspecific activity (pmole/mg protein/min) はそれぞれ81.1, 89.7, 1.0および33.5であった.よって5-HTを基質とした場合, そのVmax値とspecficac tivityはPEAやbenzylamineを基質とした場合に比べて大きかった.type A MAOの特異的阻害剤であるclorgylineおよびtype B MAOの特異的阻害剤であるdeprenylの胎児脳MAOに対する影響を検討したところ, 阻害曲線は5-HTおよびPEAではいずれの阻害剤においてもsingle-sigmoid型を示し, 5-HTではclorgyline, に, PEAではde-prenylにより強い感受性を示した.また, tyramineでは両阻害曲線は10-7~10-9Mでプラトー部分を示すdouble-sigmoid型を示し, プラトー部分におけるclorgylineのMAO活性阻害率は約60%であり, deprenylのそれは約25%であった.また, bentylamineの場合の阻害曲線はsingle-sigmoid型を示し, 両阻害剤の10-3M濃度においても約8%の活性が残存したが, この残存活性はbenzylamine oxidase (BZAO) の特異的阻害剤であるsemicarbazide (10-3M) で完全に阻害された.このことはその残存活性がBZAOによるものであり, 血管壁由来のものと思われる.以上の結果より, 胎児脳にはtype A MAOとtype B MAOが共に存在し, 成人脳とは逆に, type A MAOがtype B MAOよりも多く存在することが明らかとなった.