我々は加速―減速モデルを用い, 単発では心機能に変化のでない低圧で連続衝撃を頭部に加え, 心機能変化を検討し, さらに, 各種自律神経遮断薬剤を用い, その発生機序につき比較検討した.雑種成犬の右頭頂側頭部に, air gunを用い1分間に1回の割合で10回の連続衝撃を加え, 平均血圧, 心拍数, 左室内圧, maxLV dp/dt, 大動脈血流量, 総頸動脈血流量, 左室心筋内層および外層の局所心筋血流量, pressure rate product, 全末梢血管抵抗, 標準肢誘導心電図を衝撃終了後30分まで同時記録した.単発衝撃の4頭をC
1群, 薬剤非投与の連続衝撃の8頭をC
2群とし, 薬剤投与群はatropine sulfate 0.2mg/kg (AS群) , propranolol 0.15mg/kg (prop群) , phenoxybenzamine 2mg/kg (POB群) 各6頭とした.C
1群では各パラメーターとも有意な変化を示さなかった.C
2群では平均血圧, 左室内圧, maxLV dp/dt, 大動脈血流量, 総頸動脈血流量は, 衝撃の回を追うごとに増加し, それぞれ+51%, +52%, +56%, +30%, +59%といずれも有意に上昇し, 衝撃終了後30分以内にほぼ前値に回復した.心拍数は衝撃中徐々に減少し, 最大-13%と有意に減少した.pressure rate productと全末梢血管抵抗はそれぞれ+34%, +23%に増加した.また, 全例に心室性期外収縮が出現し, 血圧上昇の著しい1例で心室性頻拍を認めた.8例中4例でST上昇を認め, ST上昇例ではST不変例に比べ, 局所心筋血流量は内・外層ともに有意に低値を示した.薬剤投与群では, AS群はC
2群とほぼ同様の変化を示し, POB群は衝撃による変化が最も少なく, prop群はその中間的な変化であった.これらの結果より以下の結論を得た. (1) 比較的弱い連続の頭部衝撃により, 交感神経系の効果の増強によると思われる血圧, 左室内圧, maxLV dp/dtの上昇, 大動脈血流量の増加を認めた. (2) 総頸動脈血流量の増加は, 脳血流の自己調節機構の破綻のため, pressure dependentに内頸動脈血流量が増加したためと考えられた. (3) 圧受容体反射によると思われる軽度の徐脈傾向がみられたが, 強い衝撃の直後に見られるような著しい徐脈および徐脈性不整脈は認めず, 弱い衝撃においては, 受傷直後の副交感神経系の影響は少ないと考えられた. (4) pressure rate productや局所心筋血流量の測定により, 心筋の相対的な虚血がST変化の原因となりうることが示唆された.
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