昭和医学会雑誌
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進行胃癌における静脈侵襲に関する臨床病理学的検討
趙 成坤片岡 徹河村 正敏河村 一敏
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1987 年 47 巻 2 号 p. 219-230

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抄録

胃癌原発巣における静脈侵襲は血行性転移に大きく関与し, 胃癌切除患者の予後を左右する重要な因子の一つと考えられる.今回著者らは, 進行胃癌治癒切除症例で静脈侵襲状況 (侵襲の有無, 侵襲程度, 侵襲静脈径) および肝再発状況を検索し, これらの予後への関与, ならびに胃癌切除後の予後を左右すると考えられる因子, すなわち年齢, 性, 胃癌の肉眼所見として占居部位, 肉眼型, 組織所見として深達度, 組織型, リンパ管侵襲, リンパ節転移, INF, 問質量の10因子との関連について臨床病理学的検討を行った.教室における過去約26年間 (1956.3-1981.12) の初発胃癌切除症例1, 098例中, 単発胃癌治癒切除症例は740例であり, うち進行胃癌529例を今回の対象とした.検討の結果, v (+) は287例 (54.3%) にみられ, v (+) 症例の侵襲程度ではv1169例 (58.9%) , v291例 (31.7%) , v327例 (9.4%) , 侵襲静脈径は口径の大きいものからL, M, Sの3群に分類したが, S群144例 (50.2%) , M群96例 (33.4%) , L群47例 (16.4%) であった.侵襲静脈径と傍襲程度との間に相関がみられ (P<0.05) , S群→M群→L群へとv1の頻度が低くなり, v2, V3が逆に高くなった.静脈侵襲状況と予後因子との関連で, V (+) 症例の特徴として有意差のみられた因子は性別 (男性に多い) , 占居部位〔M領域に少ない (A領域に多い) 〕, 肉眼型 (2型に多く, 5型に少ない) , 深達度 (pmに少なく, s (+) に多い) , 組織型 (分化型に多い) , リンパ管侵襲 (ly (+) に多い) , リンパ節転移 (n (+) に多い) , INF (βに多く, γに少ない) , 間質量 (intermediateHypeに多く, scirrhoustypeに少ない) の9因子であった.侵襲静脈径でL群の頻度が有意に高かった因子は, 性別 (, 男性) , 肉眼型 (2型) , 組織型 (分化型) , リンパ管侵襲 (ly2, ly3) , リンパ節転移 (n (+) ) , INF〔β (γに少ない) 〕, 間質量〔intermediate type (scirrhous typeに低い) 〕の7因子であった.予後の検討では, v (-) 症例, v (+) 症例の累積生存率はそれぞれ5生率57.4%, 33.4%, 10生率40.6%, 23.7%と, v (+) 症例の予後が有意に不良であった.侵襲程度ではv1→v2→v3へとvnumberが, 侵襲静脈径ではS群→M群→L群へと口径がそれぞれ大きくなるに従って予後不良となった.肝再発は55例 (10.4%) にみられ, うち45例 (81.8%) がv (+) 症例であった.肝再発率はv (-) 症例4.2%, v (+) 症例15.7%と差を認めた (P<0.005) .侵襲程度ではv1→v2→v3 (v1・v3: P<0.05) へと, 侵襲静脈径ではS群→M群→L群 (S・M, S・L: P<0.005) へと肝再発への危険度が高かった.なお予後因子の中で, 静脈侵襲状況から肝再発を関連させる特に重要な因子はINF, 間質量と推測された.今回の検討で胃癌原発巣における静脈侵襲が胃癌切除後の予後に大きく関与することが示唆された.静脈侵襲状況の検索は胃癌切除後の予後を予測するうえできわめて重要であり, 特に静脈侵襲陽性例では, その予後向上のための術後補助療法の徹底が望まれる.

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