抄録
糖尿病に合併する心筋障害について検索するために, ストレプトゾトシン (STZ) 糖尿病ラットを用い, 心筋の興奮収縮連関の場である心筋小胞体 (SR) および収縮要素を構成する構造蛋白の変化を早期から比較的慢性期にかけて検討し, あわせてインスリンによる抑制効果を確認した.方法: 体重180~200gのWistar系雄性ラットにSTZ65mg/kgを静注し, 1~16週後の糖尿病群 (DM) とSTZ注入後2および4週間インスリン治療した群 (DM+1) と正常対照群 (C) の3群に分けて検討した.血糖体重, 心筋湿重量を測定後, 遠心分画法でSRと粗構造蛋白を抽出し, それらのCa++-ATPase活性を測定し, また, 蛋白分画定量をSDS-ゲル電気泳動 (Laemmli法) により行った.結果: 血糖値はDMで400mg/dl以上に著明に上昇した.体重および心筋湿重量はC, DM+1に比較してすべての時期で有意に減少したが, 心/体重比は4週後より有意に増加した.心筋湿重量1g当りの蛋白量はSR, 構造蛋白ともに有意な変化を示さなかった.SRのCa++依存性ATPase活性は, DMで1週後より42%と著明に低下 (p<0.001) し, その後さらに低下傾向を示した.構造蛋白では4週後より平均27%の有意な低下 (p<0.05) を示した.蛋白の分画定量では, SRはDMで分子量10万のATP-ase主蛋白に一致したバンドの増加を4週後より認めたが, 構造蛋白ではほとんど変化を認めなかった.DM+1では, 血糖はおのおの平均113.5mg/dl (2週) , 131.0mg/dl (4週) に調節された.そして, DMで観察された変化はすべて有意に抑制された.考案および結語: 糖尿病に合併する心筋障害については種々の報告がされており, 糖尿病性心筋症といった概念も提出されている.その成因として心筋内細小血管症や糖尿病の代謝異常そのものによる心筋障害などが言われているが, 結論は出されていない.糖尿病にともなう血行動態変化については一回拍出量の低下, 左室dp/dtの低下などが報告されているが, 拡張障害が最も特徴的とされている.STZ糖尿病ラット心筋では, SRに早期から強い変化が見られており, これは糖尿病心における拡張障害を示す所見であり, 病変の主体をなすものと考えられた.これらのことは, 糖尿病心に特有の心機能不全として糖尿病性心筋症の概念を示唆するものであるかもしれない.糖尿病心筋に見られた変化はインスリン治療により抑制されておりSTZによる変化や血管病変によるものではなく, 糖尿病性代謝異常による直接変化であることが示された.