抄録
目的は実験的虚血性筋病変のうち, 再生筋線維の出現とその成熟過程を経時的に観察し, 再生過程を壊死病変の重篤度および血管分布との関係において明らかにすることである.対象はネコ15匹.方法は腹部大動脈下部, 右総腸骨動脈および右大腿動脈を7時間結紮し虚血筋を作成, 7日後, 10日後, 14日後に屠殺し, 前脛骨筋, 腓腹筋内側頭, ヒラメ筋について病変を組織学的に検討した.結果; (1) 下腿筋の壊死の分布を見ると, 筋の外周および筋内血管の周囲が壊死を免れていた.また, 前脛骨筋が近位・遠位とも障害されているのに対し, 腓腹筋内側頭・ヒラメ筋では近位側のみの障害が認められた。 (2) 下腿筋群においては, 前脛骨筋が最も著しく障害され, ヒラメ筋は障害が少なく, 腓腹筋内側頭は中等度の障害であった. (3) 再生筋線維の分布と成熟過程の検討では, 虚血後7日には, 大きな核と明瞭な核小体を持つ細胞質の少ない不定型のmyoblastが壊死巣と正常筋組織の境界に出現した.虚血後10日には, 正常筋線維の1/2~1/3直径の円形筋線維が虚血巣の多くを占め, 円形筋線維間の間隙が開いていた.壊死巣の外側にはより成熟した再生筋線維が, また, 壊死巣の中心部にはmyoblastが見られた.虚血後14日には, myoblastや小円形筋線維はほとんど見られず, 中心核やintermyofibrillarn etworkの乱れ以外はほとんど正常筋線維と違いのない成熟再生線維が正常筋組織内に散在していた. (4) 各筋の血管分布では, 腓腹筋内側頭, ヒラメ筋でanastomosisの発達が良いが, 前脛骨筋ではanastomosisがほとんど見られなかった.結論; 筋の再生過程は常に壊死の程度と筋内の血管分布に影響され, 加えて, 筋を取り囲む結合組織とのanastomosis, compartmentなど, 筋の置かれた環境が壊死と再生の過程を制御する要素であることが考えられた.