抄録
過去5年間の大学病院産婦人科外来患者の腟および頸管細胞診について, 疑陽性または陽性 (クラスIII~V) と判定された症例のうち, 扁平上皮系の細胞に異常のあるものを対象に組織診 (生検, 手術材料) との比較を行った.とくに, 疑陽性 (クラスIII) と判定された症例で, 両者の問に不一致があった場合には標本の見直しを行い, さらに手術材料について, 必要に応じて再切り出しを行って, 不一致の原因を検討した.対象とした214例のうち, 80症例 (37.4%) に細胞診と組織診の不一致がみられた.細胞診クラスIIIで, 組織診が正常範囲とされていた16症例では, そのうち8症例 (50%) に組織診を見直すことにより軽度異形成が発見され, 細胞診の見直しとともに組織診の見直しも必要であると考えられた.細胞診クラスIIIで, 組織診が上皮内癌を含む扁平上皮癌であった34症例では, 細胞診の標本が不適当であったもの5症例 (14.7%) , 細胞診の標本に組織病変に相当する細胞が, ごく少数しか存在しない, または認められなかったもの20症例 (58.8%) などが不一致の原因としてあげられ, 細胞診の読みが不十分であったと考えられるものは9症例 (26.5%) であった.細胞診標本に組織診に相当する細胞が認められなかった原因としては, 上皮内疵や微小浸潤癌の症例で, 病変部の広がりが, 子宮腟部全周の1/2以下であるような, 比較的小さい癌症例が多かったこと, 細胞診の再検査までの間隔が短すぎる症例があったこと (後述) , などが考えられるが, 臨床側の問題点として, 細胞採取方法が適切であったかどうか, 今後検討する必要があると思われた.細胞診の読みが不十分であったと考えられる症例については, 鏡検の際にダブルチェックの方法を取ったり, 症例検討の機会を増やすことなどにより, 細胞診の判定能力を向上させることが重要であると考えられた.以上をまとめると, 次の (1) ~ (3) となる. (1) 細胞診の適切な判定を可能にするため, 細胞の採取, 固定, 染色など標本作製段階でのより一層の注意が必要である. (2) 細胞診の読みをさらに向上させるために, 鏡検時のダブルチェックを含めた細胞診判定のシステムを確立することが重要である. (3) 組織診で細胞診に相当する病変がない場合には, 生検の見直し, および手術材料の再切り出しを含めた見直しが必要である,