精巣における性ステロイドホルモン生成分泌についてのin vitroにおける検討は数多くなされているが, in vivoにおける検討は少ない.そこでわれわれは未治療前立腺癌患者の去勢術の際に精巣静脈にカニューレを挿入し, 合成LH-RHを投与し, 合成LH-RH投与によるゴナドトロピンおよびステロイドホルモンの経時的変動と, 各ステロイド問の相互関係について検討した.症例はstage Dの未治療前立腺癌患者9例 (平均71歳) で, 去勢術施行前精巣静脈にカニューレを挿入し, LH-RH100μgの投与前と投与後5分, 15分, 30分, 60分, 90分および120分に採血した.ステロイドホルモンは遊離型のdehydroepiandrosterone (以下DHAと略す) , androstenediol (以下ADと略す) , testosterone (以下Tと略す) およびandrostenedione (以下△
4Aと略す) と, 硫酸抱合型のDHA.S, AD-SおよびT-SをいずれもRIA法により測定した.推計学的処理はStudent's paired t-testにより行った.結果 (1) LH-RH投与後の精巣静脈血中のLHとFSHの経時的測定値は末梢静脈血中のそれらとほぼ等しかった. (2) 遊離型ステロイドの変動: LH-RH投与後5分でDHA, ADおよびT値は急速に上昇し, 投与前値に対し5分から120分まで有意な高値を示した.一方△
4A値はLH-RH投与後上昇傾向を示したが有意でなく, 90分後の値に有意な高値がみられたのみであった.これら四者相互の相関関係についてみてみると, LH-RH投与30分以後においてTとAD, TとDHAおよびADとDHAに極めて高い正の相関を認めたのに対し, △
4Aとの問には何ら相関を認めることはできなかった. (3) 硫酸抱合型ステロイドの変動T-S値およびAD-S値はLH-RH投与後120分まで投与前値に対し有意に高い値は認められなかったが, DHA-SはLH-RH投与後5分で有意の上昇を示した.これら三者相互の相関関係についてみると, AD-SとDHA-Sとの間にLH-RH投与5分以後120分まで正の相関を認めたのみであった.以上のことから, LH-RH投与によって上昇した内因性LHにより, ヒト精巣におけるステロイドホルモン生成分泌の充進が起きるが, 遊離型ステロイドホルモン相互の関係から, ヒト精巣におけるtestosteroneへの生成経路において△
5-pathwayの方が△
4-pathwayより優位に働いている可能性が強く示唆された.また硫酸抱合型ステロイドの中でDHA-Sは精巣においても分泌されることが示唆された.
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