抄録
前立腺癌の正確な病期診断は, 治療方針の決定に重要である.前立腺癌が最も浸潤をおこしやすいのは精嚢である.精嚢造影は, 精嚢体・排出管・射精管への前立腺癌浸潤が最も正確に描出できるので, この所見を基準とし, 精嚢造影後のX線CT (CT) ・経直腸的超音波検査 (US) ・核磁気共鳴 (MRI) による前立腺癌の精嚢浸潤の診断能を評価した.前立腺生検を施行し, 病理組織学的に前立腺癌の診断のついた29症例のうち, 精嚢造影が技術的に失敗であった5症例を除外し, 残りの24症例を対象とした.精嚢造影所見は, 癌浸潤を示す明らかな変形または陰影欠損を認めた場合を癌浸潤陽性像とした, 陽性とも陰性ともいえない判定困難な所見は“不確か”, とした.精嚢造影で, 精嚢に癌浸潤陽性像を認めた症例は8例あり, そのうちCTでは, 7例に癌浸潤陽性像を認めたが, USでは, 2例しか癌浸潤陽性像を認めなかった.精嚢造影で, 精嚢に癌浸潤陽性像を示し, MRIを施行した2例は, 癌浸潤陽性像を認めた.精嚢造影で, 精嚢に癌浸潤陰性像を示した症例は16例であり, CTではその全例が癌浸潤陰性像を示したが, USでは14例にしか癌浸潤陰性像を示さず, 2例は偽陽性像を呈した.精嚢造影で, 精嚢に癌浸潤陰性像を示し, MRIを施行した3例は, すべて癌浸潤陰性像を呈した.CT (精嚢造影後) はUSに比べ, 前立腺癌の精嚢浸潤の診断能は高く, USでは, 精嚢への癌浸潤の読み落としや読み過ぎの症例が多かった.MRIの精嚢への癌浸潤の診断能は高かったが, CTと比較するには症例不足であった.