昭和医学会雑誌
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口蓋裂患者の術後言語障害の発現に影響を与える要因に関する研究
門松 香一安西 将也
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1993 年 53 巻 3 号 p. 235-246

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抄録

口蓋裂患者を子に持つ親の苦悩は深刻である.口蓋裂を手術しない場合は言語障害が生涯継続する可能性が大きいこともあり, ほとんどの親は口蓋裂の治療に必要な手術を希望し来院する.現在のところ, 手術時期, 手術法など種々の要因が術後の言語障害の発現に影響することが指摘されているが, これらの要因に関する研究報告は少なく充分には解明されていない.そこで, 今回我々はその言語障害に注目し, 性, 裂型などの各種の要因を取り上げ, それぞれの要因の相互影響について検討した.調査研究方法として, 昭和大学病院では, 1980年より形成外科, 小児科, 耳鼻咽喉科, 矯正歯科, 言語治療士, ソーシャルワーカーなどからなる口蓋裂診療班を結成し, 口唇口蓋裂及び鼻咽喉閉鎖不全についても診療を行ってきており, 1980年1月より1992年5月までの約12年間に初回手術や言語治療を日的に来院した口蓋裂単独例は445例で, この中から言語障害が比較的正確に評価できる4歳以上の242例を調査客体とした.なお, 統計処理方法としてはSASを用いて.7検定および言語障害を外的基準とし, 林の数量化II類によって言語障害の発現に及ぼす影響を検討した.本研究の結果, 言語障害の発現との係わりが認められたものは, 性, 裂型, 出生週数, 生下時体重, 妊娠歴異常, 妊娠経過異常, 手術時年齢, 手術手技, 軟口蓋の動き, 言語初診年齢, 精神発達であった.なかでも, 言語障害の発現に及ぼす影響の強い要因は, 手術年齢, 言語初診年齢, 手術手技, 裂型, 出産時年齢などであることを明かにした.またこのなかで言語障害の発現割合の少ない要因をみると手術時年齢では2歳代 (58.3%) , 言語初診年齢では2歳以上3歳未満 (48.0%) , 裂型では軟口蓋裂 (53.4%) が言語障害の発現割合が最も少なかった.言語障害の発現割合が多い要因は手術手技において咽頭弁使用例 (94.1%) , 出産時年齢では年齢が高くなるにつれて多くなってきていることも明らかにした.本研究結果から術後言語障害の発現に係わる要因の相互影響を考慮した結果を得ることができたとともに, 単一要因だけで言語評価をする事は非常に危険なものであり, 多くの要因の影響を考慮しながら, 言語評価はなされなければならないことがわかった.これらの結果は, ある程度は言語障害になり易さを予測することが可能であり, 口蓋裂患者の初診時に両親へのインフォームドコンセントに使用できるものと期待できる.

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