抄録
ストレプトゾトシン (STZ) 糖尿病ラットにおける血清タンパク質の変化を未変性の二次元電気泳動で分析し, 著しく減少あるいは増加している数種の特異タンパク質を検出した.本報では, これらのうち特に変化の著しい4種 (P1~P4) について検討した.P1は著しく減少するタンパク質でpIは4.4, P2~P4は増加するタンパク質でpIはそれぞれ4.7, 4.2および4.7と推定された.何れも糖タンパク質であった.P2およびP3はリジルエンドペプチダーゼで消化したペプチドのアミノ酸配列の解析からT-キニノーゲンと決定された.既知タンパク質のデータベースからはP, およびP4のペプチドに一致した配列は見つからなかった.P4は二次元電気泳動の位置からα2HS-グリコプロテインではないかと推測されたが, ヒトα2HS-グリコプロテインにあるような性質は持っていなかった.精製P1およびラット血清を免疫電気泳動で分析すると, 1本の沈降線のみがα1分画に検出され, 精製P1は免疫化学的にも均一で, しかもラット血清中には抗P1と反応する成分はP1以外に無いと考えられた.抗P1はマウス血清に対してはP1と部分的に融合した沈降線を形成したが, ヒト, イヌ, ウシ, ウマ血清とは反応しなかった.血清中のP1濃度を定量すると, 対照ラットはおよそ6mg/mlであり, STZ投与3週では対照の50%以下であった.P1濃度はSTZ投与3週目からインシュリンによって血糖値を正常範囲に3週間保つとほぼ回復し, その後処置を止めてそのまま飼育すると元のレベルまで減少した.P2~P4の変化も血糖値を正常範囲に保つと回復し, これらのタンパク質がSTZ投与後の糖尿病と, 少なくとも血糖値と密接な関連があることが示唆された.