昭和医学会雑誌
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痴呆患者の問題行動の寛解予測方法に関する研究
―特に徘徊などについて―
平良 雅人大賀 徹夫
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1993 年 53 巻 3 号 p. 264-272

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抄録
痴呆を伴う疾患は, 問題行動を随伴することが多く, 在宅看護, 外来通院を困難にする患者側の大きな要因となっている.問題行動の発生には認知機能の障害や心理学的, 生理学的な要因が様々に関与しており, 実際の臨床場面においても治療や対応に困難をきたすことが多い.近年, 痴呆性疾患に対する行動評価尺度がいくつか考案され, 多面的かつ客観的な情報が得られるようになったが, 問題行動の予後予測に関する報告はない.痴呆にみられる問題行動を治療し対応していくためには, 痴呆の状態像をとらえるだけでなく, 予後を予測する必要性がある.今回の調査研究では問題行動の中でも, 介護者への負担の大きさ1) と入院の主な理由として頻度の高い2) , 「徘徊」, 「夜間に他人 (家族や他患) を起こす」をとりあげ, それらが入院中に寛解するか否かを予測玄るためには, 入院時にGBSスケール (Gottfries Brane Steen scale) を施行しどのような項目が重要であるかについて検討した.調査研究方法として, 茨城県日立市の某病院の老人性痴呆疾患治療病棟に平成2年7月23日より平成3年7月31日までの約1年間に入院した患者のなかで, 経過中, 入院120日以内に身体合併症を併発した16例を除いた75例で, このなかで入院時に「夜間に他人を起こす」あるいは「徘徊」という問題行動を認めた, おのおの47例と42例について検討した.なお, 統計処理方法としては統計処理システムSAS (Statistical Analysys system) を用いて, x2検定および多変量解析数量化理論2類によって, 問題行動の寛解を決定する要因について検討した.「夜間に他人を起こす」, 「徘徊」いつれの問題行動においても, GBSスケールの「場所に関する見当識障害」の項目で最も寄与度が大きかった.その区分点の内容から, 患者が自分の病棟内や家の中でも迷ってしまうほどの場所に関する見当識障害があると, 問題行動が寛解しにくいことが判明した.また, 次に大きな寄与度に注目すると, 「夜間に他人を起こす」と「徘徊」では寛解に影響する因子が異なっていることが分かった.前者では知的機能のより軽度の方が, 寛解する可能性が高いが, 後者では患者の運動機能が低下することにより, 「徘徊」が寛解しやすいことが明らかとなった.
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