抄録
胸腺腫の治療にあたり放射線照射や化学療法などの合併療法を行なう指標を求める目的で, 胸腺上皮細胞の核DNA量ヒストグラムから腫瘍の生物学的悪性度を評価することを試みた.対象は1987年1月から1990年6月までに手術を行なった胸腺腫12例, 正常胸腺2例, 重症筋無力症に対し拡大胸腺摘出を行なった肥大胸腺1例で, 胸腺腫の手術の際の臨床病期はI期4例, II期2例, III期3例, IV期3例であった.核DNA量の測定は螢光顕微測光法にて行ない, コントロールには腫瘍内の小リンパ球を用いた.DNA量ヒストグラムの評価は癌DNA研究会の基準に従いDiploid値を設定し, G0/G1peakが単一でdiploid rangeにあるものをdiploid patternとした.またヒストグラム像全体の評価としてAsamuraのHistogram patternを使用した.結果は正常胸腺, MG胸腺例は明らかなdiploidpatternを示した.胸腺腫症例ではdiploid patternを示したのは2例のみで, そのほかの症例は2Cと3Cの間に単一のpeakを持つか, あるいは二峰性のpeakを持つものが多かった.Ploidypatternと臨床病期の間に相関は見いだせなかった.Histogrampatternは, 正常胸腺およびMG胸腺ともにIであった.胸腺腫症例ではIの症例が3例, IIのものが9例あった.Iの2例は臨床病期I期でこれらは術後2年1カ月, 4年6カ月再発はなかった.臨床病期I期でHistogram patternがIIの症例は2例認めたが, うち1例は2年10ヵ月後に再発した.HistogrampatternがIで臨床病期III期の症例は放射線治療を40Gy行ない, 術後3年8カ月経過した現在再発は認めない.臨床病期を非浸潤型 (臨床病期I期) , 浸潤型 (臨床病期II, III, IV期) に分けると, HistogrampatternIIは非浸潤型2/4 (50%) , 浸潤型7/8 (88%) と浸潤型に多い傾向がみられた.以上の結果から胸腺腫の上皮細胞には腫瘍細胞としての増殖性変化が起きていることが確認された.また, もし非浸潤型胸腺腫の中で術後合併療法を追加する必要な症例があるとすれば, Histogrampattern IIの症例が対象となりうるものと思われた.