抄録
教室では切除不能消化器癌症例に対して1985年4月よりRF波温熱療法を主とした集学的治療を施行してきたが消化器癌の良好な加温は困難なことが多く, 新たな装置の開発が待たれていた.1990年2月よりFrance Odam社により開発された周波数13.56MHz, 加温の焦点調節が可能となり消化器癌の良好な加温が可能とされる三電極誘電加温装置であるJasmin3.1000による温熱療法の臨床試験を施行した.臨床試験に先立ち13.56MHz筋肉等価寒天ファントムによる加温実験を施行したが, 三電極の出力を調整することにより温度分布に多様性を持たせることが可能であった.臨床試験は転移性肝癌11例, 肝細胞癌6例, 腹部腫瘤5例を対象としたが, 肝細胞癌1例を除き他の21例に化学療法を併用し, 腹部腫瘤症例3例には, 放射線療法も併用した.転移性肝癌症例の効果判定では, PR2例, NC7例, PD2例, 奏効率18.2%であった.予後は2カ月から28カ月, 平均12.2カ月の生存期間を得た.肝細胞癌症例の効果判定では, NC5例, PD1例, 奏効率0%であった.予後は1例が37カ月生存中であり, 他の5例は, 3カ月から27カ月 (平均17.3カ月) の生存期間を得た.腹部腫瘤症例の効果判定は, 胃癌リンパ節転移症例ではPR, 他の4例はNCであり, 奏効率20.0%であった.予後は2カ月から17カ月, 平均7.2カ月の生存期間を得た.現在までに重篤な副作用も認められず比較的良好な加温が得られ, 切除不能消化器癌症例に対して有用な治療法となる可能性が示唆された.