昭和医学会雑誌
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門脈内皮細胞の有, 無により影響を受ける摘出門脈輪状筋の収縮力とウィスコンシン液 (臓器保存液) による収縮力維持
劉 延慶佐原 正明梅 建成田 和広花川 一郎笠原 絵利久光 正
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1996 年 56 巻 4 号 p. 448-453

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抄録

ウィスコンシン液 (UW液) は臓器保存液として広く普及し, 肝臓移植ではその保存性が実質細胞レベルで確認されている.しかし肝機能全体の保存には機能栄養血管および胆管系の組織機能の保存も重要であり, 移植後の成績に大きな影響を与えると考えられる.血管内皮細胞は, 刺激により内皮由来弛緩因子 (endothelium-derived relaxing factor: EDRF) や内皮由来収縮因子 (endothelium-derived contracting factor: EDCF) , その他を分泌し血管平滑筋などに影響を与えることが知られている.今回, 我々は内皮細胞を積極的に取り除いた門脈と内皮細胞を温存した門脈との間に摘出後どのような相違があるかについてKrebs液を対照としUW液による家兎の摘出門脈標本のノルエピネフリンによる収縮力を指標として比較した.門脈の収縮力を測定する時は36℃のKrebs液中で行い, 保存は4℃のKrebs液か4℃のUW液の中で行った.内皮細胞を積極的に取り除いた門脈では, Krebs液保存群は保存時間が長くなるにつれて門脈の収縮力は減弱し72時間後では30% (保存前を100%とする) になった.UW液保存群も保存時間が長くなると門脈の収縮力は減弱したが, その割合はKrebs液ほどではなく72時間後で65%であった.一方, 内皮細胞を温存した門脈を用いた実験では異なった結果が得られた.すなわちKrebs液保存群では保存時間が長くなると収縮力が増大し, 72時間後で213%になった.UW液保存群でも保存時間が長くなると収縮力は増強したが, 増強の程度はKrebs液ほどではなく72時間後で118%であった.これらの結果は (1) 内皮細胞を除去した門脈では72時間の保存中に4回行った収縮力測定の際, それぞれの測定前に流した酸素化された灌流液による再灌流障害がKrebs液による保存では強く生じ収縮力を低下させたのに対し, UW液による保存では再灌流障害が少なく, 収縮力が比較的維持された. (2) 内皮細胞を温存した門脈では保存中に遊離されるEDRF等により平滑筋弛緩が生じるが, これらの弛緩因子遊離がUW液による保存では抑制されたため摘出時の収縮力が比較的維持されたためと考えられた.今回の実験から門脈の収縮力はKrebs液よりもUW液中で保存した方が (内皮細胞の有無にかかわらず) 保存時間が長くなっても摘出直後の収縮力に近い収縮力を維持することが明らかになった.

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