昭和医学会雑誌
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突発性難聴と聴神経腫瘍の温度眼振検査
徳丸 敬
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1997 年 57 巻 2 号 p. 108-118

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抄録

突発性難聴, 聴神経腫瘍患者における温度眼振検査の意義について温度眼振検査の加齢変化, パラメーター, 半規管機能低下の診断を含めて検討し, また臨床像の差異についても比較した.対象は突発性難聴33名33耳, 聴神経腫瘍17名19耳の計50名52耳である.検査方法は被験者を仰臥位とし前屈およそ30度の頭位で, 20mlの氷水を20秒間で一側外耳道内に注入し眼振を解発した.記録は電気眼振計を用いて最大緩徐相速度, 持続時間を測定した.健常耳では温度眼振検査の結果, 最大緩徐相速度, 持続時間ともに加齢の影響を認めず, 最大緩徐相速度20度/秒以上, 持続時間100秒以上を正常と定義した.患側の最大緩徐相速度が健側の50%を下回る場合, 患側の持続時間が健側の60%を下回る場合にのみ患側と健側の間に明らかな差があるものと判断した.突発性難聴の5名 (15.2%) , 聴神経腫瘍の2名 (15.4%) において持続時間では患側と健側の間に差がないにもかかわらず最大緩徐相速度で患側と健側の間に差を認めた.従って最大緩徐相速度が半規管機能を評価するパラメーターとして適当であると考えられた.眩暈の自覚のなかった突発性難聴では全例半規管機能低下を認めず, 眩暈の自覚のあった突発性難聴例でも半数以上に半規管機能低下を認めなかった.これは突発性難聴において眩暈は蝸牛病変の発現に伴う前庭半規管の一過性の可逆的病変によるものであり, 眩暈を自覚しても永久的な半規管機能低下は生じなかったのではないかと考えられた.突発性難聴の予後は温度眼振反応, 聴力型との関連を認めたが, 眩暈の有無とは明らかな関連性を認めなかった.聴神経腫瘍で平均腫瘍径が20mmを越えるものは例外なく半規管機能低下を示し, 10mm以内のものでは発生神経等により温度眼振反応に差がでるものと考えられた.聴神経腫瘍の大きさと聴力の間には明らかな相関はないが, 10mm以内の腫瘍は全例40dB以内の難聴であった.眩暈の自覚のあった聴神経腫瘍全例に半規管機能低下を認めたが, 眩暈の自覚のなかった症例にも半規管機能が低下している例を2例認めた.これは腫瘍による半規管機能低下の進行が緩徐な為, 代償作用がはたらいているのではないかと考えられた.ガンマーナイフを施行した4例中3例は, 観察期間3カ月から31カ月の間に明らかな聴力低下を認めず, 最大緩徐相速度, 持続時間にも患側と健側の間に差を認めなかった.

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