昭和医学会雑誌
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家族歴を有する精神分裂病患者群におけるドーパミンD3受容体遺伝子多型の関連研究
坂井 俊之
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1997 年 57 巻 2 号 p. 119-124

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抄録

精神分裂病に関与する病因遺伝子の研究は, 未だ確立された知見は得られていない.精神分裂病のドーパミン成因仮設に基づき, 各ドーパミン受容体サブタイプの遺伝子についても多くの研究がなされており, 関連を示唆する報告も少なくない.そのうち, ドーパミンD3受容体遺伝子Bal I多型 (Ser-9-Gly多型) は精神分裂病との関連性が特に注目されている.本研究では精神分裂病者の中でも家族歴を有する患者群を用いてこの関連性の有無を検討した.患者群は, DSM-IVにて精神分裂病と診断されたもののうち内因性精神病の家族歴を有する患者78名 (男性31名, 女性47名, 年齢44.4±13.2 (M±SD) 歳) である.健常対照群は精神疾患の既往の無い者90名 (男性36名, 女性54名, 年齢32.3±10.0 (M±SD) 歳) である.対象者のゲノムDNAから, PCR法にてこの多型性を持つDNAフラグメントを増幅し, 制限断片長多型により遺伝子型を設定した.患者群と健常対照群との遺伝子型および対立遺伝子頻度を比較し関連を検討した.臨床要因 (第一度親族に家族歴を持つか否か, 発症年齢, 総入院期間, 抗精神病薬服薬量) と遺伝子型・対立遺伝子頻度との関連についても検討した.結果は, 患者群と健常対照群では遺伝子型の分布, 対立遺伝子頻度ともに有意差を認めなかった.第一度親族に家族歴を持つか否か, 入院期間, 抗精神病薬服薬量についての検討でも同様に有意差を認めなかったが, 発症年齢に関しては21歳未満の発症者ではSer-9のホモ接合体を有する者がすくなかった.この結果は, ドーパミンD3受容体のSer-9-Glyの変異が精神分裂病の発症年齢と関連がある可能性を示唆する.

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