昭和医学会雑誌
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加齢に伴う終脳外套の体積の変化
―前頭葉比率―
大〓 進段 俊恵鈴木 一正
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1997 年 57 巻 2 号 p. 125-131

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抄録

生体の脳体積の加齢変化を検討し, 終脳の外套, とくに前頭葉について調べた.成人の脳は, 高齢者ほど萎縮のあることが一般的に良く知られている.これは通常の診療で見られるX線CT, 核磁気共鳴画像診断装置 (以下MR画像装置) などの画像あるいは解剖標本からも明らかである.そこで, 人の生体脳における体積の変化を調べる目的で, 臨床的に異常な神経症候を認めなかった新生児から高齢者までの症例のMR画像について検討した.とくに外套全体と, それに占める前頭葉の割合について検討することは, 脳の発達および加齢に伴う脳の体積変化の観点からも重要と考えた.そこで, 外套全体と前頭葉の体積比, つまり前頭葉外套比frontopallium volume ratio (FPVR, あるいは前頭葉比率) を求め, 年齢との関係を検討した.この研究では, 90歳代を除く各年代30症例のMR画像を資料として電子面積計を使って得た面積値から体積を算出した.脳の形態的変化を生後から90歳代までを連続的な変化として見ると, 10歳代に達するまでの成長はとくに著しく, 10歳までには形態的に成長後の脳にきわめて近い完成された形を確認できた.30~70歳代前半までは終脳外套にわずかずつ体積漸減の傾向を示し, 80~90歳代では急激に体積の減少を示す.この傾向は外套と前頭葉の体積減少の比率で検討したほうが明確であった.年齢とFPVRとの回帰分析では70歳付近を境にしてその前後では異なる関係を示した.体積量は発達にともなって幼児期に急増し, 加齢とともに減少する.しかし, その減少の傾向は年齢に正比例はしない.つまり, 年代により脳の発達や体積減少の速度に差があり, 10~50歳代程度までは平均値に増減があり, 60歳代からは非常に緩やかな減少を示し, 80歳代以後は急加速で減少することがわかった.このように, 前頭葉体積値を外套体積値で除してその比率を求め, FPVR (あるいは前頭葉比率) として表わすことにより, 脳の発達や萎縮を明確に表現できることが判明した.各年代の前頭葉比率の標準値を示してあり, それを基準値として用いることにより, MR画像から脳体積値の正確な診断に応用することが期待できる.

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