抄録
従来より, 消化器外科領域において閉塞性黄疸は, 肝胆膵外科手術時のrisk factorの一つであることが報告されているが, その原因究明はいまだ不十分である.今回われわれは, Wistar系ラットを用いて, 総胆管結紮による閉塞性黄疸モデルを作成し, 2週間後にlipopolysaccharide (LPS) を投与し, その肝障害を検討した.さらにそのような病態に対して, free radical scavengerであり, 還元型グルタチオン (GSH) の前駆物質でもあるN-acetylcysteine (NAC) 投与の効果についても検討した.本研究では, 肝細胞障害を血清α-glutathione-S-transferase (α-GST) 値で評価し, 肝細胞ミトコンドリアのglutathioneプール (GSH貯蔵能) から, ミトコンドリアの機能障害及びoxidative stressを評価した.またpolymorphonuclear leukocytes (PMNLs) の活性酸素産生能 (殺菌能) について検討した.実験群として (1) Sham手術+LPS群 (Sham群) , (2) 閉塞性黄疸+LPS群 (黄疸群) , (3) NAC投与+閉塞性黄疸+LPS群 (NAC群) を作成した.
α-GST値は黄疸群がSham群に比較して有意に低値を示し, 黄疸群での肝細胞障害が認められた.また, 黄疸群はSham群に比較して, ミトコンドリアの酸化型グルタチオン (GSSG) 値は有意な高値を示し, 同時に肝ATP値の有意な低値が示され, 黄疸群でのmitochondrial oxidative stressとミトコンドリア機能障害が示された.また, NACを2週間腹腔内投与することにより, ミトコンドリアのグルタチオンプールの改善が認められた.しかし, その一方でNAC投与群は, PMNLsの活性酸素産生能の上昇が認められた.
以上より, 黄疸肝のLPS刺激時における肝ミトコンドリアのoxidative stressとその機能障害が示され, NAC投与によりこれらが改善されることが示された.