抄録
我々は1993年から1997年の5年間に昭和大学病院にて手術された非小細胞癌のうち他病死を除き予後の評価可能であった62例 (年齢42-82歳, 平均66.7歳, 男性43例, 女性19例, 組織型は, 腺癌38例, 扁平上皮癌19例, それ以外3例) の肺癌組織を用いて免疫染色 (LSAB法) を行った.特にFas/Fas Ligand (以下FasL) 分子群に着目し, その発現率や分布とアポトーシスが誘導されているかをTerminal Deoxynucleotidyl Transferase-mediated dUTP-biotin Nick End-labeling (以下TUNEL) およびsingle stranded-DNA (以下ss-DNA) などの免疫染色により検討し, さらにp53, bcl-2と併せて, これらの遺伝子異常が予後判定因子となりうるかどうかについても検討した.Fasの発現は, 腺癌が有意に多く, 特に高分化腺癌に多かった.また女性に多く発現する傾向が見られた.Fas陽性腫瘍では, 増殖因子発現の低下を認めた.FasLの発現はFasと同様な局在性を示したが, 陽性群と陰性群に有意差を認める因子は見られなかった.また, FasおよびFasLの組み合わせの検討では, FasL発現の有無によらずFas陽性の群はFas陰性でFasL陽性群よりT因子が有意に低かった.Fas陽性でFasL陰性の群は, Fas陰性の2群よりも有意にリンパ節転移が多く見られた.FasL発現の有無に関わらずFas陽性群は, Fas陰性でFasL陽性群よりも有意なMIB1の発現低下を認めた.本研究でFasおよびFasLの発現は生存率に明らかな影響を及ぼすとは言えなかったが, アポトーシスを誘導する事で腫瘍径, リンパ節転移および増殖因子に関して抑制的に作用することで, 間接的に予後に関わる可能性が考えられた.