生体医工学
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神戸から広がる市民PHR(Personal Health Record)基盤構想
竹村 匡正
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2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 124

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抄録

昨今、情報科学やデータサイエンスの発展と相まって、個人に紐づく医療や健康に関するデータの二次利用が期待されている。主に病院内で発生する「診療データ」は、病院の電子化に伴って病院情報システムや電子カルテシステムが導入されることで、電子的なデータとして二次利用が可能になりつつある。また、これらのひとつの病院で管理されている診療データを多施設間で管理し、医療サービスの質向上に繋げることを目的として、地域医療連携システムが導入されつつある。これに関連して多施設の医療データを患者個人で突合し、また全国的にこれらの診療データを集積することで、医療ビッグデータとして利用を促進することが国の主導においても進められている。

一方で、個人の健康・医療に関わる情報は病院のみで発生しているわけではなく、健診やウェアラブルデバイスなど、様々な「健康データ」が取得されている。これらの健康データは、ライフコースデータなどとも呼ばれ、個人の健康管理に役立てるヘルスプロモーションや、発病自体を制御して健康を維持するといった「先制医療」という新たな概念を実現するものとして期待されている。これらの健康データは、病院のような主体が質を担保しながら体系的に蓄積できない一方、行政等も含めた広範囲に存在するものであり、これらのデータを集積する仕組みとしてPHR(Personal Health Record)システムの検討が進められている。

PHRの実現においては様々な課題が考えられるが、大きなところではデータの本人性の担保と、多様な健康関連データをどのように収集し管理するのか、ということが挙げられる。神戸においては、これらの課題への取り組みとして産官学病が広く参画している「神戸リサーチコンプレックス事業」における「市民PHR基盤」の検討を行っており、様々な検討が行われてきた。その中の特徴的な試みとして、市民に対して健康管理アプリを用いた健康サービスの提供にあたり、市民の利用申請に基づいて市役所において本人確認を行った上でサービスの提供を行っている。また、多種多様な健康データの管理においても、情報システムおよび管理体制のあり方について検討を行ってきた。今後はこれらの仕組みを用いて様々な健康関連サービスの提供、デバイス開発の実証、健康計測等を行うための基盤としての運用が期待できる。

また、最近では個人に基づく様々なデータを突合して新たなサービスを提供する動きは、「スマートシティ」「行政DX(Digital Transformation)」といった文脈で語られることが多く、神戸市においても行政主導でこれらの動きが本格化しつつある。スマートシティにおいてはこれらの市民データをオープンにすることによる革新的な市民サービスの提供や新たな産業育成が期待されている。健康医療分野に対しても、健康データと医療データのみならず、行政が保有する様々な個人データを共通に扱った新たなサービスが検討可能になり、本分野の研究開発のあり方に対しても大きな影響を与える可能性がある。

本講演では、これらの動きについて具体的に紹介した上で、生体医工学における新たな研究開発のあり方について、広く議論できれば幸いである。

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© 2021 社団法人日本生体医工学会
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