2024 年 Annual62 巻 Abstract 号 p. 271_1
飲食物の色彩を変えると味が変わる現象は,コロナ罹患等による味覚障害のリハビリテーションの観点から注目を集めている.これまでに我々は,緑茶・麦茶・紅茶の3種類の希釈したお茶を用いて,視覚情報が味知覚の変調を引き起こすメカニズムを脳波によって検討してきた.具体的には,視覚と味覚が不一致となる際に,前頭領域を中心に観測されるアルファ帯域の活動の増大が,視覚情報による味覚処理の変調を反映している可能性を示した.しかしながら,依然として視覚情報による味知覚変調の脳内メカニズムは十分に分かっていない.そこで本研究では,位相振幅カップリングによるコネクティビティ解析を用いて,同メカニズムの更なる検討を行った.まず,お茶の実際の色よりもお茶に対して事前にイメージした色の方が味の正答率を高めることを確認した.次に脳波解析を行ったところ,お茶の色と味が不一致となる組み合わせでは,前頭領域のアルファ帯域の位相に対して頭頂領域のガンマ帯域の振幅増大と後頭領域のガンマ帯域の振幅減少が見られ,味覚情報処理の促進と視覚情報処理の抑制の存在が示唆された.加えて,イメージした色と対応する味の組み合わせでは,前頭領域のアルファ帯域の位相に対して前頭領域のガンマ帯域の振幅増大も見られた.したがって,この活動が色と味の連合情報の参照に関わっており,味知覚の鮮明化に関する変調を担っている可能性が示唆された.