2024 年 Annual62 巻 Abstract 号 p. 276_2
バルサルバ法(VM)は胸腔内圧を変化させたときの心拍数や血圧の変動を用いて、心血管反応や圧受容器反射応答を評価する方法である。しかし、VM試行時における中枢と末梢部位間の血流応答を比較した研究は少ない。そのため、本研究では、組織深部の血流量を非侵襲的に計測できる拡散相関分光法(Diffuse correlation spectroscopy: DCS)を用いて、VM施行時の頭部および上肢・下肢における血流応答を同時計測した。実験参加者は健康若年成人10名であった。2分間の安静の後、呼気圧を約40 mmHgで15秒間維持する定量的VMを行い、その後1分40秒間の安静期間を設けた。動脈血圧を容積補償法による連続血圧計で、前頭部・前腕部・腓腹部の血流応答をDCSで連続計測した。VMを3回繰り返し、測定値を加算平均した。 VM 開始直後、胸腔内圧の上昇に伴う血流量増加は下肢よりも頭部と前腕で顕著であった。VM後半では頭部と前腕に対して、下肢の血流減少量がより大きくなり、下肢の血管収縮が頭部や上肢の血流量の確保に貢献することを示唆していた。VM終了後は、頭部血流量増加のピーク潜時が上肢や下肢より短く、胸腔内圧の低下後も脳血流が確保された後に四肢の血流回復が生じる様子が確認できた。このようにDCSによる多点計測は自律神経活動変化時の全身血流動態の解明に寄与することが期待できる。