流通研究
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特集論文(研究ノート) 「ゲストエディター 藤村和宏(香川大学)」
医療サービスにおける便益形成と患者参加に関する質的データ分析~便益遅延性の視点から~
髙室 裕史
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2018 年 21 巻 1 号 p. 29-50

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Abstract

本稿が着目する課題は,教育サービスや医療サービスを典型とする「便益遅延型サービス」における価値形成の問題である。「便益遅延型サービス」とは「目的とする便益が遅れて発現するタイプのサービス」である。

本稿では,医療サービスを対象に,「便益遅延型サービスにおいて,ポジティブな参加意欲はいかに引き出されうるのか」という問題意識のもと,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の医療プロセスでは,どのような便益がどのようなタイミングで形成されているのか」,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の認識や行為にはどのような特徴がみられるのか」,「ポジティブな患者参加意欲の形成に影響を与える要素は何か」,以上のリサーチ・クエスチョンを設定し,α病院の乳がん患者を対象としたインタビュー・データによる質的データ分析を通して,考察を行った。

その結果,「価値観的便益」と「感情的便益」についてはその都度の形成がみられる一方で,「機能的便益」には遅延がみとめられること,参加意欲がみられる患者には自己認識や価値観の転換とともに,その転換を維持し続けようとする受容努力がみとめられること,そして,その転換を支える便益として「価値観的便益」が強調されるが,その形成に寄与するものと‍して,医師及び担当医・看護師と患者とのコミュニケーションが位置付けられること,こうした特徴が確認されることとなっ‍た。

1  問題意識

本稿が着目するのは,教育サービスや医療サービスを典型とする「便益遅延型サービス」における価値形成の問題である。「便益遅延型サービス」とは「目的とする便益(価値)が遅れて発現するタイプのサービス」である。

教育サービスや医療サービスでは,目的とする便益が,サービス・デリバリー・プロセスのその時その場には現れず,そのプロセスの終了後に遅れて認識される点で共通している1)。また,さらに,そのサービス・デリバリーにおいては,例えば,不得手な勉強や辛い治療など,意に反した負担まで強いられることになる点も同様である。このため,サービスの受け手の側からみれば,将来得られるであろう便益への期待とは別に,当座のサービス提供を受ける意欲を失ってしまうようなことにもなりうる。一方,提供者の側からみれば,そうした受け手の反応を認識しながらも,当座の顧客満足の実現はひとまず留保しつつ,将来の便益の実現を目指すといった行動が求められることになる。

こうした観点から,あらためて「便益遅延型サービス」を識別し,その課題に着目するとき,従来のサービス・マーケティング研究(あるいはサービス・マネジメント研究。以下同じ)に提示されてきた枠組みを再考する契機が得られることとなる。その1つが,サービス・マネジメントにおける「顧客との協働」や「価値の共創」の前提条件となる「顧客参加」である。

従来のサービスに関する価値形成の議論においては,サービス・デリバリー・プロセスへの顧客参加を前提とした顧客との協働による価値の形成が強調されてきた2)。しかし,便益遅延型サービスにおいては,目的とする便益が遅延する。このため,顧客参加への大きな誘因の1つとなるはずであった便益の享受は参加の動機付けの要因にはなり得ず,サービス提供への受け手の参加意欲を引き出しきれないこととなる。しかし,顧客参加が得られなければ,サービスの便益は低下するであろう。こうして,参加意欲の低下がサービス品質の低下を招き,それがさらなる参加意欲の低下を引き起こす,こうした負の連鎖が生じることが想定されるのである。

ここに,サービス・マネジメントの課題として,「便益遅延型サービスにおいて,ポジティブな参加意欲はいかに引き出されうるのか」という問題を明らかにすることが求められることになる。以上のような問題意識のもと,本稿では,そのマネジメントの可能性への示唆を見出していくべく,医療サービスを対象に,患者へのインタビュー・データを用いた質的データ分析を通して考察を行っていく。

以下,第2章においてあらためて問題の所在を確認したうえで,第3章において本稿のリサーチ・クエスチョンを設定し,第4章で調査対象と分析方法を確認する。そのうえで,第5章において事例記述を行い,第6章で事例の整理と分析を行う。そして,第7章では,小結として,本稿の考察内容を整理するとともに,本稿のインプリケーション及び限界と今後の課題を提示する。

2  問題の所在

本稿の考察に先立ち,あらためて,「便益遅延型サービス」の概念を確認するとともに,その問題の所在を確認しておく。

2.1  「便益遅延型サービス」とは

サービス・マーケティング研究は,これまで,サービスとモノとの相違点に焦点をあて,サービスに特有の性質に起因するマーケティング・マネジメント問題を探求することによって,その研究の知見を深めてきた。その中でも,特に,サービスとモノとの区分を必要とさせる前提として強調されてきた基本特性の1つが「生産と消費の同時性」である。

モノは,生産された後,交換され,消費される。このため,使用価値は,交換後,消費の過程において生み出される。これに対して,サービスは生産されると同時に消費される。このため,使用価値は,生産と消費が同時に行われる中で生み出されることになる。サービス・マーケティング研究の大きな論点の1つはここにみとめられてきた。すなわち,「生産と消費の同時性」を1つの基礎としつつ,その特性に起因して生じるマーケティング上の課題を明らかにするとともに,その課題への対処やあるいは新たな価値形成の可能性を探求することで,その研究を深化させてきたのである。

しかし,こうした視点が強調される背後に残されてきた課題があった。それが,藤村(2008)が指摘した「便益遅延性」である。藤村(2008)が着目した点は,サービスの「生産と消費の同時性」と言う特性が,必ずしも,サービスの価値形成までをその射程に入れているわけではないという点にあった。すなわち,確かに,「多くのサービス消費では,サービス・デリバリーの開始直後の時点あるいは途中の時点において即時に便益としての変化(結果・効果)が現れ,終了時点までにそれらが最大になる」,しかし,その一方で,「サービス・デリバリー・プロセスが展開される時間とサービスの便益としての変化(結果・効果)の終了時点との間に時間的なズレが生じるサービスもある」ということを指摘したのである3)藤村(2008)が,前者の例として挙げたのが修理サービスやレストラン・サービス,また,後者の例として挙げたのが医療サービスや教育サービスであった。こうして,この後者,すなわち,「デリバリー・プロセスが終了してからもデリバリーされたサービスが作用し,変化が継続して続くようなサービス」として位置付られたのが,「便益遅延型サービス」である4)

2.2  「便益遅延型サービス」の問題性

では,このように「便益遅延型サービス」をあらためて識別することで,サービス・マーケティング研究にどのような論点が付与されることになるのであろうか。次の3点に整理しておく。

便益享受の不定性

第1が,便益享受の不定性である。すなわち,便益の発現が遅延するため,顧客は,そのサービスの便益としての変化(結果・効果)を実感しないままに,さらには,そのサービス・デリバリーの結果として目的とする便益が享受できるのかどうかは不明なままに,サービス・デリバリーを受けることになる。一方,提供者においては,自身のサービス・デリバリーの結果,目指す便益が実現するのかどうかについて,少なくともそのサービス・デリバリー段階においては直接確認することはできないままに,サービス・デリバリーを行うことになる。

このため,「便益遅延型サービス」のサービス・デリバリーは,顧客側からは「このサービス提供を受けていれば目指す便益を享受できるはずだ」という期待において,また,提供者側からは「このサービス提供を行うことで目指す便益を提供できるはずだ」という見込みにおいて成立するものとなっている。つまり,当座のサービス・デリバリーの成立は,直接的な効果や成果を根拠とするものではなく,あくまでも,期待と見込みを前提とした不定さの中にある。まずは,この点が特徴として確認されることとなる。

サービス・デリバリーへの顧客参加の必要性とその困難性

第2が,顧客参加の必要性とその困難性である。すなわち,「便益遅延型サービス」においても,その価値形成に際しては,他のサービス消費と同様に顧客参加が求められるが,一方で,その特性上,顧客参加の実現には困難性が伴うということである。

ここで,サービス消費における顧客参加の必要性について確認しておく。まず,「消費」とは,「消費者自身の保有する消費資源を用いて,モノやサービスの選択を行い,そこから望む便益を引き出し,同時にそれらを享受する活動」として捉えられる5)。この視点からすれば,モノの消費においては,便益を得るために,モノを取り揃えた後,顧客が必要とされる活動の全てを負担しなければならないことになる。これに対し,サービス消費の場合は,その負担の一部を提供者側が引き受けてくれる。この点が,モノ消費に対するサービス消費の特徴の1つとなる。

但し,サービスの場合でも,全ての負担を提供者が引き受けてくれるというわけではない。それは,あくまでも,その一部分が引き受けられるにすぎない。多くの場合,「サービス組織(従業員あるいは/および設備・機器)は顧客の遂行すべき活動の一部を引き受け,顧客と協働することで,顧客と望む便益としての変化を生み出す」のである6)。この視点からすれば,サービスとは,「顧客が望む便益を生み出すための活動をアシストする活動である」と位置付けられる。そして,顧客がサービス消費によって享受できる便益の質については,「顧客自身による活動遂行のあり方,すなわち顧客がデリバリー・プロセスに積極的且つ適切に参加した程度に大きく依存する」ということになる7)。ここに,サービス消費において形成される便益の決定に大きく関わる必要不可欠な要素として,顧客参加が求められることになるのである。

こうして,サービス消費には,顧客参加の必要性が強調されることになるのであるが,その一方で,「便益遅延型サービス」には,その顧客参加の実現に困難性が伴うことが課題となる。参加意欲の形成の観点から,次の2つの特徴に起因する困難性が指摘される。

まず1つが,先に確認した便益享受の不定性である。先にみたように「便益遅延型サービス」においては,便益の発現が遅延するため,そのサービス・デリバリーにおいては,顧客がサービスの便益としての変化(結果・効果)を知覚できない。このことは,当該サービス・デリバリーから享受できるはずの便益を,顧客が消費資源を投入する誘因にはしえないことを意味する。このため,積極的な参加を促すモチベーションは形成され難くなる。

もう1つが,さらに,そのサービス・デリバリーにおいては,顧客に心理的負担や身体的負担を生じさせるような参加を求めなければならない場合があるということである。例えば,医療サービスにおける苦痛を伴う治療行為や教育サービスにおける不得手な学習の負荷などがその典型である。このことは,顧客の消費資源を投入する誘因となりえないばかりか,そのサービスの提供を受けることを忌避するような感情までをも引き起こす要因ともなる。このため,顧客参加の意欲はさらに形成され難いものになるのである。

ここに,「便益遅延型サービス」のマネジメントの論点の1つが明らかとなる。すなわち,サービス・デリバリーの結果として顧客が望む水準の便益を享受するためには,顧客参加が求められる。しかしながら,「便益遅延型サービス」には,顧客参加を促進する条件が備えてられておらず,さらにはその阻害要因までをも内在していることがその特徴となるのである。こうした特徴のもとで,いかに,顧客参加意欲を確保していくことができるのか,これが1つの課題とされることになる。

品質あるいは顧客満足評価の困難性

第3が,品質あるいは顧客満足評価の困難性である。すなわち,目的とする便益の発現に時間的なズレが生じることに伴って,サービスの便益としての変化(結果・効果)に関する評価が困難になるということである。

例えば,顧客満足度調査をサービス・デリバリーの終了時点において行うという事例がよくみられる。しかし,「便益遅延型サービス」では,サービス・デリバリーの終了時点においては,目的とする便益(効果・成果)はまだ発現していない。このため,この時点では,そのサービスに本来求められている便益に関する評価は不可能であるということになる。また,一定の時間経過後にあらためて評価を行うことも困難である。個々の顧客による効果の発現の多様性やサービス・デリバリー・プロセス終了後に生じる様々な影響要因の作用が考えられるため,当該サービスによる便益のみを抽出し評価することは困難であるからである8)。ここに,「便益遅延型サービス」によって得られた便益の品質や,それに対する顧客満足の評価をいかに行うことができるのか,ということが,1つの課題とされることになる。

3  リサーチ・クエスチョンの設定

こうした認識のもと,「便益遅延型サービス」にみとめられる顧客参加の困難性の課題に焦点をあてつつ,「便益遅延型サービス」に想定される特徴を明らかにするとともに,そのマネシメントの可能性への示唆を見出していくことが,本稿の目的となる。

着目する問題は「便益遅延型サービスにおいて,ポジティブな参加意欲はいかに引き出されうるのか」である。本稿では,この問題意識のもと,医療サービスを対象に,参加意欲の向上の困難性が想定されるにも関わらず,ポジティブな参加意欲がみとめられる患者のインタビューから得られた質的データ分析を通して,探索的に,その認識の特徴を確認するとともにマネジメント可能性を検討していく。設定するリサーチ・クエスチョンは,次の3点である。

形成される便益とそのタイミング

第1が,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の医療プロセスでは,どのような便益がどのようなタイミングで形成されているのか」である。これは,本稿における問題設定の前提となる「便益遅延性」のあり様を確認する作業となる。

この確認及び分析にあたっては,藤村(2011)及び藤村・森藤(2015)に整理された,医療サービスの便益を3つの便益で捉える枠組みを用いていくこととする。藤村(2011)及び藤村・森藤(2015)は,医療サービスから得られうる便益として,「機能的便益」,「感情的便益」,「価値観的便益」の3つを提示している。

「機能的便益」とは,疾病の身体的回復あるいは改善に関わる便益である。疾病によって生じる身体的健康度の低下を患者が望む元の状態に戻す(身体的健康度を回復させる)便益であるとされる9)

「感情的便益」とは,疾病による身体的健康度の低下は心理的健康度の低下をもたらすことから,患者にこの心理的健康度の回復・維持を提供する便益である。この心理的健康度の回復・維持は,疾病に伴う不安の低減/解消と診断プロセスでの感情的快適性(安定性)の維持の2つによって構成されるものとされる10)

「価値観的便益」とは,疾病や治療に対する認識・姿勢,生きることの意義や生き甲斐に対する態度にポジティブな変化を導く便益である。医療サービスは必ずしもすべての身体的健康度の低下を回復できるわけではなく,回復が不可能な疾病,部分的にしか回復できない疾病,あるいは後遺症や手術痕が残る疾病もある。このことから,それらに対応できるように患者の人生観や価値観の転換を図るような便益が,この便益となる11)

本稿では,医療サービスの便益をこの3つの便益で捉える枠組みによって整理しつつ,これらの便益が,どのように形成されているのかを確認していくことを通して,便益遅延性のあり様を確認していくこととする12)

参加意欲が高い患者の認識や行為の特徴

第2が,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の認識や行為にはどのような特徴がみられるのか」である。先に見たように,「便益遅延型サービス」では,便益享受の不定性や負担を伴うような参加が求められるという特徴から,サービスの受け手の参加意欲を引き出すことが困難となることが想定される。そうした想定にも関わらずポジティブな参加意欲が確保されている患者には,どのような認識や行為の特徴がみられるのか,ということがここでの確認事項となる。

なお,ここでいう「参加」そして「ポジティブな参加意欲」として捉えられる具体的な行動形式については,本稿では,「顧客との協働による価値の形成」を促進するような参加行動を考察の対象とするという観点から,「自分の症状について自分から詳しく相談していく」,「治療の方針(方法)・薬の内容も納得のうえ,治療を受けている」など,医師・看護師から指示されたことはきちんと守るとともに,自分からも積極的にコミュニケーションをとりながら治療を受けていくような行動形式を「積極的かつ適切な顧客参加」の典型として捉えつつ,分析と考察を進めていくこととする13)

また,ここにおける検討は,あくまでも,インタビュー・データに示された患者の認識や行為の分析となる。このため,本稿では,例えば,「調査対象者の性格」など,調査対象者にもともと備わる特性を想定し,参加意欲の発現をその特性に還元して理解・分析するといったアプローチをとるものではない。あくまでも,インタビュー・データに示された認識と行為そのものを理解・分析の対象として捉えつつ,検討を進めていくこととする。

患者参加意欲への影響要因

第3が,「ポジティブな患者参加意欲の形成に影響を与える要素は何か」である。ここで,「影響を与える要素」としては,「医師」,「看護師」,「スタッフ」,「設備・環境」,「他の患者」等,サービス・エンカウンターの構成要素を想定している14)

この点に関しては,藤村・森藤(2015)において,質問票調査による統計的なデータ分析から,特に,医師との関係性が顧客参加に直接的な影響を及ぼすことも指摘されているところであるが,本稿でもあらためて,患者インタビューによる質的データ分析を行うこと通して,患者の参加意欲の形成に関してこれらの要素がどのように影響するのかを確認していくこととする。

4  調査対象と分析方法

以上のような問題意識及びリサーチ・クエスチョンに示される検討課題について,ポジティブな参加意欲が確保されている患者の事例を通して検討していく。本稿が分析対象として取り上げるのは,α病院の乳がん患者3名のインタビュー・データである。以下,本章では,そのインタビュー・データが収集された調査の実施概要と分析対象の選定理由及び分析方法を整理していく。

4.1  調査実施概要

本稿が今回の分析の対象とするインタビュー・データは,2012年3~10月にわたり,5つの病院における入院患者及び外来通院患者を対象に実施される調査において収集されたものである15)。がんや怪我をはじめとした急性疾患,リウマチや糖尿病などの慢性疾患など,多様な症例の患者を対象に,インタビュー・データの収集が行われた。5病院全体での調査実施件数は合計で54件である(表1参照)。

表1  インタビュー調査の実施概要
病院名 調査実施件数 内訳 調査期間
α病院 10件 がん(乳):5件
リウマチ:3件
心筋梗塞・心筋症:2件
2012年7~10月
a病院 2件 がん(腎,膀胱):2件 2012年3月
b病院 2件 アトピー:1件
痛風等:1件
2012年3月
c病院 38件 がん・腫瘍:17件
循環器(心臓・血管・肺):6件
高血圧:5件
糖尿病:9件
その他:1件
(※調査時点での主な疾患のみ記載)
2012年4~7月
d病院 2件 腱板断裂:1件
その他:2件
2012年8月

インタビューは,1名の調査対象者と1~2名のインタビュアーが同席する中で,医療サービスに関する印象的な出来事や認識の変化,また,医療プロセスへの参加意識等を聞き取る形式で行われた。聞き取り項目を整理したインタビュー・ガイド(表2参照)のもと,調査対象者の認識等を可能な限り共有していくべく,その場の状況に応じて,比較的オープンで自由度の高い対話のもとで進められた16)

4.2  分析対象の選定

この調査で収集されたインタビュー・データの中から,今回の分析対象とするのは,α病院の乳がん患者3名のインタビュー・データである。α病院では,合計で10件,そのうち,乳がん患者については5件のインタビュー・データが得られたが(表3),この中から,A氏,C氏,E氏の3名のデータを今回の分析対象として選定した。その選定理由は以下のとおりである17)

表2  「インタビュー・ガイド」の内容
これは,あなたやご家族が医療サービスを受けたときのことを思い出して,どのような気持ちであったかをうかがうものです。良い回答悪い回答はありませんから,ありのままのお気持ちを思い出してご回答ください。できればもっとも印象深いエピソードを思い出してご回答ください。時間制限としますので,長引いても30分前後で終わらせて頂きます。
(1)この病院の医者,看護師,病院のスタッフ,医療施設,医療技術など印象深く感じたことはどのようなことでしたか。
(2)初めてこの病院に来る前と,来てから,また治療を受けている間に,この病院の医療サービスについての「評価(満足,不満足)」や「特に注意してみるようになった点」 は変化しましたか。
(3)医療サービスについての評価の変化はいつ頃でしたか。そのきっかけ(エピソード)は何でしたか。
(4)医療サービスと他のサービス(たとえば,レストラン,ホテル)とでは,サービスについて違いがあると考えますか。
(5)この病院にかかって,良かったと思っていることは何ですか。またあなた自身がどのように変わりましたか。
(6)あなたは病気を治すために積極的に関わりましたか。具体的にどのようなことをしましたか。
(7)この病院にかかっていて,自分自身が今どれくらい治ったと感じていますか。
表3  α病院における乳がん患者へのインタビュー・リスト
調査対象者 病状 調査実施日 調査場所
A氏 乳がん・手術あり・退院後,化学治療中 2012年7月 α病院
B氏 乳がん・手術あり・退院後,化学治療中 2012年7月 α病院
C氏 乳がん・手術あり・退院後,化学治療中 2012年7月 α病院
D氏 乳がん・手術あり・退院後,化学治療中 2012年7月 α病院
E氏 乳がん・手術あり・退院後,化学治療中 2012年9月 α病院

分析手法との適合性

第1が,分析手法との適合性である。次節にみるように,今回の分析にあたっては,対象者の発話において,定性的コーディングや文書セグメント化,そして,脱文脈化と再文脈化に耐えうるデータとなっていることが求められる。また,あわせて,その内容においては,単にインタビュー・ガイドに設定された設問に対する一問一答型の回答ではなく,思いやものの見方をできる限り共有する中で,対象者の自発的な発話が実現しているインタビュー・データとなっていることが求められる。

こうした観点から,今回の分析対象の選定にあたっても,まずは,この2つの条件が可能な限り実現しているサンプルであることを確認した。すなわち,第1に,1つの経験を中心に時間経過における患者の認識の形成や変化におけるコーディングが可能となっていること,第2に,対象者の自発的な発話を軸とした語りが可能な限り実現していることである。α病院の乳がん患者のインタビュー・データは,その分析を可能とするデータとなっていることが確認された。

理論仮説との適合性

第2が,理論仮説との適合性である。α病院における乳がんの診療体制及び乳がんの疾患面の特徴から,これらの事例が,今回の課題である「便益遅延性」の分析に適合する対象の1つとして捉えられると判断されたことが挙げられる。

まず,α病院における乳がんの診療体制面における適合性であるが,α病院は,一般病床数が約570床,標榜科は35科を有する地域での基幹的な役割と機能を持つ病院である。同病院では,2015年の乳腺疾患の手術実績でみても169件と多くの乳がん治療が行われているが18),乳がん治療においては標準的な治療プロセスが一定程度確立されており,治療の経過を確認しやすい症例の1つであると認識されている19)。このため,初期の診断や検査から,入院,手術,そして退院後の外来での治療といった治療プロセスの区分や期間が識別しやすく,今回の分析の中心の1つとなる各治療プロセスを振り返っての評価や認識を得やすいものと判断される。

次に,乳がんの疾患面における適合性であるが,この点については,先に「便益遅延型サービス」の論点として整理した3つの特徴からみても,それぞれの特徴への適合性が明確にみられる疾患であることが挙げられる。

まず,第1の便益享受の不定性に関しては,乳がんもがん疾患の一種として生命への直接的な関わりが意識される疾患であるが,それと同時に,がんと診断されてからの生存率は比較的高く,また,標準的な治療プロセスも一定程度確立されている疾患であることが挙げられる‍20)。このため,乳がんの治療においては,一方では,生命への直接的な関わりが意識される重篤な疾患であることを意識しつつ,他方では,手術後の化学療法や経過観察なども含め中長期にわたっての治療の継続が求められることになる。こうした特徴から,少なくとも,治療の成果や治癒の判断は先に送られることを前提とした疾患であり,医療サービスから得られる便益には遅延がみられるとともに,その便益の享受には不定性が伴うという特徴をもった疾患であるといえる。このため,本稿でいう「便益遅延型サービス」の特徴をもって捉えられる典型的な疾患の1つであると判断される。

第2の顧客参加の必要性と困難性に関しては,乳がん治療においても,その治療プロセスへの患者参加が求められるものとなる一方で,便益享受の不定性,そして,患者への心理的あるいは身体的負担は大きい。こうした特徴から,「便益遅延型サービス」に想定された顧客の参加意欲の形成の困難性が生じることが想定される。

なお,この疾患は,生命に直接的な関わりが意識されるという特徴も持つため,他の慢性疾患等と比較すれば,積極的な参加行動がとられやすい疾患であるとの想定もありえるかもしれない。しかしながら,例えば手術後の長期にわたる再発リスクとの対峙や5~10年を予定するような再発予防のための治療の継続をはじめとした不定性の高さ21),また,乳房の切除などの身体への侵襲の大きさや抗癌剤治療をはじめとした化学療法等に伴う心理的・身体的負担の大きさ,こうした特徴が当該疾患にはみとめられるという点には留意が必要である。すなわち,こうした特徴が,患者の治療プロセスへの参加意欲のみならず,参加行動をも抑制するような影響を及ぼすことが想定されることになるのである。例えば,α病院の乳がん患者のB氏のインタビューでは,下記のような発話が示されている22)

 

B氏:ただ,抗がん剤については,これから続けた方がいいのかどうか。先生にはよく言えないのですけど。(中略)。1回目はちょっと頑張って一応やってみて,もし再発するようなことがあれば,「やめてください」と。(中略)。寿命は縮まってでも,この辛さ,副作用が嫌です。これであと2~3年生きられるということだったらもうしません。これで10年先20年先まで生きられる,というんだったら頑張ってみようと思うけど,ただ2~3年,寿命を伸ばすぐらいだったら,寿命が縮まってもこの副作用だけは嫌です。

 

こうした認識からみても,当該疾患は,「便益遅延型サービス」の課題として想定される「顧客参加の困難性」をもって捉えられる疾患の1つであると判断される。

第3の「品質あるいは顧客満足評価の困難性」に関しては,以上にみた,第1,第2の特徴のもとで,当該疾患においても,「便益遅延型サービス」の特徴として,目的とする便益が発現していない中での評価となることに起因する困難性が生じることが想定される。

以上のような確認から,α病院の乳がん患者の事例は,理論仮説との適合性という観点からも,本稿が想定する「便益遅延型サービス」の特徴に典型的に適合する事例の1つとして捉えられるものであり,調査対象としての妥当性を判断するものである23)

リサーチ・クエスチョンとの適合性

第3が,リサーチ・クエスチョンとの適合性である。本稿では,「便益遅延型サービスにおいて,ポジティブな参加意欲はいかに引き出されうるのか」という問題に着目した。そして,便益遅延型サービスの特徴に起因する困難性が想定される中においても,サービス・デリバリー・プロセスへのポジティブな参加意欲が確保されている患者の事例の分析を通して,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の医療プロセスでは,どのような便益がどのようなタイミングで形成されているのか」,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の認識や行為にはどのような特徴がみられるのか」,「ポジティブな患者参加意欲の形成に影響を与える要素は何か」というリサーチ・クエスチョンを検討していこうとするものであった。

この点について,先にB氏の発話に確認されたようなネガティブな事例もみられる一方で,A氏,C氏,E氏の3氏においては,次章以降でみていくように,今回の調査問題の分析対象とした「ポジティブな参加意欲がみられる患者」という特徴で捉えられるデータであると判断された。このため,A氏,C氏,E氏の3名のデータを今回の分析及び考察対象として選定することとしたものである24)

4.3  分析方法

インタビュー・データの分析は,主として,佐藤(2008)に示された「質的データ分析」の枠組みに基づいて進められた。佐藤(2008)が示す質的データ分析とは,「事例―コード・マトリクス」を用いた「脱文脈化」と「再文脈化」による分析及び記述手法である。調査現場で得た質的データの分析にあたり,その文脈を損なわずに研究課題上の意味への翻訳と記述を可能とする手法とされる。

質的データ分析の手続きとしては,まず,インタビューを録音した音声データを全て文字に起こしたテキストデータを作成し,「定性的コーディング」と「脱文脈化」を行う。「定性的コーディング」とは,収集されたテキストデータに対して,それぞれの部分が含む内容を示す「コード(定性的コード。以下,同じ)」を付与していく作業である25)。この作業でコードが付与されたひとかたまりの文章(部分)は「文書セグメント」と呼ばれる。この「文書セグメント」を,そこに埋め込まれていた文脈から切り離し,その後の分析にとっての基本的な素材ないし部品のようなものとする手続きが,「脱文脈化」(あるいは「セグメント化」)である26)

次に,脱文脈化された文書セグメントを研究課題や理論に応じた報告・分析資料へと組み上げていく作業を行う。これが「再文脈化」である。再文脈化には,文書セグメントを分類・配列していく「データベース化」の段階(第1段階の再文脈化)と,データベース化された部品を報告書の文章という新たな文脈の中に組み込んでいく「ストーリー化」の段階(第2段階の再文脈化)がある27)。質的データ分析の結果は,最終的にはこのストーリー化による記述において提示されることとなる。

そして,このストーリー化の際に行われる作業の1つが「事例」と「コード」を2軸としたマトリクスに文書セグメントを位置付けていく作業である。その作業は「事例―コード・マトリクス」として整理される28)

本稿においては,以上の枠組みを基礎としつつ分析を進めた。次章以降,これらの分析結果を示していく。

5  事例記述(再文脈化・ストーリー化)

前章に示された枠組みによる分析結果として,本章では,まず,分析対象とした3氏の事例記述を提示していく。

事例記述は,前章にみた質的データ分析の手続きに基づいて行った再文脈化(ストーリー化。以下同じ)の結果として示されるものである。ここでは,各インタビュー・データから得られた文書セグメントを,診療プロセスに沿って分類及び配列し,それを再文脈化していくという手順により,記述を進めた29)。事例記述の単位は「患者」である。

なお,今回の記述にあたっては,文書セグメントの区別ができるよう,「A-1」の例により,記述順に文書セグメントに番号(以下,文書番号という)を付記している。また,各文書セグメントには,「受診経緯:自身の気づき」の例により,当該文書セグメントが位置付けられる医療プロセスの段階を示すとともに,オープン・コーディング30)の考え方により付与されたコードを付記した。以下,A氏,C氏,E氏の順に,事例記述を提示していく。

5.1  A氏の事例

まず,A氏の事例をみていく。A氏の事例として,A-1からA-14にみられる14の文書セグメントをもとに再文脈化を行った。その事例記述は以下である。

A-1.受診経緯:「自身の気づき」,「知人の紹介による病院の選定」

A氏が,乳がんの疑いを抱いたのは,自己診断によるものであった。自宅で入浴中に,異常に気が付いた。以前に友人からα病院の医師が良いということを聞いていたため,まずは,検査をしてもらおうとα病院を訪れた。

A-2.当初診断:「白黒はっきりさせたい」

α病院では,「良性かもしれないが調べておこう」ということになり,精密検査を行った。精密検査では,いくつかの選択肢が提示されたが,その中から,より辛いが精度は高いとされる「マンモトーム」という検査器具による検査を選択した。その際の気持ちは,「やはり,白黒をはっきりさせておきたい」,「マンモトームなら99%分かるということなので,同じやるならがんばろう」というものであった。

A-3.当初診断:「告知」,「乳がん患者になった」

精密検査の結果,乳がんであることが判明した。告知を受けた際のA氏の印象は,「今まで普通にしていたのに,そこから,本当に,手のひらを返したみたいに,乳がん患者になった」というものであった。このように,告知は,A氏を「乳がん患者」とさせた。

A-4.当初診断:「分かるまでの恐れ」

但し,より辛く感じたのは,告知を受けた後よりも,その結果を知らされるまでの間の方であった。検査結果を待つ間,「自分はどのようになっていくのか」,「テレビでみたことのあるような,のたうちまわるような,本当に辛い状況になるのではないか」と最悪のことばかりを考え,恐怖を感じていた。

A-5.当初診断:「告知の受け入れ」,「治療への踏ん切りがつく」

しかし,むしろ,告知を受けたことで決心がつくこととなった。「告知を受けた時にも,愕然として辛かったが,後はもう放っておくわけにはいかない,という踏ん切りがついた。それまでの方が,本当に泣けた」というものであった。

A-6.手術前:「告知のショック」,「医師による病状説明と治療方針の相談」

一方,告知のショックの中で,A氏は,「私の命はどうなるのか」と泣きながら医師に質問をした。それに対し,主治医からは,「今からしっかりと治療をすれば,80~90%は大丈夫だろう」,但し,「手術をして,検査に出してみないと分からないため,100%とは言えないが,治療していこう」という旨の説明を受けた。A氏は,「手術はなるべく早くしてほしい」と主治医に相談した。次の日から,あらためて,いろいろな検査が始まった。

A-7.手術前:「新たな癌の発見」,「医師からの治療方針の説明」,「医師への一任」

検査の結果,もう一方の胸にも乳がんがあることが発見された。A氏は,相当なショックを覚えた。

この際,主治医からは「まだ腫瘍が小さいため,まずは,温存手術(「乳房温存手術」のことを指す。以下,同じ。)でいけるだろう」という説明を受けた。そのうえで,その後あらためての切除が必要かどうかなどについては手術をしてみてからの判断となること,両方の胸とも手術する方針であることなどの説明があった。

A氏は,「両方とも駄目な場合もあるのでは」と「悶々と」する状況であったが,医師の説明のもと,「もうそこから先は自分で悩んでもどうしようもない」,「医師を信頼するしかない」という思いに至った。

A-8.手術前:「医師からの回答」,「医師への一任と信頼」,「セカンドオピニオンの見送り」

この段階に至るまでには,A氏は,セカンドオピニオンを受けてみることも考えていた。α病院の評価も高かったが,その他にも,近隣には,手術例が多かったり,経験ある医師がいる病院がいくつかあることを,家族や友人あるいは自身でも調べて知っていた。このため,もし,α病院の医師から,曖昧な診断や納得できない回答しか得られないような場合には,たとえ,その医師がどのような態度をとろうとも,セカンドオピニオンを受けようと考えていたのである。

しかし,結果として,A氏は,セカンドオピニオンを受けることはなかった。その理由は,α病院の医師が,A氏が訴える様々な心配事に対して,「全てこたえてくれた」からであった。このため,A氏は,「この先生であれば大丈夫。任せよう」と思った。そして,この病院で「信頼をおいて」手術を受けるに至った。

A-9.手術実施:「担当医から無事終了の説明」

手術は,結果として,両胸とも温存手術により終了した。手術後,麻酔が醒めた後,A氏は,痛みを感じるとともに,身動きがとれずにベッドに寝たままの状態であった。このため,自分では,どのようになっているのか分からない状態であった。そうした状況が続く中,A氏が,手術の結果を聞いたのは,手術後4時間ほど後,担当医(主治医とともに補助的に担当としてついている医師。以下,同じ)からであった。病室を訪れた担当医が「どうですか」と声をかけてくれるとともに,全て温存手術により無事終了したことを教えてくれた。その際に,A氏は,はじめて自分の状況が分かり,泣いて安心した。この経験から,A氏は,手術の結果がどうであったのかをもう少し早く知らせてもらえれば,患者はより安心するだろうとの印象を持った。

A-10.手術後:「担当医からの声かけ」

その後も,支えとなったのが,担当医の対応であった。担当医は,必ず病室を訪れ,「大丈夫」,「また来るから」と声をかけてくれた。また,「何か心配事などはないか」,「あれば全部こたえるから」と言ってくれた。これらは,A氏にとって「すごく心丈夫」であった。

A-11.抗がん剤治療前:「抗がん剤治療への不安」,「看護師の体験談」

退院前に,A氏を不安にさせたものが,抗がん剤治療の方針であった。退院1週間後に出される検査結果により,抗がん剤治療を受ける必要があるかどうかが分かることとなっていた。A氏は「抗がん剤治療を受けずに済めばよいのだが,やはり受けることになるのだろうか」と思い悩んでいた。

その悩みを聞いてくれたのは,看護師であった。その看護師は,自身も抗がん剤治療の経験をしたことがあった。その経験から「怖い気持ちは痛いほど分かる」と言ってくれた。また,「自分も受けたが,今はこのように仕事もできている。だから,万が一受けることになったとしても大丈夫ですよ」と話してくれた。このような話をしてくれたことも,A氏にとって「心丈夫」であった。

A-12.抗がん剤治療前:「すぐに相談できる環境」

そしてさらに,抗がん剤治療を受ける気持ちの後押しとなったのが,「心配な時にすぐに相談ができる」という環境であった。まずは,電話での対応である。看護師から「何か少しでも気になることがあればすぐに外来に電話してください。外来で8割方は対応できるから」というように言ってもらった。実際に電話してみるとその通りの対応であった。

A-13.抗がん剤治療:「看護師に何でも聞ける」

また,看護師には,「外来の際も,何でも聞いてくれれば」とも言ってもらった。「心配事を持っていても何のプラスにもならない。自分だけで悶々とするのであれば,何でも言った方がいい」と言うことであった。A氏は,看護師のこうした言葉に力強さを感じた。

A-14.現在の心境:「今後の治療への覚悟」,「病気を前向きに捉える」

A氏は,今後,自身いわく「がんのフルコースみたいな感じ」という治療を,5年計画で続けていく予定である。医師からの説明を受け,「もう一つひとつ山を越えていくしかない」,「一つずつ乗り越えよう」という思いで治療に取り組んでいる。

また,現在(インタビュー調査時点。以下同じ)の心境としては,「辛いけれど,再発を防ぐために,その治療を続けていこう」そしてさらには,「これからの人生を元気で生きていくために,今,がんが見つかったのだ,というような捉え方をして,これからの治療を続けていこう」,こうした思いのもとに,治療に向かっている。

5.2  C氏の事例

次に,C氏の事例をみていく。C氏の事例として,C-1からC-8にみられる8つの文書セグメントをもとに再文脈化を行った。その事例記述は以下である。

C-1.受診経緯:「自身の気づき」,「自分で病院を探す」

C氏は,自分自身でしこりを見つけ,地元の病院を訪れた。そこで乳がんであることが判明した。但し,その後,その病院は選ばなかった。その理由は,乳腺外科がなかったこと,病院で近所の知り合いに会うようなことを避けたかったこと,病院の対応がよくなかったことである。また,地元よりも市内の病院の方がよいと考えたことも理由の1つである。

そこで,紹介等は受けずに,自分でインターネットによって調べ,α病院を選択した。α病院を選んだ理由は,公共交通機関で通える範囲であったこと,また,インターネットの検索では「先生や技師が優しい」,「女性に優しい」など,評価が高かったことである。

C-2.当初診断:「告知」,「恐れ」,「告知の受け入れ」,「治療の土俵に上がる決意」

乳がんの告知は,地元の病院で受けた。最初,病名を聞いたときは,怖れを感じた。しかし,「自分だけではなく他にも多くの患者がいる」ということ,「もうやるしかない」ということ,こうしたことを考え,治療の土俵に上がることを決意した。

なお,その際の説明から,当初は,全摘出手術(「乳房切除術」のことを指す。以下,同じ。)であれば,抗がん剤治療はしなくてよいと思っていた。

C-3.手術前:「入院病棟に関しては不満を感じる」

α病院を受診したC氏は,まずは「外来の対応は優しい」という印象を持った。但し,入院後,自身のベッドが産婦人科病棟に割り当てられたことに関しては不満を感じることになった。産婦人科病棟はきれいな病棟で人気もあった。しかし,産婦人科は比較的元気な患者が多く,C氏にとっては,居心地が悪く感じられた。また,病棟の看護師も産婦人科の患者への対応が中心であり,乳がんの手術等に関する対応には不十分な点があるように思われた。実際,手術時に必要な消耗品の間違いに気付いてもらえず,痛い思いも経験した。

C-4.手術実施:「手術は予定通り終了」,「転移の判明」

こうした中,手術の実施に至る。予定通り,全摘出手術となった。しかし,リンパ節に転移していることも判明した。

C-5.手術後:「抗がん剤治療の相談」,「医師からの説明」,「受診の決断」

転移があったことを知り,「抗がん剤治療を受けなければならないのでは」と思ったC氏は,そのことを主治医に聞いた。その結果,主治医から「抗がん剤治療はした方が良いだろう」という説明を受けた。

抗がん剤治療については,C氏は,当初の診断時から,全摘出手術であれば,受けなくてもよいと思っていた。このこともあり,やはり,抗がん剤治療は受けたくなかった。しかし,主治医が「この結果であれば,恐らく,どこの病院に行っても抗がん剤治療を受けたほうがよいと言われるだろう。もちろん,それでもしたくないということであれば,しなくてもよいが」という説明をしてくれた。こうした説明を受けて,C氏は「どこに行っても一緒ということであればここで受けることとしよう」という思いに至る。その結果,α病院で,抗がん剤治療を受けることを決意した。

C-6.手術後:「専門看護師への相談」,「電話での相談」,「看護師は優しく丁寧」

手術前には,病棟に関する不満も経験したC氏であったが,その他については,α病院の看護師は,総じて「優しくて,丁寧」という印象を持った。

特に,手術後の印象として,C氏が強調したのは,専門看護師の対応であった。「すごく話を聞いてくれた」という印象を持っている。例えば,手術後,「やはり,抗がん剤治療をしたくない」という悩みを相談した際にも,話を聞いてくれたうえ,医師にも話を通してくれた。そして,「心配な事があれば,電話をかけてきても良いから」とまで言ってくれた。C氏は,こうした対応に「優しさ」や「丁寧さ」を感じた。

C-7.抗がん剤治療:「看護師との日常的な会話や細かな相談」

また,退院後の抗がん剤治療では,外来の化学療法の看護師に対しても「優しい」という印象をもった。例えば,抗がん剤の点滴をしている合間に,「子供にはどのような話をしていますか」など,日常的な話や共感的な話をしてくれる。あるいは,医師に聞こうと思っていたのに聞き逃した話や,医師には聞きづらい細かなことなども聞くこともできた。こうした話がしやすい環境であると感じている。

C-8.現在の心境:「とりあえず,この治療をやるしかない」

先にもみたように,当初は,病名を聞いて恐れの気持ちを抱いたが,一方で,治療の土俵に上がることを決意した。そして,今日も,「やりたくないが,やるしかないか」という気持ちで治療に取り組んでいる。振り返ってみると,逆に,再発などの検査をしている時の方が,精神的にはつらかったと思う。C氏は,この後,化学治療のための再入院を控えているが,今は,「とりあえず,この治療をやるしかない」という気持ちで,治療にのぞんでいる。

5.3  E氏の事例

次に,E氏の事例をみていく。E氏の事例として,E-1からE-11にみられる11の文書セグメントをもとに再文脈化を行った。その事例記述は以下である。

E-1.受診経緯:「自身の気づき」,「知人の医師及びかかりつけ医の紹介」

E氏は,数年前から,3カ月毎の定期検査を受けていたが,今回,その検査で,乳がんが発見された。E氏は「自分ではどうしてよいかわからなかった」が,夫の知人である医師に相談をしたところ,α病院がよいのではないかと紹介された。また,かかりつけの個人病院の医師にも「ここが1番いいから」と紹介してもらい,α病院に決めた。

E-2.当初診断:「告知」,「怖さ」

E氏が,乳がんの告知を受けたのは,上記のかかりつけの個人病院である。その病院では,「もう初期とは言えない」などの診断を受けた。それはE氏にとって「怖い話」ばかりであった。

E-3.当初診断:「前向きな治療方針の提示」,「お任せしよう」

α病院を受診したE氏は,覚悟はしつつも,「できれば切除したくない」という思いを医師に伝えた。それに対し,主治医は,「調べてからだが,できる限り温存手術とする方向で行いましょうか」と言ってくれた。E氏は,先に見たように,最初は怖さを感じていたのだが,α病院では「ある程度前向きに,いい方に言ってくれた」ことで,安心感を覚えた。そして「お任せしよう」という気持ちになった。

E-4.手術前:「手術終了まで分からない」,「恐怖感」

但し,その一方で,「手術をしてみるまでは,病状は,はっきりとは分からない」と言われたことには怖さが残された。E氏は,それまでには手術経験もなく,手術そのものについても不安は感じていた。しかし,それ以上に感じていたのが,この「分からない」ことに対する怖さであった。

E-5.手術前:「看護師の親切な対応」,「病院の方が落ち着く」

こうした不安や恐れの中で,落ち着きを与えてくれたのが,看護師の「親切」な対応であった。ここでE氏がいう「親切」な対応とは,「話を聞いてくれた」ということである。E氏は,看護師に自身の不安や怖さを伝えた。看護師は,そのそれぞれに対して「大丈夫ですよ」という話をしてくれた。E氏は,「家にいるよりも,ここに入院したときの方が落ち着く」と感じていた。

E-6.手術実施:「温存手術で終了」

手術の結果は,温存手術であった。また,リンパ節への転移もなかった。「手術は無事予定どおりに終了した」と,医師も安心させてくれた。E氏は,まずは「ほっと」した。

E-7.手術後:「傷口へのショック」,「怖さと苦痛」

しかしながら,その一方で,ショックを受けたのが,術後の胸の状態であった。諦めるのがためらわれた。また,どうなっているのか見るのが怖かった。こうしたことから,自分でもその傷口がみることができない状態だった。そうした中で,手術後,毎日担当が変わる看護師に対して,傷口を見せなければならなかった。この処置は苦痛であった。

E-8.抗がん剤治療前:「怖いイメージ」,「医師と夫の勧めによる決心」

退院後は,抗がん剤治療を受けることとなった。抗がん剤治療に対しては,テレビや周囲の人たちから,例えば,「髪の毛が抜ける」,「体にダメージがある」など様々なことを聞いていた。このため,「手術よりもむしろ抗がん剤治療の方が怖いのではないか」というイメージを持っていた。しかし,医師とともに,夫からも勧められたことから,治療を受けることを決心した。

E-9.抗がん剤治療:「気が重い」,「看護師が気分を晴らしてくれる」

E氏にとって,抗がん剤治療は,当初,考えていたよりも負担の大きいものとなった。それは,予定されていた薬が体に合わず,新しい薬に変えるという対処が行われたためである。それでも,夫の勧めもあり,E氏は,抗がん剤治療を続けたが,来院するのは気分が重かった。抗がん剤は,投与前には体調が良くなっているが,投与後はまた体調が悪くなるからである。「もう,電車に乗っているだけで,気分が悪くなってくる」,「病院に来るとなると,気分的に落ち込む」というような状態であった。こうした中で,支えの1つとなったのが看護師であった。例えば,先にみたような気分が落ち込んだような時に,看護師が「どうですか」など話を聞いてくれて,その気分を晴らしてくれた。

E-10.抗がん剤治療:「看護師が話を聞いてくれる」

また,抗がん剤治療で使用する薬が変わった時も不安であったが,看護師が,点滴の際に見に来てくれた。そして,様子を聞いてくれた。あるいは,点滴の最中には,例えば,抗がん剤の副作用に伴う爪のケアの話など,診察では聞けないようなことも話ができた。E氏にとって,このような環境が支えとなった。

E-11.現在の心境:「怖かったが,今はやってよかったと思っている。

抗がん剤治療については,受けるかどうかには迷いもあった。そして,現在も,髪の毛が抜けるなどの副作用も出ているような状況である。しかし,「あのときやっておけばよかった」と思うくらいであれば,また,再発のことを考えても,今となっては,「やっておいてよかった」と思っている。E氏は,抗がん剤治療の予定を終了し,これからは放射線治療を受けていく予定である。

6  事例の整理と分析

以上,前章では,分析対象とした3氏のインタビュー・データの分析結果として,それぞれの事例記述を提示してきた。本章では,前章の事例記述をもとに,本稿のリサーチ・クエスチョン,すなわち,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の医療プロセスでは,どのような便益がどのようなタイミングで形成されているのか」,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の認識や行為にはどのような特徴がみられるのか」,「ポジティブな患者参加意欲の形成に影響を与える要素は何か」,以上の確認に焦点をあてながら,3つの事例記述を総じて,その内容を整理していくこととする。

考察にあたっては,まず,佐藤(2008)に示された「事例―コード・マトリクス」の枠組みを参考に,事例全体の整理を行う。そのうえで,本稿の問題意識とリサーチ・クエスチョンの視点を中心に,3つの事例記述を総じてみられる特徴に関する確認と考察を行っていく。

6.1  事例の整理(事例―コード・マトリクス)

前章で整理した3つの事例を総じた分析を行うにあたり,まずは,「事例―コード・マトリクス」の枠組みに基づいて各事例を整理する。整理された内容は,表4のとおりである。

表4  事例―コード・マトリクス表
言及された内容 A氏 C氏 E氏
①検査時のネガティブな感情とその解消
 「分からない」ことによる不安・怖さ A-4,A-5 C-8 E-4
 「白黒はっきりさせたい」という気持ち A-2
②告知による認識の転換
 告知によるショックや恐れ A-6,A-7 C-2 E-2
 告知の受け入れ A-5 C-2
 告知による治療への決意 A-5 C-2
 告知による「自己認識の転換」 A-3
③患者と医師との対話(説明・相談)
 患者と医師との対話(説明・相談) A-6,A-7,A-8 C-5 E-3
 患者の意向への配慮,治療方針の共有 A-6,A-7 C-5 E-3
 医師への一任・信頼 A-7,A-8 C-5 E-3
④手術の影響の二面性
 無事終了という認識的な理解 A-9 C-4 E-6
 痛みなどの身体的な実感 E-7
⑤担当医や看護師による切れ目ない支援と協働
 共感的な会話等のやり取り A-11 C-7 E-5,E-9
 患者と医療とのきめ細かなつなぎ A-9,A-10,A-13 C-6,C-7 E-10
 担当医や専門看護師の配置 A-9,A-10 C-6
 電話での相談体制 A-12 C-6
⑥現在の心境
 積極的な参加意欲 A-14 C-8 E-11
⑦その他
 ※上記コードに該当のない文書セグメント A-1 C-1,C-3 E-1,E-8

※表中の数字は,各事例の文書セグメントの番号である。

※「―」は,インタビュー・データに言及がなかった部分である。

表4の事例―コード・マトリクスは,横軸に事例,縦軸にコード(概念的カテゴリー)を配置することにより整理したものである31)

まず,横軸には,3つの事例を前章の記述順に配置している。次に,縦軸には,まず,事例記述内の各文書セグメントに付されたコードの内容を参照しつつ,3つの事例に共通して適用しうる内容に焦点化したコード32)を作成し,そのコードを事例記述の流れに沿う形で配置した。次に,さらに,それらのコードを互いの関連性に基づいてグループ化し,当該グループを集約して表現しうる小見出しを付すことにより整理した。

そして,このように整理した2つの軸によって作られたマトリクスの各セルに,各事例記述から,該当する文書セグメントを配置していくことで,事例―コード・マトリクスを作成した。但し,文書セグメントの内容をそのまま記述するスペースはないため,ここでは,文書番号を該当するセルに記入している33)

なお,同一の文書セグメント内に複数のコードに関する内容が含まれている場合があるが,その場合も,特に注記等は行わずに文書番号のみを記載している。また,事例記述に,該当する文書セグメントがなかったセルについては「―」を記入している34)

6.2  事例の分析(特徴の確認と考察)

以上のような手続きのもとに整理された事例―コード・マトリクスを参照しつつ,以下,3つの事例記述を総じた特徴の確認と考察を行っていく35)

A氏,C氏,E氏の3氏は,事例―コード・マトリクスの「現在の心境」の項目に確認されるように,例えば,「一つひとつ乗り越えよう」(A-14),「今は,とりあえず,この治療をやるしかない」(C-8),「怖かったがやっておいてよかった」(E-11)などというように,治療に対するポジティブな患者参加意欲がみとめられた事例であった。以下,事例―コード・マトリクスに整理されたコードの順に沿って,こうしたポジティブな患者参加意欲が形成された背景や特徴についての確認を行うとともに,考察を加えていく。

① 検査時のネガティブな感情とその解消

医療プロセスの初期段階における検査時にみられた認識から確認していく。ここでは,事例記述に確認された特徴として,次の3点を整理しておく。

第1に,「告知」(病状を告知する診断。以下,同じ)前の検査においては,「状況が分からない」ということによって,ネガティブな感情が強く生じているということである。例えば,「告知を受けるまでの方が泣けた」(A-5),「検査をしているときの方が精神的にはつらい」(C-8)などがそれである。

第2に,このネガティブな感情の原因が,「病気かどうか」という問題とは別に,まずは「不確定な状態そのもの」にあることを患者自身が意識していることが確認されたということである。このため,「不確定なものを確定させる」ことができれば,ひとまず,ネガティブな感情が解消すると認識されている。

そして,第3に強調すべきは,この問題の解消行動が,患者によって,主体的に行われていることがみてとれたということである。例えば,「白黒をはっきりさせたい」(A-2)といった認識とそれに伴う「より辛いが精度は高いとされる検査を選択した」(A-2)といった行動がそれである。

以上の特徴について,形成される便益の観点から整理してみることとする。医療サービスの便益として,本稿では,3章でみたとおり,「機能的便益」,「感情的便益」,「価値観的便益」の3つの便益を想定している。あらためて確認しておくと,「機能的便益」とは,疾病の身体的回復あるいは改善に関わる便益であった。また,「感情的便益」とは,不安の低減/解消や感情的快適性(安定性)の維持を通して,患者の心理的健康度の回復・維持を提供する便益,そして,「価値観的便益」とは,患者の人生観や価値観の転換を図ることを通して,疾病や治療に対する認識・姿勢,生きることの意義や生き甲斐に対する態度にポジティブな変化を導く便益であった。

これらの3つの便益で捉える枠組みの視点から,以上に確認した検査時にみられた認識の特徴を整理するとすれば,この段階では,まず,「分からない」という状態に置かれたことにより,ネガティブな感情が生じたことが確認される。そして,ここでさらに確認されたことは,そのネガティブな感情の解消に向けた「感情的便益」を形成しようという試みが,患者自らの主体的な関与において行われていたということである。患者参加の理解に対する1つの示唆として,いわゆる患者参加として想定されるような枠組みを超えて,患者自身が便益形成の1人の「主体」となるという側面があることが確認される。

② 告知による認識の転換

次に,告知である。告知は,先にみた検査の後に続く段階に位置付けられるが,ここに確認された特徴として,次の3点を整理しておく。

第1に,告知の結果,まずは,「恐怖」や「不安」あるいは「落胆」といったネガティブな感情が生じているということである。例えば,「私の命はどうなるのかと泣きながら質問した」(A-6),「最初,病名を聞いたときは恐れを感じた」(C-2)などがそれである。

第2に,但し,ここで強調される点が,一方で,告知が,その受容の過程を経つつ,「治療への決意」を促すことにもつながっていることがみとめられたということである。例えば,「踏ん切りがついた」(A-5),あるいは「治療の土俵に上がることを決意した」(C-2)などがそれである。

第3に,それとあわせて注目されるのが,告知が,「患者の自己認識や世界観あるいは価値観」(以下,患者の自己認識や価値観という)の転換の契機となりうることがみてとれたということである。例えば,「今まで普通にしていたのに,手のひらを返すように乳がん患者となった」(A-3)というような認識がそれである。ここでは,告知が,いわば,「健康な私」から「病気の私」へ,という患者の自己認識や価値観の変更を迫る契機となっている。

以上の特徴を,3つの便益で捉える枠組みの観点から整理すると,告知は,まずは,ネガティブな感情を生じさせる行為となっている。しかし,ここで強調されるべきは,その一方で,告知が,その受け入れの過程を経つつ,「治療への決意」というポジティブな態度の形成にもつながっているということである。これは,患者が,「健康な私」から「病気の私」へといった自己認識や価値観の変更の契機として,告知をひとまず受け入れるとともに,その受容を基礎とした新たな自己認識や価値観のもとで,治療という行為を,自身が向き合う行為として再構成しようとしている結果であるというように捉えることができる。この観点からすれば,告知は,ネガティブな感情を生じさせる一方で,「価値観的便益」を形成する契機ともなりうることが確認される。

③ 患者と医師との対話による方針共有と信頼の形成

以上において,告知が,患者の自己認識や価値観の転換を迫る契機となり,「治療への決意」に向けた参加意欲の形成を促しうることを確認した。但し,それはあくまでも契機であることには留意が必要である。個人の自己認識や価値観は強固に形成されており,そう簡単に転換するものではないということは確認しておくべきであろう36)。こうしたことを念頭に置きつつ,次に,手術に至るまでの患者と医師との関係に関する特徴をみていく。事例記述に確認された特徴として,次の3点を整理しておく。

第1に,事例記述では,医師による治療方針の検討や説明とあわせて,「自分の症状について自分から詳しく相談していく」といった患者参加が行われつつ,治療方針等が共有されていく様子がうかがえたということである。例えば,A氏の治療方針の相談の経緯(A-6,A-7)や,C氏が抗がん剤治療を決断するまでの経緯(C-5)がそれである。

第2に,事例記述では,医師からの治療方針等が,患者の意向を配慮あるいは反映する形で提示されていることが確認されたということである。例えば,「できる限り温存手術で処置するという方針の提示」(A-7,E-3)や,「抗がん剤治療の選択に関する説明」(C-5)がそれである。この特徴からみてとれる点は,医師から患者への一方向的な方針の提示ではなく,患者と医師との対話の成立がみられるということである。ここでいう「対話」とは,医師は「乳がんの治療方針を提示できる医療の世界の専門家」として,また,患者は「乳がんの治療に向かう患者の世界の当事者」として,それぞれの話を互いに理解し合いながら最終的な方針が取り決められていくといったコミュニケーションのことを指している。治療方針への患者の意向の配慮や反映は,こうした対話の成果として捉えうる。

第3に,医師への信頼感が形成されている様子がうかがえたということである。例えば,A氏がセカンドオピニオンを見送った経緯(A-8)やE氏の治療方針の決定の経緯(E-3)などがそれである。この背景には,上記にみたような,患者と医師との対話の成立やそれを基盤とした治療方針の共有などがあると捉えられる。

以上の特徴を,3つの便益で捉える枠組みの観点から整理すると,まずは,互いの対話や治療方針の共有に際して,「安心」や「信頼」などの「感情的便益」が形成されていることが挙げられる。そして,もう1つ確認しておくべきは,「価値観的便益」の形成である。患者と医師の対話の成立やそれに基づく治療方針等の共有は,「病気の私」という自己認識や価値観の形成を促すという意味で,「価値観的便益」を形成しうる。先に,患者の自己認識や価値観の転換がそう簡単に実現するものではないことを確認したが,こうした課題に対して,ここでの「価値観的便益」の形成は,その転換を支える要素となりうる。

また,事例記述からは,医師との関係において,一定の患者参加がなされていることがみてとれた。ここでいう患者参加とは,「自分の症状について自分から詳しく相談する」,「治療の方針(方法)・薬の内容も納得のうえ,治療を受ける」といったものであった。これらは,上記にみたような,患者と医師との対話の成立や治療方針の共有を基礎としたものであると理解しうる。すなわち,以上にみたような「感情的便益」や「価値観的便益」の形成が,このプロセスにおける参加意欲の形成の背景にあるものと捉えられる。

④ 手術の影響の二面性

次に,「手術」や「抗がん剤治療」などの身体的な治療を行うプロセスである。このプロセスは,医療プロセスの中でも,特に,「病巣を除去する」というような治療を行うプロセスであることから,医療側からみれば,「機能的便益」に関わる行為として捉えうるものであろう。但し,事例記述では,それとは少し異なる認識が確認された。その特徴として,ここでは手術に焦点を絞り,次の2点を整理しておく。

第1に,患者は,「手術の成功」を,理性的に理解していることがみてとれたということである。ここでいう「理性的な理解」とは,何らかの身体的な回復等の実感には関わりなく,「手術が予定どおり終了した」という認識において理解されているという意味である。例えば,A氏が,「温存のうちに無事終了し,泣いて安心した」(A-9)という一方で,「(無事終了したことは)担当医から聞いて,はじめて知った」(A-9)というような発話にみられる認識がそれである。ここには,手術による機能回復などの身体的な実感とは関係なく,「手術が予定どおり終了した」という説明を理性的に理解することにおいて,「安心」という「感情的便益」が形成されている。

第2に,但し,一方で,その理性的な理解による安心感等には関わらず,患者自身は,身体的な実感として,「痛み」や「苦痛」を感じていることが確認されたということである。例えば,E氏が,「温存手術で,転移もなかったと聞きほっとした」(E-6)という一方で,「傷口へのショック」や「処置の苦痛」(E-7)を感じ,さらには,「諦めることへのためらい」や「傷口をみることへのためらい」(E-7)を覚えたというような事態がそれである。

以上の特徴を,3つの便益で捉える枠組みの観点から整理すると,手術は,一方では,手術の成功という理性的理解に基づく「感情的便益」と「機能的便益」を形成する。しかし,他方では,身体的実感に基づいたネガティブな感情を生じさせるとともに,「痛んだり,動けなくなる」といった意味で身体的には機能を低下させる要因にもなっている。

こうした特徴は,次の2つの点で,前後のプロセスに影響をもたらすと捉えうる。一つが,治療行為に対する理性的理解は,治療方針等の理解も含めて,患者の自己認識や価値観に依存するということである。このため,例えば,医師の理解と患者の理解とに相違や行き違いがある場合には,上記にみたような理性的理解による便益は形成しえないことになる。

もう一つが,治療行為に対する身体的実感は,たとえ,それまでの対話により,患者と医師とが治療方針等を共有していたとしても,例えば,予想していた以上の痛みや辛さを経験することで,「治療を止めよう」と思わせてしまうような契機にもなりうるということである。それは,ここまでに進められてきた,患者の自己認識や価値観の転換を阻害してしまうような事態につながりうることを意味する。

ここからは,まず,手術に至るプロセスにおいては,「患者の自己認識や価値観の転換をいかに進めておくのか」ということ,そして,手術後においては,「患者の自己認識や価値観の転換が阻害されるような事態とならないよう,身体的実感に伴う問題の解消にいかに対処(支援)するのか」ということが課題となりうることが示唆されるといえよう。

⑤ 担当医や看護師による切れ目のない支援と協働

以上,手術を中心に,身体的な治療行為による便益形成と,その後の医療プロセスに及ぼす影響や課題を確認した。こうした課題を以降のプロセスでは引き受けていくことになる。そのプロセスも含め,医師との関係に加えて事例記述から特に強調された点が,患者と担当医あるいは看護師との関係であった。事例記述に確認された特徴として,次の3点を整理しておく。

第1に,担当医あるいは看護師と患者との間に,共感的な会話等がなされていることがみてとれたということである。例えば,「看護師自らの抗がん剤治療の経験談の紹介」(A-11)や,「子供への話に関する話題」(C-7)がそれである。こうしたコミュニケーションにより,患者と医療者との関係が互いの共感的な理解において深められるとともに,安心感や信頼感につながっていることが確認される。

第2に,担当医あるいは看護師によって,患者と医療とがきめ細かくつなげられているということである。例えば,患者と看護師の間では,「医師には聞きづらい話や聞こうと思っていたのに忘れてしまった話を看護師に聞くことができる」(C-7),「爪のケアなどの話を話題にできる」(E-10)などのやり取りが日常的に行われている様子がみてとれた。こうしたやり取りは,まずは,個別の質問に答えることで当座の不安や疑問を解消するとともに,さらには,患者と医師との治療方針の共有の補完なども含めて,患者の世界と医療者の世界とをつなぐことで,相互理解を深める契機となっているものと捉えられる。

第3が,患者と医療者とを切れ目なくつなぐしくみや工夫がみられたということである。例えば,複数の医師によるチーム体制がそれである。主治医に加えて担当医を配置し,担当医がきめ細かなフォローをすることで,A氏と医師との関係が切れ目のないものとされている(A-9,A-10)。あるいは,いつでも電話で相談できる体制もそうである。A氏とC氏が抗がん剤治療を受ける決断を後押ししたのは,この電話での相談体制であった(A-12,C-6)。こうしたチーム体制や相談体制づくりは,患者と医療者とを切れ目なくつなぐしくみとなり,医療プロセスを通じて患者との接点を確保していく基盤になっていると捉えられる。

以上の特徴を,3つの便益で捉える枠組みの観点から整理すると,これらのやり取りやしくみによって,まずは,「安心」や「共感」,「信頼」などの「感情的便益」が形成されている。そして,ここでも,さらに確認しておくべき点は,こうしたコミュニケーションが,患者の自己認識や価値観の転換に影響を与えるという意味で,「価値観的便益」の形成にも寄与していると捉えうることである。患者と担当医や看護師との間の共感的できめ細かなやり取りは,患者のポジティブな感情を形成しつつ,もう一方では,患者を主体化しながら,患者の世界と医療の世界とをつないでいる。そして,その接続のもとに,それぞれの患者が,医療者とともに,自身が治療にのぞむ世界を形成していく,そうしたプロセスを推進していく役割を担っているものと捉えられる。そして,ここにおける患者参加については,ここまでにみたような「感情的便益」や「価値観的便益」の形成において,その動機づけを捉えうる。

7  結びにかえて

以上,本稿の問題意識に基づき,事例記述と事例の整理及び考察を行ってきた。本章では,本稿の結びとして,本稿の考察内容を整理するとともに,本稿のインプリケーション及び限界と今後の課題を提示しておく。

7.1  本稿の考察内容の整理

本稿では,「便益遅延型サービスにおいて,ポジティブな参加意欲はいかに引き出されうるのか」という問題意識のもと,ポジティブな参加意欲がみとめられたα病院の乳がん患者3名のインタビュー・データの分析を通して,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の医療プロセスでは,どのような便益がどのようなタイミングで形成されているのか」,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の認識や行為にはどのような特徴がみられるのか」,「ポジティブな患者参加意欲の形成に影響を与える要素は何か」というリサーチ・クエスチョンに焦点をあてて確認と考察を行ってきた。以下,ここまでの確認と考察から示しうる内容として,リサーチ・クエスチョンの視点から,以下の3つの点を整理しておく。

形成される便益とそのタイミング

第1のリサーチ・クエスチョンは,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の医療プロセスでは,どのような便益がどのようなタイミングで形成されているのか」であった。この点に関して,まず,確認された点は,サービス・デリバリーの各プロセスにおける「価値観的便益」と「感情的便益」の形成であった。特に,ポジティブな参加意欲がみられる患者の認識の特徴として,患者の自己認識や価値観の転換が強調されたが,この転換を支える便益として強調された便益が「価値観的便益」であった。また,それぞれのプロセスで,都度,その形成が確認されたのが,「感情的便益」である。患者参加意欲は,この「価値観的便益」と「感情的便益」とが中心となって,その形成や向上が促されうることが確認された。

そして,ここでもう1つ強調されるべきは,身体的実感としての「機能的便益」の形成については,事例でみたプロセスでは明確にはみられなかったということである。この意味で,特に「機能的便益」については,遅延がみとめられることが確認されたといえる。

参加意欲が高い患者の認識や行為の特徴

第2のリサーチ・クエスチョンは,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の認識や行為にはどのような特徴がみられるのか」であった。この点に関して,まず,強調された点は,患者の自己認識や価値観の転換であった‍37)。事例分析では,「健康な私」から「病気の私」へ,という自己認識や価値観の転換が生じていること,そして,その自己認識や価値観の転換のもとで,「目的とする便益」が再構成されていることが確認された。

具体的に,事例分析において確認された点は,まずは,告知が,その受け入れの過程を経つつ,患者の自己認識や価値観の転換を促す契機となっているということであった。告知はネガティブな感情を生じさせる一方で,「価値観的便益」の形成の契機にもなりつつ,自己認識や価値観の転換が進められていく様子がうかがえた。

あわせて,確認された点が,自己認識や価値観の転換は,決して簡単に進むものではないということであった。例えば手術によって生じた身体的実感を伴う心理的負担あるいは身体的負担によって,新たな自己認識や価値観は揺れ動くことになる。ここにあらためて,「健康な私」と「病気の私」という両者の間での葛藤が確認された。そして,そうした葛藤にも関わらず,ポジティブな参加意欲が形成される背景には,「病気の私」という自己認識や価値観への転換を維持し続けようとする患者の受容努力があることがうかがえた。その新たな自己認識や価値観への転換を支える便益として強調されたのが,「価値観的便益」であった。

患者参加意欲への影響要因

第3のリサーチ・クエスチョンは,「ポジティブな患者参加意欲の形成に影響を与える要素は何か」であった。この点に関して,特に事例から強調された点が,患者と医師,あるいは,担当医・看護師とのコミュニケーションであった。

この両者の相互作用や関係構築の重要性については,例えば,藤村・森藤(2015)などにも指摘されてきたところである。但し,本稿の事例分析によって,あらためて確認された点は,これらのコミュニケーションが,「価値観的便益」の形成に寄与しているという点であった。

まず,患者と医師とのコミュニケーションについては,患者と医師との対話の成立によって治療方針の共有や相互理解が進められること,そしてさらには,その過程における信頼の形成が「価値観的便益」の形成につながっていることが強調された。また,患者と担当医あるいは看護師とのコミュニケーションについては,相互の共感や信頼を深めることで「感情的便益」を形成すると同時に,患者の世界と医療の世界とをつなぐことで協働を促し,ひいては,患者の自己認識や価値観の転換を支えるという意味で,「価値観的便益」の形成に寄与していることが確認された。

こうした「価値観的便益」が,「病気の私」という新たな自己認識や価値観を支えるとともに,その自己認識や価値観を基礎とした便益の判断基準を形成していく。一方,そうした中で,従来の「健康な私」による自己認識や価値観が求めていた「元の状態に回復する」あるいは「治癒する」といった「機能的便益」については,問題の外に置かれることになる。こうしたメカニズムが働くとすれば,たとえ「機能的便益」が「遅延」したとしても,新たな自己認識や価値観のもとで医療プロセスへの参加意欲が維持され向上されうるであろう。ここにひとまず,「便益遅延型サービスにおいて,ポジティブな参加意欲はいかに引き出されうるのか」という問題に対する一定の理解が得られたことになる。

7.2  インプリケーション

以上,前節では,リサーチ・クエスチョンにそって,事例分析から確認された点を整理した。本節では,本稿の考察から得られる理論的及び実践的インプリケーションとして,下記の点を挙げておくこととする。

理論的インプリケーション

まず,理論的なインプリケーションとして,ここでは,「便益遅延性」に関する理論仮説の視点から,次の2点を挙げておくこととする。

第1が,「顧客参加」概念に関する示唆である。本稿の第2章にもみたように,通常,サービス・マーケティング研究では,顧客参加の重要性が強調される。しかし,本稿が対象としたポジティブな参加意欲がみられる患者像に強調される特徴は,患者は,単に,医療プロセスに「参加」する存在ではなく,便益を形成する「主体」として捉えられるような存在となっているということであった。あらためて整理するとすれば,事例に確認された患者像は,「健康な私」という従前の自己認識や価値観との葛藤のもとで「病気の私」という新たな自己認識や価値観を主体的に受容していく,そして,医療者と協働しながら,その新たな自己認識や価値観のもとでの便益の形成に自ら携っていく,そうした患者像であった。既存のサービス・マーケティング研究においても,顧客参加の議論として顧客の中心性を強調する議論は既になされてきているが38),その議論の中に,顧客の中心性や主体性といった視点をより明確に取り入れていくことの必要性や可能性が示唆される。

第2が,「便益遅延性」の理解に関する示唆である。第1の点とも関わるが,ここまでの検討において,医療サービスにおいて形成される便益は,1つには,「患者の自己認識や価値観の転換といった患者自身による現状の受容努力の積み重ねの結果」として,またもう1つには,「便益形成の主体としての患者自身による便益形成に向けた取り組みの結果」として,この2重の意味で,いわば,「必然的に遅れて現れる」ものとなっていることを確認する結果になったといえる。すなわち,この観点からみれば,医療サービスにおける「便益遅延性」の特質は,「所与の便益が遅れて発現する」という理解ではなく,「医療プロセスにおいて,便益形成の主体たる患者と医療者との間で形成されていく便益が,それとして認識されることで発現する」という理解によって捉えられるものとなる39)。ここに,医療サービスに想定された便益遅延性という特性が不可避のものとして立ち現れることが,あらためて確認されたといえる。

但し,本稿に整理されたこの確認は,「便益遅延型サービス」に想定される課題を複雑にするものではなく,むしろ,その課題と本稿の考察内容とをあわせてみたところに,便益遅延型サービスのマネジメントの可能性が指し示されているように思われる。例えば,サービスにおいて形成される便益の識別による課題の整理,あるいは,「生産と消費の同時性」や「顧客との協働」,「価値の共創」など従来から整理されてきたサービスの基本特性と「便益遅延性」との統合的な理解に基づく論点の整理などがそれである。本稿に確認されたような便益形成のメカニズムを視野に入れていくことで,サービス・マーケティング研究の理論的基盤を深めていくことに寄与することが期待される。

実践的インプリケーション

次に,実践的なインプリケーションとして,ここでは,本稿の2章に整理した「便益遅延型サービス」の特徴とそれに起因する問題への対応という観点から,次の3点を挙げておくこととする。

第1に,「便益遅延型サービス」の特徴となる「便益享受の不定性」への対応としては,便益を分解して捉えるという視点の有効性が示唆される。本稿では,藤村(2008)及び藤村・森藤(2015)の整理に基づき,医療サービスの便益を3つに分解する枠組みによって捉えたが,この便益の識別により,特に,遅延性という特性を強く示す便益は「機能的便益」であること,これに対して,「価値観的便益」と「感情的便益」は,サービス・デリバリーのそれぞれのプロセスにおいて便益を形成することにより,サービス提供の1つの目的ともなり得るとともに,患者参加意欲の促進要因にもなりうることが確認された。以上の確認からすれば,例えば,医療サービスのマネジメントにおいては,この3つの便益をうまく識別しながら,サービス・デリバリーのプロセスを設計していくことの有用性が示唆される。同様に,他の便益遅延型サービスのマネシメントにおいても,そのサービスによって形成される便益を分解して捉えることで,サービス・デリバリー・プロセスの新たな設計やマネジメントに関する検討を進めることができる可能性が示唆される。

第2に,「便益遅延型サービス」の問題として指摘される「サービス・デリバリーへの顧客参加の必要性と困難性」への対応については,顧客の自己認識や価値観の転換を図るというアプローチの有効性が示唆される。具体的には,例えば,そのサービスのプロセスにコミットできるような目標をあらためて設定したり,顧客に応じてそのサービス提供を受けた後の将来像をあらためて設定するといった方法がそれである。本稿の確認からすれば,その際には,顧客をそのサービスにおける便益形成の主体としていくこと,そして,サービス提供者は,顧客の自己認識や価値観の転換を支援していく役割を担うこと,こうしたサービス・デリバリー・プロセスの設計の可能性が示唆されたものといえる。

第3に,「便益遅延型サービス」における「品質あるいは顧客満足度評価の困難性」への対応については,「便益遅延型サービス」の特性を踏まえた評価指標の見直しの有用性が示唆される。具体的には,「機能的便益」ではなく「価値観的便益」や「感情的便益」を評価指標とするというような方向性がそれである。あるいは,顧客の自己認識や価値観の転換にあわせて目標設定等を行っているような場合には,その目標の達成度を聴取するという方向もありうるであろう。このように,便益遅延性の特性を踏まえた検討を行うことで,より実質的で有用な評価指標の設計につなげていくことが期待される。

7.3  本稿の限界と今後の課題

以上,本稿では,「便益遅延型サービスにおいて,参加意欲はいかに引き出されうるのか」という問題意識のもと,ポジティブな患者参加認識がみとめられる事例の質的データ分析を通した考察を行ってきた。結びにあたり,本稿の限界と今後の課題として,次の4点を挙げておく。

第1に,今回得られた分析及び考察結果は,参加意欲がみられるα病院の3名の乳がん患者を対象とした分析に基づくものであるということである。研究対象の適合性については,4章で検討したところであるが,その特徴や性質から,分析結果には,疾患に特有の要素が少なからず反映している可能性も考えられる。また,より多くのサンプルを対象とした分析を進めることで,本稿の分析の妥当性の確認をはじめとした分析を深めていくことが必要である。こうしたことも含め,より豊富なデータを対象とした検討をさらに行っていくことが望まれる。

第2が,今回得られた分析及び考察結果は,インタビュー・データによる質的データ分析に基づくものであるということである。この分析の結果として得られた枠組みを精査しつつ,サーベイ・リサーチ等などの他の方法も含めた分析を重ねていくことで,今回の検討の妥当性の確認や他のパターン等に関する検討を進めていくことが望まれる。

第3が,今回得られた分析及び考察結果は,医療サービスを対象とした考察に基づくものであるということである。「便益遅延型サービス」としては,この他に,教育サービスなどが典型例となるものと捉えられるが,こうした他の領域についての検討をあわせて進めていくことで,今回の検討の妥当性の確認とともに,他のサービスも含めた分析結果の共有化等に関する検討を進めていくことが望まれる。

第4に,今回の考察は,患者側からの認識を起点とした検討であったということである。マネジメントに関する示唆を得るためには,こうした患者認識の形成の分析とあわせて,提供者側の認識や取り組みに関する分析が求められよう。双方の認識の確認を通して課題への理解を深めつつ,サービス・マネジメントの可能性を捉えていくことが今後の課題である。

謝辞

本稿の作成にあたり,インタビューに応じて頂いた患者の皆様及びα病院の関係者の方々には多大なご協力を頂きました。また,ゲストエディターの藤村和宏先生及び匿名のレビュワーの先生方からは貴重なコメントを頂きました。ここに記して感謝申し上げます。なお,本稿にありうべき誤謬はすべて筆者に帰すべきものです。

付記

本稿は,独立行政法人科学技術振興機構「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」平成23年度採択事業「医療サービスの便益遅延性を考慮した患者満足に関する研究」(研究代表者:香川大学経済学部藤村和宏),及び文部科学省科学研究費助成事業(基盤研究B)(課題番号16H03672)「便益遅延型サービスの消費における便益享受と顧客満足・顧客参加に関する実証的研究」(研究代表者:香川大学経済学部藤村和宏)による助成を受けて作成されたものである。

1)  教育サービスや医療サービスの便益の認識問題について,本稿では一貫して,「遅れて認識される」という視点から捉えていくが,これらのサービスの特徴となる評価の難易度については,従来より,経験属性あるいは信頼属性の高さという観点からも説明されてきたものであることには留意が必要である(Zeithaml,1981,等)。あるいは,藤村(2008)は,「便益遅延型サービス」と「専門サービス」に区分して検討を行っている。本稿では,ひとまず,「便益遅延性」という視点に焦点をあてて問題設定を行っていくが,本稿で確認される特性と「専門サービス」の観点から整理されている特性との異同や概念間の関連に関する検討は,別の機会に行うこととしたい。

2)  サービス・マーケティングあるいはサービス・マネジメントにおける「顧客参加」の論点に関しては,本稿の2章において藤村(2008)になされた整理を中心に確認を行っていくが,この他にも,例えば,藤村(1996)山本(1996)藤村(2009)等を参照。また,医療面接等を主体とした「患者参加」の論点に関しては,Collins, Britten, Ruusuvuori, and Thompson(2007)等を参照。

3)  藤村(2008),11–12頁。

4)  藤村(2008),12頁。

5)  藤村(2008),8頁。

6)  藤村(2008),8頁。

7)  藤村(2008),8頁。

8)  藤村(2008),14頁。

9)  藤村・森藤(2015),123頁。

10)  藤村・森藤(2015),123–124頁。なお,具体的な感情項目としては,ネガティブな感情については,「不快」,「不安」,「不信」,「緊張」,「落胆」,「恐怖」,「嫌悪」,「忌避」,「甘受」,「不安」,ポジティブな感情については,「安心」,「共感」,「希望」,「喜び」,「愛情」などの項目が挙げられる。‍また,この中の「甘受」については,「受容・許容」という観点から,ポジティブな感情とネガティブな感情の中間にも位置付けうる(こうした捉え方については,Oliver ‍and ‍Swan(1989)藤村(2009)参照。そこでは,甘‍受(contentment)は満足モードの1つとされている)。本稿では,こうした想定も踏まえつつ,分析を進めていく。

11)  藤村・森藤(2015),123–124頁。

12)  なお,この3つの便益の関係について,例えば,藤村・森藤(2015)では,医療サービスの便益形成の特徴として,「価値観的便益」と「感情的便益」が先行して形成され「機能的便益」が遅延して形成されるという枠組みが提示されている(藤村・森藤,2015,139–141頁)。

13)  「患者参加」の類型としては,次のようなものが捉えられる。第1に,例えば,「指示どおり薬をきちんと飲む」,「医師のいうことには,嫌なことでも黙って応じている」など,医師や看護師から指示された範囲での「受身的な参加」である。第2に,例えば,「自分の症状について自分から詳しく相談していく」,「治療の方針(方法)・薬の内容も納得のうえ,治療を受けている」など,医師・看護師から指示されたことはきちんと守るとともに,自分からも積極的にコミュニケーションをとろうとするような「積極的な参加」である。第3に,例えば,「リハビリテーションのメニューを追加してもらってそれに取り組む」,あるいは「病院の改善点について意見する」など積極的にコミュニケーションをとることはもちろん,それに加えて症状を改善させるための自主的な行動をとるような「非常に積極的な参加」である。本文にみるように,本稿では,これらの内,ひとまず,第2の「積極的な参加行動」を,今回の考察の対象とする「患者参加」の典型として捉え,分析と考察を進めていく。

14)  ここでは,サービス・エンカウンターにおける構造を視覚的に示す枠組みの1つとして,サーバクション(Servuction: Service Production)・フレームワークを参照している(Langeard, Bateson, Lovelock, & Eiglier, 1981)。

15)  今回の分析対象として使用するデータは,独立行政法人科学技術振興機構「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」平成23年度採択事業「医療サービスの便益遅延性を考慮した患者満足に関する研究」(研究代表者:香川大学経済学部藤村和宏)における研究プロジェクト(以下,本研究プロジェクトという)の一環として行われた調査で収集されたデータの一部である。この調査は,「患者満足の測定尺度開発」及び「患者参加・サービス品質・患者満足の関連性」に関する検討にあたっての基礎資料を得ることを目的に行われた調査である。本研究プロジェクトの調査依頼に対して,協力が得られた病院が選定されている。また,調査対象者は,各病院の医師及び看護師の協力のもとに,調査協力を得られる対象者の紹介を受けることにより選定されたものである。なお,髙室(2014a, 2014b)においては,本研究プロジェクト開始時の全体的な問題意識の確認を目的に,5事例を対象とした事例分析を行っている。

16)  インタビューは,本研究プロジェクトの研究組織メンバー及び調査委託関係者によって,直接に聞き取りを行うという形式で実施された。インタビュー形式は,半構造化インタビューである。このインタビュー形式の特徴は「比較的オープンに組み立てられた,回答の自由度の高いインタビュー」という点にある(Flick, 2007,pp. 180–181等を参照)。今回の分析対象の選定にあたっても,できる限り,こうした特徴が生かされているデータであることを重視した。また,インタビュー・データの扱いについては,「相互行為を通して構築されている」データであるという点を意識している。すなわち,インタビューで行われた「語り」について,例えば,「かならずしも語り手があらかじめ保持していたものとしてインタビューの場に持ち出されたものではなく,語り手とインタビュアーとの相互行為を通して構築されるものである」(桜井,2002,28頁)とされるが,本稿においても,基本的はこうした性質のものとして,インタビューの内容を理解している。その他,Holstein and Gubrium(2004)など参照。

17)  なお,以下にみる調査対象の選定理由の前提としては,対象へのアクセス可能性がある。同病院の医師及び看護師の協力のもと,調査協力を得られる対象者としての紹介を受けられたことにより,当該インタビュー・データの取得が実現している。また,この調査の実施に際しては,病院内の倫理委員会で調査実施の承認を受けた後に,ヒアリングの対象者の仲介や紹介等,医師や看護師の協力を得る手続きがとられている。

18)  α病院の診療案内パンフレット(2016年度版)より。

19)  α病院の看護部長及び看護師長からの聞き取りの内容による。

20)  例えば,独立行政法人国立がん研究センターの資料による「部位別5年相対生存率(女性 2006年~2009年診断例)によれば,全部位でみた5年相対生存率が66.0%のところ,乳房では91.1%となっている(国立がん研究センターがん情報サービスHP「最新がん統計」参照)。なお,「5年相対生存率」とは「あるがんと診断された場合に,治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標。あるがんと診断された人のうち5年間生存しているひとの割合が,日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表す。100%に近いほど治療で生命を救えるがん,0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味する」と説明されるものである(同HPより)。また,治療プロセスについては,例えば,先にみたα病院における聞き取り内容の他,日本乳癌学会編(2015a, 2015b, 2016)など参照。

21)  日本乳癌学会編(2016),参照。

22)  髙室(2014b),72頁。

23)  田村(2006),参照。

24)  B氏及びD氏も含めたα病院の患者インタビューにおける発話内容に関しては,髙室(2014b)を参照。

25)  佐藤(2008),34頁。

26)  佐藤(2008),46頁。

27)  佐藤(2008),48–53頁。

28)  この「事例―コード・マトリクス」は,事例の特殊性にとらわれて一般的なパターンを見失ったり,少数の事例に基づいて過度の一般化を行ってしまったりというような罠に陥ることを避けるための作業となる(佐藤,2008,59–73頁)。

29)  なお,「文書セグメント」については,今回は,発話内容をそのまま使用するのではなく,インタビュー内容を全て文字に起こしたテキストデータをもとに,そのデータを要約(あるいは縮約)したテキストを使用することとする。

30)  ここでは,「データの内容を単純に要約した小見出しをつけていく作業」といった意味で「オープン・コーディング」という用語を使用している(佐藤,2008,97–101頁)。

31)  事例―コード・マトリクスにおける縦軸と横軸の配置に関する考え方については,佐藤(2008),127頁参照。

32)  「焦点的コーディング」とは,「かなり抽象度の高い,しかも比較的少数の概念的カテゴリーに対応するコードを選択的に割り振っていき,またそれらの概念同士の関係について明らかにしていく作業」(佐藤,2008,99頁)というように説明されるものである。ここでは,オープン・コーディングにより付されたコードを,より抽象的なコードのもとに集約化していくという意味で「焦点化したコード」という表現を使用している。

33)  なお,今回,焦点化したコードに該当するものがない文書セグメントについては,一括して「⑦その他」のセルに記載している。このセルに配置された文書セグメントについては,ひとまず,今回の直接的な分析からは外れることとなるが,但し,この文書セグメントが文脈として果たしている意義はあらためて確認されるものである。また,例えば,他の事例を追加した場合や問題意識を変更した場合において,これらのコードがあらためて意義を持つことになることは十分に想定しうる。こうした点も含めて,これらの文書セグメントの意義については,継続して検討が求められる課題であると捉えている。

34)  この空白部分については,データの欠損として扱われ,例えば,追加調査等によって空白を埋める努力などが行われることとされる(佐藤,2008,119–120頁)。但し,今回のインタビュー調査は,できる限り誘導的な質問を排しつつ,インタビュイーの自発的な語りのもとに,特に印象的な出来事や記憶として示された認識を確認していくことを目的としたものであった。このため,インタビュアーの視点から,欠損部分を埋めていくという作業は,今回の調査では避けられている。こうした趣旨から,今回の分析では,空白部分については,言及がなかったことそれ自体も考察の1つの要素となる可能性を含むものと捉え,空白であることを明示したうえで,分析を進めている。

35)  事例―コード・マトリクスは,①複数のコード間の比較(複数の概念的カテゴリー同士の比較),②文書セグメントとコードの比較(データと概念的カテゴリーの比較),③複数の文書セグメント間の比較(複数のデータ同士の比較),④複数の事例間の比較,以上のような分析を行う際の重要な手かがりとなるものとされる(佐藤,2008,117頁)。本稿においても,①参加意欲との関係を中心とした複数のコード間の関係の確認,②それが位置付けられるコードの観点からみた各文書セグメントの意義の再確認,③同じコード(カテゴリー)に位置付けられる文書セグメント同士の異同の確認,④4つの事例の共通点と異同の確認,以上のような確認を念頭に置きながら,分析を進めていく。

36)  例えば,野口(2002)はこの点について,次のように説明している。「『要は気の持ちよう』で,物語は変えていけるのではないかと思われるかもしれない。しかし,この考え方は『病いの物語』の強固さを見誤っている。なぜなら,『何をやってもうまくいかないひと』は,『要は気の持ちよう』だと頭ではわかっていても,それが変えられないからこそ困っているからである」(野口,2002,58頁)。

37)  ここにおける自己認識や価値観の議論は,ナラティヴ・アプローチにもみられるような議論である。例えば,「わたくしたちは,ある事件を一つの『物語』として理解できたとき,その事件を理解したと感じる。『物語』という形式は,現実にひとつのまとまりを与え,了解可能なものにしてくれる。『物語』は現実を組織化し,混沌とした世界に意味の一貫性を与えてくれるのである」(野口,2002,23頁)というような捉え方がそれである。今回の分析結果は事例分析から帰納的に得られたものであるが,これらの結果の理論的意義を検討していくにあたり,ナラティヴ・アプローチの議論は今後の展開の1つの可能性を持つものと捉えている。この検討については,別の機会に行うこととしたい。

38)  例えば,藤村(2008)

39)  髙室(2015),119頁参照。また,あわせて,髙室(2014b),87頁参照。

参考文献
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