2018 年 21 巻 1 号 p. 29-50
本稿が着目する課題は,教育サービスや医療サービスを典型とする「便益遅延型サービス」における価値形成の問題である。「便益遅延型サービス」とは「目的とする便益が遅れて発現するタイプのサービス」である。
本稿では,医療サービスを対象に,「便益遅延型サービスにおいて,ポジティブな参加意欲はいかに引き出されうるのか」という問題意識のもと,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の医療プロセスでは,どのような便益がどのようなタイミングで形成されているのか」,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の認識や行為にはどのような特徴がみられるのか」,「ポジティブな患者参加意欲の形成に影響を与える要素は何か」,以上のリサーチ・クエスチョンを設定し,α病院の乳がん患者を対象としたインタビュー・データによる質的データ分析を通して,考察を行った。
その結果,「価値観的便益」と「感情的便益」についてはその都度の形成がみられる一方で,「機能的便益」には遅延がみとめられること,参加意欲がみられる患者には自己認識や価値観の転換とともに,その転換を維持し続けようとする受容努力がみとめられること,そして,その転換を支える便益として「価値観的便益」が強調されるが,その形成に寄与するものとして,医師及び担当医・看護師と患者とのコミュニケーションが位置付けられること,こうした特徴が確認されることとなった。