流通研究
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21 巻, 1 号
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特集論文 「ゲストエディター 藤村和宏(香川大学)」
  • 小林 哲
    原稿種別: 特集論文:サービスマーケティング特集/論文
    2018 年 21 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/31
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    医療や教育サービスにおいて,サービス終了時に便益を享受することができず,その後しばらくして便益がもたらされることがしばしば存在する。このような現象は便益遅延性と呼ばれており,顧客満足の評価や顧客参加の在り様に大きな影響をもたらすことが指摘されている。

    しかし,このサービスにおける便益遅延性は,私たちにひとつの理論的な問題を提起する。便益遅延性がサービスの基本特性である生産と消費の同時性(不可分性)に反するというのがそれである。もし,サービスにおいて生産と消費が同時になされるのであれば,消費すなわち便益の享受が遅延することはない。一方,医療やサービスにおいて便益が本当に遅延するのであれば,それはサービスの基本特性である生産と消費の同時性に反することになり,この種の医療や教育は“サービスではない”とみなすこともできる。そこで,本稿では,サービスの基本特性に立ち返り,便益遅延性の発生メカニズムを探ることで,このような矛盾が生じる理由を明らかにし,サービス・マネジメントの新たな可能性について考察する。

    結論を先に述べるならば,医療や教育サービスにおける便益遅延性は,サービス・デリバリー(生産)と便益の享受(消費)との間に顧客資源が介在することによって生じる。さらに言えば,便益遅延性は,このような顧客資源介在型サービスの特徴のひとつに過ぎない。したがって,医療や教育サービスの成果を高めるには,便益遅延性のみならず,それをもたらす顧客資源介在型サービスの特徴を理解しマネジメントする必要がある。

  • 森藤 ちひろ
    原稿種別: 特集論文:サービスマーケティング特集/論文
    2018 年 21 巻 1 号 p. 13-28
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/31
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    本稿の目的は,便益遅延型サービスのサービス・デリバリー・プロセスにおける便益,顧客参加,顧客満足の関係の変化を考察することである。実証分析の結果,デリバリー・プロセスの初期・中期・後期段階において満足モデルの構造が変化していることが明らかになった。顧客参加と顧客満足は初期段階では影響しないが,中期段階では顧客参加が顧客満足に影響し,後期段階では顧客満足が顧客参加に影響しており,プロセスの進展とともに顧客参加と顧客満足の関係が変化していた。また,プロセス全般を通じて顧客満足には価値観的便益が影響していたが,顧客参加には各段階において影響する要素が異なっていた。各段階における価値観的便益,感情的便益の役割が異なることも示唆された。

特集論文(研究ノート) 「ゲストエディター 藤村和宏(香川大学)」
  • 髙室 裕史
    原稿種別: 特集論文:サービスマーケティング特集/研究ノート
    2018 年 21 巻 1 号 p. 29-50
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/31
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    本稿が着目する課題は,教育サービスや医療サービスを典型とする「便益遅延型サービス」における価値形成の問題である。「便益遅延型サービス」とは「目的とする便益が遅れて発現するタイプのサービス」である。

    本稿では,医療サービスを対象に,「便益遅延型サービスにおいて,ポジティブな参加意欲はいかに引き出されうるのか」という問題意識のもと,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の医療プロセスでは,どのような便益がどのようなタイミングで形成されているのか」,「ポジティブな参加意欲がみられる患者の認識や行為にはどのような特徴がみられるのか」,「ポジティブな患者参加意欲の形成に影響を与える要素は何か」,以上のリサーチ・クエスチョンを設定し,α病院の乳がん患者を対象としたインタビュー・データによる質的データ分析を通して,考察を行った。

    その結果,「価値観的便益」と「感情的便益」についてはその都度の形成がみられる一方で,「機能的便益」には遅延がみとめられること,参加意欲がみられる患者には自己認識や価値観の転換とともに,その転換を維持し続けようとする受容努力がみとめられること,そして,その転換を支える便益として「価値観的便益」が強調されるが,その形成に寄与するものと‍して,医師及び担当医・看護師と患者とのコミュニケーションが位置付けられること,こうした特徴が確認されることとなっ‍た。

  • 庄司 真人
    原稿種別: 特集論文:サービスマーケティング特集/研究ノート
    2018 年 21 巻 1 号 p. 51-65
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/31
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    S-Dロジックがその提唱者であるVargo and Luschによって発表されて以来,10年以上経過した。実証論文が中心となる論文の中で,概念的な論文として提示されたこともあり,価値共創やサービスといった分野において数多く引用されている。しかし,S-Dロジックは,それぞれ一部分だけが議論されることが多く,そのため,その解釈や理解の上で,混乱も引き起こしてきた感がある。そこで,本稿は,S-Dロジックの主要な文献をサービス交換の性質と範囲という2つの視点からS-DロジックとG-Dロジックの対比,S-Dロジックの視点からの既存の研究領域への検討,S-Dロジックにおける価値の創造と共創,S-Dロジックの拡張という4つに分類し,それぞれを検討することで,S-Dロジックの全体像を検討する。その上で,S-Dロジックが交換をズーミングアウトすることでマーケティング現象を多面的に明らかにしようとしていることを踏まえた研究課題を提示する。

  • 鈴木 智子, 竹村 幸祐, 浜村 武
    原稿種別: 特集論文:サービスマーケティング特集/研究ノート
    2018 年 21 巻 1 号 p. 67-75
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/31
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    サービス・リカバリーに関するさまざまな行為は,サービス・リカバリーのプロセスとサービス・リカバリーの結果に分類することができる。サービス・リカバリーでは,プロセスと結果のどちらもが重要であることはいうまでもないが,どちらがサービス・リカバリー後の顧客満足度により影響を与えるのかについては受け手(消費者)側で個人差がある。本稿では,日本人消費者は,結果を重視したサービス・リカバリーよりもプロセスを重視したサービス・リカバリーの方を高く評価する傾向にあることを確認し,またサービス・リカバリーのプロセスまたは結果への注視が,心理学で議論されてきた行為同定理論で説明できることを確認した。最後に,実務的貢献ならびに学術的貢献,そして今後の研究課題について述べる。

特集論文 「ゲストエディター 新倉貴士(法政大学)」
  • 近藤 公彦
    原稿種別: 特集論文:ICTとマーケティングイノベーション特集/論文
    2018 年 21 巻 1 号 p. 77-89
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/31
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    ICTの発展を背景に,小売業の新たな成長モデルとしてオムニチャネルが大きく注目されている。オムニチャネルは歴史的に,電子商取引,クリック&モルタル,マルチチャネル,クロスチャネルから発展し,消費者にシームレスな買い物経験を提供するための統合的なチャネル管理を中心的な課題としてきた。オムニチャネルは米国のそれを標準型として研究されてきたが,その態様は各国の小売環境のもとでの企業の成長プロセスに規定される。米国型オムニチャネルが単一業態オムニチャネルを基本としているのに対し,日本型オムニチャネルは複数の業態から構成される多業態オムニチャネル,およびロジスティクス・ハブとしての店舗ネットワークの2つから特徴づけることができる。この日本型オムニチャネルを理論的に研究する際,多業態オムニチャネル,オムニチャネル・オペレーション,チャネル・コンフリクトとカニバリゼーション,オムニチャネル小売企業の出自,オムニチャネル行動のプロセス,オムニチャネル・ショッパーの特性,定性的・定量的アプローチ,および国際比較の8つの重要な課題が指摘される。

  • 森村 文一
    原稿種別: 特集論文:ICTとマーケティングイノベーション特集/論文
    2018 年 21 巻 1 号 p. 91-107
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/31
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    チェーン型小売企業は,異なる複数の商圏で販売活動を行っており,利益を最大化させる価格・プロモーション戦略の構築のために,バイヤーは個別消費者の特性に加えて,製品トレンド等についても理解しなければならない。本研究の目的は,知識探索のためのITの利用,外部ビジネス・プロセスの統合,価格・プロモーション戦略の共通化が経営成果に与える影響を明らかにすることである。チェーン型小売企業を対象とした質問紙調査と分析の結果,価格戦略の共通化は経営成果に負の影響を与え,プロモーション戦略の共通化は正の影響を与えることが明らかになった。さらに,外部ビジネス・プロセスの統合は,知識探索のためのITの利用と価格・プロモーション戦略の共通化の関係を正に調整することが明らかになった。本研究の貢献は,2つの異なる知識探索経路が,価格・プロモーション戦略の共通化に対して補完的に影響することを明らかにした点である。

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