2018 年 21 巻 1 号 p. 67-75
サービス・リカバリーに関するさまざまな行為は,サービス・リカバリーのプロセスとサービス・リカバリーの結果に分類することができる。サービス・リカバリーでは,プロセスと結果のどちらもが重要であることはいうまでもないが,どちらがサービス・リカバリー後の顧客満足度により影響を与えるのかについては受け手(消費者)側で個人差がある。本稿では,日本人消費者は,結果を重視したサービス・リカバリーよりもプロセスを重視したサービス・リカバリーの方を高く評価する傾向にあることを確認し,またサービス・リカバリーのプロセスまたは結果への注視が,心理学で議論されてきた行為同定理論で説明できることを確認した。最後に,実務的貢献ならびに学術的貢献,そして今後の研究課題について述べる。
サービスの提供においては,何らかのミスが起きてしまうことを完全に避けることは難しい。サービスの現場では,人が関与している場合が多く1),人は不完全な生き物であるためである。そのため,サービス・リカバリーは,顧客とのリレーションシップ・マネジメントにおいて重要な要素であり(Tax, Brown, & Chandrashekaran, 1998),実務的ならびに学術的な関心が高まっている(小本,2012)。
サービスの失敗は,さまざまな局面で起こりうる。たとえば,予定通りにサービスが提供できなかった(飛行機の機材問題によるフライト・キャンセルなど),配達が予定時刻よりも遅くなった,サービスの質が悪かった,サービス提供者の態度が悪かった等,考えうるサービスの失敗は枚挙にいとまがない。こうしたサービスの失敗は,消費者のネガティブな気持ちや反応につながる。そのため,企業(サービス提供者側)は,こうしたサービスの失敗を未然に防ぐことに考えがいきがちだが,起こりうるすべてのサービスの失敗を完全に回避することは,残念ながら不可能に近い。したがって,サービスの失敗が起こってしまったときにどう対応するか(サービス・リカバリー),このことについて検討することが重要なのである。
効果的なサービス・リカバリーは,顧客満足や顧客ロイヤルティの増加ならびに好意的な口コミにつながるといわれている(Bolton, 1998;Smith & Bolton, 1998, 2002;Tax & Brown, 1998;Tax et al., 1998;Voorhees, Brady, & Horowitz, 2006)。さらには,サービスの失敗の後に効果的なサービス・リカバリーを経験した消費者は,サービスの失敗を経験しなかった消費者よりも高い満足やロイヤルティを持つに至るという,「サービス・リカバリー・パラドックス」が生じる可能性も指摘されている(Zeithaml, Bitner, & Gremler, 2009)。そのため,サービス・リカバリーに関する消費者心理について理解を深めることは極めて重要であるといえる。
サービス・リカバリーに関するさまざまな行為は,サービス・リカバリーのプロセスや関係性側面とサービス・リカバリーの結果に分類することができる(Clemmer & Schneider, 1996)。サービス・リカバリーでは,プロセスと結果のどちらもが重要であることはいうまでもないが,どちらがサービス・リカバリー後の顧客満足度により影響を与えるのかについては,それを受ける消費者によって違いがみられる。たとえば,サービスの失敗に関する企業側からの説明は米国人よりもタイ人とマレーシア人により強いインパクトがあり,また補償の提供はタイ人とマレーシア人よりも米国人により強いポジティブな効果があることが,これまでの調査で明らかにされている(Mattila & Patterson, 2004)。そのため,受け手となる消費者の特性も踏まえた上で,サービス・リカバリーの効果を理解する枠組みが必要となる。サービス・リカバリーのプロセス重視と結果重視のどちらがより顧客評価を高めるかを理解することは,全体的な顧客満足を向上させる上でも重要であり,サービス・マーケティング研究にとっても有益な視点となろう。
本稿では,日本人消費者を対象として,結果を重視したサービス・リカバリーとプロセスを重視したサービス・リカバリーのどちらがより高く評価されるかを確認し,さらにこの評価の違いが心理学で議論されてきた行為同定理論(Action Identification Theory;Vallacher & Wegner, 1989)で説明できるかを確認する。
本稿の構成は次の通りである。まず,サービス・リカバリーならびに心理学で議論されている行為同定について説明し,本調査で検証する仮説を提示する。次に,本研究で実施した2つの調査について,それぞれの手続きや使用した測定方法を説明し,結果を述べる。最後に,主な実務的ならびに学術的な貢献,そして残された課題について議論する。
サービス・エンカウンターにおけるサービスの失敗とは,サービス提供者の失敗によって,消費者が何らかの損失を感じてしまうといった二者間の交換のことを指す。Zeithaml et al.(2009)は,サービスの失敗を「顧客の不満足につながるような,期待を下回るサービスのパフォーマンス(成果)」と定義している(日本語訳,小本,2012)。失敗してしまったサービス提供者は,何らかの利得を提供することで,消費者の損失を相殺することを試みる場合がある。これをサービス・リカバリーという。Zeithaml et al.は,サービス・リカバリーを「サービスの失敗に対応して組織が取る行動」と定義している(日本語訳,小本,2012)。
質の高いサービス・リカバリーの遂行は,顧客満足の向上,顧客リレーションシップの構築,ならびに顧客離反の防止において重要であり(Fornell & Wernerfelt, 1987),そのためサービス・リカバリーのマネジメントは,消費者のサービス評価に対する影響が大きいと考えられている(Hart, Heskett, & Sasser, Jr., 1990;Smith, Bolton, & Wagner, 1999;Tax & Brown, 1998)。
サービス・リカバリーには,消費者を満足している状態に戻すための,組織と社員による行為が含まれる(Danaher & Mattsson, 1994;Sparks & McColl-Kennedy, 2001)。これらの行為には,問題の認知,迅速な問題の修正,サービスの失敗に関する説明,謝罪,その場での問題解決に向けたスタッフへの権限委譲,返金・値引き・サービスのアップグレード・無償の製品またはサービス提供といった補償の提供,そしてサービス・リカバリーのプロセスにおける丁重さや誠実さなどが含まれる(Patterson, Cowley, & Prasongsukarn, 2006)。こうしたサービス・リカバリーに関するさまざまな行為は,大きく二つに分類することができる。一つが,サービス・リカバリーのプロセスや関係性側面であり,もう一つがサービス・リカバリーの結果である(Clemmer & Schneider, 1996)。サービス・リカバリーのプロセスには顧客がどのように扱われたかという側面,そしてサービス・リカバリーの結果には顧客が何を得たかという側面が含まれる。すなわち,サービス・リカバリーがどのように行われたかということと,サービス・リカバリーとして何が行われたかということに分類することができるのである。サービス・リカバリーのプロセスと結果は,どちらもが重要であることはいうまでもないが,どちらがサービス・リカバリー後の消費者満足度により影響を与えるのかについては,消費者によって異なることが確認されている(Mattila & Patterson, 2004)。
本稿では,日本人消費者を対象として,結果を重視したサービス・リカバリーとプロセスを重視したサービス・リカバリーのどちらがより高く評価されるかを確認する。サービス・リカバリーに関する研究は,北米では1990年前後に該当研究が十分でないことが指摘され,以後,数多くの研究が積み重ねられてきたが(研究の概要については,高橋,2007を参照されたい),日本においてはまだ限られている。そこで,本稿では,日本人消費者を対象とした実証研究を行い,日本人消費者のサービス・リカバリーに関する理解を深める。
2.2 行為同定理論前節で,サービス・リカバリーに関する行為がプロセスと結果の二つに分類できることを説明したが,サービス・リカバリーだけでなく,あらゆる行動がプロセスと結果でとらえられるのである。たとえば,自転車に乗るという行動には,「ペダルをこぐ」と「運動する」という2つのとらえ方がある。「ペダルをこぐ」は,自転車に乗るという行動のプロセスであり,「運動する」は同じ行動の結果である。このように,すべての行動にはさまざまなとらえ方があり,そのため,行動の解釈のされ方は,個人によって異なる。
行為同定理論(Action Identification Theory;Vallacher & Wegner, 1989)は,行動のとらえ方が人によって異なることを説明する上で役立つ。この理論によると,ある行動を解釈するとき,ある人はプロセスにより注目し,別の人は結果により注目する。行動をプロセスでとらえるということは,人がどのように行動するかということに焦点があり,これは認知的階層において低次レベルであるといわれている。反対に,行動を結果でとらえるのは,人はなぜその行動をとるのかということに焦点があり,認知的階層においては高次レベルである。
Vallacher and Wegner(1989)は,行動のプロセスと結果,どちらに焦点がいくかということについては,安定した個人差(すなわち,個人の特性としての行為同定レベル)が存在することを確認している2)。こうした個人の特性としての行為同定レベルを測定するために,彼らは尺度を開発した(BIF, Behavioral Identification Form)。BIFは,25個の行為(たとえば,「洗濯すること」)が高次レベルの解釈(「洋服から汚れを取り除くこと」)と,低次レベルの解釈(「服を洗濯機の中にいれること」)で記述されており,参加者は二つの選択肢から個人的により適切だと思う記述を選択することが求められる(詳細については表1を参照)。25個の行為において,高次レベルの解釈が選択された数を合算し,BIF指標が算出される。すなわち,BIF指標が高いと,行動の結果に焦点をあてる傾向が高い。行為を高次レベルで解釈する傾向にある人は,行動をその結果や意義で理解する傾向にあり,反対に低次レベルで解釈する傾向にある人は行動を詳細や仕組みでとらえる傾向にあるといわれている。
1 リストを作成すること | ||
a)なにかを整理すること* | b)ものを書きとめること | |
2 本を読むこと | ||
a)文字列をたどること | b)知識を得ること* | |
3 自衛隊に入隊すること | ||
a)国防に貢献すること* | b)入隊手続きすること | |
4 洗濯すること | ||
a)洋服から汚れを取り除くこと* | b)服を洗濯機の中に入れること | |
5 リンゴを取ること | ||
a)食べる物を手に入れること* | b)リンゴを枝から摘み取ること | |
6 木を切り倒すこと | ||
a)斧を振るうこと | b)薪をつくること* | |
7 カーペットを敷く為に部屋を測ること | ||
a)改装の準備をすること* | b)巻き尺を使用すること | |
8 家をきれいにすること | ||
a)清潔さを示すこと* | b)床に掃除機をかけること | |
9 部屋を塗ること | ||
a)ペンキブラシをかけること | b)部屋を新しく見せること* | |
10 家賃を支払うこと | ||
a)住居を維持すること* | b)お金を払う手続きをすること | |
11 観葉植物を世話すること | ||
a)植物に水をあげること | b)部屋をよく見せること* | |
12 カギをかけること | ||
a)かぎ穴にカギをいれること | b)家の安全を守ること* | |
13 投票すること | ||
a)選挙に影響を与えること* | b)投票用紙に記入すること | |
14 木に登ること | ||
a)良い眺めを得ること* | b)木の枝にしがみつくこと | |
15 性格テストに回答すること | ||
a)質問に答えること | b)自分がどんな人かを明らかにすること* | |
16 歯を磨くこと | ||
a)虫歯を予防すること* | b)口の中で歯ブラシを細かく動かすこと | |
17 テストを受けること | ||
a)質問に答えること | b)自分の知識を示すこと* | |
18 挨拶すること | ||
a)「こんにちは」と言うこと | b)好意を示すこと* | |
19 誘惑に抵抗すること | ||
a)「NO」と言うこと | b)道徳的勇気を示すこと* | |
20 食事をすること | ||
a)栄養を取ること* | b)噛んで飲み込むこと | |
21 菜園を育てること | ||
a)種を蒔くこと | b)新鮮な野菜を得ること* | |
22 車で旅行すること | ||
a)地図に従うこと | b)田園風景を眺めること* | |
23 虫歯を治療すること | ||
a)歯を守ること* | b)歯医者へ行くこと | |
24 子どもと話すこと | ||
a)子どもに何かを教えること* | b)簡単な言葉を使うこと | |
25 ドアのベルを押すこと | ||
a)指を動かすこと | b)誰かが家にいるか確認すること* |
注:各行動に対して,aとbという2つの解釈がある。*マークがついたものが高次レベル(行動の結果)の解釈。
さらに,文化心理学の最近の研究からは,この行為同定の傾向には文化差があることも明らかにされている(Miyamoto, Knoepfler, Ishii, & Ji, 2013)。一般的に,日本人は米国人よりもプロセスに焦点を置いて行為を解釈する傾向にあり,反対に米国人は日本人よりも結果に焦点を置いて行為を解釈する傾向にある。Miyamoto et al.(2013)は,日本人は米国人よりも低次レベル(すなわち,プロセス)で行動を解釈する傾向にあることを示すため,4つの調査を実施した。調査1では,米国人と日本人参加者を対象に,「行為の再記載」(behavior redescription questionnaire;Beukeboom & Semin, 2005)を実施した。「服を洗濯する」(“washing my clothes”)や「歯を磨く」(“Brushing my teeth”)といった15の日常的行為を自分の言葉で表してもらった。回答をコーディングした結果,米国人の方が日本人よりも,結果志向の回答を行う傾向にあった。調査2と3では,米国人と日本人のBIFを測定した。結果,米国人の方が日本人よりも,BIF指標の平均値が高かった。調査4では,行為同定の日米差が個人の特性としてだけではなく,集団レベルでも見られることを確認するため,各国のファッション記事の内容分析を行った。米国のファッション誌と日本のファッション誌,それぞれ8誌ずつ,内容分析が行われた。記事は「有名人の紹介」(どんな風になりたいかという,行動の結果),「ハウツー」(どのようにしてなりたい姿になるかという,行動のプロセス),そして「その他」の3つにコーディングされた。分析の結果,米国のファッション誌は日本のファッション誌よりも,結果志向の情報を提供する傾向にあり,反対に日本のファッション誌は米国のファッション誌よりも,プロセス志向の情報を提供する傾向にあった。まとめると,4つの調査は一貫して,日本人は米国人よりも行動を低次レベル(すなわち,プロセス)で解釈する傾向にあることを示している。
Miyamoto et al.(2013)は,行為同定に文化差が生じる説明として,自己観の文化差を挙げている。行為のとらえ方と自己のとらえ方には関係があることが,これまでの研究で明らかにされている(Carver & Scheier, 1990)。自己が状況間で一貫しているととらえている人は,行動の結果が自身の自己と合致する行動を選ぶ傾向にあるといわれている。たとえば,自分はどのような状況においてもスポーツマンであると知覚している人は,運動をしているという結果につながる行動に従事することを選びがちである。そのためには,さまざまな行動が運動をしているという結果と関係しているかどうかを把握する必要があり,各行動の結果に注意を払わなければならない。ゆえに,さまざまな状況間で自己が一貫していると知覚している人は,行動の結果に焦点を置く傾向にあるのである。
しかし,自己が状況によって変わるととらえている人は,自己と行動の結果が合致しなければならないとは思っていない。むしろ,行動を低次レベルで解釈し,高次レベルの解釈は状況に応じたものを行う。たとえば,自転車に乗るという行動を低次レベル(ペダルをこぐ)で解釈した場合,その行動の結果は,状況に応じてさまざまなもの(運動や通学等)で解釈することが可能となる。
Vallacher and Wegner(1989)も,日常的な行動が一貫している人は,行動が一貫していない人に比べ,行動を高次レベル(すなわち結果)で解釈する傾向にあることを示している。この結果も,自己が一貫している人は,行動の結果に焦点をあてる傾向が高いということを示唆していよう。
自己観に文化差があることは,これまでの文化心理学の研究で,繰り返し指摘されている(Markus & Kitayama, 1991;Triandis, 1995;ただし,Matsumoto, 1999も参照)。たとえば,日本文化では社会に順応することが重要であり,そのため自己とは社会的コンテクストとつながっているものであり,状況によって変わるものととらえられている。しかし,米国文化では,自己とは個人特有の内的特性によって定義されているものであり,さまざまな状況間で一貫しているものであるととらえられている。こうした自己観の文化差は,数多くの比較文化研究で確認されており,日本人の自己は状況間で変化する傾向にあるのに対し,米国人の自己は状況間で一貫している傾向にある(Cousins, 1989;Kanagawa, Cross, & Markus, 2001)。
Miyamoto et al.(2013)は,行為同定の日米差が自己の一貫性の違いで説明可能かを検証するため,調査3で,米国人と日本人参加者を対象にBIFを測定すると共に,さまざまな関係性における自己の一貫性を測定した(English & Chen, 2007)。自己の一貫性測定では,関係性が「友人―ルームメート」「親―兄弟」といったペアで提示され,自分にもっともあてはまる関係性を選択することが求められる。その後,選択した関係性において,10個の特性(思いやりのある,威張り散らす,等)がどの程度自分を表わすかを7段階で評価する。自己の一貫性指標は,各参加者のある関係性における10特性の評価と,別の関係性における特性評価の参加者内相関で算出される。すなわち,自己の一貫性指標が高いと,さまざまな関係性において自己が一貫していることを示唆する。Miyamoto et al.(2013)の調査3では,先行研究と同様に,米国人の方が日本人よりも自己の一貫性指標の平均値が高く,さまざまな関係性において自己が一貫している傾向にあった。そして,媒介分析の結果,自己の一貫性は行為同定の日米差を部分的に媒介した。
我々は,こうした行為同定の傾向が,サービス・リカバリーの評価とも関連しているのではないかと考えた。すなわち,プロセスに焦点をあてて行動を解釈する傾向にある人は,サービス・リカバリーのプロセスに焦点がいく傾向にあり,反対に行動の結果に焦点をあてて行動を解釈する傾向にある人は,サービス・リカバリーの結果に焦点がいく傾向にあるのではないだろうか。行為同定とサービス・リカバリーの評価との関係を検証するため,本研究では以下二つの仮説を検討する。
仮説1:日本人消費者は,結果を重視したサービス・リカバリーよりも,プロセスを重視したサービス・リカバリーの方を高く評価する傾向にある。
仮説2:サービス・リカバリーのプロセスまたは結果への注視は,行為同定レベルと関連している。
本調査の目的は,仮説1(日本人消費者は,結果を重視したサービス・リカバリーよりも,プロセスを重視したサービス・リカバリーの方を高く評価する傾向にある)を検証することであった。
参加者:この調査には,日本人消費者200名(うち女性57名)が参加した。平均年齢は,45.04歳(SD = 10.36)だった。調査は,楽天リサーチのモニターパネルを使って,2014年3月に実施された。
手続き:参加者は,インターネット上に設置された調査にアクセスすると,サービス・リカバリーの結果に焦点をあてたシナリオ,そしてサービス・リカバリーのプロセスに焦点をあてたシナリオと質問項目を提示された(2種類のシナリオは参加者内配置)。2つのシナリオはいずれも,レストランで店員が注文を間違えたという設定だった。この設定は,以下二つの理由から選定された。第一に,レストランにおける注文のミスは,一般的によくみられるサービスの失敗であり(Tax et al., 1998),先行研究のシナリオでもよく使われている(Mattila & Patterson, 2004など)。第二に,レストラン利用は日本人にとって一般的であり,日本人大学生を対象としたサービスの失敗体験に関するプリテストでも,レストランにおける注文ミスの話が多く聞かれたためである。
サービス・リカバリーの結果重視とプロセス重視の操作は,先行研究(Mattila & Patterson, 2004;Smith et al., 1999)に習って設定された。Smith et al.(1999)は,サービス・リカバリーの特性として,補償,対応のスピード,謝罪,組織率先(顧客のクレーム対応といった受け身でなく,組織が率先してサービス・リカバリーの行動を取っているか)の四つを挙げている。本調査では,Mattila and Patterson(2004)の研究と同様に,これら四つの特性のうち,補償と謝罪をとりあげることとした。まず,サービス・リカバリーの結果に係る行為として,補償を選定した。補償(ディスカウント,無償の商品,返金,クーポンなど)は,交換関係における衡平の回復を目指した戦略であり(Walster, Berscheid, & Walster, 1973),サービス・リカバリーとして何を提供したか(すなわち,結果)に係るサービス・リカバリーの行為であるためである。そして,サービス・リカバリーのプロセスに係る行為として,謝罪を選定した。サービス提供者からの謝罪は,礼儀正しさ,丁重さ,関心,努力,そして共感をサービスの失敗を経験した消費者に伝えることができ(Hart et al., 1990;Kelley, Hoffman, & Davis, 1993),サービス・リカバリーにおける人間関係の待遇とコミュニケーションの質に大きく影響する(Blodgett, Hill, & Tax, 1997;Clemmer & Schneider, 1996;Goodwin & Ross, 1989, 1992;Greenberg, 1990)。いいかえると,サービス・リカバリーがどのように提供されたかという,サービス・リカバリーのプロセスに係る行為である。この二つの分類は,サービス・リカバリーの行為において,有形の補償といった「何がなされたか」(what is done),とサービス提供者と顧客の相互作用といった「どのようになされたか」(how it is done)の二つに分類できるという指摘(Clemmer & Schneider, 1996;Patterson et al., 2006)とも一致している。
本調査のシナリオでは,補償として「次回無料券」を設定した。具体的には,サービス・リカバリーの結果に焦点をあてたシナリオは次のとおりであった。
あなたは,AAAレストランに食事をしに行きました。席に座ると,店員が注文を聞きに来たので,あなたはハンバーガーを注文しました。しばらくして,店員はピザを持ってきました。あなたは,店員に注文したものと違うことを伝えました。店員は何も言わず,ピザを下げました。そして,厨房から戻ってくると,ハンバーガーを切らしてしまったといい,次回無料券(ハンバーガー代)を手渡してきました。
謝罪は,「店員本人の謝罪」と「店長の謝罪」を設定した。サービス・リカバリーのプロセスに焦点をあてたシナリオは次のとおりであった。
あなたは,スターレストランに食事をしに行きました。席に座ると,店員が注文を聞きに来たので,あなたはハンバーガーを注文しました。しばらくして,店員はピザを持ってきました。あなたは,店員に注文したものと違うことを伝えました。店員は丁寧に謝り,ピザを下げました。その後,店長が出てきました。店長は「申し訳ございません」と頭を下げて深く謝罪した後,ハンバーガーを切らしてしまったといい,代わりのものを注文してもらえないかと頼んできました。
参加者は,2つのシナリオを読んだ直後に,それぞれのレストランに対して,「○○○レストランについて,どのくらい肯定的/否定的に感じましたか。」の質問(サービス・リカバリーの評価)に,7段階(1:「とても否定的」~7:「とても肯定的」)で回答した。シナリオの提示順はカウンターバランスがとられ,参加者の半数には結果に焦点をあてたシナリオから提示され,残り半数の参加者にはプロセスに焦点をあてたシナリオから提示された。
結果:2つのシナリオのレストランに対する評価を比較したところ,サービス・リカバリーのプロセスに焦点をあてたレストラン(M = 4.15, SD = 1.70)の方が,サービス・リカバリーの結果に焦点をあてたレストラン(M = 2.79, SD = 1.65; t(199) = 8.24, p < .001)よりも評価が高かった。すなわち,結果を重視したサービス・リカバリーよりもプロセスを重視したサービス・リカバリーの方が高く評価される傾向が確認された。
3.2 調査2調査2では,仮説2(サービス・リカバリーのプロセスまたは結果への注視は,行為同定レベルと関連している)を検証した。
対象者:対象者は,過去1年以内に利用したサービスや商品,あるいはその企業の社員に対して不満を感じ,クレームを言ったことのある消費者492名(うち女性149名)であった。平均年齢は,44.52歳(SD = 11.31)であった。対象者は,楽天リサーチのモニターパネルから特定された。データは,インターネット調査を通じて,2014年3月に収集された。
手続き:本調査では,調査1と異なり,シナリオの活用ではなく,対象者の実体験に基づいたデータの収集を試みた。サービス・リカバリーは,サービスの失敗に誘因されるものであるため,シナリオなどを用いた実験は,本来サービス・リカバリーの研究に適していないということが指摘されているためである(Smith et al., 1999)。
対象者は,日常生活におけるサービス経験で,客として不満を持ったときのことを思い出すように指示された。その後,不満を持ったサービスについて企業へクレームを言った際,対象者が感じた気持ちを①「企業から何らかの対価3)は得られなかったが,企業とのやりとりの過程がとても良かった」,②「企業から何らかの対価を得たが,企業とのやりとりの過程がとても悪かった」,③それ以外,から選択してもらった。ここで挙げている「対価」や「やりとり」は対象者の想定に基づいており,対象者の主観である。すなわち,対象者が,自らが受け取ったサービス・リカバリーを主観的にどう経験し,位置づけているかを反映している。そのため,①「企業から何らかの対価は得られなかったが,企業とのやりとりの過程がとても良かった」と回答した対象者は,サービス・リカバリーのプロセスに注視しており,反対に,②「企業から何らかの対価を得たが,企業とのやりとりの過程がとても悪かった」と回答した対象者は,サービス・リカバリーの結果に注視しているととらえた。
その後,対象者の行為解釈傾向を測定した。測定には,Miyamoto et al.(2013)と同様に,BIFを活用した。表1にある25個の行為について,対象者は,それぞれ2通りの記述からより適切だと思う方を選択した。高次レベル(行動の結果)に焦点をあてた記述(表1で*マークがあるもの)を選択した場合には「1」,低次レベル(行動のプロセス)に焦点をあてた記述を選んだ場合には「0」を付与し,25項目の点数を合算し,BIF指標を算出した。
結果:①を選択した対象者は65名,②を選択した対象者は84名だった4)。各群のBIF 指標の平均を算出したところ,①を選択した対象者のBIF 指標(M = 13.77, SD = 4.23)は,②を選択した対象者のBIF 指標(M = 14.88, SD = 3.60; t(147) = 1.73, p < .10)よりも低い傾向にあった。サービス・リカバリーのプロセスに注視している人々は,行為同定が低次レベル(すなわち,行動をプロセスで解釈)の傾向にあり,反対にサービス・リカバリーの結果に注視している人々は,行為同定が高次レベル(すなわち,行動を結果で解釈)の傾向にあることが見受けられた。
本稿では,日本人消費者が結果を重視したサービス・リカバリーよりも,プロセスを重視したサービス・リカバリーの方を高く評価する傾向にあることを確認し,また,サービス・リカバリーのプロセスまたは結果への注視が行為同定レベルといった個人の心理的特性と関連していることを確認した。
これらの結果は,いくつかの実務的ならびに学術的な示唆を与える。まず実務的には,サービスを提供する企業に対して,サービス・リカバリー設計の方向性を示している。顧客の多くが日本人の場合,サービス・リカバリーは,返金や値引き,無償のサービス提供といった「結果」の充実よりも,対応する社員の誠実さやサービスの失敗に対する説明,謝罪などの「プロセス」を充実させることが,サービス・リカバリーに対する顧客評価を高める可能性が高いことが示された。サービス・リカバリーのプロセス・マネジメントによっては,より満足度やロイヤルティの高い顧客を獲得することが可能となり,ひいては高い収益性につながる可能性もある(Heskett, Jones, Loveman, Sasser, & Schlesinger, 1994)。もっとも,このことは,顧客が日本人である場合に限られる可能性があることに注意が必要である。先行研究によれば,北米では,サービス・リカバリーのプロセスよりも結果が重視される傾向が示されている(Hui & Au, 2001;Mattila & Patterson, 2004)。すなわち,国際マーケティングの観点からは,サービス・リカバリーの設計については,標準化戦略でなく,各市場に合わせた適応化戦略が必要になってくることが示唆されている。
学術的には,サービス・リカバリー研究に対する貢献が考えられる。本研究は,サービス・リカバリーにおける消費者の心理プロセスの解明を試みている。サービス・リカバリーが顧客の満足やロイヤルティの向上に寄与する心理的メカニズムの説明として,もっともよく使われているのは期待不一致モデルと公正理論である(詳しい先行研究のレビューは,小本,2012を参照のこと)。本稿では,消費者が持つ個人的特性もサービス・リカバリーの評価に影響を与えることを明らかにした。とくに,サービス研究に,心理学で議論されてきた行為同定理論を援用したことは新しい試みである。サービス・リカバリーの結果またはプロセス志向を行為同定理論で説明した論文は,本論文が(筆者が知る限り)最初である。今後は,現在主流となっている公正概念を取り入れたサービス・リカバリーのモデルに,消費者の個人的特性を組み込んだ形で,サービス・リカバリーのモデルの精緻化を検討する必要があろう。
しかしながら,本稿で示された結果にはいくつかの限界もあり,ここでそれらについて記しておく。第一に,調査1では,内的妥当性を高めるために,仮想的シナリオが採用されたが,レストランというサービス業の単一カテゴリーに限定されている。また,サービス・リカバリーの結果操作も補償という一種類に限定されており,同様にサービス・リカバリーのプロセス操作も謝罪に限定されている。日本人消費者が,結果を重視したサービス・リカバリーよりも,プロセスを重視したサービス・リカバリーの方を高く評価するということを確認するためには,さらに他のサービス・リカバリーの結果に係る行為とプロセスに係る行為でも検討を行う必要がある。たとえば,調査1で使用したシナリオには,両条件に失敗の原因説明(ハンバーガーを切らしてしまった)が含まれていたが,これはサービス・リカバリーのプロセスに係る行為に分類することもできる。この要素の有無を実験操作して効果を検討することなどが,今後の研究課題として挙げられる。第二に,本研究では,結果またはプロセス重視という二つのタイプのサービス・リカバリーに対する評価と行為同定の関係を検討したが,サービス・リカバリーでプロセスと結果のどちらがより評価に影響を与えるかを検討する上では,2(プロセス:あり,なし)× 2(結果:あり,なし)の実験デザインで調査を実施する必要があろう。サービス・リカバリーの評価が,結果あるいはプロセスのどちらによるものなのかを弁別して検討する必要があるということである。第三に,調査1では,先行研究をもとに,日本人が行為をプロセスで解釈する傾向が高いととらえ,行為解釈傾向の操作または測定を行わなかった。行為解釈傾向とサービス・リカバリーの評価の関係を厳密に確認する上では,調査2と同様に,参加者の行為解釈傾向をBIFで測定するか,実験的な操作で一時的に参加者の行為解釈傾向の状態を操作する必要がある。第四に,外的妥当性を高めるために,調査2では,実際にサービス・リカバリーを体験した消費者を対象として調査を実施した。しかし,それぞれの対象者が体験した具体的なサービス・リカバリーにはバラつきがある可能性が高い。また,調査2は対象者の自己報告に基づいているため,一貫性の問題があろう。さらに,調査2では,①(企業から何らかの対価は得られなかったが,企業とのやりとりの過程がとても良かった)と回答した対象者は,行動のプロセスに焦点をあてる傾向が高く,②(企業から何らかの対価を得たが,企業とのやりとりの過程がとても悪かった)と回答した対象者は,行動の結果に焦点をあてる傾向が高いと考えたが,②と回答した参加者こそ,実はプロセスに焦点を当てる傾向が高いと解釈することも可能であろう。この点について,さらなる検討が必要である。
以上のような問題があるものの,本稿は,サービス・リカバリーにおける行為解釈傾向の影響を示唆した最初の研究である。本稿の結果をもとに,今後は,行動をプロセスで解釈する傾向が高い文化と結果で解釈する傾向が高い文化の両方を対象として,サービス・リカバリーの評価と行為同定との関係を実証的に検証する研究が望まれる。
本稿の執筆にあたり,藤村和宏先生ならびに匿名の査読者の先生方に的確かつ貴重なコメントを頂戴した。心より謝意を表したい。また本稿は,JSPS科研費JP 25240050の助成を受けたものである。