流通研究
Online ISSN : 2186-0939
Print ISSN : 1345-9015
ISSN-L : 1345-9015
投稿論文
コーズ・リレーテッド・マーケティングと消費者コスモポリタニズム―解釈レベル理論を援用した経験的研究―
寺﨑 新一郎石井 裕明
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2018 年 21 巻 2 号 p. 17-30

詳細
Abstract

人々の社会意識の高まりに伴い,近年,多くの企業でコーズ・リレーテッド・マーケティング(以下,CRM)が採用されている。本研究では,CRMに影響を及ぼす要因として,コスモポリタニズムを取り上げる。特に,先行研究で明らかにされている特徴から,コスモポリタニズムの高さとCRMに対する評価が関係している可能性や,国外の支援対象への心理的距離を通じて好ましい訴求内容に違いを生む可能性に注目し,議論を進めた。実験1では,国内を支援対象としたCRMを設定し,コスモポリタニズムと消費者反応との関係性を探った。実験2と3では,国外を支援対象としたCRMを設定し,コスモポリタニズムに応じた効果的な訴求内容について,解釈レベル理論に着目して議論した。一連の実験結果からは,コスモポリタニズムが概してCRMに対する反応と正の関係性にあることに加え,国外を支援対象としたCRMにおいては,コスモポリタニズムによって生じる解釈レベルの差異に対応した訴求が好ましい評価を導くことが示された。

1  はじめに

近年,我が国においても,社会意識が高まってきている。内閣府(2016)の「社会意識に関する意識調査」では,「日頃,社会の一員として,何か社会のために役立ちたいと思っている」と答えた人が全体の65%を占め,1974年の調査開始以来,年々増加する傾向にある。

こうした市場環境の変化に対応するための手段の一つとして,コーズ・リレーテッド・マーケティング(cause-related marketing;以下,CRM)が挙げられる。日本においても2000年代中盤以降,CRMへの注目が集まっている。この傾向は東日本大震災後に,多くの消費者がCRMを通した被災地支援に協力したことでより顕著となっており(大平・薗部・スタニスロスキー,2013),効果的なCRMの展開は,ますますその重要性を高めるものと予想される。

実際の企業によって実施されているCRMの内容に注目すると,国内のコーズだけでなく,グローバルな視点から展開されているものも数多く存在することが分かる。日本におけるCRMの嚆矢とされるボルビックの「1ℓ for 10ℓ」キャンペーン1)はその代表例である(大平・薗部・スタニスロスキー,2015)。国外を支援対象とするCRMの多さを踏まえると,消費者が国外に対してどのような態度を有しているのかによって,その効果は大きく左右されるはずである。そこで本研究では,CRMの影響を左右する要因として,消費者のコスモポリタニズムに注目する。

コスモポリタニズムを消費者行動研究のコンテクストで最初に議論したCannon, Yoon, McGowan, and Yaprak(1994)以降,関連する先行研究では,コスモポリタニズムによって生じる複数の特徴が指摘されてきている。例えば,Riefler, Diamantopoulos, and Siguaw(2012)によると,コスモポリタニズムが高い消費者は,外国および異なる文化に対してオープン・マインドであり,そこからもたらされる製品の多様性を評価し,意欲的に消費しようとする特徴がある。1990年代中盤以降にみられる交通手段の発達,中産階級の増加,インターネットの普及によって,こうした消費者は急速に増加してきているという(Riefler & Diamantopoulos, 2009Cleveland, Erdoğan, Arıkan, & Poyraz, 2011Grinstein & Wathieu, 2012)。

これらの指摘を踏まえると,グローバルに展開されるCRMにおいては,消費者のコスモポリタニズムの高低がその成否に強く関わってくるものと考えられる。本研究では,コスモポリタニズムの高低に対応したCRMの効果的な訴求内容を明らかにするべく,2000年頃から社会心理学において議論されてきた解釈レベル理論に着目する。解釈レベル理論では,対象への心理的距離が取り上げられており,その遠近に応じた訴求内容の有効性が指摘されてきた(阿部,2009須永・石井,2012外川・八島,2014)。国外のコーズが取り上げられた際には,外国に対する態度を反映しているコスモポリタニズムによって,心理的距離の遠近が発生する可能性がある。その結果,解釈レベルも変化し,効果的な訴求内容も異なってくると推測される。

以上の様な問題意識を背景に,本研究では,CRMにコスモポリタニズムが及ぼす影響を明らかにしていく。実験1では,コスモポリタニズムとCRM全般との関係を明らかにするため,国内を支援対象としたCRMへの評価を検討する。実験2では,国外を支援対象としたCRMに注目し,支援内容の具体性と抽象性という解釈レベルに対応した要因を取り上げることで,コスモポリタニズムの高低による効果的な訴求内容の差異を明らかにする。実験3では,実験2の結果の一般化を図るため,写真をカラーと白黒に操作し,国外を支援対象としたCRMを取り上げた際のコスモポリタニズムの影響を示していく。

2  理論的背景および仮説構築

2.1  コーズ・リレーテッド・マーケティング

品質や価格,製品イノベーションにおける差別化が難しい現代において(Rangan, Chase, & Karim, 2012),製品の売上から得られた利益を任意の組織に寄付するというCRMが注目されている(Kotler & Lee, 2005)。コーズとは「良いことなので援助をしたくなる対象」(p. 17)であり(世良,2014),消費者に製品購買を通した寄付という,明確な行動を喚起させてくれる。題材となるコーズは多岐にわたり,健康の促進や維持,教育や医療,ホームレスや飢餓などの基本的ニーズ,環境問題などが挙げられる(Kotler & Lee, 2005)。

CRMの考え方はVaradarajan and Menon(1988)によって最初に提唱され,「顧客が組織的ないし個人的な目的を充足するような金銭的交換を行うとき,その収益が任意のコーズに役立てられることを表明して行われるマーケティング活動の策定および実行に関するプロセス」(p. 60)と定義されている。本研究でもVaradarajan and Menon(1988)の定義を採用し,以下の議論を進める。

CRMの先駆として知られるのは,1983年にアメリカン・エキスプレスが行った,「自由の女神像とエリス島」の修復をコーズとするキャンペーンである。このキャンペーンによって,同社は170万ドルの修復費用が得られたほか(American Express, 2017),同社の新規カード発行率は前年同期比で45%,カード使用率は28%増加したという(大平,2010)。現在では競艇,宝くじ,競輪といった民間企業以外の組織形態でも,CRMは援用されており(世良,2014),スポンサーシップにコーズを付与することで,好ましい反応が得られることなども示されてきている(李,2015)。これらを踏まえると,CRMとはコーズの支援が消費者に好意的に受け止められ,結果的に商品およびサービスの売上や収益の向上につながることを期待して実施されるマーケティング戦略であると捉えられる。

先行研究では,CRMがもたらす効果として,売上への寄与,ブランド・スイッチング,組織イメージの改善,ブランド・ロイヤリティの強化などが明らかにされてきた(e.g. Ross, Stutts, & Patterson, 1992Smith & Alcorn, 1991Strahilevitz & Myers, 1998Tangari, Folse, Burton, & Kees, 2010Van den Brink, Odekerken-Schröder, & Pauwels, 2006)。いずれの研究においても,程度の差こそあれ,発信されたコーズに対する消費者からの好ましい反応が確認されている。

CRMがもたらす効果が明らかになるにつれ,より効果的に展開するための要素を特定する実証研究も行われてきている。例えば,製品のタイプに着目したStrahilevitz and Myers(1998)は,娯楽品を消費する罪悪感に注目し,実用品よりも娯楽品を寄付つき商品に用いた方が効果的であることを示している。Grau and Folse(2007)では,寄付内容のローカル性とメッセージとの関係が取り上げられ,コーズに対して低関与の消費者にはローカルな寄付内容かつポジティブなメッセージフレームが好ましいことが実証されている。そのほか,寄付形態(Ellen, Mohr, & Webb, 2000),寄付額(Strahilevitz, 1999)がCRMの効果に及ぼす影響などが研究されてきた。

最近では,消費者特性に着目したCRM研究もみられるようになってきた。例えば,Winterich and Barone(2011)は,消費者の自己観に注目し,東洋に多い相互協調的自己観を持つ消費者は,西洋に多い相互独立的自己観を持つ消費者と比べて値引きベースのプロモーションよりも寄付ベースのそれの方を好むと指摘している。また,Tangari et al.(2010)は,消費者の時間的志向による調整効果に注目し,現在志向の消費者が近い将来に解決されるフレームを与えられたコーズを好ましく評価する一方で,未来志向の消費者が遠い将来に解決されるフレームを与えられたコーズを好ましく評価することを示した。

以上の様な影響が明らかにされているものの,マーケティング刺激を取り上げた先行研究に比べると,消費者特性を取り上げた研究の数はそれほど多くなく,依然として検討の余地が残されている。特に,国外を対象とするCRMの多さに鑑みると,消費者のコスモポリタニズムの程度がその成否に大きく関わってくるものと思われる。そこで本研究では,CRMの効果に影響を及ぼす消費者特性として,コスモポリタニズムに注目する。

2.2  コスモポリタニズム

コスモポリタニズムは,外国に対する肯定的な消費者態度の1つであり,Merton(1957)が社会学において提唱したコスモポリタニズムの概念を,Cannon et al.(1994)が消費者行動研究に拡張することで提示された。国際マーケティング分野では,消費者エスノセントリズム(Shimp & Sharma, 1987)やアニモシティ(Klein, Ettenson, & Morris, 1998)に代表される,外国に対する否定的な消費者態度が多く研究されてきた。しかしながら,急速に進むグローバル化のもと,外国に対する肯定的な消費者態度にも注目が集まるようになってきている。なかでも,コスモポリタニズムはその代表的な概念として,2000年代中盤以降からJournal of International Business StudiesJournal of International Marketingを中心に,多くの研究成果が発表されている。

コスモポリタニズムとは社会学的には「異文化経験に対する知的かつ審美的な開放性であり,均質性よりは異質性の追求」(Hannerz, 1990, p. 239)を表す概念として用いられる。本研究では,消費者行動研究のコンテクストからコスモポリタニズムを論じた李(2011)の指摘をもとに,異文化および世界に対して寛容さや関心を示し,能動的に関わっていこうとする消費者態度としてコスモポリタニズムを捉えることとする。

先行研究の議論をまとめると,コスモポリタニズムの高い消費者は,外国や異文化に対してリベラルな態度を有しており,国外製品を積極的に評価し,選択しようという傾向がある(e.g. Cleveland et al., 2011Grinstein & Riefler, 2015Riefler et al., 2012)。Riefler et al.(2012)では,コスモポリタニズムが製品に対する消費者反応に及ぼす影響を取り上げ,コスモポリタニズムが国外製品の購買意向にプラスの影響を及ぼすことを明らかにしている。また,Jin et al.(2015)は自国が先進国か後進国かに関わらず,国外製品のイメージに対してコスモポリタニズムがプラスに働くことや,国内製品のイメージに対しても一定の影響を及ぼすことを指摘している。

近年では,具体的なマーケティング戦略に紐づけようという動きも見られる。スポンサーシップにおけるコスモポリタニズムの役割を検討したLee and Mazodier(2015)は,2012年のロンドン五輪前後と最中で,仏スポンサーが提供する飲料ブランドに対する英国人の評価を分析した。同研究が行った分析によると,コスモポリタニズムは,ブランドへの信頼に影響しなかった一方で,ブランドへの愛着を高めたという。また,環境への配慮を重視した製品の訴求内容において,コスモポリタニズムの高い消費者には,ローカルフレームよりもグローバルフレームの方が効果的であることが指摘されている2)Grinstein & Riefler, 2015)。

本研究では,海外で展開されるCRMが多いことを問題意識として,コスモポリタニズムを取り上げているものの,コスモポリタニズムがCRMに直接的な影響を及ぼしている可能性もある。コスモポリタニズムの先行要因としての価値に関する研究において,Cleveland et al.(2011)は,個人レベルの動機づけに関する価値であるSVS-10(Schwartz, 1992)をコスモポリタニズムの先行要因として位置づけ,重回帰分析を行なった結果,「慈悲」(benevolence)とコスモポリタニズムとのポジティブな関連性を示している。ただし,「慈悲」がコスモポリタニズムの先行要因であるという指摘には,一定の課題があると考えている。多様な文化に接触することで人々が慈悲を重視するようになっていく可能性も否定できないからである。こうした視点から,本研究ではコスモポリタニズムの高さと慈悲との間には関連性があるとして議論を進める。したがって,特定の困難に直面する対象者を支援できるCRMが展開されている製品に対する評価や購買意図は,慈悲とも結びつくコスモポリタニズムの高さと関連していると予想される。

なお,Grinstein and Riefler(2015)においては,コスモポリタニズムとメッセージフレーム(ローカル/グローバル)の関係が議論されているが,本研究では,国外を対象とするコーズのみならず,国内を対象とするコーズにおいても,コスモポリタニズムが消費者の好ましい反応を導くと想定している。慈悲とポジティブな関連性のあるコスモポリタニズムが高くなればなるほど,国の内外に関わらず,CRMが展開されている製品に対して好ましい評価を下すと予想されるからである。そこで,次の仮説が導出される。

 

H1:コスモポリタニズムが高くなるほど,CRMが展開されている製品の評価や購買意図も高くなる。

 

その一方で,外国に対する肯定的な消費者態度であるコスモポリタニズムは,国外のコーズを支援するCRMがもたらす効果に対し,特定の影響を及ぼしている可能性がある。本研究では,国外のコーズを取り上げたCRMの議論に解釈レベル理論を援用し,コスモポリタニズムの高低によって効果的なマーケティング・コミュニケーション方法が異なることを明らかにしていく。

2.3  解釈レベル理論

解釈レベル理論は,対象との心理的距離による精神的表象の変化を説明する理論であり,2007年にJournal of Consumer Psychologyで特集が組まれたことで,消費者行動研究における解釈レベル理論の援用が盛んに行われるようになってきた(阿部,2009)。

Trope and Liberman(2003)によれば,ヒトは対象への心理的距離を遠く感じた場合,高次の解釈レベルとなり,対象を抽象的,脱文脈的,本質的ならびに目標関連的に捉える一方,対象への心理的距離を近く感じた場合,低次の解釈レベルとなり,対象を具体的,文脈依存的,副次的ならびに目標非関連的に捉えるとしている。

対象までの心理的距離は,いくつかの下位分類に分けられる。先行研究において,最も多く取り上げられてきたのは現在や未来といった時間的距離である。例えば,マリッジ・ブルーは,挙式という対象までの時間を心理的距離として捉え,挙式が近づくほど結婚に際して具体的な不安を感じるようになることで引き起こされる事象である(外川・八島,2014)。

時間的距離のほかには,社会的距離,空間的距離,製品やサービスの使用経験などが挙げられるが(Trope, Liberman, & Wakslak, 2007須永・石井,2012),本研究では,社会的距離に注目する。社会的距離とは,他者やその集団との類似性の高さを表しており(Trope & Liberman, 2003),換言すれば特定の人物や集団に対する「親近感」や「身近さ」といえる(外川・石井・恩藏,2016)。社会的距離を購買行動の文脈から検討した例として,お歳暮の選択が挙げられる。寄贈先との社会的距離から,例えば上司にはお礼の意味から見栄えのよいブランド品を,身内には役立ちそうなお得感のある製品が選択されると考えられる(阿部・守口・八島,2015)。なお,空間的距離とは,居住地などの参照点と対象までの実際の物理的な距離のことであり(Lii, Wu, & Ding, 2013),この点で社会的距離とは明確に区別される。

CRMと解釈レベル理論を関連づけた研究としては,Lii et al.(2013)が挙げられる。Liiらは社会的距離が近いブランドにおいて,対象までの空間的距離が近いコーズの場合,消費者反応がより良くなることを実証している。また,CRMと関連した議論として,Macdonnell and White(2015)は,非営利団体への支援を取り上げた検討を進めている。同研究では,支援内容の抽象性と寄付内容の抽象性との交互作用が注目されており,朝食の提供など支援内容が具体的な場合には,より具体的な金銭的寄付の方が抽象的な時間的寄付よりも効果が高く,飢餓対策など支援内容が抽象的な場合には,抽象的な時間的寄付の方が具体的な金銭的寄付よりも効果が高いという。しかしながら,CRMと解釈レベル理論との関連性を検討した研究の数は少なく,解釈レベル理論とコスモポリタニズムをともに取り挙げた議論も進められていない。そこで,本研究ではCRMにおける支援対象への心理的距離とコスモポリタニズムとの関連性について検討する。

上述した通り,コスモポリタニズムとは,異文化および世界に対して寛容さを持ち,外国人と交流しようとする消費者態度である(李,2011)。したがって,支援対象がアフリカの子供たちのように国外の場合,外国や異文化に対してオープン・マインドであるコスモポリタニズムの高い消費者は(Riefler et al., 2012),コスモポリタニズムの低い消費者に比べ,支援対象との心理的距離を近く感じると考えられる3)。その結果,低次解釈になると考えられるため,抽象的な支援内容を提示しているCRMよりも具体的な支援内容を表明しているCRMに対し,好ましい評価を下すであろう。以上より,次の仮説を設定する。

 

H2:CRMの支援対象が国外の場合,コスモポリタニズムが高くなるほど,抽象的な支援内容を表明しているCRMよりも具体的な支援内容を表明しているCRMに対する反応の方が好ましいものとなる。

 

なお,Riefler et al.(2012)やTerasaki and Perkins(2017)では,国内への関心を取り上げたローカリズムとコスモポリタニズムが独立した概念であることが示されている。そのため,支援対象が国内の場合には,コスモポリタニズムによる心理的距離の遠近は生じず,訴求内容の具体性や抽象性の影響も確認できないと考えられる。

コスモポリタニズムが生み出す国外の寄付先に対する心理的距離は,支援内容の抽象性や具体性だけでなく,コミュニケーション方法にも影響を及ぼすだろう。本研究では,Lee, Deng, Unnava, and Fujita(2014)を参考に,写真により操作された具体性の消費者反応に対する効果を検討する。Lee, Deng, Unnava, and Fujita(2014)は,広告やパッケージにおけるマーケティング・コミュニケーションにおいて,カラーないし白黒の写真が頻繁に用いられることに注目し,3つの実験から,白黒写真が高次の解釈レベルに,カラー写真が低次の解釈レベルに対応していることを確認している。この含意を理論的背景として本研究に適用すると,CRMの支援対象が国外の場合,コスモポリタニズムが高くなるほど,支援対象に対する心理的距離が近くなるため,低次解釈になると予想される。その結果,コスモポリタニズムが高くなるほど,カラー写真の掲載されたメッセージの方が白黒写真の掲載されたそれよりも,国外を対象としたCRMに好ましい評価を下すものと考えられる。以上より,次の仮説を設定する。

 

H3:CRMの支援対象が国外の場合,コスモポリタニズムが高くなるほど,白黒写真が掲載されたメッセージよりもカラー写真が掲載されたメッセージに対する反応の方が好ましいものとなる。

 

本研究では以上の仮説に対して,3つの実験を通して検証を試みる。実験1では,国内を支援対象としたCRMが展開されている製品の評価や購買意図とコスモポリタニズムとの関係を明らかにする。併せて,国内を支援対象とするときには,H2で想定しているようなコスモポリタニズムと支援内容との交互作用が生じないことを確認する。実験2および実験3では,CRMの対象が国外のとき,コスモポリタニズムによって支援対象との心理的距離に変化が生じることで,支援内容や提示された画像によってCRMに対する評価が異なることを検証する。

3  実験1

3.1  実験1の目的

H1を検証するため,国内を支援対象としたCRMが展開されている製品の評価や購買意図とコスモポリタニズムの関係について検討する。

3.2  予備調査

本調査に先立ち,具体性の異なる寄付内容を設定するために予備調査を実施した。対象は首都圏の私立大学に通う59名の大学生である。実際に企業が実施しているCRMによる寄付内容から,複数の寄付内容が候補に選ばれた。その上で,外川他(2016)を参考に,具体性/抽象性の測定項目である「寄付内容として抽象的である」という質問に対して5段階のリッカート尺度で回答してもらった。その結果,「スポーツ支援」(M = 3.46, SD = 1.09)と「サッカーボールの寄付」(M = 2.25, SD = 1.24)の間に有意な差が確認された(t(58) = 5.61, p < .001)。なお,同予備調査においては,「寄付内容として好ましい」という質問に対しても回答してもらっているが,「スポーツ支援」(M = 3.34, SD = 1.06)と「サッカーボールの寄付」(M = 3.25, SD = 1.03)の間に有意な差はみられなかった(t(58) = .49, p = .62)。以上の結果より,本研究では,抽象的な寄付内容として「スポーツ支援」,具体的な寄付内容として「サッカーボールの寄付」を設定することにした。

3.3  実験1の概要

本調査は,関東1都6県と関西2府5県に居住する20~69歳の男女228名に対し,インターネットを通じて実施された。なお,分析にあたっては228名の実験参加者のうち,全ての項目で同じ回答をしていたサンプルを除く223名を分析対象とした。

実験参加者には「ある企業は以下のチョコレートの販売を予定しています。そのチョコレートのパッケージには,『このチョコレートは,商品の売上に応じて,その販売収益の一部が,日本の児童養護施設の子供たちへの(スポーツ支援/サッカーボール)として寄付されます』と書かれていました」という2つのシナリオが半数ずつになるようランダムに割当てられた。対象製品カテゴリーには,チョコレートを設定した。チョコレートは,様々なブランドや製品が市場に導入されており,年齢や性別を問わず多くの消費者が購買経験を有しているため,特定の消費者層に購買経験が偏ってしまう可能性を低減できると考えたからである(外川他,2016)。

コスモポリタニズムは5項目から構成されるCleveland, Laroche, Takahashi, and Erdoğan(2014)の尺度4)(α = .‍95),製品評価は「私はこのチョコレートが好きである」,「このチョコレートはとても良い製品だ」,「私はこのチョコレートに好意を持っている」の3項目から構成されるGwinner and Bennett(2008)の尺度5)(α = .92),購買意図は「私は子供たちを支援するために,このチョコレートの購入を検討すると思う」というTangari et al.(2010)の尺度を使用し,それぞれ7段階のリッカート尺度で回答してもらった。ただし,一部の項目は本研究の調査内容に準じて若干の修正を加えている。分析にあたっては,コスモポリタニズムおよび各従属変数のスコアを中心化した数値を用いた6)Cronbach, 1987)。具体的な測定項目および尺度の信頼性と妥当性に関する統計量は,論文の末尾に〈付録〉として示した。

本調査に先立ち経営学を専攻する37名の大学院生に対し,回答時間の適切さを検討するための2つ目の予備調査を実施したところ,回答は概ね5分以内に終了し,最も遅い人で8分程度かかったが,Hinkin(1995)Podsakoff, MacKenzie, Lee, and Podsakoff(2003)を参考に,問題のない範囲であることを確認できた。2つ目の予備調査から,質問項目や構成の明瞭さ,回答時間,誤植の有無などを確認したのち,最終版の調査票を完成させた。

3.4  実験1の分析結果

仮説の検証を進める前に,前述した予備調査と同様の項目を7段階のリッカート尺度で尋ね,操作チェックを行った。その結果,「寄付内容として抽象的である」という質問に対して「スポーツ支援」(M = 4.12, SD = 1.25)と「サッカーボールの寄付」(M = 3.49, SD = 1.97)の間に有意な差がみられたが(t(221) = 6.09, p < .001),「寄付内容として好ましい」という質問には,「スポーツ支援」(M = 4.27, SD = 1.60)と「サッカーボールの寄付」(M = 4.25, SD = 1.80)の間に有意な差はみられず(t(221) = .20, p = .‍84),メッセージは適切に操作されていることが確認された。

消費者反応に関する構成概念はいずれも十分な内的一貫性と収束妥当性を備えていることが認められたため,従属変数を製品評価とし,支援内容(具体的/抽象的),コスモポリタニズム,それらの交互作用項を独立変数とする重回帰分析を行った結果,F値は5%水準で有意となった(F(3,219) = 3.09, p = .03; R2 = .04)。それぞれの効果を見てみると,コスモポリタニズムの主効果が有意となった一方で(B = .24, s.e. = .09, t = 2.71, p < .01),支援内容(B = −.07, s.e. = .16, t = −.41, p = .68)およびそれらの交互作用項(B = −.14, s.e. = .12, t = −1.14, p = .26)は有意でなかった。したがって,コスモポリタニズムが高くなるほど,CRMが展開されている製品の評価が高くなっており,H1と一致した結果が得られた。

なお,従属変数を購買意図とする分析では,F値が有意でなかった(F(3,219) = 1.22, p = .30; R2 = .02)。

3.5  実験1の考察

実験1では,H1を検証するため,支援対象を国内としたCRMを展開する製品の評価や購買意図とコスモポリタニズムとの関係を検討してきた。その結果,コスモポリタニズムとCRMを展開する製品の評価との間に関連性が見出され,H1と一致した結果が得られた。ただし,従属変数を購買意図とした場合には,H1と一致した結果は得られなかった。

実験2では,国外を支援対象としたCRMを取り上げ,H1を再検証するとともに,支援内容の具体性の違いがCRMを展開する製品への消費者反応に及ぼす影響がコスモポリタニズムによって調整されることを検討していく。

4  実験2

4.1  実験2の目的

実験2では,CRMの支援対象が国外の場合,コスモポリタニズムの高い消費者において,心理的距離が近く感じられ,低次の解釈レベルになることによって,具体的な支援内容が示されたCRMを展開する製品への評価や購買意図が高まるというH2を検証する。また,コスモポリタニズムとCRMが展開されている製品の評価や購買意図との関連性を想定したH1を改めて確認する。

4.2  実験2の概要

実験2は,インターネットを通じて,関東1都6県と関西2府5県に居住する20~69歳の男女228名を対象に実施した。なお,分析にあたっては228名の回答者のうち,全ての項目で同じ回答をしていたサンプルを除く206名を分析対象とした。対象製品カテゴリー,訴求内容,測定尺度,調査票の構成は実験1とほぼ同一のものとした。実験参加者には,「ある企業は以下のチョコレートの販売を予定しています。そのチョコレートのパッケージには,『このチョコレートは,商品の売上に応じて,その販売収益の一部が,アフリカの児童養護施設の子供たちへの(スポーツ支援/サッカーボール)として寄付されます』と書かれていました」という2つのシナリオが半数ずつになるようランダムに割当てられた。実験1では,支援対象が「日本の児童養護施設の子供たち」とされていたが,実験2では「アフリカの児童養護施設の子供たち」と修正されている。

4.3  実験2の分析

実験1と同様の項目を用いて,7段階のリッカート尺度で操作チェックを行ったところ,「寄付内容として抽象的である」という質問に対して「スポーツ支援」(M = 4.27, SD = 1.48)と「サッカーボールの寄付」(M = 3.50, SD = 2.03)の間に有意な差がみられたが(t(204) = 6.81, p < .001),「寄付内容として好ましい」という質問には「スポーツ支援」(M = 4.25, SD = 1.15)と「サッカーボールの寄付」(M = 4.26, SD = 1.36)の間に有意な差はみられず(t(204) = −.13, p = .89),メッセージは適切に操作されていることが確認された。

さらに,コスモポリタニズムが心理的距離に及ぼす影響を確認するため,社会的距離は他者やその集団との類似性の高さで判断されるとしたTrope and Liberman(2003)Liviatan, Trope, and Liberman(2008)を参考に「日本の人々とアフリカの人々は基本的に変わらない」と「日本の人々とアフリカの人々は価値観を共有できる」という2項目に対して7段階のリッカート尺度で回答してもらい,その合成変数をアフリカに対する心理的距離の代替的な尺度とした。コスモポリタニズムとこれらの尺度で測定したアフリカに対する心理的距離の間には,弱いながらも想定していた通りの正の相関が確認され(r = .26, p < .001),コスモポリタニズムが高い人ほどアフリカに対する心理的距離が近いと考えられたため,以降の分析を進めることにした。

従属変数を製品評価とし,支援内容(具体的/抽象的),コスモポリタニズム,それらの交互作用項を独立変数とする重回帰分析を行った結果,F値は0.1%水準で有意となった(F(3,202) = 6.59, p < .001; R2 = .09)。それぞれの効果を見てみると,支援内容の主効果は有意でないが(B = −.16, s.e. = .16, t = −.98, p = .33),コスモポリタニズムの主効果が有意となり(B = .37, s.e. = .09, t = 4.03, p < .001),コスモポリタニズムが高くなるほど,CRMを展開している製品の評価は高くなっていた。また,支援内容×コスモポリタニズムの交互作用項も有意となった(B = −.24, s.e. = .12, t = −1.97, p = .049)。そこで,Aiken and West(1991)に倣い,単純傾斜分析を実施した結果,コスモポリタニズムが−1SDのときでは有意な影響はみられなかったが(B = .16, s.e. = .23, t = .71, p = .48),コスモポリタニズムが+1SDのときの支援内容の単純主効果(B = −.48, s.e. = .23, t = −2.09, p = .04)が有意となり,抽象的な支援内容よりも具体的な支援内容の方が好ましい影響を及ぼしていた(図1)。

図1.

従属変数に対するコスモポリタニズムの調整効果

注)従属変数の予測値は0が平均を示している。実線が具体的な支援内容,点線が抽象的な支援内容である。

次に,従属変数を購買意図として同様の分析を行なったところ,F値は0.1%水準で有意となった(F(3,202) = 6.38, p < .001; R2 = .09)。また,支援内容の主効果は有意でないが(B = −.31, s.e. = .19, t = −1.64, p = .10),コスモポリタニズムの主効果が有意となり(B = .41, s.e. = .11, t = 3.81, p < .001),コスモポリタニズムが高くなるほど,CRMを展開している製品への購買意図は高くなっていた。また,交互作用項も有意となったため(B = −.28, s.e. = .‍14, t = −1.97, p =.05),単純傾斜分析を実施した結果,コスモポリタニズムが−1SDのときでは有意な影響はみられなかったが(B = .06, s.e. = .27, t = .24, p = .81),コスモポリタニズムが+1SDのときの支援内容の単純主効果(B = −.68, s.e. = .27, t = −2.55, p = .01)が有意となり,抽象的な支援内容よりも具体的な支援内容の方が購買意図に好ましい影響を及ぼしていた(図1)。以上の結果から,H1,H2は,ともに支持された。

4.4  実験2の考察

実験2では,コスモポリタニズムが高くなるほど,CRMの展開されている製品への消費者反応が好ましくなることを再確認した。また,CRMの支援対象が国外の場合,コスモポリタニズムによって支援対象に対する心理的距離が異なるため,支援内容の抽象性や具体性によってCRMに対する評価が異なることを示した。コスモポリタニズムが−1SDのときの支援内容の単純主効果は有意でなかったものの,図1よりコスモポリタニズムが高くなるほど具体的な支援内容の方が,抽象的な支援内容よりも好ましい反応が得られることが示された7)。ただし,それぞれの支援内容が「スポーツ支援」と「サッカーボール」と異なっているため,支援内容の違いが影響している可能性を排除することはできていない。そこで実験3では,同一の寄付内容においても,コスモポリタニズムが実験2と同様の影響を及ぼすことを明らかにするため,掲載される画像をカラー写真と白黒写真に操作して検討を進めていく。

5  実験3

5.1  実験3の目的

実験3では,CRMの支援対象が国外の場合,コスモポリタニズムの高い消費者において,抽象性の高い白黒写真よりも,具体性の高いカラー写真を用いることで好ましい反応が得られるというH3を検証する。また,実験2と同様,コスモポリタニズムが高くなるほど,CRMが展開されている製品の評価や購買意図が高くなるというH1を改めて確認する。

5.2  予備調査

本調査に先立ち,実験刺激に用いる写真を設定するための予備調査を実施した。対象は首都圏の私立大学に通う40名の大学生である。素材はshutterstockで購入したものから,複数のカラー写真が候補に選ばれ,それらを白黒写真に加工した。その上で,外川他(2016)を参考に,具体性/抽象性の測定項目である「抽象的な写真である」という質問に対して5段階のリッカート尺度で回答してもらった。その結果,〈付録〉で掲載された写真について,白黒写真条件(M = 3.38, SD = .90)とカラー写真条件(M = 3.03, SD = .92)の抽象性に有意な違いが確認された(t(39) = −.40, p = .02)。また,同予備調査では,「社会貢献型の商品に適切な写真である」という質問に対しても回答してもらっているが,カラー写真(M = 3.13, SD = .91)と白黒写真(M = 3.08, SD = 1.02)の間に有意な差はみられなかった(t(39) = .30, p = .77)。

5.3  実験3の概要

実験3は,関東1都6県と関西2府5県に居住する20~69歳の男女208名に対し,インターネットを通じて実施した。なお,分析にあたっては208名の回答者のうち,全ての項目で同じ回答をしていたサンプルを除く186名のデータが用いられた。

実験参加者には「ある企業は以下のチョコレートの販売を予定しています。そのチョコレートのパッケージには,『このチョコレートは,商品の売上に応じて,その販売収益の一部が,アフリカの児童養護施設の子供たちに寄付されます』と書かれていました」というメッセージとともに,アフリカの子供たちが写ったカラーないし白黒の写真が添えられた広告がランダムに割り当てられた。測定尺度や調査票の構成は実験1,実験2とほぼ同一である。

5.4  実験3の分析

分析に入る前に,予備調査と同様の項目を用いて7段階のリッカート尺度で操作チェックを行ったところ,「抽象的な写真である」という質問に対して白黒写真(M = 4.38, SD = 1.77)とカラー写真(M = 3.98, SD = 1.34)の間に有意な差がみられ(t(184) = −2.21, p = .03),「社会貢献型の商品に適切な写真である」という質問には,白黒写真(M = 4.20, SD = 1.43)とカラー写真(M = 4.17, SD = 1.51)の間に有意な差はみられず(t(184) = −.16, p = .87),メッセージは適切に操作されていることが確認された。

従属変数を製品評価とし,画像(カラー/白黒),コスモポリタニズム,それらの交互作用項を独立変数とする重回帰分析を実施した結果,F値は0.1%水準で有意となった(F(3,182) = 7.33, p < .001; R2 = .11)。それぞれの効果を見てみると,画像の主効果は有意でないが(B =.16, s.e. = .15, t = 1.05, p = .29),コスモポリタニズムの主効果が有意となり(B = .38, s.e. = .09, t = 4.32, p < .001),コスモポリタニズムが高くなるほど,CRMを展開している製品の評価も高くなるという結果が再び確認された。さらに,交互作用項も有意となったため(B = −.25, s.e. = .12, t = −2.‍02, p = .04),単純傾斜分析を実施した結果(図2),コスモポリタニズムが高い(+1SD)ときは有意な影響はみられなかったが(B = −.15, s.e. = .21, t = −.69, p = .49),コスモポリタニズムが低い(−1SD)ときの画像の単純主効果が有意になっており(B = .46, s.e. = .‍21, t = 2.18, p = .‍03),カラーよりも白黒写真の方が好ましい影響を及ぼしていた。

図2.

従属変数に対するコスモポリタニズムの調整効果

注)従属変数の予測値は0が平均を示している。実線がカラー写真,点線が白黒写真である。

次に従属変数を購買意図として同様の分析を実施した結果,F値は0.1%水準で有意となった(F(3,182) = 7.80, p < .001; R2 = .11)。また,画像の主効果(B = −.03, s.e. = .‍17, t = −.17, p = .86)は有意でないが,コスモポリタニズムの主効果が有意となり(B = .44, s.e. = .10, t = 4.57, p < .001),コスモポリタニズムが高くなるほど,CRMを展開している製品の購買意図も高くなることが再び確認された。さらに,交互作用項が有意となったため(B = −.28, s.e. = .‍14, t = −2.05, p = .04),単純傾斜分析を実施した結果(図2),コスモポリタニズムのスコアが低い(−1SD)ときにも(B = .31, s.e. = .24, t = 1.33, p = .18),コスモポリタニズムのスコアが高い(+1SD)ときにも(B = −.37, s.e. = .24, t = −1.58, p = .12),画像の単純主効果はp値が0.1を上回った。しかしながら,交互作用項は有意であり,コスモポリタニズムの値によってカラー/白黒の傾きに変化が生じると考えられるため,ジョンソン・ネイマン法(Johnson & Neyman, 1936)による有意区間の算出を試みた8)。分析結果から,コスモポリタニズムの有意区間は−1.97以下,1.33以上と算出されたが,平均値4.32でスコアが中心化されているため,元の値に戻すと2.35以下,5.64以上となり,コスモポリタニズムが5.64以上であれば白黒よりもカラー写真の方が好ましい反応が得られることが明らかになった9)。なお,先行研究で示されている7段階尺度でのコスモポリタニズムの平均値は,それぞれ5.20(李,2011),5.34(Cleveland et al., 2014),5.41(Grinstein & Riefler, 2015),5.71(Terasaki & Perkins, 2017)であり,本研究で得られた5.64という値は,むしろこれらに近い値となっている。こうした点を加味すると,必ずしもコスモポリタニズムが極めて高い消費者においてのみ,想定していた結果が得られるというわけではないと考えられる。また,調整変数が連続変数である場合,そもそもどの値でスコアの高低を分けるかは任意であり,自然な値というものはないとの指摘もある(Spiller, Fitzsimons, Lynch, & McClelland, 2013)。ゆえに,画像とコスモポリタニズムの交互作用項が有意であることや,購買意図に対するコスモポリタニズムの調整効果を示した図2から,コスモポリタニズムの高い消費者ほど白黒写真よりもカラー写真に対してより高い購買意図を示すと考えられる。したがって,仮説3は部分的に支持された。

5.5  実験3の考察

実験3では,CRMの支援対象が国外の場合,コスモポリタニズムの違いによって,画像(カラー/白黒)の効果が異なることを確認してきた。購買意図を従属変数とした分析では,コスモポリタニズムが高くなるほど,白黒写真よりもカラー写真が好ましく評価されるという仮説と一致した結果が得られた。

製品評価を従属変数とした分析では,コスモポリタニズムが低い消費者において,白黒写真がカラー写真よりも好ましく評価されていた。本研究では,予備調査や操作チェックにおいて,「社会貢献型の商品に適切な写真である」という項目からカラー写真と白黒写真に違いが生まれていないことを確認したが,こうした項目はどちらかというと理性的な側面に結びつく。実験3の結果を参考にすると,画像のカラーと白黒により,美的評価の様な情緒的な側面に違いが生まれ,白黒写真が掲載された刺激の製品評価を押し上げた可能性がある。その結果,コスモポリタニズムの低い消費者においてのみ製品評価に違いが生まれたのかもしれない。ただし,得られた交互作用効果の方向性は,本研究の仮説と矛盾せず,全体としては仮説と一致した結果が得られたと考えている。

なお,実験3においても,実験2と同様,H1と一致した結果が得られており,コスモポリタニズムとCRMの展開されている製品への消費者反応との関連性が再確認された。

6  結論

6.1  全体のまとめ

本研究では,CRMに対する消費者反応を,コスモポリタニズムの視点から考察した。特に,国外を対象としたCRMにおいては,解釈レベル理論を援用することで,コスモポリタニズムによる調整効果についての検討を重ねた。

実験1では国内を支援対象としたCRMが展開されている製品の評価や購買意図とコスモポリタニズムとの関係性を分析した。その結果,コスモポリタニズムが高くなるほど,製品評価が高くなることが分かった。

実験2では,コーズの対象が国外の場合,コスモポリタニズムの高い消費者では具体的な支援内容を提示することで好ましい反応が得られるかどうかを検討した。分析結果からは,コスモポリタニズムが高くなるほど,対象への心理的距離が近くなりやすく,抽象的な支援内容よりも具体的な支援内容の方が製品評価や購買意図に対する反応が好ましいものとなることが明らかになった。

実験3では,支援内容ではなく,画像を白黒ないしカラーに操作することによって,実験刺激の具体性を操作した。分析結果から,従属変数が購買意図のときは,コスモポリタニズムが高くなるほど,高次解釈に対応した白黒写真よりも低次解釈に対応したカラー写真が添えられたメッセージに対する反応の方が好ましいものとなることが示された。また,従属変数が製品評価のときは,心理的距離が遠いと考えられるコスモポリタニズムの低い消費者において,白黒写真が採用されたメッセージが高く評価されていた。本研究では,こうした結果を想定していたわけではなかったが,交互作用の方向性は,本研究の仮説と矛盾しない。

なお,実験2と実験3においては,実験1の結果を再検討しており,実験1で有意にならなかった購買意図を従属変数とした分析も行っている。両実験の結果からは,従属変数を製品評価に設定した場合だけでなく,購買意図に設定したときも,コスモポリタニズムとの関連性がみられており,実験1を補う結果が得られた。

6.2  本研究の貢献

本研究は次のような理論的な意義を挙げることができる。第一に,コスモポリタニズムがCRMに及ぼす影響を明らかにした点である。先行研究においては,コスモポリタニズムはSVS-10における「慈悲」とのポジティブな関連性が指摘されていたものの(Cleveland et al., 2011),コスモポリタニズムとCRMとの関係性については議論されていなかった。本研究では,国の内外に関わらず,コスモポリタニズムが高くなるほど,CRMが展開されている製品への消費者反応も好ましくなるという関係を実証した。こうした知見は,コスモポリタニズムが高い消費者に関する新たな特徴を描き出すだけでなく,CRMと消費者特性の関わりについても,一定の示唆をもたらすと考えられる。

第二に,解釈レベル理論とコスモポリタニズムの関係性を示した点である。先行研究においては,Grinstein and Riefler(2015)など,一部の研究でその結びつきが示唆されていたものの,本格的な実証研究は進められていない。本研究においては,国外を支援対象とするCRMを展開する場合,ターゲットである顧客のコスモポリタニズムが高いと対象に対する心理的な距離が近く感じられるため,具体的なメッセージが効果的であることが検証された。こうした知見は,CRM以外の分野にも応用できる。つまり,コスモポリタニズムの違いによって,国外に結びつく対象への印象が異なり,結果として企業が取り上げるべき訴求内容も異なってくるというメカニズムが明らかになったのである。

第三に,研究蓄積の少ないCRMと解釈レベル理論との関係性を検証したことが挙げられる。従来のCRMと解釈レベル理論を取り上げた議論においては,個人特性の影響はあまり取り上げられてこなかった。本研究では,コスモポリタニズムに注目し,議論を進めてきたが,今後は様々な消費者の個人特性を取り上げることで,解釈レベル理論との関係をより精緻に議論できるかもしれない。

第四に,パッケージ研究や広告研究への示唆である。本研究では,Lee, Deng, Unnava, and Fujita(2014)を援用することで,CRMの文脈においても,社会的距離の遠近とカラー写真や白黒写真の組み合わせによって好ましい反応が導かれる可能性を示すことができた。前述の通り,Lee, Deng, Unnava, and Fujita(2014)は,パッケージや広告におけるマーケティング・コミュニケーションで,カラーないし白黒の画像が刺激として用いられることが多いことを問題の所在としており,本研究から得られた示唆はパッケージ・デザイン研究へと応用可能なものが含まれている。

続いて本研究の実務的意義としては,コーズの対象が国外のとき,掲載する支援内容や画像の抽象度を考慮することで,より効果的なマーケティング・コミュニケーションが期待されるというものである。コスモポリタニズムの高い消費者は収入や性別,婚姻の有無に関係なく,比較的若くて教育水準が高く,郊外よりも都市部に居住している傾向があることが先行研究より明らかになっている(e.g. Cleveland, Laroche, & Papadopoulos, 2009Riefler et al., 2012Lee, Lee, & Lee, 2014)。したがって,都市部のオフィス街や文教地区,国際線に搭乗する機会の多い航空会社の優良会員などに国外を支援対象とするCRMを展開する場合,メッセージをより具体的にすると好ましい反応が得られると考えられる10)。ただし,CRMは,消費者に疑念を持たれぬよう注意深く実行されなければならず(Lii et al., 2013),マネジメント上は慎重な展開が求められることを併せて留意されたい。

6.3  本研究の限界と課題

本研究は上述の通り,複数の理論的および実務的な含意を提出しているが,いくつかの限界や課題も残している。

まず,本研究で一貫した結果の得られなかった仮説の再検討である。H1の検証では,実験1の従属変数が購買意図だった場合に,有意な結果が得られなかった一方で,実験2や実験3では有意な結果が得られている。全体としては,仮説と一致した結果が得られたと考えられるが,それぞれの実験で結果に違いが生まれた理由については,慎重な議論が必要であろう。また,実験3の従属変数を製品評価に設定した分析において,仮説が支持されなかった点についても,より厳密な操作や精緻な議論を進めていかなくてはならない。特に,本研究においては,先行研究を参考に,購買意図では「購入を検討すると思う」という具体的な意思を尋ねたのに対し,製品評価では「好きだ」,「良い製品だ」,「好意を持っている」といった抽象的な印象を質問しており,従属変数の具体性の違いが結果に一定の影響を及ぼした可能性も否定できない。本研究のみならず,解釈レベル理論関連の議論において検討すべき課題の一つであろう。

本研究は基礎理論の構築に焦点を当てたため,Elliot, Papadopoulos, and Kim(2011)外川他(2016)に倣い特定の企業およびブランドを設定せず,「チョコレート」とすることで,分析結果の一般化を目指した。コスモポリタニズム研究においても,環境配慮型製品とコスモポリタニズムとの関連性を検討したGrinstein and Riefler(2015)の実験2など,チョコレートが実験用の製品カテゴリーとして用いられた議論が進められている。しかしながら,我が国の消費者を対象とした場合,洋菓子であり原材料の多くを輸入に頼るチョコレートに対して,コスモポリタニズムが好ましい影響を与えた可能性も否定できない。今後の研究では,対象とする製品カテゴリーにも留意しなくてはならない。

抽象性や具体性以外の視点を加えることで,本研究で明らかになったメカニズムを追試することも有用であろう。例えば先行研究では,フレーミング11)の操作が試みられている。今後は,これらを参考にすることで,個別の状況に対応した含意を検討していく必要があると思われる。

また,「陰徳」の概念がある日本では,CRMへの抵抗感がある人もいるかもしれない(世良,2014)。現在,多くの企業がCRMを展開しているため,抵抗感は徐々に緩和されていくものと推察されるが,日本特有の美徳とCRMとの関連性は探索的な検討段階にある。インタビューなどの質的調査を含め,複合的な検討が期待される。

謝辞

本稿の作成にあたり,本誌編集長とアリアエディター,匿名の査読者の先生方より多くの貴重なコメントを賜りました。さらに,本稿と関連した研究成果を日本商業学会第67回全国研究大会で報告した際には,西尾チヅル先生(筑波大学)と大平修司先生(千葉商科大学)より示唆に富む助言を頂戴しました。なお,本研究は平成28年度公益財団法人緒方記念科学振興財団助成事業助成金およびJSPS科研費15K17148の助成を受けたものです。ここに記して感謝申し上げます。

1)  「プログラム実施期間中,全てのボルヴィック製品の売り上げ総量に応じてキリンビバレッジ社が売上の一部をユニセフに寄付することで,ボルヴィック出荷量1ℓにつき10ℓの清潔で安全な水が支援対象国であるマリ共和国の人々に供給される」(キリンビバレッジ,2016)というキャンペーンが展開された。

2)  Grinstein and Riefler(2015)の実験3では,排気ガスの軽減を謳った環境に優しいシボレー・クルーズの広告が刺激として提示されている。広告中には同車の写真とともにローカル(イスラエル)ないしグローバル(世界)にフレーミングされた「あなたとあなたの新しい環境配慮型の自動車。より環境に優しい(イスラエル/世界)へ」というメッセージが添えられている。

3)  コスモポリタニズムはSVS-10における普遍主義(universalism)とのポジティブな関連性が実証されており(Cleveland et al., 2011),コスモポリタニズムの高い消費者はアフリカの人々に対して心理的な距離が近いものと推察される。

4)  コスモポリタニズムと社会的望ましさとの関連性は,Riefler et al.(2012)によって無相関であることが確認されている。

5)  製品評価は李(2015)の邦訳を参照した。

6)  念のため多重共線性が発生していないかVIF(Variance Inflation Factor,分散拡大要因)を算出したが,全ての実験において統計量は2.0以下となり,目安となる5.0を下回っているため(内田,2013)問題のないことが確認された。

7)  本研究は,連続変数は連続変数のまま分析に用いられる方が望ましいとするCohen(1983)Maxwell and Delaney(1993)を参考に,コスモポリタニズムを中央値折半などで2値変数化せず,連続変数のまま単純傾斜分析を行なった。したがって,コスモポリタニズムが低いときに支援内容の単純主効果が有意でないことよりも,予測値にもとづくグラフを描くことで交互作用の方向性を解釈することを重視した。

8)  この手法は単純傾斜が有意なt値となる調整変数の値(θ)を求め,有意になる領域を特定するときに用いられる。

9)  なお,製品評価においても有意区間を算出したところ,コスモポリタニズムが8.3以上のときに有意となることが明らかになった。意味をなさない数字であるため,従属変数が製品評価のとき仮説は支持されなかったといえる。

10)  CRMを人口動態的,地理的,その他の属性で明確化したターゲット市場に接近するための効果的な手段とする企業が増えていることが,Kotler and Lee(2005)によって指摘されている。

11)  例えば,White, Macdonnell, and Dahl(2011)では,リサイクル促進広告を実験用製品として,解釈レベルが低次のときはロス型メッセージ,高次のときはゲイン型メッセージが効果的なことを明らかにしている。

 

 

 

付録
構成概念と測定尺度
構成概念と質問項目 λ α CR AVE
製品評価
私はこのチョコレートが好きだ.89.92.92.80
このチョコレートはとても良い製品だ.91
私はこのチョコレートに好意を持っている.89
コスモポリタニズム
私は他文化の人々から何か学べる事がないかと観察するのが好きだ.91.95.91.68
私は他国に住んでいる人々についてもっと知りたいと思う.90
他の国や文化圏の人々とアイディアを交換することは楽しい.91
私は他のライフスタイルを学びたい.85
私は他の国から来た人といることで,その国の人々の視点やアプローチを学ぶことは楽しい.93

回答方式は7件法で行った。

λ:因子負荷量,α:クロンバックのα,CR:合成信頼性,AVE:平均分散抽出

実験3で用いた刺激

参考文献
 
© 2018 日本商業学会
feedback
Top