本論文では,既存ブランドの海外展開をきっかけにしてブランド・アイデンティティが再構築され,企業成長を遂げていくプロセスを検討する。特に注目するのは,市場環境が変化しているのにもかかわらず,ブランドに対する信念や組織能力,ブランド・イメージに捕らわれるあまり,ブランドの革新が進まず,従来の組織活動が継続してしまうという慣性である。こうしたブランド・マネジメントの慣性は,ブランドの原点に立ち返りそれを現在直面している状況に合わせて解釈するという創造的原点回帰を通じて,ブランドの理想像としてのブランド・アイデンティティが再構築されることで緩和されうる。国内外で生じた慣性が相互に緩和されることで企業成長が実現されていく点が示される。
人々の社会意識の高まりに伴い,近年,多くの企業でコーズ・リレーテッド・マーケティング(以下,CRM)が採用されている。本研究では,CRMに影響を及ぼす要因として,コスモポリタニズムを取り上げる。特に,先行研究で明らかにされている特徴から,コスモポリタニズムの高さとCRMに対する評価が関係している可能性や,国外の支援対象への心理的距離を通じて好ましい訴求内容に違いを生む可能性に注目し,議論を進めた。実験1では,国内を支援対象としたCRMを設定し,コスモポリタニズムと消費者反応との関係性を探った。実験2と3では,国外を支援対象としたCRMを設定し,コスモポリタニズムに応じた効果的な訴求内容について,解釈レベル理論に着目して議論した。一連の実験結果からは,コスモポリタニズムが概してCRMに対する反応と正の関係性にあることに加え,国外を支援対象としたCRMにおいては,コスモポリタニズムによって生じる解釈レベルの差異に対応した訴求が好ましい評価を導くことが示された。
本研究は,顧客のサービス担当者に対する支援意識の形成要因を,顧客の担当者に対する共感と信頼の視点から解明する。質問紙調査と構造方程式モデリングによる分析により,顧客の担当者に対する共感と信頼が協働意識と愛着からなる支援意識の形成要因となることを確認する。さらに,共感の方が支援意識により強力な影響力を持つことを解明する。その結果から,顧客の従業員に対する共感の獲得が,サービス担当者の業務効率や負担の改善,精神的な支援と動機づけを実現することを示す。最後に,顧客の支援行動に関する理論的研究とサービス・マネジメントの実践における共感の重要性と課題を提起する。
本研究は,小売業における物流を中心としたサプライ・チェーンの統合を,戦略-組織構造-統合-業績の関係を用いて説明するとともに,物流センターの利用の有無による違いを明らかにした。戦略,組織構造,統合,業績それぞれの関係について仮説を設定し,わが国の小売業を対象にした調査結果を用いて検証した。その結果,戦略-公式化-サプライ・チェーンの統合-業績の一連の関係が成り立つことが実証された。さらに,物流センターの利用の有無によって,戦略と組織構造の関係,サプライ・チェーンの統合と業績との関係に違いが認められた。