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外国に対する肯定的な態度に着目した消費者行動研究
寺﨑 新一郎
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2017 年 1 巻 1 号 p. 25-32

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Abstract

本研究の目的は急速かつ不可逆的なグローバル化に起因する,外国に対する肯定的な消費者態度を社会的同一性理論に基づき整理した上で,消費者行動研究にとって有用な消費者アフィニティ,消費者世界志向,消費者コスモポリタニズムに焦点を当てレビューすることである。

レビューの結果,セグメントの特徴,各態度が単独で消費者反応にもたらす効果に関する先行研究が多くみられること,他の理論との複合的な効果や,製品ではなくサービスを対象とした研究は限られていることなどが明らかになった。また,外国に対する肯定的な態度を,否定的なそれと分けて考えるのではなく,統合的に捉えることで,この研究領域に新しい理論的貢献が期待できることが示唆された。

1  はじめに

外国に対する消費者態度の研究は,1980年代中盤にShimp(1984)によって消費者エスノセントリズム概念が提唱されたことで始まった1)。以降,エスノセントリズムやアニモシティ(Klein et al., 1998)といった外国に対する否定的な態度についての研究を中心に,数多くの研究成果が発表され,現在は1つの研究領域として確立されている2)

一方,外国に対する肯定的な態度に関する研究は,重要であるが,未だ研究が進んでいない領域であり(Cleveland et al., 2014),今後の研究が期待される。Rawwas et al.(1996)は,市場に流通する全ての製品が国内で生産されているわけでも,全ての消費者がエスノセントリズム的であるわけでもないとして,当該領域の重要性を指摘した。この背景には,1990年代以降にみられる交通手段の発達や中産階級の増加,インターネットの普及によって急速に生まれた,外国に対して肯定的な態度を有する消費者の増加がある(Cleveland et al., 2011; Grinstein & Wathieu, 2012; Riefler & Diamantopoulos, 2009)。

本稿では,グローバル化の進展によって消費者に内在された,外国に対する肯定的な態度を社会的同一性理論に依拠して分類したのち,とりわけ消費者行動への援用が期待される,消費者アフィニティ(Jaffe & Nebenzahl, 2006),消費者世界志向(Rawwas et al., 1996),そして消費者コスモポリタニズム(Cannon et al., 1994)という3つの概念に焦点を当て,研究の系譜を概観する3)。最後に,既存研究を考察したうえで,当該研究領域における今後の研究機会を提出する。

2  外国に対する肯定的な態度に関する概念

外国に対する肯定的な態度を分類する枠組みは,否定的なそれと比べて限定的であるが,有益なものとして,Josiassen(2011)の「消費者魅力-反感マトリクス」が挙げられ,外国に対する肯定的ないし否定的態度に関する4つの概念が,国内か海外かという製品の国籍,および「魅力」ないし「反感」という製品に対する態度で整理されている。本枠組みは,アニモシティやアフィニティといった,特定の外国に対する態度の識別には有効といえる一方,コスモポリタニズムや世界志向に代表される,非特定の外国に対する肯定的態度に関する概念は整理できないという課題がある。

本稿では,社会的同一性理論(Tajfel, 1974)に基づき,エスノセントリズム,ナショナル・アイデンティティ(national identity)(Doosje et al., 1995),コスモポリタニズムという3つの概念を分類したZeugner-Roth et al.(2015)を参考に,外国に対する肯定的な態度を体系的に整理する4)

社会的同一性理論は,ミクロ組織論に加えて経営戦略論にまで広範に応用されており(Tajfel & Turner, 2004),マーケティング分野においても援用が期待される理論である。当該理論は,個々人の内集団および外集団行動を明確に分けて捉えることが特徴とされ5)Brewer, 1999; Verlegh, 2007),自らの所属集団と自己とを同一化し,その集団の肯定性を自己に取り込むことで自己評価を高める過程を説明してくれる(加来,2008)。Zeugner-Roth et al.(2015)は,社会的同一性理論にもとづき,エスノセントリズム,ナショナル・アイデンティティ,コスモポリタニズムをそれぞれ向内集団かつ反外集団,向内集団,向外集団的態度として類型化している。本稿は外国に対する肯定的な態度に着目するため,対象となる全ての概念は向外集団となる。ゆえに,内集団に対する態度で,内集団中立的か反内集団かという,2つに分類を試みた。

まず,内集団中立的な概念として,アフィニティ,世界志向,コスモポリタニズム,インターナショナリズムの4つが挙げられる。いずれも向外集団という類似性があるが,アフィニティは特定の外国に対する肯定的態度を説明する一方,その他は外国に対する全般的な肯定的態度を補足する概念であるという相違がある。

本稿では,消費者行動研究への援用を念頭に,インターナショナリズムを除いた向内集団に該当する概念である,アフィニティ,世界志向,コスモポリタニズムに絞って概観する。その理由は,Kosterman & Feshbach(1989)により「他国の福祉への関心や他国の人々に対する共感」(p. 271)と定義されるインターナショナリズムは,消費者行動のコンテクストを踏まえて提出された概念ではないためである。

さらに,反内集団に該当する概念であるセノフィリアも同様の理由でレビュー対象から除外する。Perlmutter(1954)によれば,セノフィリアとは「見知らぬ人ないし外国への好意,そして自分自身の属する社会学的な準拠集団に対する暗黙ないし明示的な不敬」(p. 293)と定義され,消費や文化といったコンテクストは包含されていない。加えて,その測定尺度は,インターナショナリズムにもいえることだが,信頼性および妥当性が定量的に検証されておらず,実証研究への援用が困難である。

本章では外国に対する5つの肯定的な態度を,内集団への態度,対象となる国家の単複,消費者行動のコンテクストの有無という3つの視座から整理した(表1)。その結果,消費者行動研究への援用が期待されるアフィニティ,世界志向,コスモポリタニズムの3つの概念に着目して,レビューを試みることにする。

表1  外国に対する肯定的な態度と分類の枠組み
概念 内集団への態度 対象国 消費者行動のコンテクスト 提唱者
消費者世界志向 ​ニュートラル ​複数 ​あり Rawwas et al.(1996)
消費者コスモポリタニズム ​ニュートラル ​複数 ​あり Cannon et al.(1994)
インターナショナリズム ​ニュートラル ​複数 ​なし Kosterman & Feshbach(1989)
セノフィリア ​アンチ ​複数 ​なし Perlmutter(1954)
消費者アフィニティ ​ニュートラル ​単一 ​あり Jaffe & Nebenzahl(2006)

出典:著者作成

3  内集団中立的かつ国家特定的な概念 消費者アフィニティ

アフィニティは,向外集団かつ内集団中立的な概念であるが,世界志向およびコスモポリタニズムと異なる点として,対象国が単一であることが挙げられる。当概念は,外国に対する肯定的かつ国家特定的な消費者態度を表し,アニモシティの対概念としてJaffe & Nebenzahl(2006)によって提出された。

しかしながら,そもそも肯定的ないし否定的な態度は独立した概念であり,異なるタイプの反応を引き起こすものである(Larsen et al., 2001)。つまり,アフィニティはアニモシティの対極ではなく,独立した概念といえ,それぞれ異なる消費者反応をもたらすと考えられる。Oberecker et al.(2008)は質的研究法に基づく分析で,ライフスタイル,原風景,海外滞在経験などによりもたらさせるアフィニティは,軍事的,経済的,政治的出来事に起因するアニモシティとは動因が異なることを明らかにしている。消費者の政治的なスタンスは,ある国家および非品質的製品要素に対するバイアスをもたらす要因となるが(Balabanis et al., 2001),アニモシティと異なり,アフィニティは,マクロというよりも,消費者の個人的な経験や嗜好性といったミクロな事柄が動因となって形成される。

一般に,アフィニティとは,ヒトないしモノに対する好意または思いやり,あるいは二者間の類似性と定義される(Cambridge University Press, 2016)。消費者アフィニティは,上述が統合されたような定義となっており,Oberecker et al.(2008)によれば,言語,文化などにおける類似性,ないし対象国に対する個人的な経験に由来する特定の外国に対する好意として概念化され,アフィニティ先国家からの製品やサービスの購買意思決定に影響を与えるとされる。また,アフィニティは純粋に特定の国家への好意として捉えられ,明白に信頼性や品質といった製品特性に関連付けられた信念として定義される原産国イメージ概念とは異なる。

アフィニティを援用した消費者行動研究は,Oberecker & Diamantopoulos(2011)による尺度開発と構造方程式モデリングによる知覚リスクおよび購買意向へ及ぼす影響の検討を嚆矢に始まった。通常,外国への消費者態度に関する尺度が開発された場合,まず先行要因の検討がなされるが,Oberecker et al.(2008)で提示されたライフスタイルや文化,政治経済といったマクロな先行要因と,海外への旅行や滞在経験,外国人との接触といったミクロな先行要因は,Oberecker & Diamantopoulos(2011)のモデルには組み込まれていない。代わりに,Asseraf & Shoham(2016a)によって,イスラエル在住消費者への質的調査を通した追試が試みられ,Oberecker et al.(2008)が提出したものに加えて,文化的類似性および共通の歴史や経済的な結びつきに起因する集合記憶という,新たな先行要因が発見されている。

Oberecker & Diamantopoulos(2011)では,オーストリア在住の消費者に対して,任意のアフィニティ先国家を想起してもらい,オンラインの質問票調査が実施された。その結果,アフィニティは対象国を原産地とする製品の知覚リスクに負の影響をもたらす一方,購買意向に正の影響を与えること,ミクロな国家イメージおよびエスノセントリズムよりも,消費者への影響が大きいことが明らかになっている。

定義の拡充および尺度開発に焦点を当てた研究としては,Wongtada et al.(2012)Nes et al.(2014)が挙げられる。Wongtadaらはタイの一般消費者を対象に米国およびシンガポールに対するアフィニティとアニモシティについて調査した。その結果,アフィニティはユニークかつアニモシティとは独立した概念であり,購買意向ではなく,製品判断に対してはアニモシティよりも影響が大きいことを明らかにした。一方で,Nesらはアフィニティがミクロな国家イメージ,購買意向,製品所有にプラスの影響を与えること,そしてWongtadaらと同様に,アニモシティとは独立した概念であることを確認した。いずれも,アフィニティ研究の発展に寄与するものであるが,両研究グループによるアフィニティ概念は過度に複雑であり,実証研究へ向けた援用は困難といえる。

Asseraf & Shoham(2016b)Oberecker et al.(2008)によるアフィニティ概念を理論的背景に,自らの研究目的に則した新たな尺度を開発した。当該尺度を用いた実証研究の結果,アフィニティは製品判断と製品所有の双方にポジティブな影響をもたらすこと,アニモシティよりも製品判断と製品所有に対する影響力が大きいこと,さらに特定の国家に対する肯定的な態度と否定的な態度は共存可能であることが明らかになった。Oberecker らの研究においても,アニモシティとアフィニティとの相関関係はネガティブであるが,完全に両極ではないという命題が提出されており,それを裏付ける結果となっている。

アフィニティに関する実務的含意としては,Asseraf & Shoham(2016a)が興味深い研究成果を発表している。Asserafらは,アフィニティの醸成を,アニモシティやエスノセントリズムといった,外国に対する否定的な消費者態度を克服する手段として,事例をもとに提案している。具体的には,イスラエルが国家的にイタリアや米国の消費者に対して取り組んでいるデジタル・チャネルやジョイント・ベンチャーを活用した国家イメージ改善のプロジェクトが紹介されている。当該プロジェクトとの関連性が示唆される成果として,Asserafらは2004年から2015年にかけてイスラエルへの旅行客が200万人から330万人に増加したこと,国家ブランドインデックス・レポートにおけるイスラエルの順位が2009年の41位から,2014年に26位へと上昇したことなどを挙げている。Asseraf らは,アフィニティがもたらす結果要素に加えて,その先行要因に着目し,マーケティング戦略への指針を示したことで,新たな研究機会を提出したといえる。

4  内集団中立的かつ国家非特定的な概念

4.1  消費者世界志向

消費者世界志向は,Sampson & Smith(1957)の世界志向とHett(1993)のグローバル志向を基盤に,Rawwas et al.(1996)によって提唱された概念である。Rawwasらは,世界志向の消費者を「人類の面する問題を世界的な視点から捉えることを好み,米国人,ドイツ人,日本人などといった国籍による分類ではなく,人類を主たる準拠集団とする者」(p. 22)と定義したうえで,独自に開発した尺度を用いて,オーストリア在住の消費者を被験者に,外国製品への評価に及ぼす影響を検証した。その結果,世界志向の高い消費者は,それが低い消費者に比べて外国製品の品質を高く評価することが明らかになっている。

また,Rawwasらは,今後の研究展開として,コーズ・リレーテッド・マーケティングへの援用を挙げることで,世界志向をより現代的なマーケティング戦略に応用する指針を打ち出している。具体的には,世界志向の消費者は,外国企業が世界の熱帯雨林の保護といった国際的なコーズを支持する場合,当該企業をより肯定的に捉えるという命題が提出されている。

世界志向を用いた代表的な研究には,Nijissen & Douglas(2008)の研究が挙げられる。NijissenらはRawwasらの定義に,消費者行動研究のコンテクストを加味し,世界志向の消費者あるいはコスモポリタン消費者を「異文化からのアイディア,習慣,製品に対する寛容さと,外国に滞在した際のローカルな慣習への順応性の双方を持ち合わせる人物」(p. 87)と再定義した。その後,当該概念を援用した実証研究を行うべく,Hannerz(1990)Yoon et al.(1996)をもとに,改めて尺度を開発し,オランダ在住の一般消費者を対象に,ストアイメージに及ぼす影響を調査した。その結果,世界志向の先行要因として,国際的な社会的ネットワークと海外旅行経験があること,結果要素として輸入食料品店のイメージに正の影響を及ぼすことなどが明らかになっている。一方で世界志向は,ボディショップやフェアトレードストアといった,環境や人権と関連付けられたコンセプトのストアイメージには影響を及ぼさなかった。世界志向を有する消費者とは相容れない結果にみえるが,Bartsch et al.(2016)は,当概念がメキシコ料理のレストランやフランスのワインといった,特定の食文化の消費に関する項目に偏向して測定されていることを,原因として挙げている。

Nijissen & Douglas(2008)は,世界志向に関する研究で先駆的な役割を果たした一方で,その類似概念として列挙されているインターナショナリズムおよびコスモポリタニズムとの概念間の相違は明確に説明できていない。さらに,Nijissenらの定義では世界志向の消費者とコスモポリタン消費者は区分されず,むしろ同一視されている。世界志向は社会学を基盤とするコスモポリタニズムと比較して,理論的背景や先行研究の厚みが脆弱であり,実証研究で後者に代替されているのが現状である。

4.2  消費者コスモポリタニズム

消費者コスモポリタニズムは,消費者行動研究の文脈で初めて議論したCannon et al.(1994)以降,様々な論者によって多くの研究成果が発表されている。コスモポリタニズムが高い消費者は,外国や異なる文化に対して開放的であり,そこからもたらされる製品の多様性を評価し,意欲的に消費しようとする特徴があるとされる(Riefler et al., 2012)。

初期の研究では,セグメントとしての特徴を中心に検討されてきた(たとえばCleveland et al., 2009; Lee et al., 2014; Riefler et al., 2012)。これらを総合すると,コスモポリタニズムにポジティブな影響をもたらす要因として,高い教育水準や国際的な経験があり,逆にネガティブな要因に年齢が支持され,収入や性別,婚姻の有無は影響しないことが明らかになっている(Terasaki 2016)。その他,コスモポリタン消費者の特徴としてGrinstein & Riefler(2015)は,購買意思決定の際に参照されるフレームがグローバルであること(Grinstein & Wathieu, 2012),個人的な国際経験とグローバルな潮流が,当該消費者のライフスタイルと消費性向に影響を与えていること,国家横断的な消費者セグメントであること(Grinstein & Wathieu, 2012; Steenkamp & Ter Hosftede, 2002),左派的な人道主義者であること(Calhoun, 2002)を挙げている。

先行研究では,コスモポリタニズムがもたらす効果について,当該態度が国内ないし外国製品に対する評価に及ぼす影響を中心に研究されている。まず,国内製品に対する評価を検討した研究に,Riefler & Diamantopoulos(2009)が挙げられる。Rieflerらは,コスモポリタニズムおよびその測定尺度に関する詳細なレビューを踏まえて,当該態度は国内製品の製品判断に有意な影響を及ぼさないという命題を提出している。

製品判断を従属変数としたわけではないが,Rieflerらの研究に新たな方向性を提出したのが,国家の発展段階を分析視角に取り入れたJin et al.(2015)である。国内製品を先進国(米英仏の3ヵ国)と後進国(中印や南アフリカなど8ヵ国)の場合に分けて,コスモポリタニズムが国内製品のイメージに及ぼす影響を調査した結果,先進国ではそれが製品イメージにポジティブに作用した一方,後進国ではネガティブに働くことが明らかになっている。

次に,コスモポリタニズムが外国製品に対する消費者反応に及ぼす影響を検討した研究として,Parts & Vida(2011)が挙げられる。酒類,衣服,家具カテゴリーを対象に検証した結果,当該態度が外国製品の購買意向に対して直接的かつポジティブな影響をもたらすこと,ブランドオリジンに関する消費者知識(Balabanis & Diamantopoulos, 2008; Liefield, 2004; Samiee et al., 2005)への直接的なパスは有意でないことが明らかになっている。さらにPartsらは,コスモポリタニズムの高低が必ずしも正確なブランドオリジンの把握に帰結しないことを,後者の発見事実をもとに示唆している。

その他,コスモポリタン消費者を4つのセグメントに細分化し,セグメント毎に外国製品に対する消費者反応を検討した研究にRiefler et al.(2012)がある。この研究では,コスモポリタニズムとローカリズムの両方を測定し,それらのスコアを用いたクラスタ分析で,当該消費者をピュア・コスモポリタン,ローカル・コスモポリタン,穏健な消費者,無関心な消費者に分類した。外国製品への購買意向を従属変数とする一元配置分散分析の結果,ピュアおよびローカル・コスモポリタンは他のセグメントと比べて有意に購買意向が高く,ピュアとローカル・コスモポリタンの間のスコアには有意な差がないことが明らかになっている。

Riefler et al.(2012)の研究と同様に,セグメント毎の消費者行動を検討した研究にZeugner-Roth et al.(2015)が挙げられる。Zeugner-Rothらはコスモポリタニズムに加えてエスノセントリズムと,向内集団かつ外集団中立的な概念であるナショナル・アイデンティティのスコアを用いた階層クラスタ分析で,コスモポリタン消費者をピュア・コスモポリタン,ナショナル・コスモポリタン,国内志向の消費者に類型化した。クラスタ毎に製品への購買意向を分析した結果,ピュアとナショナル・コスモポリタンは双方ともに外国製品の購買意向が高い一方,ナショナル・コスモポリタンは国内製品の購買意向も高く,内集団と外集団からの製品の両方に購買意向の高いデュアルな消費者の存在が明らかになっている。

最新の研究では,スポンサーシップにおける役割(Lee et al., 2015)やサステナビリティとコスモポリタン志向(Grinstein & Riefler, 2015)といった,よりマーケティング戦略に関連づけられた研究が行われている(寺﨑,2016)。前者では,2012年のロンドン五輪前後および最中で,仏スポンサーが支援するブランドに対するイギリス人の評価が分析され,コスモポリタニズムはブランドへの愛着にポジティブな影響をもたらす一方,ブランドの信用には有意に影響しないことが経時的な調査によって示されている。後者では,環境配慮型製品の販売や持続可能な消費行動の促進に対して,コスモポリタン消費者は一般消費者とは異なり,母国の環境に対する便益よりもグローバルな環境に対するそれを訴求する方が良い反応が得られることが明らかになっている。

5  既存研究の考察

本稿では,外国に対する肯定的な態度に着目した消費者行動研究の中でも,アフィニティ,世界志向,コスモポリタニズムに焦点を当て,レビューした。その結果,セグメントの特徴,それぞれの態度が単独で消費者反応にもたらす効果に着目した先行研究が多くみられること,他の理論との複合的な効果に焦点をあてた研究は限られていることなどが明らかになった。

エスノセントリズムやアニモシティといった,外国に対する否定的な態度に関する研究では,その先行要因,結果要素,モデレータとしての役割,そして各消費者態度の複合効果の順で展開されてきたが(Shankarmahesh, 2006),アフィニティやコスモポリタニズムを用いた研究では,それらの先行要因および各消費者態度が単独で購買行動に及ぼす影響は検討されているものの,論文数が限られるうえ,特定のブランドやカテゴリーに対する影響を検討した研究は,カテゴリー・レベルを検討したCleveland et al.(2009)Cleveland et al.(2011),ブランドレベルを検討したRiefler et al.(2012)以外にみられない。さらに,外国に対する肯定的な態度をモデレータとした研究は,コスモポリタニズムがスポンサーシップに及ぼす影響を検討したLee et al.(2015)以外になく,研究の余地は大きいといえる。

続いて,外国に対する肯定的な態度を,否定的なそれと分けて考えるのではなく,統合的に捉えることで,この研究領域に新しい理論的貢献が期待されることが示唆された。例えば,ある消費者はエスノセントリズム的傾向のために外国製品を避けるかもしれないが,もしオーストラリアに対してアフィニティがあれば,オーストラリア産ワインを購入するかもしれない(Oberecker & Diamantopoulos, 2011)。実際に,脳の神経伝達プロセスに関する研究では,肯定的な認知と否定的な認知は部分的に独立しつつも,2つは相互に影響し合うことが知られている(Cacioppo & Berntson, 1994)。このように,外国に対する態度は否定的なものと肯定的なものが消費者の中で共存する場合もあり,否定的または肯定的のいずれかの態度のみを検討するだけでは,急速なグローバル化に晒される現代の消費者行動の予測は困難になってきている。他の理論との複合的な効果を検証した研究は,本稿でレビューしたように,主としてアフィニティを用いた研究にみられ,今後の研究が期待される。

また,外国に対する否定的な消費者態度の研究にも当てはまるが,製品ではなくサービスを対象とした研究は限定的であることを指摘したい。サービスへの影響において参考になるのは,本物感(authenticity)(Beverland et al., 2008)や文化的多様性とコスモポリタニズムとの関連性をインタビュー調査による探索的研究で発見したThompson & Tambyah(1999)Thompson et al.(2006)である。これらの研究グループは,コスモポリタニズムが本物感の探求や文化的多様性の受容にプラスの影響を及ぼすことを明らかにしている。モノからサービスへの移行が進む現代において,サービスと外国に対する肯定的な態度との関係性を探る研究はますます重要となると考えられる。

7  結びにかえて

本稿では,社会的同一性理論にもとづき,外国に対する肯定的な態度に関する概念を整理したのち,アフィニティ,世界志向,コスモポリタニズムに焦点を当て,レビューを試みた。これらは,経営学を主軸とするジャーナルで,多くの実証研究が発表されている一方,マーケティング分野では研究の余地が大きい領域といえる。人口減少にともない,国内市場が縮小し続ける我が国において,どの企業も海外市場を看過することはできない。急速かつ不可逆的なグローバル化に起因する,外国に対する肯定的な消費者態度の表出は,海外市場に目を向ける際に重要となるマーケティング・コミュニケーション上の大きな論点となり得るものであり,今後も様々な分析視角から検討がなされるべき領域といえる。

謝辞

本稿の掲載にあたって,編集委員長である近藤公彦先生(小樽商科大学)をはじめ,匿名のレビュアーの先生方から貴重なコメントをいただいた。ここに記して心よりお礼申し上げたい。なお,本稿はJSPS科研費若手研究B(15K17148)の助成を受けた研究成果の一部である。

1)  消費者エスノセントリズム(consumer ethnocentrism)とは,保護主義的な立場から外国製品を忌避する,規範に基づく消費者態度である(Verlegh & Steenkamp, 1999)。以下,特に理のない限りエスノセントリズムと表記する。

2)  アニモシティ(animosity)とは,特定の国家との過去または現在の軍事的,政治的,経済的軋轢に起因する敵対的な消費者態度である(Klein et al., 1998)。

3)  それぞれconsumer affinity,consumer world-mindedness,consumer cosmopolitanismの日本語表記である。以下,特に理のない限りアフィニティ,世界志向,コスモポリタニズムとする。

4)  ナショナル・アイデンティティとは,国家への帰属と内的な結びつきを重視する主観的な態度である(Blank & Schmidt, 2003)。エスノセントリズムとの相違は,外集団に対する主観的な優越感により生起されるのではなく,内集団に対する個人的な帰属感情に起因すること,外集団に対しては中立的であることが挙げられる(Zeugner-Roth et al., 2015)。

5)  本稿では内集団(in-group)は自国に,外集団(out-group)は外国に相当する。

参考文献
 
© 2017 日本商業学会
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