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査読論文
生涯学習におけるサービス品質:公立図書館のサービス品質が高齢者の学習満足度に与える影響
間島 羽奈子
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2021 年 5 巻 1 号 p. 9-16

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Abstract

超高齢社会において,生きがいの獲得につながる生涯学習が重視されているが,社会教育施設のサービス品質が高齢者の学習満足度に与える影響は検討されてこなかった。本稿は,社会教育施設の一つである公立図書館を取り上げ,①図書館の提供するサービスが,高齢者の学習満足度に与える影響,および,②提供サービスと学習満足度の関係に対する利用頻度のモデレート効果を検討する。図書館のサービス品質を構成する代表的な3つの次元とともに,学習プログラムに関するサービス品質を測定する尺度を設計し,60~69歳の利用者(n = 206)を対象に質問紙調査を実施した。階層的重回帰分析の結果,「場としての図書館」と「学習プログラム」の2つの次元が学習満足度を高めていた。また,利用頻度が少ない場合に,「学習プログラム」が学習満足度をより高める傾向にあった。本研究の貢献は,サービス品質研究の対象を生涯学習の文脈に伸展させ,社会教育施設としての図書館のサービス品質が高齢者の学習満足度に与える影響を明らかにした点にある。

1  はじめに

生涯学習は,個人が社会の変化に適応したり,課題解決していく上で重要な営みである(Mezirow, 2003)。特に高齢期においては,社会的役割の減少に伴い,生きがいの獲得を目的とした学習ニーズが増加すると指摘されている(浅野,2006堀,2010)。そして,高齢者の生涯学習を支援する役割を担っているのが,博物館や図書館等の社会教育施設である(鈴木・永井・梨本,2011)。

こうした社会教育施設が利用者の学習を支援する上で求められるのは,顧客満足を高めるサービスの品質であろう(高橋,2018Grönroos, 1984南,2012)。とりわけ非営利組織は,財務的指標を持たずに環境の変化に対応しなければならないため,顧客の視点からサービス品質を評価することが欠かせないと言われている(永田・藤井・北村,2000)。

このサービス品質を測定するために活用されてきた尺度が,「有形性(tangibles)」,「信頼性(reliability)」,「反応性(responsiveness)」,「確実性(assurance)」,「共感性(empathy)」の5つの次元から構成されるSERVQUALである(Parasuraman, Berry, & Zeithmal, 1988山本,2007)。SERVQUALを用いる際は,業種によってサービス品質の次元が異なることを踏まえて,尺度を再設計する必要がある(Carman, 1990)。例えば,オンライン銀行においてはE-Service Qualityが,レストランではDINSERVがそれぞれ開発されている(Knutson & Patton, 1995Zavareh, Ariff, Jusoh, Zakuan, & Bahari, 2012)。

これまで,SERVQUALを用いたサービス品質研究の対象は,営利組織だけではなく,博物館や図書館等の非営利組織,すなわち社会教育施設が提供する学習サービスにまで拡張されてきた(Hsieh, Park, & Hitchcock, 2015高橋,2018)。しかし,近年,高齢者の生涯学習を支援する役割が社会教育施設に期待されている中で,提供サービスが高齢利用者の学習満足度(岡本,2010)に与える効果については検証されていない。また,社会教育施設において実施されている講座等の学習プログラムは,自主的学習を促進する上で重要であると考えられるにもかかわらず(寺田・永田・川上,2005渡邊,2007),こうしたサービスが利用者の学習満足度に与える影響は検討されていない。

上記の点を踏まえて,本研究は,代表的な社会教育施設の一つである公立図書館のサービス品質が,高齢利用者の学習満足度に与える影響を検討することを目的とする。社会教育施設の中でも公立図書館に焦点を当てたのは,情報拠点や居場所として高齢者に日常的に利用されているためである(溝上・呑海・綿抜,2012)。

以下では,サービス品質と生涯学習に関する先行研究を検討し,研究課題を特定する。次に,質問紙調査の手続きと測定尺度について説明した上で,階層的重回帰分析の結果を報告する。最後に分析結果を考察し,理論的・実践的含意と今後の課題について検討したい。

2  先行研究の検討

2.1  サービス品質の測定尺度

サービス品質は,サービスを経験した利用者の視点から評価する必要がある(Grönroos, 1984)。この課題を踏まえて開発された測定尺度がSERVQUALであり,「有形性」,「信頼性」「反応性」,「確実性」,「共感性」という5つの次元から構成されている(Parasuraman et al., 1988; Seth, Deshmukh, & Vrat, 2005)。具体的には,「有形性」は,施設,設備,職員の外見,「信頼性」は,サービスの正確さや確実性,「反応性」は,顧客に親切で迅速なサービス,「確実性」は,職員の知識や礼儀正しさ,「共感性」は,職員による親身な対応を示している。

同尺度を活用する際には,業界特有のサービスの次元に改訂することが必要となる(Carman, 1990)。例えば,ホテルのサービスを測定するために開発された尺度には,ホテル特有のサービスである「歓迎する雰囲気」や「食事の質」等とともに,施設・設備に関する次元が含まれている(Ramsaran, 2007)。

また,SERVQUALは,営利組織だけではなく,財務的指標を持たない非営利組織においても,環境と組織とのズレを修正するために利用されてきた(佐藤,2008)。例えば,病院(Babakus & Mangold, 1992Butt & Run, 2010),教育機関(Arambewela & Hall, 2006Tan & Kek, 2004Wu, Hsiao, & Kuo, 2004),博物館(Hsieh et al., 2015),美術館(高橋,2018),図書館(市古,2008松井・照内・勝本,2008)においてSERVQUALの改訂版が活用されている。

2.2  図書館のサービス品質と学習満足度

非営利組織である図書館のサービス品質に関しては,SERVQUALに基づき独自の測定尺度が開発されてきた。大学図書館を中心として開発された代表的な尺度にLibQUAL+がある(Thompson, Cook, & Kyrillidou, 2005)。同尺度において,図書館のサービス品質は,「情報管理(information control)」,「場としての図書館(library as place)」,「サービスの姿勢(affect of service)」の3次元から構成されている。「サービスの姿勢」は,職員の気遣いや能力を,「場としての図書館」は,個人や集団が利用できる空間の有無や快適性を,「情報管理」は,資料の探索のしやすさ等を示している。

図書館サービス品質を測定する代表的な3つの次元は,大学図書館だけでなく,公立図書館のサービス品質を測定する際にも活用されてきた。例えば,カナダやイランの公立図書館における研究では,上記の3次元が,全体評価を高めていたことが報告されている(Keshvari, Farashbandi, & Geraei, 2015Ladhari & Morales, 2008)。また,図書館のサービス品質を測定する際には,利用者の回答のしやすさを踏まえて,尺度のスケール幅を縮小したり,図書館の実情に合わせて質問項目を部分的に変更して実施されている(松井他,2008Keshvari et al., 2015)。

ここで問題となるのは,従来の図書館のサービス品質研究において,被説明変数としての学習満足度が検討されていないという点である。学習満足度とは,生活の満足度を測定する尺度では把握しにくい,学習や知的好奇心に関する主観的な充足度である(Menec, 2003岡本,2010)。Thompson et al.(2005)は,大学図書館におけるサービス品質の全体評価と満足度を測定しているが,学習満足度は測定しておらず,上述した公立図書館を対象とした研究においても,学習満足度は検討されていない(Keshvari et al., 2015Ladhari & Morales, 2008)。社会教育施設としての図書館は,高齢者の生涯学習を支援する役割を期待されていることからも(溝上他,2012),図書館サービスが高齢利用者の学習満足度にどのような影響を与えているかを検討する必要があるだろう。

2.3  生涯学習支援における学習プログラム

図書館利用者の学習満足度に貢献すると思われるサービスの一つが学習プログラムである。学習プログラムとは,知識の理解や学びの啓発のために行われる講師による情報伝達であり,自主的な学習を促すと言われている(寺田他,2005渡邊,2007)。特に,高齢期には,身体機能の低下や社会的役割の減少に伴い,健康の維持や生きがいの獲得を目的とした学習へのニーズが増加する(堀,2010)。こうした高齢者の生涯学習を支援する公民館,博物館,図書館等の社会教育施設は,様々な学習プログラムを提供している(金藤,2012溝上他,2012Hsieh et al., 2015)。

公立図書館においては,健康に関する講演会(結城・好本,2018),音読教室(藤井,2014),自分史講座(金森・梅田,2014)等の学習プログラムが報告されている。しかし,LibQUAL+に代表される図書館のサービス品質を測定する既存の尺度では,図書館が提供する学習プログラムに関わるサービス品質が考慮されておらず,生涯学習支援の役割が一部見落とされている。そこで本研究は,図書館のサービス品質を捉える3つの次元とともに,学習プログラムに関するサービス品質を測定することで,社会教育施設の一つである公立図書館のサービス品質が高齢利用者の学習満足度に与える影響を検討する。

2.4  研究課題

これまでの先行研究のレビューから2つのリサーチギャップを確認することができた。第一に,図書館のサービス品質が,高齢利用者の学習満足度に与える影響が検証されていないことである。第二に,LibQUAL+に代表される図書館のサービス品質を測定する既存の尺度においては,学習プログラムに関するサービス品質が考慮されていないという点である。

これらのリサーチギャップを踏まえ,本研究は,次に挙げる2つの課題を検証することで,超高齢社会における社会教育施設としての図書館のサービスのあり方を再考する。第一に,図書館のサービス品質を構成する既存の3次元とともに,学習プログラムのサービス品質を測定する尺度を設計した上で,公立図書館における4つのサービス次元が,学習満足度に与える影響を検討する。

第二に,サービスの提供施設の利用頻度がサービス次元と学習満足度の関係に与えるモデレート効果を検証する。なぜなら,図書館サービスの利用頻度が異なれば,図書館に対するニーズにも違いが生まれると報告されているためである。例えば,永田・増田・坂井・歳森(2004)によると,習慣的に公立図書館を利用する人に比べ,習慣的に利用しない人の方が,調べものに関するサービスを重視していたことを報告している。利用頻度のモデレート効果を分析することにより,利用ニーズの違いによって,図書館の利用を促進するサービス次元が異なるかどうかを明らかにすることが期待できる。

3  研究方法

本研究は,インターネット調査会社を通して質問紙調査を実施した。対象は,全国の市区町村立図書館,県立図書館のいずれかを月1回以上利用している,60歳から69歳までの利用者206名である。調査では,性別ごとに標本数を揃えたため,女性,男性とも103名であり,平均年齢は65.2歳であった。なお,質問票では,最もよく利用する図書館のサービスについて回答するよう求めた。

本研究で用いたサービス次元及び学習満足度に関する質問項目は表1に示す通りである。各質問は,公立図書館のサービス品質に関する先行研究を参考に(Keshvari et al., 2015),利用者の回答のしやすさを考慮し,「全くそう思わない①~とてもそう思う⑤」の5段階で尋ねた。また,図書館サービス品質に関する先行研究においては,図書館の実情に合わせて質問項目が適宜部分的に変更されていることから(松井他,2008Keshvari et al., 2015),図書館のサービス品質を構成する既存の3つの次元に対応する22項目の文言は,大学図書館向けの内容から,公立図書館のサービスに合う内容に修正して用いた。なお,サービス品質を測定する手法としては,サービスを受ける前の期待と受けた後の評価の差を取る方法と(Parasuraman et al., 1988),サービス経験後の評価を測定する手法があるが(Cronin & Tayer, 1992),前者は利用者を混乱させやすいと言われていることから(Van, Kappelman, & Prybutok, 1997),本稿では,回答のしやすさを考えて後者の方法を採用した。

表1. 公立図書館サービスに関する確証的因子分析の結果
項目 推定値
F1:サービスの姿勢(α = 0.94,CR = 0.94,AVE = 0.62)
職員は,図書館をうまく利用する自信を与えてくれる 0.71
職員は,利用者一人ひとりを大事にしている 0.82
職員の対応はいつも礼儀正しく,丁寧である 0.77
職員は,利用者の質問に進んで答えようとする姿勢がある 0.81
職員は利用者の質問に答える十分な知識をもっている 0.76
職員の対応から利用者に対する気配りを感じる 0.86
職員は利用者のニーズを理解している 0.80
職員は進んで手助けしてくれる 0.73
利用者が困っていることへの職員の対応は信頼できる 0.81
F2:情報管理(α = 0.87,CR = 0.88,AVE = 0.48)
自宅または館外からデータベースや電子書籍などにアクセスできる 0.52
図書館のウェブサイトから,必要な情報を自力で見つけることができる 0.56
学習や研究のために必要な本や雑誌が,印刷版で揃っている 0.68
必要とする電子情報資源(電子書籍やデータベース)が揃っている 0.72
学習や研究のために必要な本や雑誌が,電子版で揃っている 0.68
必要な情報に容易にアクセスできる最新の機器・設備を備えている 0.81
自力で必要な資料や情報を入手するための,使いやすいツールがある 0.77
人に頼らず自力で見つけられるように,情報が提供されている 0.76
F3:場としての図書館(α = 0.89,CR = 0.90,AVE = 0.79)
図書館は読書・学習・研究意欲をかきたてるような場所である 0.75
図書館には,静かに読書・学習・研究ができる空間がある 0.86
図書館は快適で居心地がよく,また行きたくなるような場所である 0.84
図書館は読書・学習・研究に適した場所である 0.91
図書館には,グループで学習・研究できるスペースが十分に確保されている 0.59
F4:学習プログラム(α = 0.86,CR = 0.87,AVE = 0.57)
講演会やトークイベント等に参加する機会がある 0.78
映画やコンサート等のイベントに参加する機会がある 0.80
利用者が主体的に関わる読書会・勉強会等に参加する機会がある 0.80
脳や身体を維持するための講座に参加する機会がある 0.79
図書館にボランティアとして関わる機会がある 0.57
F5:学習満足度(α = 0.87,CR = 0.87,AVE = 0.63)
日常生活において,自分にとって何か役立ちそうな学びを得たと思うことがある 0.77
日常生活において,教養を高めることができたと思うことがある 0.83
日常生活において,知的好奇心を満たすことができたと思うことがある 0.82
日常生活において,興味・関心があることを自分なりに学べている 0.76

注:n = 206. α = アルファ係数,CR = Composite reliability. AVE = Averaged variance extracted.

学習プログラムの参加機会を問う項目については,公立図書館の高齢利用者を対象とした学習プログラムに関する実践報告書(藤井,2014金森・梅田,2014),および論文・書籍(小田・戸田・乙骨・井上・堀川,2010三村,2014結城・好本,2018)を参考に設計した。例えば,学習プログラムのサービス品質の質問票における「脳や身体を維持するための講座」という項目は,音読教室等(藤井,2014結城・好本,2018)を参考にして作成した。また,「利用者が主体的に関わる読書会・勉強会等に参加する機会がある」という項目は,三村(2014)金森・梅田(2014)の実践例等を参考にして作成した。なお,学習プログラムに関する設問において,参加経験ではなく参加機会を問うた理由は,品揃えの充実度が顧客の満足度を高めるのと同様に(横山,2015),学習プログラムへの参加機会があるかどうかが学習満足度に影響を与えると考えられるためである。

学習満足度は,岡本(2010)が開発した4項目から成る尺度を用いて測定した。同尺度は,高齢者が社会活動に含まれる学習活動から得る満足度を測定するものである。

4  分析結果

4.1  測定尺度の信頼性と妥当性

測定尺度の信頼性を,クロンバックのα係数,合成信頼性(Composite Reliability, CR)によって検討した結果を表1に示した。α係数およびCRは,全構成概念に関して0.80以上であり,求められる基準(0.7)を上回っていた(Nunnally, 1978)。収束妥当性は,平均分散抽出(Average Variance Extracted, AVE)によって検証した。AVEは,「情報管理」については0.5を若干下回ったが,他の構成概念においては0.5以上となった。これらの結果から,本研究の構成概念の収束妥当性および内的一貫性を備えていると考えられる。

弁別妥当性については,確証的因子分析(最尤推定法)によって検証した。具体的には,研究モデルで想定した5因子モデルと,2つの次元を統合した5パターンの4因子モデルの適合度を比較することを通して妥当性を検討したところ,5因子モデルは,4因子モデルよりも有意に適合度が高かった。また,5因子モデルの適合度指標は,CFI(comparative fit index)が0.90,SRMR(standard root mean square residual)が0.07,RMSEA(root mean square error of approximation)が0.07であり許容範囲であった。以上の結果から,仮説モデルは,弁別妥当性を有しており,コモンメソッドバイアスの影響も大きくはないと考えられる(Podsakoff, MacKenzie, Lee, & Podsakoff, 2003)。

4.2  サービス次元と学習満足の関係

本研究の記述統計および相関表は表2に示す通りである。「サービスの姿勢」「情報管理」「場としての図書館」の3次元の相関係数は,過去の公立図書館研究の結果(Keshvari et al., 2015Ladhari & Morales, 2008)と大きな違いは見られなかった。表3は,被説明変数を学習満足度とし,説明変数を「サービスの姿勢」「情報管理」「場としての図書館」「学習プログラム」として階層的重回帰分析を行った結果を示したものである。まず,モデル1に統制変数(性別,年齢,未既婚,利用頻度)を,モデル2では主効果を投入し,モデル3には,利用頻度と4つのサービス次元の交互作用項を加えた。なお,VIFの値は1.05~2.07の間に収まったため,多重共線性の影響は低いと思われる。

表2. 記述統計および各変数の相関表
平均値 標準偏差 相関係数
1 2 3 4 5 6 7 8
1 ​性別 1.50 0.50
2 ​年齢 65.20 2.82 −0.24**
3 ​未既婚 1.70 0.46 −0.33*** 0.01
4 ​利用頻度 0.67 0.47 −0.06 −0.10 −0.14*
5 ​サービスの姿勢 3.42 0.65 0.11 −0.01 −0.12 0.10
6 ​情報管理 3.12 0.67 0.04 −0.07 −0.05 0.15* 0.54***
7 ​場としての図書館 3.47 0.73 0.08 −0.04 −0.04 0.08 0.57*** 0.37***
8 ​学習プログラム 2.56 0.74 0.04 0.18** −0.09 0.09 0.30*** 0.44*** 0.31***
9 ​学習満足度 3.77 0.62 0.04 0.07 −0.01 0.04 0.38*** 0.34*** 0.44*** 0.33***

注)性別:1=男性,2=女性.年齢=60~69。未既婚:1=未婚,2=既婚,利用頻度:0=利用頻度が低い(月1回程度)。

1=利用頻度が高い(週1~月数回程度)。* p < 0.05,** p < 0.01,*** p < 0.001。

表3. 階層的重回帰分析の結果
変数 被説明変数=学習満足度
モデル1 モデル2 モデル3
ステップ1:統制変数
 性別 0.08 0.03 0.05
 年齢 0.09 0.07 0.09
 未既婚 0.03 0.04 0.04
 利用頻度 0.06 −0.01 −0.02
ステップ2:主効果
 サービスの姿勢 0.11 0.08
 情報管理 0.11 0.12
 場としての図書館 0.30*** 0.30***
 学習プログラム 0.15* 0.17*
ステップ3:交互作用
 利用頻度×サービスの姿勢 −0.09
 利用頻度×情報管理 0.06
 利用頻度×場としての図書館 −0.07
 利用頻度×学習プログラム −0.15*
 自由度調整済決定係数 0.01 0.26 0.30
ΔR2 0.25 0.04
F値 0.59 8.83** 7.01**

注)n = 206。係数は標準化偏回帰係数。VIFは1.05~2.07。

* p < 0.05,** p < 0.01,*** p < 0.001。

モデル3では,「場としての図書館」と「学習プログラム」が学習満足度に正の影響を与えていたが(β = 0.30,p < 0.001;β = 0.17,p < 0.05),「サービスの姿勢」と「情報管理」については有意な影響が見られなかった(β = 0.08,p = ns;β = 0.12,p = ns)。一方,4つの交互作用項のうち,利用頻度と「学習プログラム」の交互作用のみが,学習満足度に負の影響を与えていた(β = −0.15,p < 0.05)。具体的には,図1に示すように,利用頻度が少ない場合(月1回程度)は,利用頻度が多い場合(週1回~月数回程度)に比べ,「学習プログラム」が学習満足度をより高める傾向にあった。

図1.

学習プログラムと利用頻度の交互作用

5  考察

社会教育施設の一つである公立図書館が提供するサービスが,高齢者の学習満足度に与える影響を分析した結果,次の二点が明らかになった。第一に,図書館サービスに関する4つの次元のうち,「場としての図書館」と「学習プログラム」が学習満足度を高めていた。「場としての図書館」が学習満足度を高めていたことは,図書館における知的雰囲気が,高齢利用者の学習における集中力を高めている可能性を示している。例えば,図書館のイメージに関する利用者調査では,明るい雰囲気や居心地の良さ,知的なイメージが魅力として挙げられているが(庄司・小島,2012),こうした要素が高齢利用者の学習を促していると考えられる。一方,「学習プログラム」が学習満足度を高めていたという結果は,プログラム講師による情報や知識の伝達が,利用者の主体的学習や自己啓発を刺激していることを示唆している(三村,2014渡邊,2007吉田・小泉・坂田,2019)。

第二に,利用頻度が多い場合に比べ,利用頻度の少ない場合に,「学習プログラム」が「学習満足」に影響を与えていた。この点に関し,永田ら(2004)は,習慣的に図書館を利用する人よりも,習慣的に利用しない人の方が,調べものに関するサービス,すなわち,特定のテーマを追求する活動を支援するサービスを重視していたと報告していた。このことから,本研究の結果は,利用頻度が低い利用者ほど,特定のテーマの下で行われる学習プログラムに対するニーズを持っていると推察される。すなわち,学習プログラムは,図書館を利用する頻度が少ない人に対する吸引力を持っていると考えられる。この点について,Hsieh et al.(2015)は,博物館の会員に比べて非会員の場合には,「楽しい活動(enjoyable activities)」や「特別な展示(special events)」等のサービスへの期待が,サービス品質を高めていたと報告している。すなわち,展示や講演会といった,学習プログラムを提供している社会教育施設において,学習プログラムへの参加機会が提供されていること自体が,施設の利用頻度が少ない人を引きつけていると解釈できる。

本研究の理論的貢献は,図書館のサービス品質に関する先行研究において検討されていなかったサービスの構造を学習の観点から解明した点にある。具体的には,図書館のサービス品質のうち,これまで考慮されていなかった「学習プログラム」に着目し,学習満足度との関係を示すことができた。さらに,学習プログラムが学習満足度に与える影響は図書館の利用頻度によって異なる点を明らかにし,図書館のサービス品質と学習満足の関係を理解する上で,一定の調整効果を考慮する必要があることを示すことができた。

以上の発見事実および理論的示唆を踏まえ,実践的含意を提示したい。第一に,公立図書館は,高齢者が学習に集中できる館内のデザインや知的刺激を生み出す環境を整備すべきである。例えば,フィンランドの公立図書館では,読書,勉強,仕事,思索を促す環境を醸成するために,自然素材を使った伝統的な家具や温かみのある照明を配置したり,展示コーナーや多目的スペースを設置することで,探究心を刺激する空間を設けている(吉田他,2019)。第二に,図書館は,読書会や勉強会などの学習プログラムを積極的に提供することが望ましいといえる。例えば,映画会やコンサート,講演会の他,読書会や研究活動を企画して実施することが考えられる(小田他,2010)。特に,健康の維持や生きがいをテーマとして上記のような学習プログラムを実施することで,利用者は複眼的な視点を獲得し,現実的課題に対処していくことができるであろう。

最後に,本研究の問題点および今後の課題について述べたい。第一に,公民館や博物館等,他の社会教育施設の利用も学習満足度に影響を与えていると思われるため,複数の施設の利用経験を合わせて測定する必要があるだろう。第二に,学習プログラムのサービス品質に関して,利用者に対する質的調査を行うことで,学習プログラムに関するサービス品質の内容をより詳細に検討することが必要である。第三に,本研究は,インターネット調査会社の登録年齢制限の関係で,60~69歳の無職の利用者を対象に調査を行ったが,高齢期においても職業を継続している利用者や,70歳以上の利用者などにも調査を実施すべきであろう。

謝辞

本論文の執筆にあたり,北海道大学大学院経済学研究院・相原基大先生から,手厚いご指導を賜りました。また,論文を審査していただきました,編集委員長の学習院大学・澁谷覚先生,ならびに,匿名レビュアーの先生方からは,貴重なご助言を賜りました。ここに記して深く感謝申し上げます。

参考文献
 
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