抄録
水面の波はポテンシャル流れの仮定が良く成立する代表例であり,水面波と呼ばる長い歴史のある問題である.水面波の境界値問題は,スロッシング問題と呼ばれ,液体貯蔵タンクの安全性向上という工学上の要求と,非線形大自由度の自由境界問題という数学的な難しさから,今なお多くの研究がなされている.本研究では,正準構造と一般化フーリエ級数展開を用いて,スロッシング問題を大自由度の常微分方程式系に帰着させた.この定式化はW. CraigやV. Zakarhovにより,水面波に対して行われた解析を,境界条件を考慮できるように修正し,スロッシング問題に応用したものである.その後,常微分方程式系に対し,ノーマルモードを用いた解析を行った.この結果,系に内在する非線形特性を明確化すること,自由度を縮小する近似の際の目安を与えることが可能となった.本研究は,Fig.A1に示すような,容器内の液体の運動を解析した.流体は渦なしの非圧縮性完全流体,容器は剛体で液面近傍では鉛直方向に一様と仮定した.その結果,以下の結果を得た. 1.流体を渦なしの非圧縮性完全流体とするスロッシング 問題は以下の正準方程式を解く問題に帰着する. q_n=(∂H)/(∂p_n), n∈Λ (A1) p_n=-(∂H)/(∂q_n) (A2) ここで, q_nは液位(液面の静止位置からの変化)のモード座標, p_nは液面状の速度ポテンシャル(正準運動量)のモード座標, HはHamiltonian, Λはモード番号の集合である.この定式化の適用限界は液位の最大傾斜角が45°以下である. 2. N次の共振関係とは,以下の固有振動数の関係を満たすことを意味する. Σ^^N__<j=1>±ω_<m_j>=ω_n (A3) ここで, ω_nはn番目のモードの固有振動数であり,±は任意の符号を選べることを意味している.これらの知見は,既に知られていることではあるが,ノーマルモードを用いた別の手法からも導出されることは重要である. 3. 具体例として,円筒容器の解析を行い,非線形の共振関係にあるモードの重要性を確認した.解析例として,非 線形の共振関係となるモードを考慮した場合(Fig.A2)と考慮しない場合(Fig.A3)の背骨曲線を示した.解析例は円筒の半径に対する液深の比が0,83となる場合である.この結果共振関係にあるモードの重要性が確認される.