関西支部講演会講演論文集
Online ISSN : 2424-2756
セッションID: 30109
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き裂進展減速実験を対象とした移動有限要素解析
*福本 雄也野本 涼藤本 岳洋
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会議録・要旨集 認証あり

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抄録

機械構造物の大規模破壊や重要部位の破壊を未然に防ぐためには破壊時の事前予測が求められる,また,材料切断を伴う加工についても材料破壊・分離メカニズムの解明が加工条件の最適化に予期する知見となる.き裂進展現象の完全な予測には,き裂進展方向・き裂進展速度,双方を決定付けるメカニズムを明らかにする必要がある.本報では,別途実施したき裂進展加速進展現象の観測実験結果に基づく生成形数値シミュレーションを行う.き裂進展挙動はデローニー自動要素分割に基礎をおく二次元移動有限要素法を用いて再現し,進展速度加減速時のき裂先端近傍場の変化や破壊力学パラメータの推移を明らかにし,き裂進展加速時の動的J積分変化とき裂速度・加速度との相関性を調べた.

実験では,試験片はあらかじめ左端中央に放電加工で切欠きを入れ,この切欠き先端に疲労き裂を入れた後,漸増強制変位を与えている.試験片材料は破断の際に変形が少なく,ぜい性破壊が生じやすいSK-85を使用した.できるだけ面積の広い試験片を使うことで,応力波の往来による影響を軽減するとともに,き裂加減速進展を観察できる時間,き裂が進展し続ける広範なリガメント幅を確保した.今回の引張破壊き裂加減速実験では試験片上下部に多数の孔を空け,荷重伝達ピンを介して,荷重装置を用いて制御された定速治具から試験片に強制変位を加えた.実験は放電加工初期切欠き25[mm]と35[mm]の試験片に対して各々2回ずつ行った.

本研究で行った数値解析に使用した試験片モデルは,実験で使用した試験片寸法と同様であるが,試験片板厚が0.5[mm]と非常に薄いことから二次元平面応力近似の下で計算を行っている.初期き裂長さは放電加工切欠き先端に挿入した疲労き裂長さ約1[mm]分を加え,各々26[mm],36[mm]とした.試験片の荷重伝達ピンが挿入されている試験片上下部各孔に相当する節点各々に強制変位を与え変形を生じさせた.実際のき裂の加速過程を忠実に再現するために,実験観察から得たき裂進展り歴のデータからき裂進展り歴を高次関数で近似し,その履歴通りにき裂進展を再現している.

数値解析においては,まず動的J積分値の経路独立性ならびに試験片内外のエネルギー収支が極めて良好であることから,計算の妥当性を確認した.今回対象とした破壊実験は引張変位速度を一定としているが,き裂が進展開始後も荷重はしばらくのあいだ荷重は漸増した.実験と数値解析における荷重り歴を比較し,これらについてもよい一致が認められたことから,高い精度で破壊実験の再現ならびに力学的評価が行えていると考えられる.

各実験ではき裂進展開始後,約20~30秒間き裂進展加速現象が確認された.数値シミュレーションではこのき裂進展加速過程において動的J積分値の増大がみられ,き裂の加減速と破壊力学パラメータの相関性が示唆された.

実験・数値解析の両結果に基づき,き裂進展速度とJ積分の時間導関数の関係を調べた.試験片の初期き裂長さが異なると,き裂進展速度とJ積分の時間導関数の関係が異なる.そのため,J積分の時間導関数がき裂速度を決定付けるとは言い難い.他方,J積分の時間導関数値が1.0から1.5kN/(ms)となる範囲では,J積分の時間導関数はき裂進展加速度を決定付ける可能性がある.

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© 2022 一般社団法人 日本機械学会
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