西洋中世研究
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天使の訪れ
池上 俊一
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2012 年 4 巻 p. 28-49

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抄録
 中世世界は天使で溢れている。しかし奇妙なことに,カトリック教会はけっして公的に天使存在の役割・本質を定義しようとしてこなかった。だがそれでも,盛期中世以降,神学者・スコラ学者らによる天使の分類や特異な存在特性,あるいは人間とのコミュニケーション手段についての思弁が一気に盛んになり,こうした知識人の間での議論の盛況とともに,いわゆる天使崇敬も勃興して,一般信徒らも「天使の訪れ」を待ち望むようになった。本稿では,ヨーロッパ中世において,天使は,いついかなるときに信徒の下にやってきて,何をしてくれると考えられていたのか,それを明らかにしようと試みた。
 第1章では,初期中世から後期中世まで,いかに天使が身近な存在であったかを,聖人や修道士といったキリスト教のエリートと,一般民衆の場合に分けて考えてみた。その際,ケルト的な独自の形象,鳥や妖精の化身ともいうべき特徴と,守護天使の意義を強調しておいた。第2章では,一般のキリスト教徒にとって,天使がしてくれると考えられた役割を,大きく3つの場面に分けて考察した。すなわち⑴神意を伝えるメッセンジャーとしての役割,⑵救済・懲罰と教義の伝達者,道徳的教化の役割,⑶死亡時や異界巡歴の幻視における,天国への魂の運び手・案内人としての役割である。第3章では,とくに「戦う天使」としての側面に焦点を当て,中世においていかなる戦いシーンでその助力が期待されたのかを検討した。日常的な悪霊との戦いのほか,十字軍に注目し,また「戦う天使」の総帥としての大天使ミカエル崇敬の意義に触れた。
 結論としては,古代末期から初期中世に大きな存在感を示した天使像が,中世中期以降,存在を希薄にしていったという通説に反対し,天使はその性格,意義は変容しつつも,中世をつうじて一貫して重要性を保ったこと,聖人とは異なった性格(物質や土地あるいは特定団体に拘束されない普遍性,また霊的な戦士としての特化)が,中世末にかけて彼らの重要性をいよいよ高めた,とした。
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© 2012 西洋中世学会
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