抄録
日本人の食事摂取基準(2005)を満たす経腸栄養剤同士の変更を契機に銅欠乏症をきたした重症心身障害者(以下、重症者)の1例を報告する。症例は家族歴から脊髄小脳変性症が疑われる男性。機能低下のためX-6年12月に経管栄養へ移行した。X年4月に半消化態栄養剤をE7®からCZ-Hi®へ変更した。X+1年12月に白血球減少(1600/μl)と貧血(6.7g/dl)に気づかれた。血液内科では再生不良性貧血と診断され蛋白同化ステロイドが開始された。X-2年6月の血清銅は118μg/dlであったが、X+2年3月には4μg/dlと異常低値を示した。栄養剤をE7®に戻しココアを加えて銅補充を強化したところ、約2カ月の経過で血清銅の上昇に伴い血液像は改善した。本症例では銅摂取の著しい不足や亜鉛の過剰投与はなく、銅欠乏要因は特定できなかった。重症者の合併症の機序は不明な点も多いので、栄養には一定の注意を払い、定期的検査を怠らないことが重要である。