理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: CO461
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運動学
歩行時の外乱刺激適応課題にみられる姿勢制御反応
高齢者と若年者の筋反応パターンの比較
*酒井 美園大渕 修一柴 喜崇上出 直人
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抄録
【はじめに】運動時に外乱刺激が加えられた際, 身体の安定性を維持するために姿勢制御反応が必要となる。この姿勢制御反応によって外乱刺激に適応できなかった場合に転倒する。今までに立位時の外乱刺激に対する姿勢制御反応については数々の報告がなされているが, 歩行時の外乱刺激に対する姿勢制御反応については少ない。そこで我々は, 歩行時に不意に外乱刺激を加え, その時の姿勢制御反応を高齢者と若年者で比較し, それぞれが用いる戦略と姿勢制御能力について考察した。 【対象】神経疾患, 整形疾患を有さない健常成人10名(男性5名, 女性5名, 年齢22.1±0.74歳)と地域在住65歳以上高齢者30名(男性13名, 女性17名, 年齢69.3±5.28歳)を対象とした。 【方法】被験者は, 左右歩行ベルトが分離した構造を有する両側分離型トレッドミル上を2km/hにて3分間歩行した。外乱刺激は, 片側の歩行ベルトを急激に減速することで身体が後方へ動揺する刺激を与えた。高齢者には中等度の外乱刺激(2km/hから1km/hまで減速)を3分間に5回与えた。若年者には, 中等度の外乱刺激を5回与えた後, 高等度の外乱刺激(2km/hから0km/hまで減速)を5回, 3分間に与えた。3分間の両側の体幹, 大腿, 下腿の表面筋電, および仙骨部の加速度(進行方向と左右方向)を測定した。 【結果】中等度の外乱刺激時の刺激側の各筋潜時を比較すると, 若年者では前脛骨筋, 大腿四頭筋が他の筋と比較して有意に短かった(p<.05)。高齢者では, 前脛骨筋, 大腿四頭筋, 脊柱起立筋, 大腿二頭筋が他の筋と比較して有意に短かった(p<.05)。若年者の高等度の外乱刺激時の各筋潜時では, 前脛骨筋, 大腿四頭筋, 脊柱起立筋, 大腿二頭筋が他の筋と比較して有意に短かった(p<.05)。また高齢者では, 個人間で様々な筋反応パターンを示していた。 【考察】立位時の外乱刺激に対する姿勢制御反応戦略では, 足関節戦略, 股関節戦略, その両者の混合型が報告されている。本研究の歩行時の外乱刺激でみられた姿勢制御反応戦略は, 若年者の中等度の外乱刺激時では, 足関節戦略様の筋反応パターンがみられた。高等度の外乱刺激時では, 足関節戦略と股関節戦略の混合型が見られ, これはそれぞれの戦略本来の筋反応パターンが保ち続けられている点で立位時の混合型とは異なることから, 歩行課題に特異的な新しい戦略であると考えられた。高齢者では, 若年者にみられたこの新しい戦略の筋反応パターンはあまりみられず, 足関節戦略側の筋反応と大腿二頭筋の反応が混合したパターンが多く用いられていた。このように, 若年者と高齢者が用いる姿勢制御反応戦略の違いが, 外乱刺激に対する適応能力に影響を及ぼしていると考えられる。
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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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