日本重症心身障害学会誌
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B07 長期生命予後が望めない重症心身障害者に対する理学療法の経験
樋口 滋深澤 宏昭齋藤 和代細田 のぞみ
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2010 年 35 巻 2 号 p. 251

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抄録
はじめに 上腸間膜動脈血栓症で小腸を広範に切除し、中心静脈栄養を余儀なくされ、さらに腎不全を併発し、長期生命予後が望めない60歳女性の長期入所者に対し理学療法を実施した。予想以上に運動機能が回復し、QOLの向上がみられた。術後14カ月で腎不全のため死亡したが、理学療法が家族にとっても大きな励みになった。 症例 精神遅滞、脳性麻痺の60歳女性。有意語の表出・言語理解は困難。膝立ちが可能で四つ這いで移動し、軽介助で自食できていた。当園には41歳より入所しており、これまでの健康状態は良好であった。X年1月突然ショック状態となり、市内の総合病院外科に搬送し、上腸間膜動脈血栓症と診断され、二度にわたり小腸を広範に切除した。気管切開を行い、CVポートを埋め込み、人工肛門、胃瘻を造設し、約4カ月間の入院加療後、同年5月に帰園した。 経過 帰園時、長期臥床により運動機能が廃用し、寝たきりの状態になっていた。ベッド上でのROM改善運動から理学療法を開始し、本人の病状にあわせて段階的に動作練習を取り入れた。座位が可能となった7月頃から、多職種の協力を得て、園内での生活日課を再考し、体に装着している種々の医療機器をはずす時間を設け、運動時のリスク管理に留意しながら理学療法を継続した。家族にも理学療法の実施に協力してもらう機会を設けたことで、本人の意欲が向上し、動きが活発になることも多かった。その結果、術後8カ月で短距離ながら四つ這い移動が可能になるまで運動機能が回復し、術前の生活環境に戻ることができた。X+1年2月頃より消化管出血を繰り返し、腎機能のさらなる悪化があり同年3月に永眠された。 考察 長期生命予後が望めない重症心身障害者にも病状に配慮しながら理学療法を継続する意味があると考える。本人の基本動作能力を改善しQOLの向上に貢献できるだけでなく、家族にとっても理学療法が励みになったと思われる。
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© 2010 日本重症心身障害学会
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