抄録
はじめに
気管腕頭動脈瘻は気管切開後の最も重篤な合併症の一つであり、気管前面を横切る腕頭動脈と気管カニューレにより気管壁と動脈壁が慢性的に圧迫を受け、両者の内腔間に交通を生じてしまうと考えられている。発症すると大量出血と換気不全のため急激な状態悪化を来たし致命的であるが、当院では平成8年以降3例で緊急手術による救命が可能であった。
症例
症例は7歳から29歳で、いずれも入院中に気管内からの大量出血で発症、症例に応じ気管カニューレのカフや経口挿管用気管内チューブのカフなどを組み合わせて換気の確保と一時止血を行った上で緊急手術を行った。手術内容は胸骨正中切開からの腕頭動脈離断と瘻孔を生じた気管壁の修復で、腕頭動脈への血行再建にはいずれも人工血管を用い、1例では大腿動脈−腋窩動脈の非解剖学的バイパスを、2例は同一術野での解剖学的バイパスを行った。3例とも術後神経学的所見の悪化や感染所見もなく回復したが、1例は遠隔期に肺炎で死亡した。
考察
本疾患発症時における問題点は、いかに換気を確保しつつ一時止血を得るかという点であり、通常の気管カニューレよりも深い位置でカフを膨らますことが可能で、かつ入手が容易な気管内チューブの利用が有用と考えている。また手術に関しては、発症後は術野が喀痰等により汚染されている可能性があるため、人工血管使用による血行再建には注意が必要で、できれば発症前の治療が望ましい。特に胸郭変形が強く胸骨と椎体の間が狭い症例では腕頭動脈による圧迫が気管狭窄の原因となっている場合もあり、気管狭窄改善と気管腕頭動脈瘻予防の両側面から、当院ではこれまで11歳から41歳の8例において、前胸壁骨性胸郭の部分切除と腕頭動脈バイパスを待機的に行った。現在のところ短期成績は良好であるが、今後長期での経過観察を行っていきたい。